STAR WARS マンダロリアン&グローグー〜銀河一自由な宇宙海賊〜 作:けーやん
帝国軍宇宙ステーションの地下研究区画に、重々しい足音が響いていた。
長い年月を経て薄汚れた通路の奥から聞こえてくるその音は、先ほどまで相手にしていたストームトルーパーたちのものとは明らかに異なっていた。一定の間隔を保ちながら、少しも急ぐことなく近づいてくる足取りには、こちらが逃げることなど考えてもいないような余裕が感じられる。
コブラは透明な保護容器から視線を外し、通路の奥へ顔を向けた。
「やれやれ、今度のお客さんはずいぶん勿体ぶるじゃないか。美人なら大歓迎なんだがね」
「期待しない方がいい」
隣でブラスターを構え直したディン・ジャリンが、ヘルメットの照準装置を起動させながら答える。その腕に抱かれたグローグーも足音に気づいたらしく、長い耳をぴんと立てて通路を見つめていたが、やがて何かを感じ取ったように小さく身震いすると、ディンの胸元へ顔を寄せた。
「どうした、チビ助。怖いおじさんでも来るのか?」
コブラが軽い調子で尋ねると、グローグーは一度だけ顔を上げ、不安そうな声を漏らした。
その反応を見たコブラは僅かに目を細めたものの、すぐにいつもの笑みを浮かべると、右手で左腕の義手を軽く叩いた。
「心配するな。怖いおじさんの相手は、こっちのおじさんたちに任せとけ」
「お前と一緒にするな」
「おいおい、マンドー。俺たちはもう立派な仲間だろ?」
「一時的に協力しているだけだ」
「冷たいねえ。せっかく友情が芽生えたと思ったのに」
二人がそんなやり取りを交わしている間にも足音は近づき、やがて通路の暗がりから黒い装甲を纏った六人の兵士が姿を現した。
通常のストームトルーパーとは異なる黒い装甲には帝国軍の紋章が刻まれ、手にしたブラスターライフルも高出力型へ換装されている。その後ろから現れたのは、灰色がかった黒い軍服を身に纏った四十代半ばほどの男だった。
短く整えられた銀混じりの黒髪に、鋭い灰色の瞳。左頬には古い傷跡があり、腰には一般的なブラスターとは異なる、細長い柄状の武器が吊るされていた。
男は研究室へ足を踏み入れると、倒れているストームトルーパーや破壊された戦闘ドロイドを一瞥し、それからコブラとディンへ視線を向けた。
「なるほど。報告は誇張ではなかったようだな」
「そいつはどうも」
コブラは片手を上げた。
「俺の活躍を聞いて来たのかい? サインなら一人一枚までだぜ」
男は軽口に反応せず、コブラの左腕へ目を向けた。
「宇宙海賊コブラ。そしてマンダロリアン、ディン・ジャリンか」
「俺たちの名前まで知ってるとは、熱心なファンだねえ」
「私は旧銀河帝国軍、特殊兵器研究部門の責任者を務めていたアドリアン・ヴォルク大佐だ。現在は独立した帝国軍残存部隊を指揮している」
「大佐殿か。こいつは失礼」
コブラは大袈裟に背筋を伸ばし、右手を額へ当てた。
「宇宙海賊コブラ、ただいま参上いたしました。ところで大佐殿、ここは禁煙かい?」
「……何?」
「いや、長話になりそうだから葉巻でも吸おうかと思ってね」
ヴォルクの眉間に深い皺が刻まれた。
ディンは小さく息を吐き、グローグーはコブラの仕草が面白かったのか、先ほどまでの不安を忘れたように口元を緩ませていた。
「貴様は自分の立場を理解していないようだな」
「理解してるさ。美人のいない研究室で、男ばかりに囲まれてる。人生最悪のパーティーだ」
「その減らず口も、いつまで続くかな」
ヴォルクが片手を上げると、黒い装甲の兵士たちが一斉にブラスターを構えた。しかし彼らはすぐには発砲せず、コブラの左腕とディンに抱かれたグローグーを交互に警戒している。
「私の目的は二つだ。一つは、その小さなフォース感応個体。そしてもう一つが、貴様の左腕に隠された未知の兵器だ」
「へえ、よく調べたな」
「サイコガン、と呼ばれているそうだな」
その名前が出た瞬間、コブラの笑みがほんの僅かに変化した。
「名前まで知ってるとはね。どこで聞いた?」
「貴様と交戦した賞金稼ぎたちの証言を集めた。エネルギー弾の軌道を自在に変更し、通常のブラスターとは比較にならない威力を発揮する兵器。しかも外部の動力源を必要としないという」
「随分熱心に勉強したもんだ。学校じゃ優等生だったろ?」
「その兵器が帝国の手に渡れば、銀河の軍事均衡は大きく変わる」
ヴォルクはコブラの冗談を無視し、研究者特有の熱を帯びた目で左腕を見つめた。
「その左腕を帝国へ渡せ。抵抗しなければ命は保証しよう」
コブラは少し考えるように顎へ右手を当てた後、困ったように肩をすくめた。
「悪いな。こいつとは長い付き合いでね」
右手が義手の接続部を掴む。
軽い金属音とともに精巧な義手が外れ、その下から黒光りするサイコガンが姿を現した。
「それに俺は、男からのプレゼントのおねだりは受け付けてないんだ」
「愚かな選択だ」
「よく言われるよ。特にレディには毎日ね」
ヴォルクはゆっくりと腰の武器へ手を伸ばした。柄を握り、起動スイッチを押す。
次の瞬間、研究室の空気を震わせる独特の駆動音とともに、赤い光の刃が伸びた。
「……ライトセーバー」
ディンの声が低くなる。
コブラも興味深そうに目を細めた。
「おやおや、帝国軍の大佐殿がジェダイの剣を持ってるとはね。転職でも考えてるのかい?」
「これはジェダイの武器ではない。かつて尋問官が使用していたものだ」
ヴォルクが柄を回転させると、反対側からも赤い刃が伸び、二枚の光刃が回転を始めた。
帝国の尋問官たちが使用していた、双刃式のライトセーバーだった。
「私はフォースを扱うことはできん。しかし、この武器を扱う訓練は受けている」
「なるほど。剣の腕前には自信があるってわけだ」
コブラはサイコガンを構えた。
「じゃあ一つ忠告しとくぜ、大佐殿」
「何だ?」
「剣と銃の勝負じゃ、普通は銃を持ってる方が有利なんだ」
言い終わるより早く、コブラの左腕から眩い光線が放たれた。
ヴォルクは即座にライトセーバーを前へ構え、回転する光刃で迎え撃とうとしたが、サイコガンの光線は刃に触れる寸前で大きく右へ逸れ、そのまま彼の側面へ回り込んだ。
「何っ!?」
咄嗟に身を翻したヴォルクの肩を光線が掠め、背後の壁へ命中する。装甲板が激しく弾け飛び、研究室全体が衝撃に震えた。
「危ない危ない」
コブラは口笛を吹いた。
「なかなかいい反射神経じゃないか。今のはサービスで外してやったんだぜ」
「貴様……!」
「そんな怖い顔するなよ。眉間の皺は一度つくと取れないらしいぜ」
ヴォルクが怒声を上げ、黒い装甲の兵士たちが一斉に発砲した。
ディンはグローグーを抱えたまま横へ跳び、近くの大型端末を遮蔽物にすると、右手のブラスターで応戦する。一方のコブラは床を蹴って前方へ飛び出し、飛来する光線の間を縫うように駆け抜けながら、サイコガンで敵兵の武器を次々と撃ち抜いていった。
「左から二人!」
ディンの警告に、コブラは振り返ることなく左腕を持ち上げる。
「任せな!」
放たれた光線は天井付近で弧を描き、左側から回り込もうとしていた二人の兵士のライフルを正確に破壊した。さらにコブラは近づいてきた兵士の腕を掴んで投げ飛ばし、その身体を別の兵士へぶつける。
「おいおい、もう少し順番を守ってくれよ。俺は一人ずつ相手する主義なんだ」
「ふざけるな!」
「じゃあ二人ずつにするか?」
その間にディンも二人の兵士を無力化し、最後の一人へワイヤーを射出して床へ引き倒した。
だが、ヴォルクはその隙を見逃さなかった。
「マンダロリアン!」
回転するライトセーバーを構え、ディンへ突進する。
ディンは咄嗟にブラスターを撃ったものの、光刃に弾かれた射撃が壁へ逸れた。続けて振り下ろされた赤い刃をベスカー製の籠手で受け止め、火花を散らしながら後退する。
「グローグー、離れるな!」
ディンの声に、グローグーは鞄の中へ身体を縮めた。しかし、赤いライトセーバーの光を見た瞬間、その大きな瞳には明らかな怯えが浮かんでいた。
かつてジェダイ聖堂で経験した惨劇。
赤い光そのものが当時の記憶と結びついているわけではない。それでも、帝国の研究施設という場所と、目の前で振るわれる危険な光刃は、幼いグローグーの心へ強い不安を呼び起こしていた。
「その個体を渡せ!」
ヴォルクがライトセーバーを押し込む。
「断る!」
ディンは籠手で刃を受け流し、反対の腕から火炎放射器を起動した。
激しい炎が噴き出し、ヴォルクが後退する。
その瞬間、コブラが横から飛び込んだ。
「おっと、チビ助へのプレゼントなら俺が受け取るぜ!」
サイコガンが閃く。
ヴォルクは反射的にライトセーバーを構えたが、光線は彼の頭上を通過し、背後の天井に設置された大型照明を破壊した。
落下する照明。
ヴォルクが飛び退く。
激しい破砕音とともに照明が床へ激突し、研究室に火花が散った。
コブラはディンの隣へ着地すると、いつもの笑みを浮かべた。
「大丈夫か、マンドー?」
「問題ない」
「そいつはよかった。俺の大事な商売仲間だからな」
「いつからそうなった?」
「今さ」
ディンは返事をする代わりに、グローグーの様子を確認した。
小さな緑色の頭が鞄から覗き、コブラを見つけた途端、ほっとしたように耳が持ち上がる。コブラが片目を閉じてみせると、グローグーも嬉しそうに声を漏らした。
「ほら、チビ助も俺の味方だ」
「……そうかもしれないな」
「おっ、ようやく認めたか」
しかし、その和やかな空気は長く続かなかった。
『コブラ!』
通信機からレディの声が響く。
「どうした、レディ? 今ちょっと男同士の友情を深めてるところなんだが」
『そんなことをしている場合じゃないわ。帝国軍の巡洋艦がステーションの主動力を掌握したの』
「それで?」
『施設全体の自爆装置が起動される可能性がある。司令官が非常時の機密抹消命令を準備していたみたい』
コブラの表情が変わった。
「自爆?」
『ええ。しかも巡洋艦から遠隔操作できる』
「おいおい、勘弁してくれよ。俺はまだ今日の夕飯も食ってないんだぜ」
『冗談を言っている場合じゃないわ!』
「分かってるって」
コブラはヴォルクへ視線を戻した。
大佐は破壊された照明の向こうでライトセーバーを停止させ、何やら小型端末を操作していた。
「なるほどねえ」
コブラはゆっくり歩き出した。
「勝てないとなったら、建物ごと吹き飛ばすつもりかい?」
ヴォルクは冷たい笑みを浮かべた。
「帝国の機密が敵の手に渡るくらいなら、施設ごと消し去る方がましだ」
「そいつは困るな。俺たち、まだ帰りの切符を買ってないんだ」
「貴様らに帰る場所などない」
「いや、あるぜ」
コブラは左腕を持ち上げた。
「とびっきり美人の相棒が待ってるんだ。約束を破ったら、帝国軍より怖い目に遭う」
『聞こえているわよ、コブラ』
「ほらな?」
レディの声にグローグーが小さく反応し、ディンの胸元から通信機を覗き込もうとする。こんな状況でも好奇心を失わない小さな相棒に、ディンは僅かに首を振った。
ヴォルクが端末の最後の操作を終えると、研究室の照明が赤く変わった。
『警告。機密抹消手順を開始。全区画の退避を推奨します』
無機質な機械音声が流れ、壁面の表示装置に数字が浮かび上がる。
残り時間、十分。
「……本当にやりやがった」
コブラは呆れたように頭を掻いた。
「帝国軍ってのは、どうしてこう派手なことが好きなんだろうねえ」
「時間がない」
ディンが言う。
「ああ。分かってる」
コブラはヴォルクへ向き直った。
「大佐殿、最後に一つ聞いていいかい?」
「何だ?」
「その立派な制服、クリーニング代はいくらするんだ?」
「……何?」
「いや、これから随分汚れそうだからさ」
コブラが笑った瞬間、ヴォルクは本能的にライトセーバーを再起動した。
しかし遅かった。
サイコガンの光線が床すれすれを走り、ヴォルクの足元へ向かう。大佐が跳躍してかわすと、光線はそのまま背後の壁へ向かい、途中で急激に角度を変えた。
狙いはヴォルク本人ではない。
彼が手にした遠隔操作端末だった。
「しまっ――!」
光線が端末を正確に撃ち抜き、破片が四方へ飛び散る。
ヴォルクが驚愕した瞬間、コブラは既に間合いへ踏み込んでいた。
右拳が腹部へ突き刺さる。
「ぐっ!」
身体を折ったヴォルクの手首を掴み、コブラはライトセーバーを持つ腕を捻り上げた。さらに膝を払って体勢を崩し、そのまま床へ叩きつける。
「悪いね、大佐殿」
コブラは倒れた男を見下ろした。
「俺は剣術の心得もあるんだが、今日は時間がなくてね」
ヴォルクは苦痛に顔を歪めながらも、腰に隠していた小型ブラスターへ手を伸ばした。
その動きを見逃さなかったディンが、素早く一発撃つ。
ブラスターが手から弾き飛ばされた。
「終わりだ」
ディンが近づき、拘束具を取り出す。
ヴォルクは歯を食いしばった。
「馬鹿な……帝国の未来が、こんな連中に……!」
「未来?」
コブラは少しだけ真面目な顔になった。
「悪いが、あんたたちの未来にチビ助を巻き込むのはやめてもらおうか」
その言葉に、ヴォルクが顔を上げる。
「フォース感応者は帝国再興の鍵だ。あの個体には――」
「おっと」
コブラが遮った。
「難しい話は後にしてくれ。こっちは十分後に爆発する建物の中なんだ」
ディンがヴォルクの両腕を拘束する。
「自爆装置を停止する方法は?」
「無駄だ。一度起動すれば、巡洋艦の指揮系統からしか解除できん」
「そうか」
ディンは通信機を操作した。
「レディ、聞こえるか?」
『聞こえているわ』
「巡洋艦のシステムへ侵入できるか?」
『試しているけれど、軍用の暗号化が厳重なの。時間が必要よ』
コブラは少し考え、それからにやりと笑った。
「レディ」
『何?』
「タートル号のエンジンは?」
『いつでも出られるわ』
「いいねえ。じゃあ、ちょっと派手にやろうか」
『……コブラ?』
「巡洋艦の通信アンテナをぶっ壊せば、遠隔操作はできなくなるだろ?」
『それだけでは既に始まった自爆は止まらないわ』
「分かってる。だからもう一つ仕事を頼む」
コブラはディンを見る。
「マンドー、チビ助を連れて先に船へ戻ってくれ」
「お前は?」
「ちょっと忘れ物を取りに行く」
「何を?」
コブラは研究室中央の保護容器へ目を向けた。中にはジェダイの紋章が刻まれた小さな金属片だった。
それを見たグローグーが、再び身を乗り出した。
「あぅ……」
小さな手が金属片へ向かって伸びる。
コブラはグローグーの表情を見て、静かに笑った。
「大事な物なんだろ?」
グローグーは何も答えない。ただ大きな瞳でコブラを見つめ、やがて小さく頷くように頭を動かした。
「だったら置いていけないよな」
コブラは保護容器の前へ立つと、右手で操作盤を調べ始めた。
「待て」
ディンが制止する。
「罠かもしれない」
「そうだな」
「なら――」
「でも、こいつはチビ助にとって大切な物らしい」
コブラは肩越しに振り返った。
「俺はね、マンドー。子供が大事にしてる物を、大人の都合で取り上げる奴が嫌いなんだ」
その言葉には、いつもの軽薄さがなかった。ディンは暫く黙っていたが、やがてグローグーを見下ろした。グローグーは真剣な顔でコブラを見つめている。
「……分かった」
ディンは短く答えた。
「俺も手伝う」
「お?いいのか?」
「お前一人では何をするか分からない」
「信用がないねえ」
「当然だ」
コブラは楽しそうに笑った。
「じゃあ共同作業といこうか」
◇
その頃、タートル号ではレディがステーションの制御システムへ侵入を続けていた。
複数のホログラムが操縦席周辺に展開され、帝国軍の暗号化された通信記録や電力系統の情報が次々と表示される。
「……見つけた」
レディの目が一つのデータへ止まった。
機密抹消手順は確かに起動している。しかし、爆破装置そのものは地下研究区画のさらに下層、主動力炉に接続された制御室から管理されていた。
そして、その制御室にはステーション内部からアクセスできる非常停止回路が存在している。
『コブラ、聞こえる?』
「聞こえてるぜ」
『自爆装置を止める方法が分かったわ。ただし、主動力炉の制御室へ行かなければならない』
「何処だ?」
『今いる研究区画から二層下よ』
「なるほど」
コブラはディンを見る。
「マンドー、予定変更だ」
「何だ?」
「どうやら俺たち、もう少し残業することになったらしい」
ディンは壁面に表示された残り時間を確認した。
七分四十二秒。
「間に合うのか?」
「さあね」
コブラは義手を装着し直すと、いつもの不敵な笑みを浮かべた。
「でも、試してみる価値はあるだろ?」
グローグーが小さな声を上げた。コブラはその頭を軽く撫でる。
「安心しな、チビ助。俺はまだ死ぬ予定なんかないんだ」
その言葉を聞いたグローグーは、少しだけ安心したように耳を持ち上げた。
ところが次の瞬間、コブラの赤い服の襟元へ小さな手を伸ばし、何やら真剣な表情で引っ張り始める。
「ん? どうした?」
グローグーは服を掴んだまま離さない。
コブラがディンを見る。
「おい、マンドー。チビ助が俺の服を気に入ったみたいだぜ」
「違うと思う」
「そうか? 赤が似合うと思ったんだがな」
グローグーは不満そうに小さく声を漏らし、今度はコブラの左腕を指差した。
サイコガンを指差すグローグーにコブラが目を細める。
「……こいつか?」
グローグーが頷くように耳を動かす。
そして次に、保護容器の中の金属片を指差した。
ディンもその動きに気づいた。
「何か関係があるのか?」
コブラは少し考えた。
サイコガンは精神エネルギーを光線へ変える武器であり、フォースはあらゆる生命を結びつける神秘的な力だ。仕組みは全く異なるはずだが、グローグーは以前からサイコガンに奇妙な興味を示していた。
「面白いねえ」
コブラは保護容器へ目を向ける。
「俺の左腕にまで興味があるとは、ジェダイってのは研究熱心なんだな」
しかし、今は詳しく調べている時間などない。
レディの誘導に従って保護容器のロックを解除し、金属片を取り出すと、コブラはそれをディンへ手渡した。
「預かっててくれ」
ディンが受け取り、グローグーへ見せる。
グローグーは両手で大事そうに金属片を抱え込むと、ようやく安心したように小さな声を漏らした。
その姿を見たコブラは満足そうに笑い、出口へ向かって歩き始める。
「さて、今度こそ帰るとするか」
「自爆装置を止めてからだ」
「分かってるよ。まったく、マンドーは真面目だねえ」
二人と一人の小さな子供は、赤い非常灯が点滅する通路へ飛び出した。
その背後では拘束されたヴォルクが、憎悪に満ちた目で彼らを見送っていた。
「……愚かな連中め」
大佐は低く呟く。
「帝国の遺産が、貴様らなどに扱えるものか……」
だが、その言葉を聞く者はいなかった。
◇
主動力炉へ続く通路は、既に崩壊が始まっていた。
天井から火花が降り注ぎ、床下では巨大な機械が不規則な振動を繰り返している。非常隔壁が次々と閉鎖され、ステーション全体が自らを封印するように区画を切り離していた。
コブラは走りながら左腕の義手を外した。
「レディ、次の扉は?」
『正面よ。でもロックされている』
「了解!」
サイコガンが閃き、扉の制御装置を正確に撃ち抜く。
隔壁が僅かに開いたところへディンが駆け寄り、ベスカー製の籠手を差し込んで強引に押し広げた。
「今だ!」
「ありがとよ!」
コブラが先に滑り込み、続いてディンがグローグーを抱えたまま通過する。
その直後、背後で隔壁が激しい音を立てて閉じた。
残り時間、四分五十秒。
「急ぐぞ!」
ディンが言う。
「分かってるって!」
コブラは笑いながら走る。
「まったく、こんなに走ったのは久しぶりだぜ。休暇明けの運動にしちゃ少々きついな!」
やがて二人は巨大な円形の制御室へ到達した。
中央には主動力炉を管理する大型端末があり、周囲には複数の制御盤が並んでいる。
しかし、その前には最後の障害が待っていた。
重装甲を纏った二体の帝国軍戦闘ドロイド。
両腕には大型ブラスターが装備され、侵入者を感知した瞬間、赤いセンサーが点灯した。
『侵入者確認。排除開始』
「おいおい」
コブラは肩をすくめる。
「閉店間際だってのに、まだ店員が残ってたのか?」
ドロイドが一斉に発砲した。
コブラとディンは左右へ散開する。
高出力ブラスターが床を抉り、金属片が飛び散った。
ディンはグローグーを安全な制御盤の陰へ隠すと、ブラスターを構えて応戦する。しかし重装甲のドロイドには通常の射撃が通じず、胸部装甲へ命中した光線も僅かな焦げ跡を残すだけだった。
「装甲が厚い!」
「なら中身を狙うまでさ!」
コブラは左腕を持ち上げた。
サイコガンから放たれた光線がドロイドの側面へ回り込み、関節部分を撃ち抜く。金属製の脚が大きく折れ曲がり、一体目が床へ崩れ落ちた。
しかし二体目はすぐに照準を変更し、コブラへ大型ブラスターを向ける。
その瞬間だった。
グローグーが物陰から顔を出し、両手を前へ突き出した。
「――!」
ドロイドの身体が僅かに浮き上がる。
「おっ?」
コブラが目を丸くする。
グローグーは小さな顔を真剣に引き締め、全身に力を込めていた。
重い戦闘ドロイドがゆっくりと傾き、次の瞬間、横倒しになって床へ激突する。
「やるじゃないか、チビ助!」
コブラが笑う。
「俺の代わりに賞金稼ぎでもやるか?」
グローグーは得意そうに耳を持ち上げたものの、すぐに疲れたように目を細め、ぺたんと座り込んでしまった。
ディンが駆け寄る。
「無理をするなと言っただろう」
グローグーは小さく声を漏らしながらディンを見上げた。
その表情は、まるで褒めてもらえると思っていたのに叱られてしまった子供そのものだった。
コブラが笑いながら近づく。
「まあまあ、マンドー。今のは褒めてやろうぜ」
「危険だった」
「そうだな。でも助かったのも事実だ」
ディンはグローグーを見下ろした。
グローグーは大きな瞳でじっと見上げている。
「……よくやった」
その一言で、グローグーの耳がぱっと持ち上がった。
コブラは思わず吹き出した。
「分かりやすいねえ」
しかし、そこでレディの声が響く。
『コブラ! 残り三分よ!』
「おっと、そうだった!」
コブラは慌てて制御端末へ向かった。
「レディ、操作方法を教えてくれ!」
『今、端末へ接続するわ。あなたは右側の制御盤を開いて』
「了解!」
コブラが指示通りに制御盤を開くと、内部には複雑な配線と帝国軍規格の回路が並んでいた。
「……こいつは困った」
『どうしたの?』
「俺、機械いじりは苦手なんだ」
『知っているわ』
「だったら最初から言ってくれよ!」
『あなたが勝手に開いたんでしょう?』
「そうだったっけ?」
ディンが横から覗き込む。
「何処を操作すればいい?」
『中央の非常停止回路よ。ただし、手動で接続を切り替える必要がある』
ディンが制御盤へ手を伸ばした。
その時、グローグーが再び小さな手を持ち上げる。
一本の配線が僅かに動いた。
「グローグー?」
ディンが振り返る。
グローグーは眠そうな顔をしながらも、指先をゆっくり動かしている。
配線が浮かび上がり、指定された端子へ接続された。
レディの声が響く。
『接続確認! あとは中央のスイッチを押して!』
「任せな!」
コブラが勢いよくボタンを押した。
一瞬の静寂。そして。
『機密抹消手順、停止。自爆シーケンスを解除しました』
赤い警告表示が消え、制御室に通常の照明が戻った。
コブラは大きく息を吐いた。
「やれやれ」
その場へ腰を下ろす。
「今度こそ終わりかい?」
『ええ。お疲れ様、コブラ』
「そいつはありがたい」
コブラは隣のディンを見る。
「なあ、マンドー」
「何だ?」
「今度こそ休暇に戻ってもいいか?」
ディンは少し考えた。
「好きにしろ」
「おっ、初めて意見が一致したな!」
グローグーが小さく声を上げる。
コブラが顔を向けると、グローグーは疲れ切った様子でディンの胸元へ身体を預けながらも、嬉しそうに口元を緩ませていた。
コブラも笑った。
「チビ助も賛成か」
やがて三人は制御室を後にし、タートル号へ戻るため通路を歩き始めた。
しかし、彼らはまだ知らなかった。
ヴォルク大佐がこのステーションへ持ち込んだ機密資料の中に、サイコガンに関する新たな研究計画が記録されていたことを。
そして、その計画の存在を知る帝国残党の幹部が、他にもいるということを。
宇宙ステーションの外では、帝国軍巡洋艦がゆっくりと離脱を始めていた。
艦橋に立つ副官が、通信端末へ報告を送る。
『ヴォルク大佐、作戦失敗。フォース感応個体および未知の兵器の確保に失敗しました』
短い沈黙。
やがて通信機から、冷たい声が返ってきた。
『……そうか』
『今後の指示を』
『監視を続けろ。特に赤い服の男については、可能な限り情報を集めるのだ』
『了解しました』
通信が切れる。
副官は窓の向こうに浮かぶタートル号を見つめた。
赤い服の宇宙海賊。
左腕のサイコガン。
帝国残党の間で、その存在は既に無視できないものになりつつあった。
一方、その頃のコブラはといえば――。
「レディ、帰ったら美味い飯を頼むぜ!」
『何が食べたいの?』
「そうだな……ステーキがいい。分厚いやつ!」
『材料はあるけれど、料理するのはあなたでしょう?』
「え?」
『前に約束したじゃない』
コブラは数秒間黙り、そして隣のディンを見る。
「なあ、マンドー」
「何だ?」
「料理は得意か?」
「……多少は」
「そいつは素晴らしい!」
コブラは満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ今夜はお前の奢りだな!」
「何故そうなる?」
「友情ってのは助け合いだろ?」
ディンは無言で歩き続けた。
グローグーだけが、何か美味しいものが食べられると察したのか、嬉しそうに両手を上げていた。
コブラはその姿を見て笑う。
「ほら、チビ助も賛成だ!」
「……お前たちは本当に似ているな」
ディンの呟きに、コブラはますます楽しそうに笑った。
こうして帝国残党との戦いは、ひとまず幕を閉じた。
だが、銀河を自由気ままに駆け巡る宇宙海賊の冒険が、これで終わるはずもない。
なにしろ彼の行く先には、いつだって厄介事と美女、そして莫大な賞金が待っているのだから。