カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
「一ノ瀬、おはよう!」
「ああ、甘木。おはよう」
「昨日はバイトお疲れ様! 頑張れて偉い、偉い!!」
「褒めてくれてるんだろうけど、若干腹が立つんだよなぁ……」
昨日、バイト中にひょっこり顔を出した甘木の反応を思い返した俺は、ため息交じりにそう返す。
甘木が店に来た時から店長もニヤニヤし始めて、店に入ってくる段階で既に笑っていた甘木も合わせたニヤニヤコンビに挟まれる羽目になった俺は、なんとも複雑な気持ちを抱えたまま、働くことになった。
おまけに店の客である子供たちも甘木をネタに高校に入って彼女ができただとか、ロリコン趣味だとか、やっぱおっぱいが好きなのかだとかとからかってきて……なんだかもう、精神的にどっと疲れてしまったわけだ。
これが落ち着くまでにはどれくらいの時間がかかるんだろうと考えながら働いた高校入学後初バイトの日から一夜が明けた今日は甘木との約束の日。購入したカードパックを一緒に開封する日だ。
そのおかげか、元々、明るくて元気な甘木だが、今日はいつもよりテンションが高めに見える。
出会って数日で何を言っているんだという話ではあるが、そんな仲の俺でもわかるくらいに甘木はウキウキしているということだ。
「でも本当、パックって手に入りにくいんだね。昨日、クローバーと近くのお店を見て回ってみたけど、どこ行っても売り切れだったもん」
「人気カードゲームだから、どうしてもそうなっちゃうんだよな。メーカーも頑張ってくれてるから再販も早いし、もう少ししたらまた店に並び始めるだろうけどさ」
「そっか……! そんな中でも私にカードを譲ってくれる一ノ瀬にはマジで感謝だね!! いや~、借りがどんどん増えちゃってるよ~!」
「気にしないでいいって。甘木が喜んでくれると、俺も嬉しいからさ」
昨日の小恥ずかしいバイトはメンタルを大いに疲弊させたが、良かった点もある。
店長や子供たち、そして甘木本人からやいのやいの言われた結果、色々振り切れた俺はあれほど緊張していた敬語抜きの会話ができるようになっていた。
(禍を転じて福と為す……でいいのか、これ……?)
そう思いつつも、仲のいいカード友達が一人できたことは俺としても嬉しい。
快適なアルバイト環境は失ったが、甘木も楽しそうに俺と話してくれているのだからまあ良しとしよう。
「あっ、そうそう! 一弾のカードリスト見て、紫のカードをピックアップしておいたんだ! どの辺がルルリカのデッキに合うか、昼休みにでも教えてもらえるかな?」
「ああ、いいよ。俺もリストは頭の中に入ってるから、軽くだけどアドバイスくらいはできると思う」
「サンキュー! それじゃあ、お礼として何か飲み物奢るよ! これ以上、世話になりっぱなしってのも悪いからね!」
そんなことしなくていいのに、とは思いつつも甘木にも甘木なりの矜持みたいなものがあるだろうし、ここは厚意に甘えさせてもらおう。
そういうわけで昼休みに一弾のカードについて話す約束をした俺は、そこから時折甘木と話しながら、午前中の授業に集中していった。
☆ ☆ ☆
(うん。まあ、こんなところか?)
そうして迎えた昼休み、甘木と教室で昼ご飯を食べることになった俺は、彼女が約束の飲み物を買いに行っている間にスマホで有用なカードをピックアップしていた。
『エヴォルレジェンズ』のパックは収録しているカードの種類が多い。紫一色に絞っても、ルルリカと相性のいいカードやそうじゃないカードがある。
そこに各色の汎用カードやらなんやらを加えると、手元に置いておきたいカードは結構な量になるのだが……今回はルルリカデッキを強化できるカードに限定して紹介することにした。
初心者に情報を一気に与え過ぎるのは良くないだろうし、このくらいがちょうどいいだろうなと考えながら甘木を待つ中、C組の教室に朗らかな声が響く。
「萌香ちゃ~ん! ちょっといい~?」
俺たちの席のすぐ前方にある教室の出入り口から聞こえてきたその声を聞いた俺は、萌香って甘木のことだよな? と思いながら顔を上げる。
そうすれば、そこには甘木によく似た……だけど明確に違う少女が立っていた。
髪色は同じふんわりとした薄い金色なのだが、髪型がショートの甘木とは違ってロングヘアーになっている。
背も平均以上はあるし、甘木と比べると雰囲気も少し穏やかというか、落ち着いている感がある。(あくまで比較したら、というレベルだが)
ただ、顔立ちをはじめとしたそれ以外の部分は甘木と瓜二つだ。
名前で呼んでいたことから考えると、もしかしてあの子は……と考えていた俺へと、甘木が教室にいないことを見て取った女の子が声をかけてくる。
「そこの君~! ちょっといいかな~?」
「あ、お、俺、ですか……?」
「そうそう! あなたのことだよ~! あのさ、もし知ってたらでいいんだけど、あなたの隣の席の子がどこに行ったか教えてもらえると――」
「あれ、心愛!?」
にぱ~っと毒気のない笑顔を浮かべながら俺に質問していた女の子の背後から、驚いた様子の声が響く。
彼女が振り向きながら少しその場からズレれば、その体に隠れて見えなかった甘木の姿が俺の目に飛び込んできた。
「あっ、萌香ちゃん! 見つかって良かった~! 今からご飯だよね? ちょっと話したいことがあるから、そのついでに一緒に食べようよ~!」
「私は別にいいけど、今日は先約があって……」
「ん? おお~っ!?」
少し気まずそうな甘木の反応とその手に握られた二人分の飲み物が入っているビニール袋、そして視線の先にいる俺を順番に見ていった心愛と呼ばれた少女が、嬉しさと意外さに満ちた笑みを浮かべる。
そのまま、座ったままの俺の下へと駆け寄ってきた彼女は、満面の笑みを浮かべながら質問を投げかけてきた。
「君、もしかして萌香ちゃんのお友達!? 入学してまだ三日なのに、もう一緒にご飯を食べるくらい、仲良くなってるの!?」
「え、えっと……ま、まあ、そうですね……」
「そっか、そっか~! 萌香ちゃん、ちゃんとお友達を作れてたんだね……!」
俺の答えを聞いた女の子が、ジーン、と感動した様子で目元に浮かんだ涙を指で拭う。
オーバーな人だなあと考える俺へと、再び笑みを浮かべた彼女は自己紹介をしてきた。
「萌香ちゃんと仲良くしてくれてありがとう! 私は