STAR WARS マンダロリアン&グローグー〜銀河一自由な宇宙海賊〜 作:けーやん
遠い昔、遥か彼方の銀河系で――。
銀河帝国は崩壊した。
第二デス・スターは破壊され、皇帝パルパティーンとダース・ベイダーは死に、反乱同盟軍は新共和国として新たな時代を築き始めた。
だが――。
帝国が滅びれば、銀河に平和が訪れる。
そんな単純な話ではない。
帝国軍の残党。
軍閥。
犯罪組織。
海賊。
賞金稼ぎ。
そして、帝国崩壊によって生まれた力の空白を狙う野心家たち。
銀河は以前にも増して混沌としていた。
そんな銀河を、一隻の宇宙船が飛んでいた。
その名は――
タートル号。
独特の船体を持つ宇宙船が、無数の星々の間を悠然と進んでいく。
操縦席では、一人の男が盛大な欠伸をしていた。
赤い服。
金髪。
鍛え抜かれた長身。
そして何より目を引くのは、その顔に浮かんだ不敵な笑みだった。
男の名は――
コブラ。
ただし。
この男は、本来この銀河に存在する人間ではない。
かつて別の世界で生きていた記憶を持ち、この『スター・ウォーズ』の銀河に転生した男。
そして何の因果か。
彼が手にした肉体も、能力も、装備も――かつて漫画で知っていた宇宙海賊コブラそのものだった。
「ふぁぁ……平和だねえ」
コブラは操縦席に深く腰掛けながら呟いた。
「帝国は滅んだ。皇帝もいない。デス・スターも吹っ飛んだ。これで銀河はめでたしめでたし――」
「だったら私たちは、どうして帝国軍の残党に追われているのかしら?」
横から冷静な声が飛んできた。
コブラが顔を向ける。
そこに立っていたのは、美しい女性型アーマロイド。
アーマロイド・レディ。
コブラにとって、この広大な銀河で最も信頼する相棒だった。
「細かいことを気にすると美人が台無しだぜ、レディ」
「あなたが帝国軍の輸送船から積荷を奪ったからでしょう?」
「訂正してくれ。奪ったんじゃない」
コブラは人差し指を立てた。
「持ち主のいなくなった荷物を保護したんだ」
「輸送船には三十人以上乗っていたけれど?」
「じゃあ落とし物だ」
「誰も落としていないわ」
「世知辛い銀河になったもんだ」
レディは小さく肩をすくめた。
その瞬間だった。
警報音。
タートル号のセンサーが複数の機影を捉える。
レディの表情が変わった。
「コブラ」
「ああ」
コブラもモニターを見る。
後方から高速接近する四つの機影。
帝国軍が運用していた――
TIEファイター。
ただし帝国軍の正式な識別コードではない。
帝国崩壊後も各地に残った軍閥が保有している機体だ。
通信が入る。
『前方の船へ告ぐ! 直ちに停船しろ!』
「おっと」
コブラは笑った。
『帝国軍の物資を強奪した罪により、お前を拘束する!』
「帝国軍?」
コブラは通信機を取った。
「悪いがニュースを見た方がいいぜ。あんたたちの帝国なら、とっくに店じまいしてる」
『黙れ!』
「再就職なら早い方がいいぞ? 新共和国が履歴書を受け取ってくれるかは知らないがね」
『撃て!』
TIEファイターが一斉にレーザーを放った。
「交渉決裂か」
コブラが操縦桿を倒す。
タートル号が急旋回。
赤いレーザーが船体すれすれを通過した。
「レディ!」
「分かっているわ」
タートル号の兵装が起動する。
追撃してきたTIEファイターへ砲撃。
一機が回避する。
二機目も散開。
だが――
「帝国のパイロットってのは真面目だねえ」
コブラは笑った。
「教科書通りに飛んでくれる」
タートル号が急減速。
追撃していたTIEファイターが一瞬で前方へ飛び出す。
「だから試験には強いが――」
照準。
「実戦じゃ赤点だ」
砲撃。
TIEファイターの翼部分を正確に撃ち抜く。
機体は制御を失い、戦線を離脱した。
「一機」
レディが告げる。
「あと三機よ」
「残業は嫌いなんだけどな」
その時。
レーダーに新たな反応。
一隻の小型宇宙船が戦闘区域へ接近してきた。
「新手?」
「違うわ」
レディがデータを確認する。
「帝国軍ではない」
その船は迷うことなくTIEファイターへ攻撃を仕掛けた。
正確な射撃。
一機撃破。
「へえ」
コブラが目を細める。
「腕がいい」
やがて残る二機も撤退。
通信が入った。
『聞こえるか』
低い男の声。
「聞こえてるぜ」
『帝国残党に狙われていたようだな』
「人気者はつらいね」
短い沈黙。
どうやら冗談が通じなかったらしい。
『近くの惑星に降りる。話がある』
「デートのお誘いなら、もう少し愛想が欲しいところだ」
通信が切れた。
「…………」
コブラは通信機を見る。
「無口な奴だ」
レディが相手の船を解析する。
そして表示された情報を見て、僅かに目を細めた。
「コブラ」
「ん?」
「あの船……マンダロリアンが乗っている可能性があるわ」
コブラの笑みが僅かに深くなる。
「マンダロリアン?」
その名前には覚えがあった。
この銀河に来る前。
かつての世界で知っていた物語。
帝国崩壊後の銀河を旅する、一人の賞金稼ぎ。
そして――
彼が守ることになる、小さな存在。
「なるほどねえ」
コブラは操縦席から立ち上がった。
「面白くなってきた」
「罠の可能性もあるわよ」
「その時は逃げればいい」
「あなたはいつもそう言って、結局戦うでしょう?」
「俺は平和主義者だぜ?」
レディが無言でコブラを見る。
「……その顔は信用してないな?」
「長い付き合いだもの」
「悲しいねえ」
コブラは笑いながら左腕を撫でた。
一見すれば普通の腕。
だが――
それは精巧に作られた義手だった。
そして、その下に隠されているものを知る者は、この銀河ではほとんどいない。
義手の下。
コブラの左腕そのものとなっている、恐るべき兵器。
精神エネルギーを光線へ変換し、意志によって軌道すら変えることのできる銃。
サイコガン。
ブラスターとも。
ライトセーバーとも。
この銀河に存在するどの兵器とも異なる力。
コブラはまだ知らない。
この武器が、やがて帝国残党だけではなく、新共和国や犯罪組織――さらにはフォースを知る者たちからも注目されることになることを。
そして数時間後。
荒涼とした惑星。
砂埃の舞う小さな町。
酒場の奥で、コブラは椅子に座っていた。
正面には銀色の装甲を身に纏った男。
ディン・ジャリン。
マンダロリアン。
その隣には――
「…………」
小さな緑色の子供が座っていた。
コブラは数秒間見つめる。
「……ずいぶん小さな相棒だな」
グローグーが首を傾げる。
「名前は?」
「グローグーだ」
ディンが答えた。
「グローグーね」
コブラは笑顔で手を差し出す。
「俺はコブラ。職業は――」
少し考える。
「自由人だ」
ディンが無言でコブラを見る。
「…………」
「何だ?」
「賞金首だと聞いた」
「昔の話さ」
「今も賞金が懸かっている」
「銀河じゃ自由人と賞金首は似たようなもんだろ?」
「違う」
即答だった。
コブラは肩をすくめる。
グローグーが楽しそうに声を漏らした。
「ほら、弟子は俺の味方みたいだぜ」
「弟子ではない」
「違うのか?」
ディンは少し間を置いた。
「……今は、俺が面倒を見ている」
「それを世間じゃ弟子って言うんじゃないのか?」
再び沈黙。
レディがコブラの横で静かに言った。
「コブラ。話を進めましょう」
「そうだったな」
ディンがホログラム装置をテーブルへ置いた。
一人の男の姿が浮かび上がる。
元帝国軍将校。
現在は帝国残党の一部を率いている人物。
「こいつを追っている」
ディンが言う。
「偶然だな」
コブラの笑みが消える。
先ほどまでとは違う。
獲物を見つけた男の目。
「俺もだ」
「理由は?」
「賞金」
コブラは即答した。
そして少し間を置き――
ニヤリと笑う。
「……と言いたいところだが」
ホログラムの帝国軍将校を見る。
「こいつは辺境の村を三つ襲ってる。子供まで連れ去ったそうだ」
ディンのヘルメットが僅かに動いた。
「助けるのか?」
「勘違いするなよ」
コブラは立ち上がる。
赤い服の裾を翻し、出口へ向かう。
「俺は正義の味方じゃない」
「なら何故だ?」
足を止める。
振り返る。
そして――
いつもの不敵な笑み。
「美女から助けてって頼まれたんでね」
レディが静かに補足する。
「依頼人は七十歳よ」
「レディ」
「何?」
「男には夢ってものが必要なんだぜ」
グローグーが声を上げる。
まるで笑っているようだった。
コブラは指を鳴らす。
「決まりだ」
宇宙海賊コブラ。
マンダロリアン、ディン・ジャリン。
そしてグローグー。
本来なら交わるはずのなかった者たち。
彼らの最初の共同戦線が始まろうとしていた。
そして帝国残党はまだ知らない。
自分たちが敵に回した赤い服の男が――
ブラスターを必要としないことを。
その左腕に。
銀河の常識では測れない切り札を隠していることを。