カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
「ねえ、一ノ瀬。もしもの話だけどさ……私が擁立戦で負けた時は、もう一人の私と仲良くしてあげてね。きっと、あの子もそれで救われると思うから……」
「縁起でもないこと言うなよ。勝って、全部を取り戻す。そのために戦うんだろ?」
あと少しで約束の場所に辿り着くといったところで、私は心の底に残っていた思いを一ノ瀬へと述べた。
私が消えた後、再び甘木萌香として出てくるであろうもう一人の自分のことをここ数日とても世話になった恩人に託せば、彼は真面目に言葉を返してくれる。
多分、ここで約束を交わしたとしても、世界が修正されたらそれも忘れてしまうのだろう。
そもそも、一ノ瀬の言う通り、そんな世界への変化を許さないために戦おうとしているのだから、ネガティブな意見は言うべきじゃない。
それでもやっぱり、最悪の事態に陥った時のことを考えてしまう。
一ノ瀬はその不安な気持ちに寄り添ってくれたが、最後は自分自身で乗り越えなければいけない戦いだということも理解しているからこそ、私は不安を拭うことができなかった。
「大丈夫だよ。昨日、あんなに調整して、練習もしたじゃないか。全部を出し切れば、絶対に勝てるさ」
「うん……ありがとう、一ノ瀬……」
優しく励ましてくれる一ノ瀬の言葉に、胸がドキッと高鳴る。
もう一つ、最後に何かを話せるのであれば、優しい彼への感謝を伝えたいと……そう思ったところで、私たちは約束の高架下へと辿り着いた。
「……来たわね」
そこで待っていた黒い髪の心愛……もう一人の姉が、私たちを睨みながら呟く。
その鋭く、そして冷たい視線を浴びた私の背筋に凍えるような悪寒が走る中、彼女は続けて口を開いた。
「萌香ちゃんの仇、取らせてもらうわ。あなたがしたことの報いを受けさせてあげる……!」
「っっ……!?」
そう言ったもう一人の心愛が指を鳴らせば、物陰から数名の男女が姿を現したではないか。
全員が全員、虚ろな目をしていて、心ここにあらずといった顔をしている。
その中の一人が以前、もう一人の私と擁立戦をしていた男子であることに気付いた私が息を呑む中、一ノ瀬が言う。
「これはどういうつもりですか? 何のために、この人たちを……?」
「こいつらは私たちとの擁立戦に負けて、抜け殻みたいになった生徒たちよ。ある程度は私たちの思うがままに操れる、お人形さんってところかしら。私もあなたたちがしたように、こいつらを使ってあなたたちのデッキやプレイングを調べようと思ってね……何か問題があるかしら?」
どうやら、黒岡先輩たちがこの男子たちとの擁立戦を盗み見て、もう一人の私のデッキを調べていたことをもう一人の心愛も知っていたようだ。
その意趣返しとでもいうべき反撃を前に、冷や汗を流す私であったが……そこで背後から声が響く。
「ほう、面白い。ならば、そいつらの相手は我々がさせてもらおう」
「黒岡先輩……!」
『エヴォルレジェンズ』のデッキを手に、やや格好つけながら姿を現した黒岡先輩とそのお友達二名が私たちに並ぶ。
五対五……同じ人数が並んだ私たちは、少しずつ高まる緊張の中、決戦に向けて動いていった。
「あの男たちは我らに任せろ。本来、我々は奴らに勝っていた。誤った歴史を修正する、絶好の機会だ」
「助かります。あとは……甘木、任せたぜ」
「……うん!」
クラスメイト含むエヴォルレジェンズ部の男子たちは黒岡先輩たちが、残りの女子は一ノ瀬が、それぞれ相手をすることになったようだ。
露払いを彼らに任せ、もう一人の姉の前に立った私へと、彼女が驚きに目を丸くしながら言う。
「あら、あなたでいいの? てっきり、あっちの男の子が相手をすると思ってたんだけど……」
「……もう、逃げたくないから。大切なものは、自分の手で取り戻す。そのために戦うって決めたの」
「ふぅん……まあ、いいけどね。私からすれば、大助かりだもの」
確かに一ノ瀬と私なら、圧倒的に彼の方が強い。
あちらからすれば勝手に勝率が上がってくれるのだから、ありがたいことこの上ないだろう。
だけど、それでも……ここで自分が戦わないと意味がないってことを、私は理解していた。
苦しい戦いでも、逃げずに立ち向かう。そのための強さをくれた『エヴォルレジェンズ』と仲間たちに感謝する私の前で、心愛が指を鳴らす。
「さあ、始めましょうか。最初で最後の、世界を超えた姉妹喧嘩を……!」
もう一人の私の時と同じく、世界が靄に包まれる。
今度は赤じゃなくて、青。まるで深海を思わせる深く暗い世界に放り込まれた私たちは、それぞれのデッキを出現したテーブルの上に乗せた。
「あなた、こっちの世界の私に負けてるんでしょ? そのお姉さんに勝った私に、本気で勝てると思ってるの?」
「じゃなきゃ、こうして名乗りを上げてない。相手は少し違うかもだけど……リベンジマッチ、決めさせてもらうわ!」
別世界とはいえ、相手は心愛。私も一度負けてるし、どれだけ強いかは身に染みて理解している。
でも、だからこそ……乗り越える壁としては十分だ。ずっと存在していた高い壁への挑戦に緊張する自分自身を落ち着かせるために深呼吸した私は、真っすぐに相手を見つめる。
(待ってて、心愛……絶対、助け出すから!!)
乗り越える、この壁を。そして助け出す、誰よりも大切な姉を。
その決意のままに闘志を燃え上がらせた私は、この場にいる全員と同じタイミングで戦いの火蓋を切る言葉を叫んだ。
「「オープン・ザ・レジェンド!」」
甘木萌香VS甘木心愛(Another)
宿命決戦、開幕