Persona4 : Side of the Puella Magica   作:四十九院暁美

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私情により投稿が大幅に遅れてしまいました。申し訳ありません。
それと、今回からなるべく感想には返信していこうと思っています。



第18話

 7月15日、放課後の事。

 暁美ほむらが帰り支度をしていると、鳴上悠が「テストも近いし、一緒に勉強しないか」と声をかけてきた。

 

「……そうね、なら図書館に行きましょう」

 

 ほんの少し考えた後、たまには誰かと一緒に勉強するのも良いだろうと思ったほむらは、それを了承すると荷物を詰め終えた学生鞄を持って、席から立ち上がる。その時ふと、中々に勉強が出来る詩野茜もこの勉強会に誘おうかと思ったが、彼女が今日は親戚が家に来るという旨の話を今朝していたのを思い出したので、ほむらは明日にでも彼女を誘って一緒に勉強しようと考えた。

 だが、彼女たちが図書館で勉強会を開いたとて、そのうちいつもの読書会になってしまうだろうことは想像に難くない。どこでやっても似たような状態になるのは明白だ。

 

「良かった。今回はちょっと……その、苦手な分野が多くて。助かる」

 

「なら、頑張って勉強しないとね。巽くんやりせと一緒に補習を受ける羽目になるわよ」

 

 2人が図書館に向かいながらそんな会話をしていると、扉の間で巽完二と久慈川りせが何やらまごついていた。どうやら、彼らも図書館に勉強をしに来たらしい。しかしあの様子から察するに、図書館には殆ど入ったことがないからどうしようかと迷っているのだろう。図書館独特の、あの妙に静かでいかにも真面目な堅苦しい雰囲気と、上級生の教室が並ぶ2階にあるというのも、それを助長しているに違いない。

 しかし、りせが特捜隊に入ってからそう日は経っていない筈だが、彼女は既に完二とそれなりに仲良くなっているようだった。非常に良い傾向だと言える。完二にとっては女性に対する苦手意識を克服するきっかけに、りせにとっては学校に馴染むきっかけになるからだ。もっとも、始めにできた友人が学校でも札付きの不良――特捜隊メンバーの尽力によってその認識は少しずつ消え始めているが、まだ彼をよく知らない人間からはそのように認識されている――なのは、少々いただけないが。

 

「あら、貴方たち、どうかしたの?」

 

「あ、ほむら先輩! 鳴上先輩も!」

 

「どもっス」

 

 ほむらが声をかけると、りせは嬉しそうな声色を発しながら二人のそばに駆け寄っている。見知った人間を見つけて、大いに喜んでいるようだ。完二もどこか安心したような、バツの悪そうな顔を浮かべて挨拶をする。

 どうして図書館の前に居たのかと事情を訊くと、ほむらの予想通り、2人は勉強をするために来たは良いがどうにも雰囲気が合わず尻込みしてしていたのだと言った。

 

「確かに、図書館は結構独特な雰囲気あるよなぁ」

 

 悠がそう呟くと、ほむらは疑問げな顔をする。図書館に入り浸っているほむらにとっては、そのような印象を受けるのがまったくもって不思議に思えたのだ。

 さて、入り口での会話もそこそこに、図書館へ入った4人は適当な席に陣取ると各々教科書とノートを広げて勉強を始める。しかし、ここで少し厄介な問題が発生した。

 なんと、完二とりせは勉強が苦手だったのだ。このままでは確実に赤点だと分かる程の、かなりマズイ状態である。

 

「ええ……?」

 

 と、ほむらが困惑するのも無理はない。

 仕方がないので、悠とほむらはひとまず自分たちの勉強は後回しにして、二人に勉強を教えることにした。目下の目標は、赤点回避だ。

 

「じゃあ、まずは順番通り、現代文から始めましょう」

 

「うぅ、いきなり現代文……」

 

 国語系全般が苦手なりせが苦悶の声を上げ、全教科が苦手な完二は眉間にしわを寄せて現代文の教科書を睨む。

 

「現代文なんて、コツをつかめばすぐ分かるようになるわよ」

 

 そんな二人の姿に若干呆れつつ、ほむらは独自の ”現代文の問題を簡単に解く方法” を伝授する。その方法は物語の本筋と何ら関係ないため端折らせてもらうが、少なくとも2人の赤点回避には繋がったとだけここでは言っておこう。

 現代文が終われば次は数学、数学が終われば社会、と国数社理の順番で悠とほむらは次々りせと完二に、問題の解き方や暗記方法を教えていく。気が付けば、図書館に差し込んでいた斜陽は西へ沈み、外は月のない暗夜となっていた。

 

「もうこんな時間か」

 

 外の様子に気が付いて壁に掛けられた時計を確認した悠が、少し驚いたような声を上げる。時刻は既に7時を回り、そろそろ帰らなければ遅くなる時間帯で、りせも完二も勉強の所為で心底疲れている様子だ。ここでおしまいにするべきなのは、誰の目から見ても明らかである。

 

「じゃあ、今日はこれでおしまいね」

 

「うあー、つっかれたー」

 

「一生分、勉強したぜ……」

 

 悠の言葉を受けてほむらがそう宣言すると、りせと完二は机に突っ伏してだるそうに呟く。

 4教科も一気に勉強したのだから、心身共に相当疲れているのだろう。そうなってしまうのも仕方がない。

 

「ほら、しゃんとしなさい。早く帰らないと、遅くなるわよ」

 

 ほむらは少しだけ笑いながら、2人の後ろに回るとぺしぺしとの肩を叩く。何となく、昔の自分を見ているような不思議な錯覚に陥り、笑ってしまったのだ。

 

 帰り支度を整えた4人は、学校を後にして薄暗い夜道を適当に話しながら歩いていく。順番は右から完二、ほむら、りせ、悠という、ちょうど男子が女子を守るような配置である。

 話の内容は様々だが、僅かながらほむらに関する話題が多い。おそらくはりせがよく懐いているからだろう。

 

「見滝原……なんか聞いたことあるかも」

 

「まだそんなに有名な街じゃないから、知らなくても無理ないわ」

 

 りせの言葉にそう返したほむらは、遠い目をして星の瞬く空を見上げる。どこか懐かしげで、寂しげな横顔を見た悠は、彼女が見滝原でどんな生活をしていたのか少し疑問に思った。

 ほむらは度々、こういう表情を浮かべて空を見上げて望郷の思いを募らせていることは、悠も分かってる。だが、彼女はここまでその街に固執する理由を全て話してはくれない。ほむらの影が見せた少女のヴィジョンとそれを見た時の彼女の異常な反応からして、あれが何か関係しているに違いないのは確かだ。

 だからこそ、訊くのが憚られる。この問題はほむらのことをより深く知るためには重要だが、非常にデリケートな部分であり、悠がそこへ一歩踏み込むにはもう少しの勇気と何かきっかけが必要だった。

 そして、きっかけと言うのは案外早く訪れる。

 

「今思えば、あそこは随分と変な街だったわ。家の外見は立派なのに構造がどこかおかしかったり、建ち並ぶビルは色も外見も統一性がなかったり……国道は上りも下りも車線の数が多いし、上にかかる歩道橋は無駄に広くて噴水と広場まである。近未来都市のモデルとは言うけど、それにしてはちょっと節操が無さすぎて、何て言うか “現実と切り離された街” って感じね」

 

「……なんか、色々スゴそうな街っスね」

 

「話だけ聞くと、不思議の国みたいだな」

 

 ほむらの話を聞いて、悠と完二は見滝原とはなんともへんてこな街だと思った。

 実際、見滝原という街はかなりへんてこである。近未来都市のモデルとして政府によって今なお開発が続けられている街なのだが、日本が誇る建築技術を使った “変態的” と称される個性的かつ大小様々な建物が並ぶ街の景観は、壮観と言うべきか無秩序と言うべきか。とにかく雑多で風変わりな街で、中央にある鉄塔からぐるりと街を見下ろせば、まるで世界が無差別にくっついたかのように感じてしまう。もしかしたら、どこかの魔法少女の願いによって作られたのではないか、なんて大それた考えさえ起こるほどだ。

 

「どんなとこなんだろ、ちょっと行ってみたいかも」

 

 まるでテーマパークの煽り文句みたいな言い方にりせがそんな感想をもらすと、ほむらは優しげな笑みを浮かべて言った。

 

「あの街に行くときは教えてちょうだい。杏子に頼んで、街を案内させるから」

 

「杏子?」

 

「……ああ、ごめんなさい。杏子は、私の友達の名前よ」

 

 見滝原に居るあの2人について話したことが無いと気が付いたほむらは、少し眉を下げて謝ると見滝原に居る仲間について話し始める。

 

「佐倉杏子って言ってね。ちょっとガラは悪いけど優しい子で、マミ……杏子と同じ私の友達で、巴マミって言うのだけど、彼女と一緒に暮らしてるのよ。マミはお菓子作りが得意で、家に行くと必ず紅茶と一緒にケーキやクッキーを出してくれるんだけど、杏子がつまみ食いするからいつも私のだけ量が少なくてね。それで、そのことを訊くと “お前小食なんだからいいじゃん” なんて言った後、自分のお菓子を一口分けてくれて――」

 

 楽しげな顔で見滝原の仲間について話すほむらに、3人はただただ驚いた。彼女がこんな饒舌なるのは初めてだったし、それに彼女の、親に友達を自慢する子供のような誇らしげな表情は、今まで見たことが無かったからだ。

 しかし同時に、悠は嬉しくなった。普段滅多に過去を話さないほむらが、珍しくそれを話してくれている。それはつまり、自分たちに対して心を開いてくれているということに他ならない。それに、彼女があの街に固執する理由も分かった。悠としては、一歩……いや、半歩前進である。

 

「――それでマミったら “そんなことやってる暇があったら部屋片づけなさい!” って怒っちゃってね」

 

「あはは、それ怒られても仕方ないね」

 

「でしょ? それでも掃除やらないんだら、困ったものよね」

 

「んだけ言われてやらねーとか、どんだけ掃除したくないんスかそれ……」

 

「筋金入りの面倒くさがりなのよ、あの子。私が手伝えって言ったら “掃除なんてめんどくさくてやってられないぜ” って言われたわ」

 

「無駄に頑なだな……」

 

 話をしながら歩いていると、彼らはいつの間にか商店街の前まで来ているのに気が付いた。少々名残惜しいが、別れの時間である。

 

「あ、もう着いちゃった……今日は勉強付き合ってくれてありがとう!」

 

「鳴上先輩、暁美先輩。今日はあざっした!」

 

 りせと完二が笑顔で別れを告げると、2人もまた笑顔で返事をする。

 

「ああ。2人とも、テスト頑張れよ」

 

「私たちが教えたんだもの。赤点取ったら、承知しないわよ?」

 

「り、了解っス」

 

「が、ガンバリマス」

 

 若干不安な答えに、悠とほむらは顔を見合わせると少し意地の悪い笑みを浮かべると2人に発破をかける。

 

「そうだな……赤点取ったら罰ゲームでもしてもらおうか」

 

「ええ!?」

 

「そうね……鼻メガネで町内1周、なんてどうかしら?」

 

「ちょ、ウソだろオイ!?」

 

「嫌なら赤点取らないようにしないとな?」

 

「期待してるわよ?」

 

 りせと完二は気が付いた。2人は笑顔だが、目が笑っていないことに。おそらく、赤点を取ったら確実に罰ゲームを受ける羽目になるだろう。この2人には、やると言ったからにはやるという迫力があった。

 立ち話も程ほどに、悠とほむらが笑顔で別れを告げるとりせと完二もまた別れの挨拶をして、それぞれ家路に着く。先にテストの結果を言ってしまえば、全員赤点は回避できたので罰ゲームをすることはなかった。しかし、何故か悠とほむらの赤点罰ゲーム宣言が常習化してしまい、二次災害が発生するのだが、それはまた別の話である。

 

 


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