STAR WARS マンダロリアン&グローグー〜銀河一自由な宇宙海賊〜 作:けーやん
帝国軍宇宙ステーションの薄暗い通路に、けたたましい警報音が鳴り響いていた。長らく放棄されていた施設の各所へ赤い非常灯が次々と灯り、死んでいたはずの巨大な構造物が数年の眠りから目覚めるように低く震え始める。
その原因となった帝国残党の旧式巡洋艦は既にステーションへ接舷しており、連絡通路からは白い装甲を身につけたストームトルーパーたちが続々と送り込まれていた。彼らの目的は明確だった。旧帝国軍が残したフォース研究資料と、その施設にいるグローグー、そしてもう一つ――銀河のどの兵器体系にも当てはまらない、コブラの左腕に隠されたサイコガンである。
もっとも、当のコブラ本人には、自分が帝国残党の重要確保対象になったという緊張感など欠片もなかった。
「俺を生け捕り?」
通信機からレディの説明を聞いたコブラは、賞金首ヴェク・タロスとその部下たちとの銃撃戦の真っ最中だというのに、思わず吹き出していた。
『そうよ。傍受した通信では、あなた自身よりサイコガンに興味があるみたいだけれど』
「そいつは傷つくねえ。俺より左腕の方がモテるなんて、男として自信をなくしそうだ」
『安心して。あなたの場合、自信が少しくらい減った方がちょうどいいわ』
「レディ、相棒を励ますって言葉を知ってるか?」
そう言いながらもコブラの身体は止まっていない。柱の陰から飛び出すと、正面から放たれたブラスターを身体を傾けてかわし、右手で左腕を持ち上げるようにしてサイコガンを向ける。引き金など存在しないその銃はコブラの意志に呼応し、銃口に集まった光が一瞬で解き放たれた。
タロスの部下が慌てて金属製のコンテナへ身を隠したものの、サイコガンの光線は直進せず、コンテナの手前で滑らかな曲線を描くと、その裏側へ回り込んで男のブラスターだけを正確に撃ち抜いた。
「くそっ! また曲がった!」
「だから隠れても無駄だと言っただろ?」
コブラは楽しそうに笑いながら歩みを進める。
「俺の弾はしつこいんだ。昔の恋人よりね」
「全員で撃て!」
タロスの怒声と同時に、左右から一斉にブラスターが放たれた。コブラは床を蹴って横へ跳び、壁を一度蹴って身体を反転させると、空中から二発の光線を撃つ。一発目は右側の男が持つライフルを吹き飛ばし、二発目は天井付近まで上昇した後で急激に軌道を変え、左側から狙っていた男の銃を撃ち抜いた。
着地したコブラが顔を上げたところで、通路の反対側から別の足音が響いてきた。
規則正しい。
統率された複数の足音。
コブラだけでなく、タロスたちもそちらを見る。
角から現れたのはストームトルーパーだった。
一人や二人ではない。十数人の兵士が整然と進み、その後ろには黒い装甲を纏った指揮官らしき兵士までいる。
「対象を確認!」
先頭のストームトルーパーがコブラを指す。
「赤い服の男だ! 左腕を損傷させるな! 生け捕りにしろ!」
「…………」
コブラは自分の服を見下ろした。
「やっぱり服でバレてるのか」
タロスが叫ぶ。
「こいつは俺の獲物だ!」
帝国兵が即座にブラスターを向ける。
「賞金首ヴェク・タロスも確認。こちらは生死を問わない」
「何だと!?」
コブラはタロスを見て、気の毒そうに首を振った。
「人気の差が出たな」
「黙れ!」
「俺は生け捕り、お前は生死不問だってさ。悪いねえ、男前で」
「殺せ!」
「誰を!?」
その一言を境に、状況は完全な混戦へ変わった。
タロスの部下たちが帝国兵へ発砲し、ストームトルーパーが撃ち返す。その中央でコブラは飛び交う光線を避けながら、右へ左へと軽快に走り抜けていく。帝国兵はサイコガンを傷つけないため射撃を制限され、タロスたちはコブラと帝国軍の双方を敵に回したことで完全に混乱していた。
「赤い男を撃つな! 腕を狙うな!」
「注文が多いな!」
コブラは走りながら笑った。
「俺を捕まえるなら、もう少し優しく誘ってくれよ。花束の一つでも持ってくるのが礼儀だぜ!」
「スタン兵器を使え!」
「おっと、それはデートには刺激が強すぎるな!」
電撃を放つ武器が向けられた瞬間、コブラの目つきが変わる。サイコガンが一閃し、兵士の手にあったスタン兵器を撃ち抜くと、そのままコブラは敵陣へ飛び込んだ。
一人目の腕を掴み、勢いを利用して別の兵士へぶつける。背後から伸びてきた手を屈んでかわし、振り返りざまに右拳を腹部へ叩き込むと、さらに別のストームトルーパーの足を払って転倒させる。
「射撃だけじゃないのか!」
「悪いねえ」
コブラは倒れた兵士を飛び越える。
「宇宙旅行は身体が鈍るから、たまには運動しないとな」
その時、通信機からレディの声が飛び込んできた。
『コブラ、遊んでいる場合じゃないわ! マンダロリアンたちのいる地下区画にも帝国兵が向かっている!』
コブラの笑みが僅かに薄くなった。
「何人?」
『少なくとも三十。それに戦闘ドロイドまで起動している』
「チビ助は?」
『まだ地下よ』
コブラは一瞬だけ黙った。
その視線が鋭くなる。
「分かった」
『コブラ?』
「こっちはすぐ片づける」
軽い口調そのものは変わらない。しかし、長い付き合いのレディには、それだけで十分だった。
コブラが本気になったのだ。
◇
地下研究区画では、ディン・ジャリンが帝国軍戦闘ドロイドと激しい銃撃戦を繰り広げていた。ブラスターの赤い光が暗い研究室を横切り、培養槽や端末を次々と破壊していく中、ディンはグローグーを背後へ庇いながら遮蔽物を移動し、正確な射撃で一体ずつドロイドを撃ち抜いていた。
しかし数が多い。
一体を倒しても次が来る。
「ここにいろ」
ディンは大型端末の陰へグローグーを隠した。
グローグーは不安そうにディンを見上げ、服の裾を掴んだまま離そうとしない。
「大丈夫だ」
ディンがもう一度言うと、グローグーはしばらく彼を見つめた後、ゆっくり手を離した。それでも耳は下がったままで、明らかにこの場所そのものを嫌がっている。
ディンが立ち上がった瞬間、三体の戦闘ドロイドが同時に発砲した。
腕を交差させる。
ベスカーがブラスターを弾く。
ディンはそのまま前進し、一体目を撃ち抜き、二体目へワイヤーを絡ませて引き倒す。三体目が至近距離から銃口を向けたところで横へ転がり、床から撃ち返して頭部を破壊した。
「…………」
グローグーが物陰から顔を出す。
ディンが振り返った。
すっ、と引っ込む。
ディンは再び前を見る。
数秒。
ひょこ。
また顔が出る。
「隠れていろ」
耳がしゅんと下がる。
再び引っ込む。
だが、その直後。
研究区画の入口から足音が聞こえた。
今度はドロイドではない。
「帝国軍!」
ストームトルーパーたちが突入してくる。
ディンは即座にグローグーの前へ移動した。
「フォース感応個体を確認!」
その言葉に、グローグーの身体が明らかに強張った。
小さな手がディンの脚を掴む。
「生け捕りにしろ!」
ディンのブラスターが上がった。
「近づくな」
警告。
だが帝国兵は止まらない。
「対象を確保しろ!」
数人が同時に動いた。
ディンも発砲する。
研究室は再び戦場となった。
グローグーはディンの後ろで身を小さくしていたが、一人の兵士が側面へ回り込み、ディンの死角からブラスターを構えたことに気づくと、その大きな瞳を見開いた。
小さな手が伸びる。
「――!」
兵士の身体が突然宙へ浮いた。
「な、何だ!?」
グローグーが手を横へ振る。
兵士はその動きに合わせて飛ばされ、別のストームトルーパーたちを巻き込みながら床へ転がった。
ディンが振り返る。
「グローグー!」
グローグーは鼻を小さく鳴らし、得意そうにディンを見る。
しかし。
すぐにふらついた。
「……!」
ディンが駆け寄り、倒れる前に抱き上げる。
「無理をするな」
グローグーは疲れたように目を細めながら、それでもディンの胸元から顔を上げた。
その時。
研究室の入口から別の声が響いた。
「随分賑やかな研究室だな。図書館なら全員追い出されてるぜ」
ディンが振り返る。
赤い服。
金髪。
左腕にはサイコガン。
「コブラ」
「待たせたな」
コブラは研究室へ入りながら、倒れているドロイドとストームトルーパーを見回した。
「俺の分は残ってる?」
「好きなだけいる」
「そいつはありがたい」
残った帝国兵が一斉にコブラへ銃口を向ける。
「対象二号だ!」
「二号?」
コブラが眉を上げた。
「俺が?」
「赤い服の男を確保しろ!」
「待て待て」
コブラは右手を上げる。
「一つ確認させてくれ」
帝国兵たちが一瞬戸惑う。
コブラはグローグーを指す。
「一号はチビ助?」
「…………」
「俺が二号?」
返答はない。
「そいつは納得いかないな」
コブラはサイコガンを持ち上げた。
「せめて男前部門では一号にしてくれ」
ディンが呟く。
「そんな部門はない」
「作ればいいだろ?」
グローグーがディンの腕の中で小さく声を上げ、コブラを見ながら口元を緩ませた。
「ほら、チビ助には受けた」
「戦闘中だ」
「笑いの分からない奴だねえ」
帝国兵の一人が痺れを切らした。
「撃て!」
一斉射撃。
コブラとディンが同時に動いた。
ディンはグローグーを抱いたまま横へ跳び、コブラは真正面へ走る。
「正面だぞ!」
「見れば分かるさ!」
サイコガンが火を噴く。
一発。
光線が右へ曲がり、三人のブラスターを連続して撃ち抜く。
二発目。
今度は左。
スタン兵器が吹き飛ぶ。
三発目。
天井。
帝国兵たちが一瞬そちらを見る。
「外した!」
「誰が?」
光線が急降下する。
最後尾の兵士が持っていた通信機を破壊した。
「増援を呼ばれると困るんでね!」
ディンも射撃を続けながら前進する。二人の戦い方は全く違う。ディンは必要最小限の動きで確実に敵を無力化し、コブラは予測不能な動きとサイコガンの軌道で敵の意識を散らす。
しかし不思議なことに、その二つは見事に噛み合っていた。
ディンが右側を抑えればコブラは左へ。
コブラが敵の注意を引けばディンが死角へ回る。
「左!」
ディンが叫ぶ。
「任せな!」
振り向かずにサイコガンを撃つ。
光線が曲がり、接近していた兵士の武器を破壊。
「後ろだ!」
今度はコブラ。
ディンが振り向きざまにワイヤーを射出し、敵を引き倒す。
「いいコンビになってきたな!」
「そうか?」
「そのうち二人で商売する?」
「断る」
「即答かよ」
グローグーがディンの腕の中で楽しそうに声を漏らした。
やがて最後のストームトルーパーが武器を失い、戦闘は終わった。
静寂。
コブラはサイコガンの銃口を軽く吹く仕草をしてから義手を装着する。
「さて」
グローグーを見る。
「怪我は?」
ディンが首を振る。
「ない」
「よかった」
コブラはいつもの笑顔を見せる。
グローグーも安心したのか、ディンの腕から身を乗り出してコブラへ小さな手を伸ばした。
「ん?」
コブラが指を差し出す。
グローグーが握る。
小さな手。
コブラは少しだけ目を細めた。
「どうした、チビ助。助けに来るのが遅いって?」
グローグーが何かを訴えるように声を出す。
「悪かったよ。途中で俺のファンが多くてね」
ディンが言う。
「帝国兵だろう」
「ファンと帝国兵は紙一重さ」
「全然違う」
その時だった。
グローグーの表情が変わった。
コブラの指を握っていた手が止まる。
耳が立つ。
そして研究室の奥を見る。
ディンも気づいた。
「また何か感じたのか?」
グローグーはじっと一点を見ている。
研究室の最奥。
そこには巨大な隔壁があった。
先ほどまでは完全に電力を失っていたはずだが、今は扉の横にある操作盤へ緑色のランプが点灯している。
コブラが立ち上がった。
「どうやら、まだ奥があるらしい」
ディンが端末を確認する。
「地図にはない」
「隠し部屋の奥に隠し部屋か」
コブラは楽しそうに笑う。
「帝国って奴は秘密が好きだねえ。俺なら美女の電話番号くらいしか隠さないぜ」
三人は隔壁へ近づいた。
グローグーはディンの腕の中から扉を見つめ続けている。
コブラが操作盤へ触れようとする。
『待って!』
レディの声。
「どうした?」
『その扉の向こうからエネルギー反応がある』
コブラの手が止まる。
「どのくらい?」
『分からない。帝国軍のデータベースにも一致するものがないわ。ただ……』
レディが珍しく言葉を選んだ。
『気をつけて』
コブラの表情から笑みが少しだけ薄れる。
「了解」
ディンがグローグーを抱き直し、片手でブラスターを構える。
コブラも義手へ右手を添えた。
操作盤。
解除。
低い機械音と共に、分厚い隔壁が左右へ開いていく。
冷たい空気が流れてきた。
その向こうにあったのは、小さな研究室だった。
中央。
一つの台座。
そして、その上には透明な保護容器が置かれている。
中にあるのは――古びた小さな金属片。
ディンが近づく。
「これは……」
コブラも覗き込んだ。
「ガラクタに見えるな」
しかし。
グローグーだけは違った。
大きな瞳が見開かれる。
小さな身体が震える。
そして。
保護容器の中の金属片が――僅かに浮いた。
「…………!」
ディンがグローグーを見る。
コブラも目を細める。
金属片がゆっくり回転する。
その表面に刻まれていたのは、帝国軍の紋章ではない。
遥か昔から存在した、別の象徴。
ジェダイ・オーダーの紋章。
グローグーの瞳に、保護容器の淡い光が映り込む。
コブラはいつもの軽口を言わなかった。
この小さな相棒にとって、それが単なる古い金属片ではないと直感したからだ。
その頃――。
ステーション外部。
帝国残党巡洋艦の艦橋では、黒い制服の男が報告を受けていた。
「地下研究区画の部隊が全滅しました」
「マンダロリアンか?」
「それだけではありません」
兵士が躊躇う。
「赤い男です」
「……コブラ」
「はい」
男はしばらく無言でステーションを見つめた後、ゆっくり椅子から立ち上がった。
「面白い」
腰へ手を伸ばす。
そこには通常の帝国軍将校が持つブラスターとは違う、奇妙な武器が下げられていた。
「ならば私自身が行こう」
部下が驚く。
「司令官自らですか?」
「サイコガンという兵器……」
男の瞳に欲望が宿る。
「是非とも、この目で見たい」
そして、もう一つ。
フォース研究の成果、ジェダイの遺物であるグローグー。
全てが一つの場所へ集まりつつあった。
一方、そんな事情など知る由もないコブラは、保護容器を覗き込んだままようやく口を開いた。
「レディ」
『何?』
「休暇って言葉、知ってる?」
『知っているわ』
「俺、数日前まで休暇だった気がするんだ」
『気のせいじゃない?』
コブラは深いため息をついた。
「やっぱり宇宙海賊ってのは忙しい商売だねえ」
グローグーがそんなコブラを見上げ、小さく声を上げた。
コブラは笑う。
「心配するな、チビ助」
義手を軽く叩く。
「帝国だろうが賞金稼ぎだろうが、来るならまとめて歓迎してやるさ」
いつもの不敵な笑みが戻る。
「ただし入場料は高いぜ」
その直後。遠くの通路から、重い足音が響き始めた。
今までのストームトルーパーとは違う。
ゆっくりと、しかし確実にこちらへ近づいてくる。
コブラの笑みが深くなった。
「ほら」
右手が義手へかかる。
「次のお客さんだ」
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