STAR WARS マンダロリアン&グローグー〜銀河一自由な宇宙海賊〜   作:けーやん

6 / 7
お気に入り登録と感想コメントお願いします。
評価もつけてくれると幸いです。


第六話 帝国の遺産

漆黒の宇宙に、巨大な構造物が浮かんでいた。

 

かつて銀河帝国が辺境宙域の監視と物資輸送の中継点として使用していた宇宙ステーション。帝国の崩壊と同時に放棄されたという記録が残されているが、その巨体には今も僅かな電力が流れており、ところどころに灯る白い光が、まるで死にきれない亡霊のように暗闇の中で瞬いていた。

 

そのステーションへ向かい、タートル号が静かに進んでいく。

 

操縦席ではコブラが座席へ深く身体を預け、その横ではレディがステーションから発せられる微弱な信号を解析していた。

 

そして、二人の後ろには珍しい乗客がいる。

 

ディン・ジャリンとグローグーだった。

 

「内部から生命反応があるわ」

 

レディの言葉に、ディンが前へ出る。

 

「数は?」

 

「正確には分からない。ステーション内部の遮蔽が強いの。でも、少なくとも十人以上。それに貨物船が一隻、第三ドックに停泊している」

 

「標的の船だ」

 

ディンが答えると、コブラは操縦桿を軽く動かした。

 

「じゃあ留守じゃないってことだ。歓迎係までいるなんて、サービスのいいホテルだねえ」

 

ディンはタートル号の内部を見回した。外観から想像した以上に高度な設備が搭載されている。少なくとも、そこらの宇宙海賊が使う船とは明らかに違った。

 

「この船はどこで手に入れた?」

 

「拾った」

 

「嘘だな」

 

「最近、俺への理解が深くなってないか?」

 

「お前が分かりやすいだけだ」

 

「そいつは傷つくねえ。俺は謎多き男で売ってるんだぜ」

 

その時、グローグーがコブラの操縦席の横から顔を出した。

 

大きな黒い瞳が、操縦盤に並ぶ無数のスイッチへ向けられている。

 

特に。

 

赤く光る一つのボタン。

 

グローグーの目が止まった。

 

小さな手が伸びる。

 

「おっと」

 

コブラがその手を軽く止めた。

 

「それは押さない方がいいぜ、チビ助」

 

グローグーがコブラを見る。

 

「そのボタンを押すとな――」

 

コブラはわざと声を潜めた。

 

グローグーの耳が上がる。

 

「レディが怒る」

 

「コブラ」

 

「ほらな?」

 

レディの声が飛んできた。

 

グローグーはぱっと手を引っ込めた。

 

それからレディを見る。

 

レディもグローグーを見る。

 

数秒の沈黙。

 

グローグーはゆっくりとコブラの後ろへ隠れた。

 

「おいおい、俺を盾にするのか?」

 

小さな顔がコブラの脇から半分だけ覗く。

 

レディは呆れたように言った。

 

「何もしないわよ」

 

グローグーはまだ警戒している。

 

レディがゆっくりと手を差し出した。

 

グローグーはその手を見る。

 

機械の身体。

 

人間とは違う。

 

だが、敵意がないことは理解できるのだろう。

 

少し迷った末、小さな手がレディの指へ触れた。

 

「…………」

 

グローグーの耳が僅かに持ち上がる。

 

今度は興味深そうにレディの手をぺたぺたと触り始めた。

 

コブラが笑った。

 

「気に入られたな、レディ」

 

「あなたより扱いやすそうね」

 

「ひどいな」

 

「事実よ」

 

「チビ助、今の聞いたか? 俺は毎日こうやって虐げられてるんだ」

 

グローグーがコブラを見る。

 

「あぅ」

 

「分かってくれるか」

 

ディンが低い声で言う。

 

「たぶん分かっていない」

 

「夢のない奴だねえ」

 

その時、グローグーの動きが止まった。

 

「……?」

 

レディの手から離れ、宇宙ステーションを見る。

 

先ほどまでの好奇心に満ちた表情が消えていた。

 

耳が下がる。

 

ディンがすぐに気づく。

 

「どうした?」

 

グローグーは答えない。

 

ただステーションを見つめる。

 

やがて小さな手がゆっくり持ち上がり、窓の向こうを指差した。

 

コブラの目も細くなる。

 

「何かいるのか?」

 

グローグーはディンの方を見た。

 

不安そうな声を漏らす。

 

ディンはグローグーを抱き上げた。

 

「フォースか?」

 

反応はない。

 

だが否定もしない。

 

コブラは再びステーションを見る。

 

「どうやら、単なる賞金首探しじゃ済まなそうだな」

 

「最初からその可能性はあった」

 

「そういう不吉なことは出発前に言ってくれよ」

 

「言った」

 

「そうだっけ?」

 

レディが即座に答える。

 

「言っていたわ」

 

「二対一は卑怯だぜ」

 

タートル号は第三ドックへ接近した。

 

     ◇

 

エアロックが開く。

 

冷たい空気が流れ込んできた。

 

先頭をディンが進み、その少し後ろをコブラが歩く。レディはタートル号に残り、船からステーション内部のシステムへ侵入して支援することになった。

 

グローグーはディンが用意した鞄の中から顔だけを出している。

 

通路は暗い。

 

帝国軍特有の無機質な白と黒の内装は長年放置され、壁の一部には錆や焦げ跡が残っていた。天井の照明も半分以上が死んでおり、生き残った光だけが不規則に明滅している。

 

コブラは周囲を見回した。

 

「趣味の悪い内装だ」

 

「帝国軍施設だ」

 

「もう少し明るい色にすれば兵士の性格も良くなったんじゃないか?」

 

「関係ない」

 

「そうかな。毎日こんなところで働いてたら俺だって反乱したくなるぜ」

 

「帝国には実際に反乱が起きた」

 

「ほら見ろ」

 

ディンは無視して先へ進んだ。

 

やがて二人は分岐路へ到着する。

 

ディンが端末を見る。

 

「貨物船は右だ」

 

その時。

 

『コブラ』

 

通信機からレディの声。

 

「どうした?」

 

『ステーションの記録へ入れたわ。でも妙ね』

 

「何が?」

 

『第三ドック周辺だけじゃない。施設の地下区画にも電力が集中している』

 

「地下?」

 

『帝国軍の公式記録には存在しない区画よ』

 

コブラとディンが顔を見合わせる。

 

「隠し部屋か」

 

コブラが笑った。

 

「そういうのは大抵、宝か死体が入ってる」

 

『帝国軍なら両方かもしれないわね』

 

「夢のないこと言うなよ」

 

通信が切れる。

 

ディンは右の通路を見る。

 

「まず標的だ」

 

「賛成」

 

二人が歩き出す。

 

しかし。

 

グローグーが身を乗り出した。

 

「あぅ……」

 

ディンが止まる。

 

「どうした?」

 

グローグーが指差したのは――左。

 

地下区画へ続く方向だった。

 

「そっちへ行きたいのか?」

 

グローグーの顔はいつもの好奇心とは違う。

 

何かを感じている。

 

何かに呼ばれている。

 

コブラはその様子をじっと見ていた。

 

「フォースってやつか?」

 

「おそらく」

 

「便利だねえ」

 

コブラは左の通路を見る。

 

「俺のサイコガンにも道案内くらい覚えてほしいもんだ」

 

ディンは少し考えた。

 

「標的は逃げる可能性がある」

 

「だったら俺が追う」

 

「一人でか?」

 

コブラが振り返る。

 

「心配してくれるのか?」

 

「していない」

 

「照れるなよ」

 

「していない」

 

「分かった分かった」

 

コブラは左腕の義手を軽く叩く。

 

「そっちはチビ助の気になるものを調べてくれ。俺は賞金首を捕まえる」

 

ディンがコブラを見る。

 

「無茶をするな」

 

「俺が?」

 

コブラは自分を指差した。

 

「生まれてこのかた慎重さだけが取り柄だぜ」

 

ディンは数秒黙った。

 

「……レディ」

 

『何?』

 

「本当か?」

 

『嘘よ』

 

即答。

 

「おい!」

 

グローグーが声を上げた。

 

笑っている。

 

「チビ助まで笑うな!」

 

ディンはグローグーを抱え直す。

 

「三十分後に合流する」

 

「了解」

 

二人は別れた。

 

     ◇

 

コブラは一人で通路を歩いていた。

 

静かすぎる。

 

足音だけが響く。

 

だがコブラの表情に緊張はない。

 

むしろ口笛まで吹いている。

 

曲がり角。

 

気配。

 

コブラは歩みを止めなかった。

 

一歩。

 

二歩。

 

三歩。

 

角を曲がった瞬間。

 

「動くな!」

 

十数人の男が一斉に武器を向けた。

 

中央には今回の賞金首。

 

犯罪組織の運び屋、ヴェク・タロス。

 

コブラは周囲を見る。

 

「おお」

 

タロスが眉をひそめる。

 

「何だ?」

 

「安心したんだ」

 

「何?」

 

「暗い通路を一人で歩いてたら寂しくなってね。こんなに大勢で迎えてくれるとは思わなかった」

 

「ふざけるな」

 

「俺はいつだって真面目だぜ」

 

「貴様がコブラだな」

 

「人違いだ」

 

「その赤い服でか?」

 

コブラは自分の服を見る。

 

「最近これでバレることが多いな」

 

「賞金首が自分から現れるとはな」

 

「そっちも賞金首だろ?」

 

「…………」

 

「奇遇だねえ」

 

コブラはニヤリと笑った。

 

「同業者じゃないか」

 

タロスが銃口を向ける。

 

「お前を殺せば、俺に懸かった賞金の何倍もの金が手に入る」

 

「そいつは困った」

 

コブラは真剣な顔になる。

 

「俺、死ぬのは嫌いなんだ」

 

「誰だってそうだ」

 

「いや、特に俺は嫌いでね。死んだら美女とデートできなくなる」

 

「撃て!」

 

銃撃。

 

コブラが横へ飛ぶ。

 

同時に義手が外れる。

 

サイコガン。

 

「それだ!」

 

タロスの目が輝く。

 

「噂の武器!」

 

「最近こいつ目当ての男ばっかり寄ってくるんだ」

 

コブラは柱へ身を隠す。

 

「俺としては美女に寄ってきてほしいんだがね!」

 

光線。

 

一人のブラスターを撃ち抜く。

 

別方向から射撃。

 

コブラは床を滑るように移動しながら二発目を放った。

 

光線は一度天井近くへ向かい、そこから大きく曲がる。

 

「後ろだ!」

 

遅い。

 

三人の武器が立て続けに破壊される。

 

「化け物め!」

 

「失礼だな!」

 

コブラが柱から飛び出す。

 

「せめて色男と呼んでくれ!」

 

     ◇

 

同じ頃。

 

ディンはグローグーに導かれ、地下区画へ到達していた。

 

分厚い扉。

 

帝国軍の紋章。

 

そして、その下に刻まれた文字。

 

PROJECT:FORCE-SENSITIVE SUBJECT RESEARCH

 

ディンの動きが止まる。

 

「…………」

 

グローグーも扉を見つめていた。

 

耳が完全に下がっている。

 

小さな身体が強張っている。

 

「大丈夫だ」

 

ディンが静かに言う。

 

グローグーはディンを見る。

 

「俺がいる」

 

その言葉を理解したのか。

 

グローグーの表情から僅かに力が抜けた。

 

ディンが端末へ接続する。

 

扉が開く。

 

内部は研究施設だった。

 

壊れた培養槽。

 

医療装置。

 

帝国軍の端末。

 

古い記録媒体。

 

グローグーはそれらを見ると、ディンの服を強く掴んだ。

 

「……ここを知っているのか?」

 

反応はない。

 

だが。

 

明らかに嫌がっている。

 

ディンは奥へ進む。

 

そこで一台だけ生きている端末を見つけた。

 

起動。

 

帝国軍の記録。

 

複数のファイル。

 

フォース感応者。

 

ジェダイ。

 

ミディ=クロリアン。

 

そして――。

 

ディンの視線が止まる。

 

被験体確保計画。

 

その瞬間。

 

グローグーが突然振り返った。

 

耳が立つ。

 

「どうした?」

 

暗い研究室。

 

何もいない。

 

――いや。

 

奥。

 

ゆっくりと。

 

赤い光が点灯した。

 

一つ。

 

二つ。

 

三つ。

 

機械音。

 

古い帝国軍戦闘ドロイドが起動する。

 

ディンがグローグーを背後へ庇い、ブラスターを抜いた。

 

「下がっていろ」

 

だが、その時だった。

 

施設全体に警報が鳴り響いた。

 

赤い非常灯が点滅する。

 

『コブラ! マンダロリアン!』

 

レディの通信。

 

『すぐに戻って!』

 

「何があった?」

 

『ステーションの主動力が起動した!』

 

ディンが周囲を見る。

 

機械が次々と動き始めている。

 

『それだけじゃないわ』

 

レディの声が険しくなる。

 

『外から船が来る』

 

「何隻だ?」

 

短い沈黙。

 

『……巡洋艦クラス、一隻』

 

     ◇

 

宇宙。

 

巨大な影がハイパースペースから出現する。

 

帝国軍の旧式巡洋艦。

 

船体には帝国軍の紋章が残されていた。

 

艦橋。

 

黒い制服を着た男が、宇宙ステーションを見つめている。

 

「反応を確認しました」

 

部下が報告する。

 

「例のフォース感応個体と思われる生命反応があります」

 

「もう一つは?」

 

「情報通りです」

 

画面に表示される。

 

赤い服の男。

 

コブラ。

 

そして。

 

その左腕。

 

「未知のエネルギー兵器……サイコガン」

 

男の口元に笑みが浮かぶ。

 

「帝国は多くを失った」

 

皇帝。

 

デス・スター。

 

艦隊。

 

支配領域。

 

だが。

 

「だからこそ、新しい力が必要だ」

 

宇宙ステーションを見据える。

 

「フォース感応個体と――サイコガン」

 

男が命令を下す。

 

「両方とも確保しろ」

 

部下が敬礼する。

 

「抵抗した場合は?」

 

男は僅かに考えた。

 

「マンダロリアンは殺して構わん」

 

そしてコブラの画像を見る。

 

「だが赤い男は生かして捕らえろ」

 

「了解」

 

「左腕は絶対に傷つけるな」

 

     ◇

 

その頃。

 

銃撃戦の真っ只中。

 

「へっくし!」

 

コブラが突然くしゃみをした。

 

ブラスターが頬の横を通過する。

 

「危ないな!」

 

柱へ隠れる。

 

『コブラ!』

 

レディの通信。

 

「どうした?」

 

『帝国残党よ! 巡洋艦が来た!』

 

「また?」

 

コブラは心底嫌そうな顔をした。

 

『あなたを生け捕りにするつもりみたい』

 

「俺を?」

 

『正確にはサイコガンでしょうね』

 

コブラは自分の左腕を見る。

 

「まったく」

 

そして柱の向こうにいる賞金首たちを見る。

 

ニヤリ。

 

「俺の左腕はモテるねえ」

 

サイコガンへ光が集まる。

 

「残念ながら――」

 

柱から飛び出す。

 

「デートの予約は半年先まで埋まってるんだ!」

 

サイコガンが火を噴いた。

 

帝国残党。

 

賞金首。

 

フォースの研究施設。

 

そして、狙われるグローグーとサイコガン。

 

放棄された宇宙ステーションは、一瞬にして銀河の新たな争いの中心へ変わろうとしていた。




お気に入り登録と感想コメントお願いします。
評価もつけてくれると幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。