カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
「進弥くんさぁ……これ、どういう状況?」
「それは俺の台詞っていうか、なんというか……」
短縮授業の今日は入学式の後にHRを行い、それで解散となった。
クラスメイトたちが早速友達作りに動いたり、部活の見学に向かったりする中、俺は甘木と一緒にバイト先である『カードショップ・クローバー』を訪れていた。
アルバイトの少年が昨日、助けた女の子を伴って店にやって来た上に同じ制服を着ているという状況に困惑している店長とひそひそ話をしながら、俺は店の様子を窺う。
今日はどこも始業式だったり入学式だったりでバタバタしているおかげか、客の姿は俺たち以外にない。
いいことなんだか悪いことなんだかはわからないが、落ち着いて甘木にコーチングできそうだなと思いつつ、俺は彼女が待つテーブルへと向かった。
「お、お待たせしました~……」
「だから固いって! もっとリラックスしなよ、リラックス!」
敬語抜きで話して構わないと言われたが、やっぱり彼女いない歴=年齢な俺は女の子を相手にすると緊張してしまう。
しかも、今は女の子に『エヴォルレジェンズ』を教えるという前世でも一切経験のないことをやろうとしているのだから、リラックスなんてできるはずもなかった。
まさに、『どうしてこうなった?』である。
ここからどう話をしていくべきか悩む俺であったが、そこで甘木が鞄から取り出したデッキケースとカードたちが目に入った。
「……大事にしてくれてるんだな」
「そりゃあ、ね。昨日、一ノ瀬が頑張ってくれたおかげで手に入ったデッキだもん、大切にしないとバチが当たっちゃうでしょ?」
きちんとスリーブに入れられているカードたちを目にした俺が呟けば、甘木は少し恥ずかしそうに笑いながらそう応えてくれた。
その笑顔と、カードたちを見た後、小さく息を吐いた俺は自分を落ち着かせる。
(衝撃的な出来事の連発で動揺しまくってたけど、今は高校でできた友達に趣味のカードについて教えようとしてるってだけだ。ガチガチになる必要なんてない)
相手は女の子、それも飛び切りの美少女だけど、それは今は忘れよう。
今から『エヴォルレジェンズ』を始めようとしている女の子が、俺を頼ってくれた。だったら、それに応えられるように頑張るのがやるべきことだ。
そう考え、肩の力を抜いた俺の変化に甘木も気付いたようだ。
くすくすと笑いながら声をかけてくる。
「おっ? 落ち着いた? 話、できそう?」
「なんとかね。じゃあ、その……改めて、よろしく」
やや緊張しながらも普通に話すことができた俺は、早速、甘木へのコーチングを始めていった。
「確認なんだけど、甘木って『エヴォルレジェンズ』に触れたことはある? それとも、完全に初心者?」
「小学生くらいの時にちょっとやってたかな。色々あって、中学の頃には辞めちゃったけど……基本ルールは覚えてるよ」
「だったら楽でいいや。三年前から追加されたルールとかも含めて、カードについて教えながらそのデッキの回し方を教えるよ」
「オッケー! よろしく!!」
完全にゼロの状態から教える必要があるかと思ったが、復帰勢だというのなら話は別だ。
最低限のことを復習として教えながら、昨日買ったデッキの使い方を教えることに注力すればいい。
「ちなみになんだけど、どうして復帰しようと思ったんだ? やっぱ高校入学を機に、新しい趣味を始めようと思ったとか?」
「半分正解かな? ほら、昨日みたいに物事を『エヴォルレジェンズ』で解決する奴って多いじゃん? 今まではどうにかなってたけど、高校生にもなるとそういう連中と出会うことも多くなるだろうし、覚えておいた方がいいかな~って」
「あ、なるほど……」
改めて思うんだけど、この世界って異常だ。甘木みたいな女子高生が護身用にデッキを持ち歩く世界って、やっぱりおかしい。
いや、普通に考えで護身用にデッキってなんだ? そもそもこの世界の人間は『エヴォルレジェンズ』で揉め事を解決することに対して、どうして疑問を抱かないのだろうか?
……などという疑問は考えても無駄だから忘れることにした俺は、甘木に軽く説明を行っていく。
デッキは合計五十四枚。先に相手に六ダメージを与えたプレイヤーの勝ち。ユニットはリーダーとなるレジェンドを含めて合計六体まで場に出せる……と、本当に基本的なことを教えている最中、甘木がとあるカードを指差して言う。
「ねえ、これ何? 昔、やってた時にはなかった気がするんだけど……?」
「ああ、マーカーね。ダメージゾーンに置いた時に効果が発動するカードだよ」
何年か前、『エヴォルレジェンズ』が高速化環境に入った際に採用された防御側に有利になるカード。
ダメージを受けた際、そのプレイヤーはデッキトップから一枚をダメージゾーンに送るのだが、その際にこのマーカー持ちのカードが出れば、有利な効果が発動する。
自分のダメージが相手以上ならば、受けたダメージを回復するリバイブマーカーに単純にカードをドローできるドローマーカー、次のターン、レジェンドが与えるダメージを二にするリベンジマーカーなどがあり、共通効果でそのターン中のレジェンドのパワーを上昇させる効果もあるため、攻撃を防ぎやすくなる。
このマーカーカードが捲れたらダメージ計算が狂うということもあり、そのおかげで環境は落ち着くと同時に逆転の可能性を生み出してくれるカードとして、マーカーたちは『エヴォルレジェンズ』にいい風をもたらしてくれていた。
「あとは攻撃する時に引いたらとんでもない効果を発動するアルティメットマーカーとかもあるんだけどね。デッキに一枚しか投入できない、ガチの大逆転要素」
「へ~! 色々進化してるんだ~!」
俺の説明を聞いた甘木が感心した様子でマーカーカードたちを見やる。
他にも追加されたものはあるが、今はこの程度で十分かと判断した俺は、続いてデッキの使い方について解説していった。
「そんで、甘木が買ったデッキについてだけど……レジェンドの効果とかは確認した?」
「もちろん! 【
そう言って俺にデッキの切り札であり、レジェンドでもあるカードを見せてくる甘木。
ケモ耳&尻尾にマイクロビキニのような露出の激しい衣装というオタクの好きなものを乗せまくって作ったみたいなキャラである【
実際かわいいし、その気持ちはわかるな~と共感する俺へと、甘木はこう続ける。
「イラストだけじゃなくて効果もしっかり確認してるから! ハーツの枚数分、パワーが上がるカードだよね?」
「ああ。進化条件もハーツが何枚以上とかだから、そのデッキは全体的にハーツを溜める効果を持つカードが多く採用されてるかな」
ストラクチャーデッキ05『暴食の姫君』は、紫属性のデッキだ。
紫の特色であるハーツを活用して戦うという部分をフィーチャーしたこのデッキは、やることはシンプルながらもその扱いにテクニックを必要とする奥深さも存在している。
ちなみに、ルルリカの効果はこんな感じだ。
―――――――――――――――
【
レジェンド☆ レベル3 パワー13000
進化条件:自分のハーツ枚数が七枚以上
・自分のターン中、このカードのパワーはハーツ一枚につき1000上昇する。
・『起動:ターン一回』ダメージブラスト①することでデッキトップをハーツに入れ、以下の効果を全て発動する。
・ハーツが十枚以上 ハーツ一枚につき、このカード以外の自分の前列のユニットのパワーを+1000。
・ハーツが十五枚以上 ハーツ一枚につき、自分の後列のユニットのパワーを+1000。
―――――――――――――――
基本的にはルルリカのパワーを上げるためにハーツを増やしていくのだが、その枚数が十枚以上になれば、パワー上昇の効果が前列の味方ユニットに、十五枚以上ならば後列にもその効果が適用されるようになる。
つまり、このルルリカの能力を最大限に活かすには、ハーツを溜めつつしっかり盤面も埋めるというプレイングが必要というわけで、結構難しかったりするのだ。
(まあ、これはあくまでストラクチャーデッキに収録されてるカードだけでやろうとした場合の話なんだけどな)
これはどのカードゲームもそうなのだが、ストラクチャーデッキが出た時は直近の弾でそれを強化するためのカードが多数収録されているものだ。
『エヴォルレジェンズ』も例に漏れず、同時発売された新シリーズ第一弾【新たなる伝説】を買うことでストラクチャーデッキを強化できるようになっていた。
デッキを初心者を招き入れる入口にしつつ、それを強化する楽しみを味わってもらうためにパックを売るというのは王道のやり方なのだが……最大の問題点として、そもそもカードが手に入りにくいという事情があった。
まあ、この世界は現実世界よりもカードの生産に力が入っているおかげで再入荷も早いのだが、それでも一週間はかかるだろう。
甘木がこのデッキを強化するのは少しだけ先になりそうだなと考える中、彼女は楽しそうに笑いながら言った。
「私、ルルリカの効果、好きなんだよね」
「えっ……?」
「自分を助けてくれたみんなへの恩返しじゃないけどさ、寄せられた期待に応えようとするところ、すごく好きなんだ」
見た目だけでなく、効果も含めてルルリカに何かシンパシーのようなものを感じている甘木の言葉に、俺は少し意外さを感じてしまった。
もしかして甘木は単純に自衛のためだけでなく、本気でルルリカが気に入ったから『エヴォルレジェンズ』に復帰しようと考えたのだろうか?
だとしたら、この店でこのデッキを手に入れられたのは、本当に運命だったのかもしれない。
しんみりとしながらも嬉しそうに笑う甘木を見つめる俺は、彼女とルルリカの出会いを守れたことを誇りに思うと共に、こんな提案をしていた。
「あのさ……良ければ明後日、うちに来ない?」
「え……?」
自分で言っておいてなんだが、甘木の驚いた顔を見て、今の発言がどれだけ大胆だったかを思い知った俺は、大慌てで補足の説明をする。
「あっ、いやっ! 変な意味じゃなくって! 家、母親いるし! 甘木さえ良ければ新弾のパック、一緒に開けないかって思っただけ!!」
「パックの開封……?」
「そ、そう! めっちゃ買ったから、一人で開けるの大変でさ! 手伝ってもらえたら嬉しいなって! あと、ルルリカのデッキを強化できそうなカードが出たら、バイト代として渡すからさ!!」
「い、いいの? なんか私、一ノ瀬に世話になりっぱなしで申し訳ないんだけど……」
バタバタと手を振り、落ち着かない様子で説明をする俺へと、甘木が遠慮がちに質問してくる。
深呼吸した後、俺はそんな甘木へと答えた。
「気にしないで。なんつーか、想像以上に甘木がデッキやカードを大切にしてるの見てたら、嬉しくなっちゃってさ……できるだけ、力になりたいって思ったんだ。それに、甘木がルルリカのデッキを完成させれば、俺も新しいデッキを組む時に調整を手伝ってもらえるしさ。こっちとしても助かるから、良ければどうかなって」
「……そっか。なら、その……お言葉に甘えちゃおうかな!」
気恥ずかしかったが、思っていることをそのまま伝えれば、甘木も少し顔を赤くしながら元気に応えてくれた。
その笑顔を見て、俺も安堵する中、甘木がしみじみと言う。
「一ノ瀬っていい奴だね。その、色々ありがとう。何かしらの形でお礼はするから、楽しみにしてて」
「あ、ああ、うん。でも、気にしないでいいから。俺も『エヴォルレジェンズ』仲間ができて、嬉しいし……ん?」
――ピロリロリンッ!
ちょっと甘酸っぱい空気が流れているように感じるのは、俺の気のせいだろうか?
なんにせよ、いい友達ができて良かったと考える俺の耳に、昨日も聞いた謎の電子音が響く。
(またこの音か。店で聞こえるってことは、何かの機械音とかか……?)
昨日もそうだったが、甘木にはこの音が聞こえていないようだ。
折を見て、この音の正体を探らないとなと考える俺へと、彼女が言う。
「ちなみになんだけど、どうして明後日なの? 明日は予定が入ってるとか?」
「ああ、明日はバイトなんだよ。だから無理――はっ!?」
そう答えて気付いたのだが、ここはバイト先の店だ。
ということはつまり……と振り返った俺は、ここまでのやり取りを見て、ニヤニヤ笑っている店長と目があった。
本人は子供の頃からの知り合いを微笑ましく見守っているつもりなのかもしれないが、こちらからすれば恥ずかしいことこの上ない。
明日のバイト中はこれをネタにからかわれるんだろうなという確信を抱く中、甘木がさらにこう続ける。
「そうなんだ。じゃあ、明日は働く一ノ瀬のことを見学しに来ちゃおうかな~?」
「え゛っ……!?」
思わず濁点がつくくらいの呻きを漏らしながら前を向けば、同じようにニヤニヤと笑う甘木の姿が目に映った。
前門の甘木、後門の店長……どちらも俺をからかうつもり満々な笑みを浮かべる二人の姿に、頭を抱えてしまう。
(明日のバイト、行きたくね~~っ!!)
上司と客からからかわれ続けるだなんて、絶対に面倒だ。
それでも逃げるわけにはいかない俺は、不用意なことをしてしまったと大きくため息を吐くのであった。
ヒロイン『甘木萌香』と出会いました!
甘木萌香の好感度が上昇しました!
条件
・甘木萌香の好感度が一定以上
・甘木萌香とデートの約束をする
を達成したため、イベントが発生します!
出会いイベント『お姉ちゃん、襲来!』