カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
――俺と鎌瀬の擁立戦は、呆気ない幕切れを迎えた。
チアキの特殊召喚効果を不発に終わらせた鎌瀬に打つ手は残っておらず、返しのターンで俺が攻撃を行い、そのまま決着という形だ。
その後、店長にデッキ枚数を確認してもらった結果、やはり奴の不正が発覚した。
大会でも公式戦でもない野良擁立戦であったが、マナーの悪さや女の子に取った態度も含めてスリーアウトとなり、店長は鎌瀬に出禁を申し渡すと共に近隣の店舗にも情報を回し、警戒を促すことにしたようだ。
「どこで彼の反則に気付いたんだい?」
「……理想的な盤面を作り上げたタイミングですかね。そこまでも違和感がちらほらあったんで」
対戦中の態度が嘘であるかのように小さくなり、無言で店を出ていった鎌瀬を見送った後、店長は俺にそう問いかけてきた。
返答しつつ、俺は彼のプレイングを振り返っていく。
「あいつは場にユニットを必要以上に出さず、手札をガードに使ってました。定石から外れている上にチアキの効果でいいカードを場に出せなかった時のリカバリーを考えていない動きだったんで、変だと思ったんですよね」
チアキの進化時に手札に戻したユニットたちがいるとはいえ、あれだけ積極的にガードして手札を使ってしまうと、もしもチアキの効果が不発になった時に盤面を立て直すことができなくなってしまう。
あのプレイングは、レベル3のチアキの効果で理想的な盤面を作れるという確信があっての動きだ。本来ならばあんな盤面を一から作り上げることは相当に難しいはずなのに、鎌瀬はどうしてだかそれを前提としたプレイングを見せていた。
「そして、彼は見事に最高の盤面を作り上げた。偶然とは思えない、あまりにも出来過ぎた内容だったから、進弥くんもイカサマだと判断したってことか」
確証があったわけではない。だが、あの積極的なガードもダメージを避けたせいでコストが足りないというプレイングミスも、全ては自分を初心者と思わせるための演技だったのではないだろうか?
そう思わせるくらいには、鎌瀬はこのイカサマに慣れていた。こうやって勝利を収めたことも、一度や二度ではないのだろう。
「……悲しいね。デッキの転売もそうだけど、楽しむことよりも勝つことを重視して、反則にまで手を出すプレイヤーがいることが、僕は悲しいよ」
店長の気持ちは、俺にも痛いほどわかった。
勝つことを楽しもうとするのは悪いことじゃない。だけど、勝つために一線を越えてしまうのはカードゲームだけじゃなく、全ての競技に共通するやってはいけない行為だ。
しかも、勝ちたかった理由が金儲けだというのだから、もう言葉が出ない。
残念ながら、この世界にもそういう人間はいるみたいだ。
いや、まあ、どこぞの昆虫デッキ使いみたいに反則行為を平然と働くキャラも珍しくはないし、むしろこういう世界だからこそそういう人間が出やすいのか? と俺が首をひねる中、背後から声が響いた。
「あっ、あの!」
「ん? ああ、君は……!」
振り返った先には、鎌瀬と揉めていたあの女の子が立っていた。
少し気まずそうだが、それでも俺たちを見つめる彼女は、深々と頭を下げながら口を開く。
「ありがとうございました! 本当に助かりました!」
「そんな、お礼を言われるようなことなんてしてないよ。むしろ、こっちの対応のせいで変に気を遣わせちゃってごめんね」
『エヴォルレジェンズ』の勝敗で何もかもが決まりかねないこの世界だが、それはそれとしてショップ店員の権力は普通に強い。
俺が上手く騒動を裁けていたら、あるいは監視カメラの映像などの証拠さえあれば、話はここまでこじれなかったはずだ。
迷惑な客に対応するのも店員の仕事だし、俺がやったことはほとんど仕事の範疇だ。
むしろ、上手いこと対処できなかったせいで迷惑をかけたことを女の子に詫びれば、彼女は首を大きく左右に振ってからこう言ってくれた。
「そんなことないですよ! 店員さんが私の代わりに擁立戦を受けてくれなかったら、このデッキも盗られちゃってたわけですし……本当に、感謝してますから!」
そう言う彼女の手には、無事に購入できたデッキが入った袋が握られている。
真に求める人の下にデッキが渡ったことを喜びながら、その言葉に救われた俺は彼女へと言う。
「こっちこそありがとう。そう言ってもらえて、気持ちが楽になったよ」
「あはは……! なんか、変な気分だなぁ。助けてもらった私が、助けてくれた店員さんにお礼を言われるなんて……」
恥ずかしそうに笑う彼女は、改めて見てもとびきりの美少女だ。
別段、ドキッとするわけでもないが……そんな彼女へと、俺はこう言葉を続ける。
「これから『エヴォルレジェンズ』を始めるんだよね? 良ければ、また遊びに来てよ。わからないことがあったら教えるし、プレイングとかデッキ構築の相談にも乗るからさ」
「はいっ! そうさせてもらいます!」
これから『エヴォルレジェンズ』の世界に飛び込むこの子が、カードゲームを思い切り楽しめるようになってくれたら嬉しい。
ショップ店員として、先輩カードゲーマーとして、その手助けができたらもっと嬉しいという想いからの俺の言葉に対し、女の子は笑みを見せながら頷いてくれた。
どうかこの笑顔が『エヴォルレジェンズ』を通じて何度でも見られますようにと、俺がそう思った時だった。
――ピロリロリンッ!
「へ? あれ?」
「うん? 進弥くん、どうかしたの?」
「いや、何か今、変な音しませんでした?」
急に聞こえた謎の電子音に驚き、その音の出所を探して周囲を見回す俺であったが、それらしきものは何も見当たらない。
そもそも店長も女の子もその音を聞いていないようで、俺のことを驚いた様子で見つめている。
(空耳かな? 確かに聞こえたような気がするんだけど……?)
どうやら俺の気のせいだったみたいだなと思いながらも、俺は微妙に納得できないでいた。
そんな中、時計を見た女の子が小さく頭を下げてから俺たちへと言う。
「いけない、もうこんな時間……! 私、そろそろ帰ります! 今日は本当にありがとうございました!」
挨拶をしてから店を飛び出していく女の子を、俺と店長は微笑まし気に見送る。
他の客たちも時間を見て、店を出ていき……ようやく、慌ただしい一日の終わりが訪れようとしていた。
「あの子、常連になってくれるといいなぁ……!」
「そう思うなら、セキュリティとか厳しくした方がいいと思いますよ。監視カメラをもっと用意するとか」
「そうだねぇ……バイトもそうだけど、用意しなくちゃいけないものが多過ぎて困っちゃうよ……」
クローバーなんて洒落た名前をしている我が店だが、女の子のお客さんはあまり来ない。
もっと内装も外装も綺麗にして、安心してカードを楽しめる雰囲気と環境を作らないと女の子は定着しないよな~、などと考えながら俺が意見を言えば、店長はため息交じりに肯定の返事をしてくれた。
「そんじゃ、そろそろ俺も上がりますね」
「ああ、お疲れ様。明日は高校の入学式だし、ゆっくり休んでね」
終業時刻がきたことを確認した俺もまた、店長に挨拶をしてから店を後にすることにした。
着替えながら店長に言われたことを振り返った俺は、小さく息を吐き、呟く。
「高校の入学式、か……これで
無論、これは高校を中退した経験があって、再度入り直したから二度目……という意味ではない。
前世で一回経験しているから二度目、ということだ。
言っている意味がわからない人も中にはいるだろうが、大半の人たちがもう理解しているだろう。
俺、一ノ瀬進弥は……このカードゲームアニメ(?)の世界に転生した、ごく普通のカードゲーマーである。
転生者なのにごく普通を自称するのはおかしいかもしれないが、俺は本当に普通の人間だ。
カードゲームアニメの登場人物のテンプレみたいにド派手な髪色&髪型じゃないし、鎌瀬犬介みたいにぶっ飛んだ名前もしていない。
この世界の基準でいえば、俺は間違いなくごく普通の一般人。モブであった。