ダウナーTSお姉さんが、開拓の最前線でその日暮らしをするだけ 作:フロントライン
昔からイベントを観戦するのが好きだった。
ソシャゲのアニバーサリー、有名配信者の大規模コラボ。
そういった、多くの人々が関わるイベントを、遠巻きに眺めるのが好きなのだ。
友人とそれらを語り合い、タイムラインを盛り上げる。
それが私の前世における最大の楽しみだったといっていい。
大事なのは「一線を引く」ということだ。
イベントに直接参加するのは、ぶっちゃけ疲れる。
かといって、まったく蚊帳の外というのもなんだか寂しい。
自宅でスマホ片手にのんびりしながら、熱気に満ちたイベントの片隅に加わるのがちょうどいい距離感だったのだ。
そして異世界に転生しても、それは変わらなかった。
この世界には未だ人類が足を踏み入れぬ未踏の地「フロンティア」が存在している。
人類はそんなフロンティアの最前線に開拓街を築き、各地から”開拓者”を募っていた。
――多くの若者が、夢を叶えるためにやってくるその場所で、私は一人気ままにその日暮らしをしている。
中にはもっと積極的に行動したらどうか、と言ってくる開拓者もいる。
それが開拓者の本望なのだから当然だ。
しかし私は、ただそれを遠巻きに眺めていたいだけ。
時には当事者としてイベントに参加することもあるけれど、それは必要に駆られた時だけだ。
だというのに、どうしてか私をやたらとしたってくる開拓者は多い。
原因はまぁ……顔、だろうな。
○
――街はにわかに騒がしさをましていた。
多くの開拓者が、フロンティアへ続く”ゲート”に向かって走っていく。
中には逆にゲートから開拓街へ走っていく者もおり、怪我をしている者の姿も見られる。
私はそれを開拓ギルドの倉庫で、窓越しに眺めていた。
「いやぁ、楽しそうだな、開拓者は」
「他人事みたいに言わないでくださいよぉ! シェニカさん、追加の武器と弾薬をまとめておいてください!」
「はいはい、解ってるっての。ま、私は私でのんびり仕事をするだけだな」
で、そんな私にギルド職員の女の子が、色々と指示を出してくるわけだ。
私はその指示の言われるがまま、倉庫の中から物資をかき集めていく。
集めた物資は倉庫入口の台車に載せられ、ゲートの方へと爆速で運ばれていった。
「すまんシェニカ、医療用のヒールポーションをあるだけ集めてくれ! 全然数が足りん!」
「あいよー、まったく人使いが荒いな」
「しょうがねぇだろ――今回のスタンピードは規模がやべぇんだって!」
スタンピード。
このフロンティアでは定期的に起こる一種のお祭りみたいなイベントである。
大量の魔物がフロンティアの外へ飛び出そうとしてくるのだ。
当然開拓街はまっさきに魔物の通り道となるため、開拓者は全力で防衛に当たる。
何しろスタンピードは書き入れ時だからね、鴨が葱を背負ってくるというか、魔物が素材を背負ってやってくるというか。
なもんで、多くの冒険者は我先にとフロンティアに突撃するわけ。
私みたいな例外を除いて。
「ほら、こんだけあれば足りるだろ?」
「ありがとよ! ったく、人を使い走りに使いやがって! 終わったらすぐに魔物をボコってやるからな! 終わったら酒盛りだ! シェニカも付き合えよ!」
「お断りだな、下心丸見えだぞ、おい」
「ちっ、しょうがねぇな!」
――と、こんな感じで。
いやはや、何とも楽しそうでいいな。
私自身が彼らのようにスタンピードへ凸るのは、ちょっとノリが合わないけど、見ている分には楽しい。
「すいませーん、シェニカさん。少しお願いしてもいいですか?」
「ん、なんだよ。……新人か?」
と、そんな時。
数人の若い少年少女を連れて、ギルド職員が倉庫までやってきた。
彼らは一様に不安そうで、多分スタンピードはこれが初めてなのだろう。
少し前に他所から結構な数の新人がやって来て、それ以降スタンピード起きてなかったからな。
その時の新人が、スタンピードのバカみたいな量の魔物にビビってしまったのだろう。
「というわけで、今回は倉庫の方でお任せしちゃっても大丈夫ですか?」
「あー、まぁ面倒だけど問題はないだろ、そろそろスタンピードも落ち着いてくる頃だろうし」
時刻は昼過ぎ、スタンピードは基本一日で収まるものだから、そろそろ忙しいのも落ち着いてくるだろう。
やることのない新人を、適当に遊ばせるくらいの余裕はあるはずだ。
「というわけでお前達ー、私はシェニカっていうんだ。ちょっとこれから、私の言うことを聞きながら倉庫で荷物運びをしてもらうぞ。いいなー?」
その言葉に、少年少女たちはびくりと肩を震わせる。
中には驚いた様子で私の顔を見るものもいた。
あ、もしかして私のこと知ってる感じ?
まぁ何にしても、やるべきことは変わらない。
「ま、心配しなくてもいいさ。スタンピードはよくあることだ。今回も開拓者は魔物の襲来を防ぎきり、街の平穏は守られるだろ」
なんて、安心させるように言うけれど、いまいち新人たちは信じられない様子。
まぁ無理もないか、外は凄まじい数の魔物に襲われてるからなぁ。
とはいえ、不安がる彼らを仕事させるのも私の仕事。
適当に発破をかけて、強引に彼らを行動させた。
不安っていうのは忙しさで薄れるものなのだ。
こういう時は、馬車馬のように働かせるに限る。
「……あの、シェニカさんって、もしかして”円舞”のシェニカさんですか?」
「んー、やっぱ私の二つ名知ってたか、まぁその円舞のシェニカで間違いないけど、なんだ?」
「どうして……こんな裏方で雑用をしてるんですか?」
んで、そんな最中、案の定私のことを知っていたらしい少年が問いかけてくる。
円舞というのは私の二つ名、有力開拓者は二つ名を持ち、名前ではなく二つ名で呼ばれることも多い。
どうして円舞なのかは……まぁ戦い方を見れば解るだろう。
「なんでってそりゃ、ここが一番スタンピードの”空気”を感じられるからだな」
「空気……?」
「そう、いろんな奴らがやってきて、忙しそうにしてたり楽しそうにしてたり、どいつもこいつも全力なんだよな。それを眺めるのが私は好きなんだよ」
その少年と、二人で荷物を抱えながら、そんな事を話す。
私の根底に当たる部分だ。
これを話すのは質問されたから、というのもあるがやってきた新人を安心させるためでもある。
というのも、さっきから少し外が騒がしい。
多分そろそろ、私にお呼びがかかるだろう。
要するに――
「――すいません、シェニカさん! ちょっと大型の魔物が出てきて対処に困ってるので、対応お願いできますか!?」
ギルド職員が、慌てた様子で倉庫に飛び込んできた。
全員の視線が私に向く。
中には、不安そうにこちらを見るものもいる。
そんな中で――
「――それに、私が後ろに控えてるって皆が知ってれば、少しは安心して戦えるだろ?」
私は、安心させるようにそういった。
まったく柄でもないけれど、新人たちには少しでも早くフロンティアの空気に慣れてほしいからな。
こんな誰もが夢に一直線で楽しい世界、楽しめないのは損ってもんだ。
○
”円舞”のシェニカ。
第四開拓街を代表する一級開拓者の一人で、容姿は淡麗。
小柄ながらも出るところは出ていて、けだるげな顔立ちと透き通るような白い肌。
その美貌に、少しだけ強者の余裕を感じさせる笑みがよく似合う。
――シェニカは、自身が慕われる理由をその容姿にある、と考えていた。
だけれども、当然ながら理由はそれだけではない。
常に開拓の最前線において後方でどっしり構え、やる気のなさそうな姿を見せている。
それがどこか余裕にも感じられ、彼女の強さも相まって人々に安堵をもたらすのだ。
そもそも、このフロンティアにはシェニカのような個性的な人物は山程いる、強者になればなるほど破天荒な人物が増えていく。
その中で、ただ適当に生きているだけのシェニカは、相当に常識的で頼れる部類であった。
そして何よりも――楽しそうなのだ。
シェニカがこの騒がしいフロンティアにおいて、ただその日暮らしで生きているだけなのに。
誰よりも、その姿は楽しそうに見える。
それを眩しく感じる開拓者もいるというわけだ。
そうしてシェニカは、後のことを職員と新人達に任せ、フロンティアへと向かう。
今日もまた、お祭り騒ぎを気ままに楽しむために。
変人たっぷりの人類の最前線で、ダウナーに昼行燈する感じのお姉さんのお話です。
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