STAR WARS マンダロリアン&グローグー〜銀河一自由な宇宙海賊〜 作:けーやん
銀河は広い。
あまりにも広大で、たった一人の人間を探し出すなど、本来なら砂漠から特定の砂粒を拾い上げるようなものだ。
ましてや、その男が定住する場所を持たず、気分次第で星から星へ渡り歩く宇宙海賊ともなれば、なおさらである。
――ただし。
その男が、自分から騒ぎを起こして居場所を知らせてくれるのなら話は別だった。
帝国残党の基地を襲撃。
高額賞金首ガルド・ヴェインを捕縛。
その過程で二十人を超える賞金稼ぎを返り討ち。
しかも目撃証言によれば、使用した武器はブラスターではない。
左腕そのものに仕込まれた、正体不明の兵器。
情報は瞬く間に裏社会を駆け巡った。
賞金首――コブラ。
その名が、銀河中の賞金稼ぎたちの端末に表示される。
そして当然。
その情報を目にした者の中には、一流と呼ばれる者たちもいた。
◇
「…………」
銀色のヘルメットに手配書の光が反射した。
ディン・ジャリンは宇宙船の操縦席で無言のまま画面を見ていた。
表示されているのは、つい先日まで共闘していた男の顔だ。
赤い服。
金髪。
そして、いかにも本人らしい不敵な笑み。
賞金額は以前よりさらに増えていた。
「…………」
ディンは情報を下へ送る。
注意事項。
《対象は極めて危険》
《左腕に未知のエネルギー兵器を内蔵している可能性あり》
《射出されたエネルギーは飛翔中に軌道を変更する》
《複数の賞金稼ぎが交戦するも捕縛失敗》
最後まで読んだディンは、小さく息を吐いた。
「やはり、そうなったか」
隣から小さな声がした。
「ん?」
グローグーだ。
小さな身体を座席に収め、こちらを見上げている。
ディンは端末を伏せた。
「何でもない」
グローグーの大きな瞳が端末へ向く。
「…………」
「駄目だ」
小さな手が伸びる。
「駄目だと言っている」
それでも伸びる。
「…………」
ディンは根負けして端末を見せた。
グローグーは表示されたコブラの顔を見る。
「あぅ」
耳が動いた。
明らかに覚えている。
「そうだ。コブラだ」
グローグーが画面を指差す。
「今度は賞金首になったらしい」
少し考えてから、ディンは訂正した。
「いや。前から賞金首だったな」
「パトゥ!」
グローグーは楽しそうに声を上げた。
「笑い事ではない」
もっとも――。
本人なら笑っているだろう。
ディンには容易に想像できた。
『男前の俺に賞金がつくなんて当然だろ?』
そんなことを言いながら、いつものように笑う赤い男の姿が。
ディンは手配書を閉じた。
少なくとも、自分からコブラを追うつもりはない。
だが――。
この金額なら。
「……厄介な連中も動くだろうな」
◇
その頃。
当の本人は。
「いいねえ」
南国の惑星。
白い砂浜。
青い海。
空には二つの太陽。
コブラは砂浜に置かれた椅子へ寝転がり、冷えた飲み物を片手に海を眺めていた。
隣の椅子にはレディが座っている。
「やっぱり人生には休暇が必要だ」
「あなたの場合、休暇の方が長い気がするけれど」
「気のせいだよ」
「昨日も休んでいたわ」
「昨日は昨日。今日は今日さ」
コブラはサングラスを少し上げる。
波打ち際では様々な種族の観光客が行き交っている。
帝国が崩壊し、銀河中が混乱しているとはいえ、全ての星が戦場というわけではない。
こうした平穏な場所も存在する。
「いい惑星だ」
コブラが満足そうに言った。
「気に入った?」
「ああ」
飲み物を一口。
「帝国軍はいない。賞金首もいない。美女はいる。最高だ」
「最後の一つが一番重要なのでしょう?」
「もちろん」
即答だった。
レディは呆れたように首を振る。
その時だった。
「コブラ」
「ああ」
先ほどまでと変わらぬ表情。
だが。
コブラの目だけが僅かに鋭くなっていた。
砂浜。
観光客に混じってこちらへ歩いてくる男がいる。
一人。
さらに海沿いの建物。
二階のテラスに二人。
背後。
屋台の陰にも気配。
レディが静かに告げる。
「囲まれているわ」
「何人?」
「確認できるだけで八人」
「へえ」
コブラは再び飲み物を口へ運んだ。
「団体旅行かな」
「全員武装しているけれど」
「最近の観光客は物騒だな」
「全員、あなたを見ているわ」
「モテる男はつらい」
「賞金稼ぎよ」
「分かってるよ」
男が目の前で止まった。
顔の半分を機械化した大柄な賞金稼ぎ。
腰には二丁のブラスター。
「コブラだな」
「違う」
コブラは即答した。
男の眉が動く。
「手配書と同じ顔だ」
「他人の空似さ」
「赤い服」
「流行ってるんだよ」
「金髪」
「銀河中にいる」
「左腕が義手」
「事故に遭った奴だって多いさ」
賞金稼ぎは端末を取り出した。
そこにはコブラの顔写真。
そして目の前のコブラ。
男は交互に見比べる。
コブラも画面を覗き込んだ。
「…………」
数秒。
「確かに似てるな」
レディが額に手を当てた。
「本人でしょう」
「レディ、せっかく誤魔化してるんだから協力してくれ」
「無理があるわ」
賞金稼ぎがブラスターへ手を伸ばす。
同時に。
周囲の七人も動いた。
観光客たちが異変に気づき、悲鳴を上げながら離れていく。
コブラはまだ椅子から立たない。
「最後に聞く」
男が低く言う。
「投降するか?」
「もちろん」
意外な返答。
レディがコブラを見る。
賞金稼ぎたちも一瞬戸惑った。
コブラは飲み物をテーブルへ置く。
「ただし条件がある」
「条件?」
「今日一日待ってくれ」
「何?」
コブラは海を見る。
「せっかく休暇に来たんだ。夕日くらい見たいじゃないか」
「ふざけるな!」
「交渉決裂か」
ブラスターが抜かれた。
その瞬間。
コブラが動いた。
椅子を蹴り上げる。
賞金稼ぎの視界を遮る。
ブラスターの光が椅子を撃ち抜いた。
コブラは砂浜を転がりながら左腕へ右手をかける。
義手が外れる。
その下から現れる黒い銃身。
「サイコガン!」
誰かが叫んだ。
「おっ」
コブラが嬉しそうに笑った。
「名前まで知られてるのか」
八人が一斉に散開する。
前回の戦闘情報は既に共有されている。
遮蔽物に隠れても意味がない。
射線から逃げても、光線そのものが追ってくる。
ならば――。
「接近しろ!」
三人が同時にコブラへ走った。
「なるほど」
コブラは感心した。
「少しは研究してきたらしい」
サイコガンは強力だ。
だが万能ではない。
撃ち手であるコブラの精神力が威力と精度を左右する。
さらに複数方向から一斉に距離を詰めれば、狙いを分散させることができる。
――普通の相手なら。
一人目。
コブラは身を沈めて拳を避ける。
そのまま懐へ入り、身体を回転。
足払い。
「うおっ!?」
二人目。
振り下ろされた電磁警棒を義手で受け止める。
「なっ!」
「悪いな」
右拳。
腹部。
男が膝をつく。
三人目が背後から飛びかかる。
コブラは振り返らない。
サイコガンを後方へ向けた。
「しまっ――」
閃光。
男の手にあったブラスターだけが吹き飛ぶ。
コブラが振り返る。
「接近戦なら勝てると思った?」
男の顔が引きつる。
「残念だったな」
笑う。
「俺、こう見えて運動は得意なんだ」
「撃て!」
残る賞金稼ぎたちが一斉射撃。
コブラは砂浜を走る。
ブラスターが砂を弾く。
一発。
二発。
紙一重で回避。
コブラが跳ぶ。
宙返り。
空中でサイコガンを向ける。
発射。
一本の光線。
だが途中で枝分かれするような軌道を描き――。
次々と賞金稼ぎたちの武器を撃ち抜いていく。
沈黙。
砂浜に残ったのは、煙を上げるブラスターだけ。
コブラが着地する。
「…………」
賞金稼ぎたちは動けなかった。
コブラは義手を戻す。
「悪いね」
先ほどの椅子を見る。
穴が開いている。
「ところで」
賞金稼ぎたちへ振り返る。
「これ、誰が弁償する?」
誰も答えなかった。
◇
夕方。
二つの太陽が水平線へ沈んでいく。
海面が赤く染まる。
結局、コブラは新しい椅子を借りて同じ場所へ戻っていた。
「綺麗だな」
「そうね」
レディも隣にいる。
「しかし分からない」
「何が?」
「どうして俺の居場所がこんなに早くバレるんだ?」
「目立つからでしょう」
「そんな馬鹿な」
「赤い服」
「うん」
「金髪」
「うん」
「タートル号」
「最高の船だ」
「左腕のサイコガン」
「最高の銃だ」
「そして行く先々で騒ぎを起こす」
「…………」
コブラは黙った。
レディが横を見る。
「心当たりは?」
「ないな」
「そう」
「全くない」
断言した。
レディはそれ以上何も言わなかった。
夕日が沈む。
静かな時間。
ようやく本当の休暇が訪れた――。
はずだった。
レディの端末が鳴る。
「通信よ」
「聞こえない」
「賞金稼ぎギルドから」
「聞こえない」
「高額案件」
コブラの耳が動いた。
「いくら?」
レディが金額を表示する。
コブラは起き上がった。
「休暇終了だ」
「早いわね」
「働く男は魅力的なんだぜ」
「さっきまで聞こえないと言っていたのに」
コブラは表示された情報を見る。
今回の標的は犯罪組織に所属する賞金首。
しかし、その男が最後に確認された場所を見て――。
コブラの表情が変わった。
「……へえ」
「どうしたの?」
「面白い場所にいる」
そこは、帝国崩壊後の混乱が色濃く残る宙域だった。
そして情報にはもう一つ。
同じ賞金首を追跡している人物の存在が記載されていた。
銀色のベスカー・アーマー。
マンダロリアン。
コブラの口元がゆっくりと吊り上がる。
「どうやら」
夕日に背を向け、立ち上がる。
「ミルクを奢ってもらう約束を果たしてもらえそうだ」
◇
数日後。
辺境宙域。
ディン・ジャリンは賞金首の痕跡を追っていた。
グローグーを連れ、寂れた交易所の通路を進む。
そこで――。
聞き覚えのある声がした。
「よう」
ディンの足が止まる。
壁際。
赤い服。
金髪。
不敵な笑み。
「…………」
ディンはしばらく無言だった。
コブラが片手を上げる。
「久しぶり」
「何故ここにいる」
「仕事さ」
「お前は賞金首だろう」
「賞金首が賞金首を捕まえちゃいけないって法律はないだろ?」
「ある場所にはある」
「ここには?」
「ない」
「なら問題なし」
グローグーがコブラを見つける。
「あぅ!」
「ああ、チビ助!」
コブラがしゃがむ。
「元気だったか?」
グローグーが駆け寄る。
「おっと」
コブラが受け止める。
その様子をディンが見下ろしていた。
「随分懐かれたな」
「男前だからさ」
「関係あるのか?」
「大ありだ」
グローグーはコブラの左腕をぺたぺたと触っている。
やはりサイコガンが気になるらしい。
コブラはそんなグローグーを見て笑う。
だが――。
ディンはその向こう側を見ていた。
通路の奥。
人影。
一つ。
二つ。
三つ。
さらに後ろ。
コブラも気づいた。
「…………」
「コブラ」
「ああ」
賞金稼ぎたち。
今度は八人や二十人ではない。
通路の向こう側から次々と現れる。
全員の目的は同じ。
賞金首コブラ。
コブラはグローグーをディンへ返した。
そして周囲を見渡す。
「レディ」
通信機へ呼びかける。
『何?』
「質問がある」
『どうぞ』
「どうして行く先々で賞金稼ぎに出会うんだ?」
短い沈黙。
『あなたが賞金首だからよ』
「なるほど」
コブラは右拳を左手のひらへ軽く落とした。
「俺って人気者だったんだな」
『たぶん銀河で一番迷惑な意味でね』
通信が切れる。
ディンがブラスターへ手をかけた。
「数が多い」
「俺を捕まえるためにわざわざ集まったんだ」
コブラも左腕へ右手を置く。
「歓迎してやらないと失礼だろ?」
「殺すな」
「分かってるさ」
義手が外れる。
サイコガン。
コブラの目が獲物を狙うように細くなる。
「賞金稼ぎには賞金稼ぎの商売がある」
左腕に光が集まる。
「俺には俺の商売がある」
ディンがブラスターを抜く。
グローグーを背後へ庇う。
二人の賞金首。
一人の賞金稼ぎ。
奇妙な組み合わせが再び並んだ。
コブラはニヤリと笑った。
「さあ――」
サイコガンの銃口が輝く。
「商談開始だ」