Persona4 : Side of the Puella Magica 作:四十九院暁美
あの強力なシャドウを倒して以来、私は里中さんと天城さんからは "ほむらちゃん" と、鳴上くんと花村くんからは "暁美" と呼び捨てで呼ばれるくらいに、彼らの距離は縮まった。だが私は今、その事を酷く後悔している。
「どうして……こうなったのよ……」
何故なら、その所為で目の前にあるカレーの形をした劇物を、否が応でも食べなくてはならなくなったからだ。
「真顔で言っとくぜ……止めとけよ。遊びで勧めんのもためらうわ!」
本当に、どうしてこうなった。
◇
6月16日、放課後。
暁美ほむらは鳴上悠、花村陽介、里中千枝、天城雪子のいつものメンバーと共に、明日の林間学校で作る夕食の食材を買い出しに来ていた。
行方不明になっていた2日間の合間に、ほむらが入る班は勝手に決められていた。ほむらが諸岡によって振り分けられた班は偶然にも彼らと同じ班であり、その事を知った千枝はこれ幸いとばかりにほむらを食材の買い出しに誘ったのだ。
作る料理は、千枝曰く人気ナンバーワンの国民食 "カレー" である。
「カレーって何入ってたっけ?」
「にんじん、じゃがいも、玉ねぎ……ピーマン、まいたけに……ふきのとう?」
カートを押しながら、カレーを作った事のない千枝がほむらと雪子に訊く。しかし雪子もカレーを作った事がないらしく、具材すら曖昧にしか憶えていないようだ。
「待ちなさい。カレーにふきのとうは入れないわよ」
ほむらが雪子のあげた食材の幾つかを訂正すると、2人は何故か感心した様な声をあげる。その様子を見たほむらは、こんな状態で大丈夫なのかと溜め息を吐いた。
残念ながらこういう事にうるさそうな陽介は用事があると言って上階へ行ってしまい、悠は3人を信頼しているのか沈黙を保っている。手助けは期待出来ないだろう。
「んー、花村とかどんな具材が好きかねえ……。あいつ、細かく文句とか言いそうだし」
「カレーの具材なんて、どこの家でも同じでしょう。気にするだけ無駄だと思うけれど」
「そうなの?」
「……そうよ」
雪子の反応で、ほむらは悟った。彼女たちだけで食材を選ばせてはいけない、と。
「3人で固まっていても仕方がないから、手分けして材料を持って来ましょう。私は野菜を選んでいるから里中さんは肉類を、天城さんはカレールウを持って来てちょうだい」
「オッケー、1番良い肉持ってくるね!」
「カレールウだね、任せて」
何故かこの時点で既に不安になるほむらだったが、ひとまずは彼女たちを信じる事にして悠と共に野菜売り場に向かった。ジュネスの野菜売り場には、
野菜売り場につくと、ほむらは主婦たちに交じって野菜を選びカレーの食材を人数分取って、カートに入れていく。ほむらの家でカレーに入れる野菜は主ににんじん、玉ねぎ、じゃがいも、茄子の4つである為、ほむらの持ってくる食材もそれと同じだ。
「茄子カレーか……」
料理を嗜む悠はほむらの持ってきた食材を見て、これは絶対に美味いカレーになると直感し、大いに期待を膨らませた。何せカレーだ。余程のヘマをしなければ、陽介も大満足の出来になる事は間違いない。
「お待たせー」
「カレールウって、これで良かったかな?」
悠がまだ見ぬカレーに想いを馳せていると、千枝と雪子ほむらに近寄りそれぞれ持ってきたものを渡す。それらが問題ない事を確認してカートに入れると、必要な食材が揃っているかを確認する。
「隠し味とか入れなくて良いの?」
食材を眺めていた千枝が問うと、ほむらはカートに入れられたにんにくを指差して答えた。
「これを入れるのよ」
「にんにく……?」
「カレーに、にんにくって隠し味に使ったっけ?」
「りんご、はちみつと同じくらいメジャーよ」
「え、そうなの!?」
にんにくがカレーの隠し味という事に驚く2人に、ほむらはカレーについて語り始める。側から見て、嬉々としてカレーについて語るほむらと、しきりに感心した様子で聞き入る2人は、友達というより姉妹の様であった。
「お、食材買い終わったのか?」
「ええ。さっきね」
いつの間にか戻ってきた陽介が、3人の様子を見るなりそう訊いた。ほむらはそう答えると、右手に持った茄子を彼に見せる。
「お、もしかして茄子カレーか? こりゃ楽しみだな!」
それを見た陽介は悠と同じ様に、期待で胸を膨らませた。
しかし、彼らの期待は無情にも裏切られてしまう。それも、最悪の形で。
事が起こったのは買い出しから次の日、林間学校で夕食作りを行う時だった。
「暁美、大丈夫か?」
「大丈夫よ、鳴上くん……ちょっと、疲れただけ、だから」
なんとほむらは、午前中に行われた山中のゴミ拾いで疲れてダウンしてしまい、残念ながら夕食作りに参加出来なくなってしまったのだ。
原因はこの程度の事に魔法を使うのをためらってしまった事、つまりはほむらの貧乏性が悪い方向に働いてしまったのだ。日々の生活で身に付いた癖というものは、そう簡単に改善出来るものではない。ましてそれを、数日の合間に起こった劇的な変化に対応させるのは少々無理があるというものだ。
「魔法使うの忘れるとか、もしかして暁美って結構ドジ?」
「もう、ドジじゃないわ……」
「もう?」
集合場所である屋根付きの広場に設置されたテーブルに突っ伏しながら、ほむらが陽介の言葉に応える。すると、言い方に疑問をおぼえた悠がその部分を繰り返す。するとほむらは、いかにも "しまった" と言いたげな顔を浮かべた。
才色兼備なクールビューティーという印象が強いほむらだが、気を許した相手にはふとした拍子に抜けている部分を露呈させてしまう事がある。それは、あのループを経験する前の気弱で消極的、且つ後ろ向きな性格で俗に言う "ドジっ子" だった時の名残であり、ほむらが今だに直せていない部分でもあった。
「……黙秘する」
「それ、もう答えを言ってるようなもんだぞ?」
陽介がすかさずツッコミをいれると、ほむらは "もう諦めた" と言わんばかりに溜め息をついた。疲れている所為か、いつもよりガードが緩々である。
「あーと、お待たせ」
「お、来た来た!」
ほむらが両腕を机に付いて顔を隠すと同時に、千枝と雪子が夕食のカレーを持ってきた。しかし、何故かその顔は微妙に引きつっている様に見える。
「その……愛情は入ってるからさ……」
「うお、入っちゃってる? それ、ベタな台詞だけどグッとくるな!」
「よし。それじゃあ、いただきます」
若干言い淀みながらそう言うと、千枝はカレーを3人の前に置く。するとそれを聞いた陽介は、酷く嬉しそうに言った。悠も嬉しそうな反応を示している。
一体どんな味なのか、期待に胸を膨らませて2人がカレーを口に運び、ためらいもなく含む。その瞬間、2人の口の中にはひと口で飲み込めないものだと分かる程の、筆舌しがたい凄まじい感触が広がった。
「う、あう、ああぅ、あぉぉぉ!」
「っ、ぐぅ、おぁ!」
「え、ちょっ……」
あまりの不快感に呻いた後、2人は口からカレーを噴き出す。突然の事にギョッとするほむらと料理人たちを余所に、陽介と悠はコップに注がれた水をひと息に飲み干すと机を両手で叩きながら立ち上がり、力の限り叫んだ。
「あんじゃコリャーァァ!」
「どんな調理をっ! ……ゲホッ、ゲホッ」
何かを言おうとして途中で咳き込んだ悠の代わりに、陽介が料理人たちに向かって怒鳴る。
「カレーは、辛いとか甘いとかだろ! コレ、くせーんだよ! それに、ジャリジャリしてんだよ! ジャリジャリしてる上にドロドロしてて、ブヨブヨんとこもあって……も、色んな気持ちワリーのだらけで、飲み込めねーんだよ!」
あの食材からどうしてこの様なものが生まれたのか、陽介の言葉にはその想いがありありと感じ取れた。余程期待していたのだろう、悠に至っては暗い雰囲気を出しながら椅子に座って項垂れている。
「いや、なんかうまく出来なくてさ……けど、バラエティ豊かな食感が……」
「まっじーんだよ!」
言い訳をしようとした千枝に、陽介は言葉を被せてバッサリと切り捨てる。彼にしては珍しく、割と本気の言葉だった。
「な、なによ……! てか、それはアンタの感想じゃん! 」
散々言われて頭にきたのか、千枝はそう言いながらほむらを見た。雪子もほむらを期待を込めて見つめる。
「……嘘でしょ」
それに気が付いたほむらは3人から目の前のカレーに視線を移して数秒後、信じられないといった様子でそんな呟きをもらした。
◇
何があったら、カレーがこんな酷い事になるのだろうか。そう思わずにはいられない程、この料理は凄まじかった。
まず、ルウが黒い。完全に焦げている。
次に、野菜が見るからに危険。皮を剥いていないどころか洗ってすらいないのではない様に見える。にんにくはすり下ろさずにそのまま投入、じゃがいもに至っては芽すら取っていない。切り方もぶつ切りで、随分とお粗末な形だ。
そして極め付けは、半生の肉。見て分かる部分が既に赤いとは、最早絶句である。杏子が見たら、食べ物を粗末にするなと激怒する事は間違いない。
というか、彼らは食べる前に気が付かなかったのだろうか。だとするなら、どれだけ舞い上がっていたんだという話だ。
「暁美、食べない方が良い……」
哀愁が漂う鳴上くんは、俯きながらもそう言う。まるでこの世の終わりが来たかの様な落ち込み具合だ、見ていて申し訳なくなってくる。
どうしたものかと里中さんと天城さんを横目で見ると、期待の表情でこちらを見つめていた。こうも見つめられてはどう足掻いても逃げ道が無い。
「……ぃ、ただき、ます」
結局私は、仕方なしに腹を括ってカレーを食べてみる事にした。
スプーンで白米とルウを掬って持ち上げる。里中さんと天城さんが見つめる中、数瞬ためらった後ままよとばかりに口に含んだ。するとどうだろう、まだ噛んでもいないなのに口の中に違和感を感じた。これは、飲み込む事など出来そうにない。意識をそらさないと反射的に噴き出してしまいそうだ。しかし彼らの様に噴き出すのは女性として論外、それだけは絶対に避けたい。だが、かといってこのままでは精神的に多大なダメージを負ってしまう。
なんとか……なんとか飲み込まなくては。
「んんっ、っくぁ、はっ……」
「暁美、無理すんな! 辛いなら吐き出しても良いんだぞ!」
歯を食いしばって飲み込もうとするが、身体が拒否反応を示して飲み込めない。いっそ吐き出してしまえば楽になるか、そんな諦めにも似た思考が脳裏によぎった瞬間、何かが自分の中で折れた気がした。
「うぇ、あぅえっ、あぇぁ……かはっ」
「ほ、ほむらちゃぁぁぁん!?」
控えめに口の中のものを吐き出した私は、天城さんの悲鳴と共に横に倒れた。前に倒れなかった事は自分で自分を褒めてやりたい。
「暁美! ほら、水だ!」
鳴上くんが私を助け起こし、水の入ったコップを近付ける。震える手でそれを受け取り、ひと息に飲み干す。
こんなにもも水道水が美味しいと感じたのは生まれて初めてだ。
「貴女たちには……まず、料理とはなんたるかを、教えなければならないようね……」
「は、ほむら……ちゃん……?」
「め、眼が怖い……よ?」
コップを鳴上くんに返した私はゆっくりと立ち上がり、2人の前に移動すると笑顔で言った。
「正座」
どうやら彼女たちには、少し説教が必要らしい。今後の為にも、たっぷりと教え込んでやろうではないか。
そんな真っ黒い思考のまま、私は食事の時間が終わるまでの間2人に説教し続けたのだった。
それから時は流れ、女子のテント。室内には私、里中さん、天城さん、そしてクラスメイトの
そんなテントの中で私はランプの明かりを頼りに、暇潰し用に持ってきた知恵の輪数個を延々と解いていた。具合は芳しくない。バックで流れているいびきの所為だろうか、それとも空腹の所為だろうか。
「ハァ……どうしてここだけ4人なのか分かったよ……」
「眠れないね……」
里中さんと天城さんが、溜め息混じりに会話を始める。彼女たちの会話と大谷花子のいびきを聞きながらかちゃかちゃと知恵の輪を弄くるが、いかんせんこの状態では解ける気がしない。
「ああああ……うああー! も、やだぁ! 逃げようよ!」
「逃げるって……どこへ? 山を降りるとかは、ちょっと……。鼻と口塞いだら、いびきって止まる?」
「ちょ、やめなさいアンタ!」
里中さんの叫びに天城さんは良い案を思いついたと言わんばかりにそう応え、里中さんがツッコミ入れる。その様子を見ながら、私は知恵の輪をバッグに放り投げた。
駄目だ、思考が鈍ってきた。というか、やる気が無くなった。
「あー……もういや……」
里中さんがそう呟いた直後、外で物音が鳴った。
「だ、誰だ!?」
そう言うや否や、テントの入り口に向かって足が飛び出す。
里中さんの反射的に足が出る癖は、直した方が良いのではないだろうか。
「プベァッ!?」
強烈な蹴りがテントの薄布越しに見事ヒットしたらしく、幕の外からどこかで聞いた様な声が響いた。具体的に言うならば、暴走族をひとりで潰したとか噂されている不良少年じみた声だ。
「え、完二くん!?」
「は? え、マジ!?」
2人は驚きで声をあげながら慌てて外を覗くと、そこには何故か巽くんが倒れていた。余程当たりどころが悪かったらしい、苦悶の表情を浮かべて気絶しているのが2人の間から見えた。
「えぇ……なんでさ……」
「取り敢えず、中に入れておきましょう。見つかったら厄介な事になるから」
「そ、そうだね」
私は立ち上がり魔力で右腕を強化すると、巽くんの襟首を引っ掴んで無造作にテントの中へ投げ入れる。見つかっては面倒だ。
しかし何故、彼はここに来たのだろうか。こんな事をする人間ではなかった筈だが。
「……どうすんの、これ。流石にもう寝るの無理じゃん」
里中さんがテントの中を見て、困った様に呟く。左は工事現場並みにいびきがうるさい肉団子、右は苦悶の表情を浮かべて気絶している不良少年。どう見たってここで寝るのは不可能だ。
どうしたものかと頭を悩ませていると、里中さんと天城さんが何かを決意した様に頷き合い、私に言った。
「ほむらちゃん、男子のテントに行こう」
「待って。どうしてそうなったの」
思わずツッコミを入れてしまった。普通、そこは他の女子のテントに行くとか、そういう発想がまず先に挙がる筈だ。どうして真っ先にその結論に行き着いたのだろう。
「だって、他のテントはもう満杯でしょ?」
「確かにそうかもしれないけれど……」
「男子の方は結構サボってるっていうし、もしかしたら空いてるかもしんないじゃん。それに、少なくともここで寝るよりかマシじゃん?」
男子のテントには空きがあるかもしれないが、見つかれば良くて停学、最悪は退学まであり得る危険な賭けだ。出来ればそんな危ない橋は渡りたくない。かといって、女子のテントに空きがあるかどうかはかなり微妙。あったとしても、3人揃って入れるかは分からない。そして、やはり見つかればタダでは済まない。どっちも選択肢としては下の下、まさに究極の選択だ。
「ほら、早く行こう。見つかったらヤバイし」
「ほむらちゃん。覚悟、決めよう?」
「……今日は厄日ね」
散々悩んだ挙句、私は2人に連れられてテントを後にした。
目指すは男子のテント、鳴上くんと花村くんがいるであろうテントだ。
暗がりの中をこそこそと急ぎ足で進んで行く。遠くで光がちらちらと揺れているのが見えると、急いで近くの茂みに身を隠し音を立てない様にゆっくりと動く。光が遠ざかると茂みから飛び出し、また急ぎ足でテントを目指す。まるで昔見たスパイ映画の主人公みたいで、少しだけわくわくした。
しばらくして彼らのテントの前に着くと、天城さんがテントに向かって小さく声をかける。すると花村くんが、少し焦った声でそれに応えた。
「ねえ……起きてる?」
「何してんだよ、こんなところで! こっち男子だぞ!」
里中さんが辺りを警戒しながら声をかけると、先程と同じ様に花村くんがそれに応える。
「入れて! テントに!」
「バカ言うな! モロキンにバレたら停学なんだぞ! 戻れって!」
尤もな意見だが、こちらにものっぴきならない事情がある。私は溜め息混じりに花村くんに呼びかけた。
「それが……帰れないのよ」
「はぁ? なんでだよ」
予想通り、花村くんは疑問の声をあげる。仕方なしに、彼の疑問に答えようと私が口を開いた瞬間だった。
「腐ったミカンはー、いねがー! みだらな行為をするやつぁーなー……」
諸岡の声がどこからか聞こえた。声の大きさからして、このから近い位置にいるようだ。
「しょ、しょーがねーな。早く入れよ!」
花村くんの許しを得た私たちは急いで、諸岡に見つからないようテントに転がり込む。
テントの中は鳴上くん、花村くんの2人だけしかいない。見た感じでは、ギリギリであと3人寝れる程度にはスペースがあった。ひとまずは安心、と言ったところか。
「で、なんなんだよ、いったい?」
どこか呆れた様な声で訊く花村くんに、私もまた呆れた声で事情を説明した。
「さっき巽くんが何故かいきなりこっちのテントに来たのよ。そしたら、それに驚いた里中さんが蹴りで彼をのしちゃってね。取り敢えず、見つからないようにテントに放り込んだは良いのだけれど、そんな状況じゃ眠れないし起きたら騒ぎになりそうだから、こっちに来たのよ……」
「それは、その、運が悪かったな……」
話を聞いた鳴上くんと花村くんは、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべる。彼があんな事をしでかした原因を知っているのだろうか。まあ、今更何を言っても遅いのだが。
「いいかー、 "ふらち" と "みだら" は違うんだからな〜……」
そうこうしている内に、諸岡の声が段々と大きくなってくる。おそらく、居場所はここからかなり近い。
「来た! 近いぞ! お、おい、明かり消せ!」
花村くんに言われて、鳴上くんが焦りつつもランプの明かりを消す。するとそれから数秒後、諸岡の気配がかなり近くまで迫ってきてた。あと数秒遅ければ見つかっていた、まさに間一髪だ。
息を潜めてテントの入り口を見つめていると、諸岡がこちらに向けて声をかけた。
「おい、おまえら、2人いるなー。返事しろー」
「います」
「あ? あー、いるな」
諸岡の問いに鳴上くんが答えると、諸岡はどこか要領を得ない返事をして花村くんについて訊く。花村くんはその問いに控えめな声で答えた。
「花村はもう寝てるんだなぁ?」
「うっす! もう寝てます!」
「寝てないじゃないか! いいから、黙ってまた寝ろー」
まるでお笑いの様な掛け合いに、ちょっとだけ笑いそうになる。気を取り直して、眼を細めジッとテントの入り口を睨んでいると、諸岡は欠伸をしながらこのテントから離れていった。どうやらやり過ごせたらしい、花村くんはどっと息を吐くと呟く。
「はぁ、いっきに歳食った気分だぜ」
「まったくだよ……危うく停学くらうとこだった……」
「あのな、お前らの所為だかんな!」
花村くんのため息混じりの呟きに里中さんが同意すると、彼は少し怒気を孕んだ声で言う。すると、里中さんもまた怒気を孕んだ声でまくし立てた。
「しょ、しょーがないじゃん! とにかくもう出れないし、朝、人起き出す前に出てくから、それでいいでしょ!?」
「なんでお前がキレてんだよ……」
どうやら彼女は空腹で少しイラついているらしく、若干怒りっぽくなっているようだ。
「言っとっけど…… "妙な事" しないでよね」
「な、何勝手に……くっそ、貸しだからな!」
険しい表情で彼女はそう言うと、荷物で手早くテント内にバリケードを作った。やはりひとつのテントに5人は人数オーバーギリギリで、荷物のバリケードの所為もあってか寝床は随分と狭い。3人で川の字になって寝ると、私が真ん中にいる所為で必然的に2人が私の両腕にくっ付く形になり、かなり窮屈だ。
「でも、こういうのも悪くない……かな?」
視界が霞み、瞼が重くなる。ゆっくりと微睡みの中へゆっくりと落ちてく。なんだか今日は少しだけ、良い夢が見れる気がする。