STAR WARS マンダロリアン&グローグー〜銀河一自由な宇宙海賊〜 作:けーやん
評価もつけてくれると幸いです。
寂れた交易所の通路に、奇妙な緊張が満ちていた。
片側には二十人を優に超える賞金稼ぎたちが武器を構え、その反対側には銀色のベスカー・アーマーを纏ったディン・ジャリンと、赤い服を着たコブラが並んでいる。人数だけを見れば勝負になるはずもなかったが、賞金稼ぎたちは誰一人として不用意に距離を詰めようとはしなかった。
彼らも知っているのだ。
目の前にいる赤い男が、これまで何人もの同業者をたった一人で返り討ちにしてきたことを。
そして何より、その左腕から覗く黒い銃身――サイコガンが、銀河で一般的に使われているブラスターとは全く異なる兵器であることを。
コブラはそんな彼らの警戒などどこ吹く風といった様子で、右手を腰に当てながら人数を数えていた。
「一、二、三……おいおい、ずいぶん集まったな。俺の誕生日パーティーならケーキくらい用意してくれてもいいんじゃないか?」
「コブラ」
隣のディンが低く呼ぶ。
「何だ?」
「来るぞ」
「せっかちな連中だねえ。まだプレゼントも貰ってないぜ」
賞金稼ぎの一人が堪えきれなくなったようにブラスターを撃った。
赤い光線が飛来する寸前、コブラとディンは同時に左右へ飛び退いた。次の瞬間には静寂が破られ、無数のブラスターが狭い通路を赤く染める。
ディンはグローグーを片腕で抱えながら壁際へ滑り込み、その小さな身体を自分の装甲で庇った。突然始まった銃撃戦にもかかわらず、グローグーは恐怖に固まるどころか、ディンの腕の中からひょこりと顔を出して戦況を覗こうとする。
「頭を出すな」
ディンに押し戻されると、グローグーは少し不満そうに口を尖らせ、耳を僅かに下げた。
そのすぐ近くをブラスターが通過する。
今度は自分から素早く頭を引っ込めた。
一方のコブラは柱から柱へと走りながら銃撃をかわし、サイコガンを構えていた。狙いを定めているようには見えないほど大雑把に左腕を向け、一発撃つ。
賞金稼ぎたちが一斉に遮蔽物へ隠れた。
「馬鹿め! 当たるか!」
「そうかい?」
コブラの口元が上がる。
放たれた光線が途中で緩やかに弧を描いた。
遮蔽物を避け、横へ。
「なにっ!?」
一人の賞金稼ぎが握っていたブラスターへ命中し、その銃身だけを吹き飛ばす。さらにコブラは立て続けに撃ち、二発目も壁際で方向を変えて別の賞金稼ぎの武器を破壊した。
「遮蔽物が役に立たないぞ!」
「だから言っただろ?」
コブラは柱から顔だけを覗かせた。
「俺の弾は恥ずかしがり屋でね。正面から会うのが苦手なんだ」
「囲め!」
四人が散開し、左右からコブラを挟もうとする。その動きを見たディンがブラスターを構え、一人の足元へ射撃して進路を止めると、もう一人へワイヤーを射出した。腕へ絡みついたワイヤーを引き寄せ、体勢を崩したところへ装甲を纏った肩を叩き込む。
残る二人がコブラへ迫った。
「賞金首!」
「おいおい、もう少し色気のある呼び方はないのか?」
一人が電磁警棒を振り下ろす。
コブラは半歩だけ身体をずらしてかわし、相手の手首を右手で掴んだ。そのまま勢いを利用して投げ飛ばし、背後から接近していたもう一人へぶつける。
二人まとめて床へ転がった。
「例えば――」
コブラは乱れた髪を右手で直す。
「ハンサムな宇宙海賊、とかさ」
床へ転がった賞金稼ぎが呻いた。
「……自分で言うな」
「よく言われるよ」
そこへ大型ブラスターを持った賞金稼ぎが現れた。
「伏せろ!」
ディンが叫ぶ。
「え?」
振り返った瞬間、大型ブラスターから連射された光線がコブラへ迫る。コブラは横へ飛んだものの、射撃はそのままディンたちの方向へ流れた。
グローグーの目が大きくなる。
「あっ――」
ディンは咄嗟にグローグーを胸元へ抱き込み、背中を向けた。
ブラスターがベスカーへ直撃する。
火花が散る。
だが、装甲は貫通しない。
ディンは衝撃に耐えながら振り返り、相手へブラスターを撃ち返した。
大型銃が破壊される。
コブラは床から起き上がりながら口笛を吹いた。
「へえ。随分頑丈だな、その鎧」
「ベスカーだ」
「ベスカー?」
「マンダロリアンにとって大切な金属だ」
「なるほどねえ」
コブラが興味深そうに銀色の装甲を見る。
「じゃあ一枚くらい――」
「やらん」
まだ何も言い終わっていない。
「最後まで聞いてくれよ」
「聞く必要がない」
「ケチだな」
そのやり取りを聞いていたグローグーが、ディンの腕の中で小さく声を上げた。まるで二人の会話がおかしかったかのように口元を緩ませる。
コブラがそれに気づく。
「ほら、チビ助もそう思ってる」
ディンがグローグーを見る。
「思っていない」
グローグーはディンを見上げ、何食わぬ顔で瞬きをした。
「…………」
「いい相棒じゃないか」
「戦闘中だぞ」
「だからこそ笑顔が必要なのさ」
もっとも、敵は笑ってくれる気などないらしい。
今度は上階から新たな一団が姿を現した。
コブラが軽く数える。
「まだいるのか。俺一人捕まえるのに、ずいぶん予算を使ってるな」
「お前の賞金は高い」
ディンが答える。
「そうだった」
「忘れていたのか?」
「最近値上がりが激しくてね。自分でも相場についていけないんだ」
上階から銃撃。
二人が再び散開した。
ディンがグローグーを物陰へ降ろし、しっかり隠れるよう身振りで示す。グローグーは素直に頷き、箱の陰へちょこんと座った。
しかし、数秒後。
ひょこ。
頭だけが出てくる。
ディンが振り返る。
「隠れていろ」
すっ。
引っ込む。
ディンが前へ向き直る。
ひょこ。
また出る。
「…………」
今度はコブラと目が合った。
コブラが笑って片目を閉じると、グローグーも楽しそうに小さな声を漏らした。
「余裕だな!」
賞金稼ぎがコブラへ突進する。
「子供の前で怖い顔するなよ。嫌われるぜ」
コブラが左腕を向ける。
発射。
相手が慌てて横へ飛ぶ。
光線は外れ――そのままディンの方向へ。
「コブラ!」
「おっと」
ディンが振り返る。
避ければ、その後ろにはグローグーがいる。
ディンは避けなかった。
左肩を前へ。
サイコガンの光線がベスカーの肩当てへ直撃した。
激しい光。
衝撃でディンの身体が僅かに後退する。
「…………!」
コブラの表情から一瞬だけ笑みが消えた。
「マンドー!」
グローグーが箱の陰から飛び出す。
ディンの脚へ駆け寄り、心配そうに見上げる。大きな目が肩当てへ向かい、次にディンのヘルメットを見つめた。
ディンは自分の肩を確認した。
表面にはサイコガンを受けた痕跡が僅かに残っている。
しかし――。
貫通していない。
コブラが目を丸くした。
「……俺のサイコガンを受けて無傷?」
賞金稼ぎたちまで動きを止めていた。
サイコガンの威力は、既にこの場にいる全員が目にしている。
それを真正面から受け止めた。
コブラはゆっくりとディンへ近づき、ベスカーの肩当てをまじまじと眺める。
「へえ……」
指で軽く叩く。
コン、コン。
「コブラ」
「こいつはすごい」
「触るな」
「その鎧、ますます欲しくなってきたぜ」
「やらん」
「ちょっとくらいいいじゃないか」
「駄目だ」
「肩の一枚だけ」
「駄目だ」
「じゃあ半分」
「駄目だ」
「一欠片?」
「駄目だ」
コブラは肩を落とした。
「交渉の余地がないねえ」
グローグーは二人を交互に見上げていたが、ディンが無事だと分かったのか、ほっとしたように耳を持ち上げた。
その直後だった。
コブラの背後で、一人の賞金稼ぎがゆっくりとブラスターを拾う。
グローグーが気づいた。
小さな顔から笑みが消え、その大きな瞳が男へ向く。
賞金稼ぎがコブラへ銃口を向ける。
「――!」
グローグーが片手を伸ばした。
男の腕が突然止まる。
「な……!?」
ブラスターが震え、そのまま手から抜け落ちた。
宙へ。
賞金稼ぎの顔が引きつる。
ブラスターはふわりと浮かび、コブラの頭上を越えてグローグーの方へ飛んでくる。
ディンが受け取った。
「…………」
コブラはゆっくり振り返る。
賞金稼ぎ。
宙を移動したブラスター。
グローグー。
もう一度、賞金稼ぎ。
そしてグローグー。
「今のは……」
グローグーは小さな手を下ろした。
少し疲れたように瞬きをする。
コブラがしゃがんだ。
「チビ助」
グローグーが顔を上げる。
「お前、手品までできるのか?」
「あぅ」
「いいねえ。今度美女の前で貸してくれ」
ディンがブラスターを捨てる。
「フォースだ」
「フォース?」
「説明すると長い」
「じゃあ後で酒でも飲みながら聞こう」
「酒は飲まないと言ったはずだ」
「まだ言ってるのか? 人生の半分は損してるぜ」
コブラが立ち上がると、グローグーはなぜか得意そうに小さな胸を張った。だが次の瞬間には大きな欠伸をして、ディンの脚へ身体を預ける。
コブラは思わず笑った。
「電池切れか?」
「フォースを使うと疲れることがある」
ディンはグローグーを抱き上げた。
グローグーは安心したようにディンの胸元へ収まり、まだ戦闘中だというのに目を細め始める。
「大物だねえ」
コブラは周囲を見る。
まだ十数人の賞金稼ぎが残っている。
だが彼らの顔から、最初にあった勢いは消えていた。
軌道を変えて飛んでくるサイコガン。
ブラスターを弾くベスカー。
そして物を宙へ動かす謎の子供。
賞金額がいくら高くても、割に合わない。
そんな空気が漂っていた。
コブラは彼らを見回した。
「さて」
左腕を上げる。
賞金稼ぎたちが一斉に身構える。
しかしコブラは撃たず、にこやかに言った。
「今なら特別サービスだ。帰る奴には背中を撃たない」
誰も動かない。
「残る奴には?」
一人が尋ねた。
コブラの笑みが深くなる。
「俺のサインをやるよ」
「……サイン?」
「ああ。額にサイコガンでな」
沈黙。
やがて一人が武器を下ろした。
続いてもう一人。
また一人。
数秒後には、残っていた賞金稼ぎたちが互いの顔を見ながら後退し始める。
「賢明だ」
ディンが呟く。
「残念だねえ。俺のサイン、将来値上がりするかもしれないのに」
「既にお前自身の値段が上がり続けている」
「そいつは名誉なのかね?」
「違うと思う」
コブラは笑った。
やがて賞金稼ぎたちの姿が完全に消えると、ようやく交易所に静けさが戻ってきた。
グローグーは既にディンの腕の中でうとうとしている。コブラが顔を近づけると、グローグーは眠そうに片目だけ開き、コブラを確認してから再び閉じた。
「ずいぶん信用されたもんだ」
「珍しいことだ」
ディンの言葉に、コブラは少しだけ目を細めた。
「そうかい」
いつもの冗談は返さなかった。
代わりに小さく笑い、グローグーの頭を指先で軽く撫でようとして――途中でやめる。
「さてと」
コブラは背伸びをした。
「俺たちには本来の仕事があったはずだ」
「賞金首の追跡だ」
「そうそう。危うく俺が賞金首だってことしか覚えてないところだった」
ディンは端末を取り出した。
「奴はこの交易所から貨物船で脱出した。行き先も分かった」
座標が表示される。
コブラが覗き込む。
その場所を見た瞬間、表情が僅かに変わった。
帝国時代に建設された宇宙ステーション。
公式には放棄されている。
だが現在、複数の犯罪組織が出入りしているという。
「また帝国のお下がりか」
コブラはため息をつく。
「この銀河、帝国の置き土産が多すぎないか?」
「長く支配していたからな」
「もう少し金目の物を置いていってほしかったねえ」
ディンが歩き出す。
「行くぞ」
「待てよ」
コブラはその背中を追いながら、もう一度銀色の装甲を見る。
「なあ」
「何だ」
「本当にベスカー、一枚くれない?」
「駄目だ」
「まだ何も言ってないぜ」
「言うことは分かる」
「付き合いが長くなってきた証拠だな」
「嬉しくない」
ディンの腕の中で、半分眠っていたグローグーが小さく声を漏らした。
コブラはニヤリと笑う。
「ほら。チビ助は嬉しいってさ」
ディンはグローグーを見る。
グローグーは眠そうな顔のまま、口元だけを僅かに緩ませていた。
「…………」
ディンは何も答えず歩き続ける。
コブラも楽しそうにその後へ続いた。
彼らはまだ知らない。
これから向かう宇宙ステーションで待ち受けているものが、単なる賞金首だけではないことを。
帝国が崩壊する直前、その施設へ密かに運び込まれた積荷。
厳重に封印された帝国軍の機密記録。
そしてその中には――。
ジェダイとフォースに関する研究資料も含まれていた。
眠りかけていたグローグーの耳が、不意にぴくりと動いた。
まるで遥か彼方から、自分を呼ぶ何かを感じ取ったかのように。
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