カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
自分が転生者であることに気付いたのは、中一の夏休みだ。
楽しくカドショ巡りをしている最中に客同士の喧嘩に巻き込まれ、飛んできたデッキケース(超防御力を誇るメタル製、お値段一万円)が後頭部に直撃した際、前世の記憶が蘇ったのである。
前世の俺は所謂孤児というやつで、同じ境遇の仲間たちと施設で育った。
そんな中、放送されていた『エヴォルレジェンズ』のアニメにどっぷりハマり、施設に寄付されたストラクチャーデッキで遊びまくっていた。
ただまあ、境遇が境遇なだけにパックを買ったりして新しいカードを手に入れることはできず、思う存分カードゲームを楽しんでいたとは言えない状況だったことを覚えている。
それでも、施設の仲間たちとの擁立戦は本当に楽しくて、最高の思い出だった。
そんな俺も高校生になり、ついに独り立ちの日を迎えたわけだ。
寂しくもあったが施設を出て、一人暮らしを開始した俺は、それなりに高校生活を謳歌していたのだが……ある日、信号無視のトラックに轢かれそうになっていた親子を助けるために駆け出して、そこから先の記憶がない。どうやらそこで死んでしまったみたいだ。
そうして人生を終えた後、俺はこの『エヴォルレジェンズ』が大流行している世界に転生した。
この世界は狂っているがそこまで狂っているわけでもない。本当に程良いバランスだと思う。
これがもし、道路を爆走しながらライディング擁立戦を嗜む人間が大勢いる世界だったり、擁立戦に勝利すれば罪を見逃される世界だったら、かなりヤバかった。
この世界は前世で俺がハマっていたアニメ版『エヴォルレジェンズ』の世界によく似ている。
時折、事件が起きたりはするが、基本的にはカードゲームが大流行している世界の日常での出来事をメインとして描いていたあのアニメの世界の雰囲気に覚えがあるのだ。
ほぼ間違いなく、ここがアニメ版『エヴォルレジェンズ』の世界だとは思うのだが、シリーズ何作目の世界なのかはわからない。
『エヴォルレジェンズ』のアニメは数年ごとにシリーズが代わり、世界観も微妙に変化している。一般モブである俺はこれまでの人生でアニメに登場したキャラと遭遇したことがないため、ここがどのシリーズの世界なのかまでは断定できないでいた。
(でもまあ、そんなことはどうだっていいんだけどな! この世界は俺にとっちゃパラダイスみたいなもんだしさ!)
最初の頃は色々と情報を集めて、ここがシリーズ何作目の世界なのかを突き止めようとしたが、今ではもうそんなことはどうでもいいと開き直っていた。
元の世界への恋しさもあることにはあるが、こっちの世界では思う存分『エヴォルレジェンズ』を楽しめる環境が整っているし、高校入学を祝ってくれる両親もいる。
時折、カードゲームアニメ世界ならではのあれやこれやに困惑することもあるが、記憶を取り戻すまでの十数年間を過ごしたこともあってか、俺は転生者であることを割とあっさり受け止めると共にこの世界での生活に完全に順応していた。
そんな俺も『エヴォルレジェンズ』の新シーズン到来と時を同じくして、高校生活の始まりという新環境に突入しようとしている。
父と母に見送られる喜びを噛み締めながら家を出た俺は、割と近場にある新たなる学び舎……県立色彩高校へと足を踏み入れた。
「え~っと、俺のクラスは……?」
入学式ということもあってか、新入生でごった返す掲示板前にやって来た俺は、そこに書かれている自分の名前を探し始める。
こういう時、一ノ瀬って苗字はいい。出席番号の最初の方だから、名前を探すのが楽だ。
背が高いことも相まって、割とさっくりD組の欄に自分の名前を見つけた俺は、周囲の人たちの邪魔にならないようにしながら教室へと向かっていく。
地味に教室が遠いことが残念だったが、まあ通い続ければそんなことも気にならなくなるかと考えた俺は、名札が置いてある自分の席へと腰を下ろした。
(同じ中学の友達は一人もこの高校には進学しなかったから、人間関係もリセットか。ちょっと普段だ)
俺の人生、『エヴォルレジェンズ』とリンクし過ぎじゃないか? などとふざけたことを考えつつ、不安を紛らわせる。
まあ、カードゲームが流行しているこの世界なら、同じクラスにも『エヴォルレジェンズ』を遊んでいる人間の一人や二人……いや、十人くらいはいるだろう。
同じ趣味を持つ仲間から友達を作っていけば何も問題ないと考えたところで、隣の席の椅子が引かれる音が耳に届いた。
これからしばらく、隣の席で過ごすことになる相手はどんな人なんだろうな~と横目でちらりと様子を窺った俺は、予想外の光景を目の当たりにして、声を漏らしてしまう。
「あれ……?」
「えっ? ええっ!?」
小学生にも見紛う小柄な体。明るく薄い金髪。外ハネショートの髪型。
つい昨日、バイト先のカードショップで出会った女の子が、そこに立っていたからだ。
同じく俺に気付いて驚きの表情を浮かべる彼女と、机に置かれている『甘木萌香』と書かれた名札を交互に見比べた俺は、とんでもない偶然にあんぐりと口を開ける。
いや、それ以上に……と真っ先に思い浮かんだことを口にすれば、彼女もまた俺と全く同じタイミングで同じことを言ってきた。
「「お、同い年だったの……!?」」