Persona4 : Side of the Puella Magica   作:四十九院暁美

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一年ぶりの更新ですが、エタってません。


第38話

 後日。改めてテレビの中に集まった特捜隊の面々は、再びりせのヒミコを使ったサーチを行った。その結果は、予想とは異なるもので。

 

「あれ、開いてる……! 結界が開いてる!? これ……杏子さん? ううん、あともう一人……誰……?」

 

 結界が開いている。

 その事実は喜ばしいものだ。しかし反応を見るに、結界を開けたのは杏子ともう一人、誰も面識のない謎の人物だった。

 

「なんでコッチに……それにもう一人って……」

 

 陽介が腕を組むと同時に、悠も顎に手を当て考える。もう一人とは、はたして誰のことか。特捜隊以外でテレビに入れるのは杏子のみ、だとするならば彼女の仲間だろう。確かほむらの話にも出ていた筈だ。

 

「ほむらと杏子の仲間かな?」

 

「この状況ならそれしかないでしょ! なら一緒にほむらちゃんを助けるのみッ!」

 

「誰だか知らねぇが、暁美先輩の仲間ッてんならオレらと同じだぜ」

 

 雪子の呟きに千枝が両拳を握りしめる。

 今は理屈なんて要らない、ただ前進あるのみと彼女は叫ぶ。同様に完二も指を鳴らしてそれに答えた。

 

「……ああ、そうだな! りせ、案内頼む」

 

「まっかせて!」

 

 そして、彼らは霧の中を進む。

 いつもとは違う未知の領域、魔法少女という未知なる敵も、絆を持ってすれば恐るるに足らずと。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 轟音が宙を斬り裂く。

 ”美樹さやか“と佐倉杏子、そして巴マミに策によって、“鹿目まどか”は魔法少女に救済の手を差し伸べる宇宙の“概念”へと戻った。

 しかし、暁美ほむらは諦めなかった。彼女はまどかの幸せを願って、願って、願い続けて。今まで地獄を彷徨っていたのだ。まどかが消えたのなら、また取り戻せば良い。そう、この愛を止める邪魔なのもを取り除いてから。

 そうして始まったのは、おおよそ魔法少女同士の戦いなどとは言えぬ、例えるならば戦争であった。まどかとさやかから力を託された杏子とマミ、そして力を奪われたほむらの最終戦争は、熾烈を極めた。弱体化したとはいえ、概念を取り込んでいたほむら……いや、神に背いた悪魔には概念の残骸がある。魔法少女の範疇に収まったとはいえなお強大であり、半死半生になりながらも2人はまどかと一緒に円環の理へ戻ったさやかが最期に作った封印結界を完成させ、悪魔の人格を閉じ込めることに成功する。

 

 そうして世界は再編され、ほむらは本来の内気な少女へと戻り、杏子とマミの庇護を受け平穏に過ごしていく。

 

 ーーはずだった。

 

「目を覚ませよ、ほむら! お前が欲しかったのは、本当にあんな世界なのか!?」

 

「うるさい! 佐倉杏子……貴女さえ……貴女さえいなければ、こんなことにはならなかった! まどかが貴女に心惹かれなければ、こんなことにはならなかったッ! わたしはわたしの持ち得る愛の全てをを、あの子に捧げたというのに、貴女はそれを否定したのよ!」

 

「アイツにそうさせたのは誰だ!? ただ端から見ているだけで世界を弄んで、自分の心の歪みを隠せなかったお前自身の罪だッ! それに、自分を善人だと思ってるようだがな……善とか悪とかそれ以前に、人が人にあんなことをして良いはずがないんだよ!!」

 

「背教者の分際で、知った風なことを言うなァーっ!! ただの平穏な少女のままでいて欲しかった……家族と、友人と……親しい人たちに囲まれて、ただ幸せに生きて欲しかっただけだったのに! なのに貴女は……ッ!」

 

「人の運命を捻じ曲げ続けた報いだろうに! 自分の命すら大事に思えないから世界のあり方を力付くで変えた挙句、愛だと嘯いでまどかに束縛を強いるお前のどこに真実がある!? ねごとを言うなぁぁぁぁ!!!」

 

 無秩序な色彩の空間。どこからか流れ落ちていく紫河の上で、赤と黒が激突した。

 ほむらの握るサーベル状の矢が杏子の朱槍ごと右腕を肘の半ばまで真っ二つに切断し、勢いのまま彼女のソウルジェムめがけて突き出される。応ずる杏子はすぐに顎に蹴り上げと鳩尾に後ろ回し蹴りを叩き込み、ほむらを大きく吹き飛ばした。

 弓を構えれば朱槍が、朱槍を構えれば矢が。血と肉が宙に弧を描き、剣戟が狂い咲いては散ってゆく。お互いが手の内を知っているゆえに、魔力の全てを身体強化と回復に割いた死戦が空間を歪ませていた。

 

「貴女のような敗者に何がわかるというの!? そうよ……まどかがただの魔法少女である貴女に、惹かれたりしなければ! こんなことにはならなかったんだッ!! お前がわたしの全てを奪った! 罪を償え、佐倉杏子ォォォォッ!!!!」

 

「お前は、お前はッ……!! 馬鹿野郎ォォォォ!!!」

 

 再び、赤と黒が激突する。

 

 

 

 

 

 澱んだ虹色の空。

 お菓子の広場とたくさんのケーキが乗った白いテーブルには、お洒落なティーセットに淹れたての暖かい紅茶がふたつ。不思議の国を思わせるそこは“暁美ほむらの棺”であった。

 

「こんにちは、マミさん」

 

 マミの目の前に立つ少女は、にこりと憂い顔を見せた。

 お下げ髪に赤い眼鏡、見慣れた制服。“最初の暁美ほむら“であり、存在を上書きされた死者でもある。いわば”これ“は、バラバラにされた屍体の残骸だった。

 

「ほむ……ら……」

 

 名を呼ぶ、震える舌で。

 もう二度と会えないと思っていた――助けられなかったあの子の幻影がそこにある。触れられる距離にある。動揺と感動で鼓動がやけに大きく聞こえる気がした。

 

「お久しぶりです、マミさん……ますます大人っぽくなってますね。素敵です、ふふっ」

 

 ほむらは茫然とするマミの手を取ると、お茶会の席へと導いた。席に着くと紅茶の豊かな香りが鼻腔をくすぐり、美しさを覚えるほどに美味しそうなケーキが食欲を誘う。顔を上げれば、嬉しそうな彼女の笑顔が咲いていた。

 あの頃……まだ彼女が生きていた頃の風景が、目の前にはあった。

 

「暁美さ……ううん、ほむら……その、ごめんなさい……わたし……」

 

「いいんです……、困りますよね。急にこんな場所で、こんなわたしに出会ってしまって」

 

「そんなことっ! そんなこと、ないわ……会えて嬉しい。またこうして出会えて」

『罪の意識が軽くなったわ』

 

 聞き慣れた声が会話を遮った。はたとマミが顔を向ければ、そこには自分が立っていた。巴マミが持つ心の闇の具現、シャドウだ。

 杏子から事前に聞いていたことではあったが、やはり見て見ぬ振りをしてきた暗い感情を目の当たりにすると、全身が悪寒で震える。これが、わたしの中の悪意なのかと。

 

『ああ、素晴らしい! 素晴らしいわほむらさん! またこうして出会えて、わたしの傷を癒してくれて……クッ、ゥフフフフフ……!』

 

「マミさんの影、ですね」

 

『そういう貴女はわたしの家族。独りぼっちのわたしを慰めてくれる道具』

 

「違うっ! わたしは、ほむらをそんな目で見てないわ!」

 

『アハハッ! 声が震えてるわよ、もう1人のわたし』

 

 思わず立ち上がって反論するマミに、影は嘲笑で答える。一方でほむらは落ち着き払った様子で、マミの動向を窺い見守った。

 

『知ってるのよ? 貴女が自分に都合の良い仲間を、傷を舐め合う仲間を探していたのを探していたのを。杏子の時もそう、貴女は自分の理想を押し付けて杏子を苦しめた』

 

「ッ……、そうね。貴女はわたしだもの、後ろめたいことは全部知ってて当然よね」

 

『ウフッ、随分と青ざめたわね? 言いかけせても無駄無駄、貴女は本質と向き合っていない』

 

「何を……!」

 

 影は顔に手を当てて首を振り、呆れた声色でマミに言葉を突き刺した。

 

『貴女は自分の命だけを優先して両親を見殺しにした! どれだけ仲間を作っても、事故で自分だけ生き延びた事実は消えない! 背負った親殺しの十字架を、仲間に背負わせようとしたのよ!!』

 

「そんな、そんなことわたしは!」

 

『言い訳を積み重ねて、仲間からの同情を欲しては自らの罪を仲間に分け与える卑しい女……それがわたし! それが貴女!』

 

「違う……違う……わたしは、わたしは……!」

 

 肩で息をするマミは、両手で耳を塞ぎ影から目を背けてしまう。杏子から事前に言われていた自身の影との対峙は、本能的な拒否の感情と理性による抑え付けによって、マミに想像を絶する苦痛と悩乱を招いた。

 否定の言葉が漏れそうになる。

 ――けれど。

 ――けれど。

 

「マミさん」

 

 声が彼女を導く。最愛の少女の声がハッと気付かせた。巴マミの心を、奮い立たせた。

 身体の震えが止まらない。汗が全身を湿らせて寒気を引き起こす。事故の記憶がフラッシュバックする。わたしはそんな人間ではないと叫びたくなる。恐怖で膝が強張って今にも崩れ落ちそうだ。

 

「……そうね……」

 

 でも、だからこそ。

 

「カッコ悪いところは、見せられないわよね」

 

 マミは改めて影と向き合う。

 影は無表情のまま涙の瞳を見つめていた。

 マミは決意を込めて暗く澱んだ瞳を睨んだ。

 

 

「……、わたしは傷を癒してくれる人を探していた。わたしに同情してくれて、慰めてくれる人間を求めていた。そうよ。幼い頃に事故に遭って、助けられたはずなのに自分だけ生き残って、自分の荷物を他人に預けてまでのうのうと生き恥を晒し続けてる。ほむらの苦しみをわかってあげられなかった……改変された世界の真実を知って戸惑うこともあった……本当の意味でほむらの心を救ってあげることも、できなかった……だからこそ! わたしがわたしである限り、助けを求める人々を救い続けるっ! この手の届く範囲にいるのなら、迷わず手を伸して繋いで見せる! たとえエゴであったとしても、正しいことをするという“善意と欲望”に従う! それがわたし、それが貴女……そうでしょう?」

 

 マミの問いに影は数秒の沈黙を経て頷いた。

 瞬間、影は光となり姿を変えてペルソナへ転生する。黄金色の輝きから腕が、脚が形を成して、人の姿を取ってマミの前に凛然と降り立った。

 マミと同じ黄色の軍服めいた衣装を纏い、はためく白衣は天使の翼の如く。包帯に覆われた顔から覗く瞳からは力強い波動を、なびく金糸の髪は優雅を湛え輝いていた。

 

『我は汝、汝は我……我は汝の心海より出でし者……』

 

 彼女はマミの手を取ると、指輪をソウルジェムに変えて両手に包む。暖かい光で満たされる中で、ソウルジェムは徐々にペルソナと同化していく。ペルソナとは心の鎧、魂の具現。なればこそ、ふたつの融合は当然の帰結であろう。

 

『我が名は“フローレンス”。救いを求める人々に手を差し伸べる者。汝が繋いだ手の先に、幸せがあらんことを』

 

 フローレンスは穏やかな声で告げると、そのままマミの身体をそっと抱擁した。

 精神と身体が溶け合っていく。ペルソナの衣服と意匠はそのままに、顔全体を覆っていた包帯は解けて、マミに同化していく。歪なバランスの上で成り立っていた魔法少女の魂が、ついに完全なものとして成り立ち、新たな姿へと進化した。

 

 ――憑依型ペルソナ。

 それは、魔法少女だけが得ることのできるペルソナの姿。真の魔法少女の姿であった。

 

「マミさん」

 

 呼ばれて、振り返る。光の粒子に包まれ今にも消えそうなほむらが泣き笑いしていた。

 

「ほむら、わたし……っ!」

 

 とっさに右手を伸ばす。今にも消えそうな彼女を繋ぐために。

 

「マミさん。わたし、マミさんのお陰で自信が持てました。マミさんがあの時……“魔女”に襲われた時に、手を繋いでくれたから……変われたんです」

 

 無情にも、伸ばした手は身体をすり抜けて。

 空間が徐々に、見滝原の教室に戻っていく。

 

「待って”暁美さん“! わたし、貴女にまだ何もっ!」

 

「たくさん、たくさん貰いました。手に余るくらい、いっぱいの幸せを」

 

「いや……だめ、まだわたし……何も返せてないのに……!」

 

 子供のように泣き噦るマミの頭を抱いて、ほむらは安らかに言う。

 

「魔法少女になって、いろんなことを経験して……苦しくて、辛くて、悔しくて、悲しいことがいっぱいありました。けど、マミさんやみんなのおかげで……わたしは頑張れたんです」

 

「暁美さん……っ!」

 

「ありがとう。そして、さようなら」

 

 

 

 

 

「わたしの大好きな、マミお姉ちゃん」

 

 

 

 

 

 最期に満面の笑顔とちょっと照れくさい声で言葉を残して、自分に殺された”暁美ほむらの残骸“は消えた。

 美しい名前と同じ、美しい光になって――。




ペルソナ:フローレンス
アルカナ:調整
初期レベル:42

所持スキル
メディラマ
アムリタシャワー

精密射撃
物理攻撃のクリティカル率が上昇

ティロ・ボレー
敵全体に物理属性で2〜5回の小ダメージ

レガーレ
敵一体に物理属性で中ダメージ

レガーレ・ヴァスタアリア(43)
敵全体に物理属性で中ダメージ

ダンサ・デル・マジックブレッド(49)
敵全体に物理属性で2〜6回の中ダメージ

武道の心得(54)

ディアラハン(59)

ハイボルテージ(65)
1MORE発生時、自身の攻撃力をアップ

マハタルカオート(70)

メディアラハン(77)

ティロ・フィナーレ(82)
敵一体に物理属性で超特大ダメージ

???(ほむらのイベント消化で自動取得)
敵全体に物理属性で超特大ダメージ

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