カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
「まさか、昨日の店員さんが同じ高校のクラスメイトで、しかも隣の席になるとか……マジでびっくりだわ」
「それは俺も同じっすよ。本当に驚いたっていうか、なんていうか……」
入学式が終わり、担任の先生が教室に来るまでの待ち時間。俺は昨日の少女こと甘木さんと話をしていた。
とんだ偶然だと未だに衝撃が抜けきっていない俺たちは、落ち着く意味も込めてお互いに自己紹介をする。
「えっと、昨日は本当にありがとう。私、
「一ノ瀬進弥です。こちらこそ、よろしく」
軽く頭を下げながら挨拶をした俺を見て、甘木さんがくすくすと笑う。
年下の子供だと思っていた昨日はなんともなかったのだが、同い年と知ってしまった今はその笑顔にドキッとしてしまって、女性への免疫がない情けない姿を晒してしまった。
「一ノ瀬、なんで敬語なの? 昨日は普通にタメ口で話してたでしょ?」
「それはほら、正直、昨日は甘木さんを小学生の女の子だと思ってたから……」
「お? なんだ? チビだから子供だと思ってたってことか? この胸を見て、小学生だって本気で思ってたのか? ええ?」
「いや、常識的に考えて、女の子の胸をジロジロ見たりはしないでしょ……?」
怒りが半分、自慢が半分、といった様子で小柄な体格に見合わないサイズの胸をアピールしながら甘木さんが俺へと詰め寄ってくる。
確かに改めて見ると小学生のサイズじゃないよなとは思ったものの、女の子、それもお客さんにそんな不躾な視線を向けるわけがないという俺の言葉に甘木さんも納得してくれたみたいだ。
「まあ、それもそっか。一ノ瀬はまともだから、昨日の迷惑客みたいに女の子の胸を見て、鼻の下を伸ばしたりはしないもんね」
「あ、気付いてたんですね……」
傍から見ていた俺でもわかるくらいだったんだから、見られている張本人である甘木さんが気付かないわけもないか。
昔からそういう視線に敏感になっているのかもしれないし、俺は不躾なことはしないようにしようと心に誓う中、甘木さんが言う。
「っていうか、一ノ瀬はなんでバイトなんてしてたわけ? まさか高校一年生が入学式前にアルバイトなんてしてるわけがないと思ったから、絶対に年上だと思ってたよ」
「あの店には昔から世話になってて、高校に入ったらバイトさせてもらおうと思ってたんです。ちょうど、人手が足りない時期だったんで、法律が許してくれる四月一日から働かせてもらってるんですよね」
「へぇ~、そうだったんだ~! でもマジで雰囲気が大人っぽかったし背も高いから、大学生くらいかと勘違いしちゃってたよ!」
「……念のため、聞いておきたいんですけど、それって俺が老けてるって意味じゃないですよね?」
「違う、違う! っていうかさ~、う~ん……」
そんな感じでテンポよく話していたところで、甘木さんが腕を組んで何かを考え始めた。
唸り声を漏らした後で顔を上げた彼女は、俺を見つめながら言う。
「一ノ瀬、なんか固くない? 同い年なんだし、普通に話せばいいじゃん」
「ちょ、ちょっとそういうのには慣れてないっていうか……あは、あはははは……」
「だったら慣れるためにも私のこと、呼び捨てしてみなよ。私だって一ノ瀬って呼んでるんだからさ。ほら! さん、はい!」
予想外の流れで呼び捨てを強要された俺は、突然の展開に視線を泳がせまくっていた。
しかし、情けない姿を曝け出しまくるのは恥ずかしいし、ここは覚悟を決めるべきだと思い直し、意を決して彼女を呼び捨てにする。
「あ、甘木……?」
「う~ん、ちょっとぎこちないけど、合格ってことにしておこっか! それじゃあ、これからは敬語抜きで話してよね!」
そう言って楽しそうに笑う甘木の姿に、再度心臓が跳ね上がる。
なんていうか、高校に入学して早々にこんなにかわいい女の子と友達になれるだなんて思ってもみなかったから、予想外の幸運に恐れ多さを感じっぱなしだ。
もしかして俺の高校生活、最高のスタートを切ってるんじゃないか? 例えるなら、プロモカードが掛かってる大会の決勝で初手に欲しいカードが全部手札に来た、みたいな……!!
(いやいやいや待て待て待て! 浮かれるな! 馬鹿なことを考えるな!!)
……と、危うく浮ついてしまいそうになった思考を引き戻し、地に足を着ける。
確かに今、超絶怒涛のアルティメットラッキーによって甘木と仲良くなれたが……これは一時的なもので、長続きなんてしない。
しばらくすれば席替えになって、甘木との距離も離れて、関係も薄くなる。
俺は『エヴォルレジェンズ』好きの仲間と過ごすようになるだろうし、甘木も似た趣味の女の子たちとグループを組むはずだ。
いくらここがカードゲームアニメ的な世界とはいえ、一般モブオタクである俺がこんな美少女とこれ以上親密になれるはずがない。
確かにラッキー過ぎて浮かれる気持ちはわかるが、ここは調子に乗るべきじゃないぞ……と、俺が自分自身に言い聞かせていた時だった。
「あっ、そうだ! ちょうどいいや! 一ノ瀬にお願いがあるんだけどさ~!」
「えっ? な、なに?」
不意に甘木からそんなことを言われた俺は、おっかなびっくりしながら彼女へと視線を向ける。
甘木はそんな俺を真っすぐに見つめ、楽しそうに笑いながら……こう言ってきた。
「私に『エヴォルレジェンズ』を教えてもらえないかな?」