仲間へのダメージを肩代わりすることしかできない魔法少女の日記 作:新人魔法少女
◯月×日
私たちの初めての戦いは、どうやら職員さんから見ても好感触だったみたい。
今日、改めて怪異を倒したことを報告しに行ったら、めちゃくちゃ褒められた。
その熱量といったら半端なものじゃなくて、多分優ちゃんに「好き」とまで言ってたと思う。
あの時の優ちゃんのぽかんとした顔は面白かったなぁ。
それと、私たちが倒した怪異は、やっぱり普通の怪異じゃなかった。
職員さんが後で調べてみたところ、本来ならベテランの魔法少女がいくべきほどの相手だったそうだ。
そんな怪異を大きな怪我もなく倒してしまったものだから、私たちは今、他の魔法少女から注目されているらしい。
このままじゃ、今は私と職員さんしか知らない優ちゃんの強さと可愛さが他の子たちにも知れ渡ってしまう。
これはまずい。
優ちゃんが他の子に取られるなんて言葉だけは絶対に避けなければいけない。
強さが広まる分にはいいんだけどね。
可愛さが広まっちゃうと、優ちゃんを好きになっちゃう子が出ちゃうかもしれないから。
……まあ、そんな冗談は置いておいて。
どうでもいいことではあるんだけど、お腹を締め付けられたような傷はまだ治ってない。
どうやら、いくら治癒能力が高くても怪異の攻撃に限っては治りが遅いっぽいんだよね。
ただ、別に痛いわけじゃないから、とりあえず放っておこう。
◯月×日
最近、優ちゃんは忙しいのか訓練所に来ない日が多い。
だから、その代わりに職員さんと一緒にどうやったら優ちゃんの力を引き出せるか考えることにした。
私と同じで、職員さんも優ちゃんの剣技は評価しているらしい。
ちょっと表現が独特だったけど、とりあえず職員さんも優ちゃんが好きだってことは分かった。
ちなみに職員さんは私と身長がほぼ同じなんだけど、やけに一部分に栄養がいっている。
優ちゃんがいる時は気にしたことがなかったけど、私と比べるとやっぱり違いが顕著だ。
絶対職員さんより私の方が食べてるはずなんだけど……私が取った栄養は一体全体どこへ消えてるんだろう?
これが格差社会ってやつなのかな……。
明日は優ちゃんが来てくれるといいな。
職員さんがいるだけで寂しくはないんだけど、優ちゃんがいた方が色んな意味で安心感があるからさ。
〇月×日
今日は優ちゃんがちゃんといる。
うん、やっぱり優ちゃんがいると職員さんとの差を気にしなくて済む。
やけにホッとした顔をしてしまったせいか、何があったのか心配されたけど、こればっかりは秘密にすることにする。
さすがにこんなことを気にしていることがバレるのは恥ずかしかった。
誤魔化すために最近いなかった理由を聞いたら、どうやら剣道の試合があったみたい。
この前はもうやめた、って言ってたけれど、まあ、色々あるんだろう。
もう少し聞いてみたかったけれど、顔が強張っていたからこれ以上はやめておく。
ちょっとだけ心配していた連携も問題なかったし、別に気にすることじゃない。
私としては、ただでさえ綺麗だった優ちゃんの剣技がさらに格好良くなっていて嬉しかった。
とりあえず優ちゃんの格好いいところと可愛いところが見られればそれで十分だ。
〇月×日
優ちゃんと職員さんがイチャイチャしている現場を見てしまった。
冗談めかして「私だけ仲間外れだ」って言ったら、誤解だって二人が凄い焦っていた。
本当に誤解ではあるんだろうけど、普通はカップルでもない限り、あんなに顔を近づけて抱きしめることはないんじゃないかな……。
優ちゃんと職員さん曰く、職員さんが転びそうになっていたのを優ちゃんが支えてくれたんだとか。
そう言われてみれば、確かに優ちゃんが支えているように見えなくも……ない……?
ともかく、職員さんと優ちゃんの仲が良くて何よりだ。
それにしても、こうしてみると、優ちゃんって本当に王子様みたいだなぁ。
職員さんの身長もあって、頼れる先輩とその先輩を頼る女の子みたいな感じだよね。
ただ、私が職員さんの位置に立っていると一気に中学生感が増してきそう。
そう思って「お似合いだね」って言ったらまた全力で否定された。
誤解なのは分かってるんだけど、そんな本気で否定されると逆に本当みたいでちょっと面白かった。
〇月×日
ここ数日、優ちゃんの剣技にますます磨きがかかっている。
何回か先輩たちと手合わせする機会があったんだけど、そのどれもで優ちゃんは覚醒していた。
先輩たちの、私たちよりもよっぽど洗練されたコンビネーションから繰り出される技を、優ちゃんは何度も何度も受け止める。
そして、先輩たちが焦り始めたところで私のバフと共に反撃していく。
そんな戦い方で、もうちょっとで先輩たちに勝てそうなところまで行くことができた。
主な敗因は、攻撃能力をほとんど持たない私が集中狙いされてしまったこと。
優ちゃん側では押せていたのに、私がやられることで一気に流れが変わってしまう事が結構あって悔しかった。
優ちゃんが食らった分は私が肩代わりすることができるんだけど、困ったことに私へのダメージはどうすることもできない。
サポートとしては上手くやれていたと思うけど、目指すはその先。
足手まといにならず、逆に後ろからも攻撃ができるような存在を目指すことにする。
私の能力を拡大解釈することとかできたら結構強いと思うんだけどなぁ。
一旦、明日から優ちゃんがいない時に、私の能力を検証する時間を増やしてみようと思う。
〇月×日
今日は、この前みたいに優ちゃんが剣道関連の用事で来られなかった。
そして、職員さんもなぜかいない。
いつもの人とは違う、別の魔法少女についている職員の人に聞いてみたら、放置して溜まっていた仕事がいくつもあるらしく、缶詰になっているとのこと。
ちょっとでも心配した私が馬鹿だった。
こればっかりは、職員さんの自業自得としか言いようがない。
そんなわけで、今日はいつも私の周りにいる人たちが誰一人いないという、寂しいことになってしまった。
ただ、これは裏を返せば、私を見張る人がいないということでもあって。
普段、職員さんから止められている私の能力をこれでもかと検証することができる。
早速、この前模擬戦をやってくれた魔法少女の先輩を呼んでみて、偽りの能力を伝える。
そして能力の検証を手伝ってほしいとお願いしたら、快く引き受けてくれた。
嘘はほとんどないのだけれど、この優しい先輩に本当の能力を伝えたらきっと止めるんだろうな、と考えると心が痛かった。
その代わり、この能力でできることは今日一日だけで色々増えたからよしとする。
今度、また怪異と戦うときにでも、能力の新しい使い方を試してみよう。
〇月×日
やっちゃった。
この前の秘密の特訓、職員さんに全部バレていたらしい。
しかもお腹の傷も見られてしまった。
……どうしよう、これ。
私、
二人とも本当にいい子で、それでいて才能もあって、間違いなくこれからの魔法少女界を引っ張っててくれる存在になると、私は確信している。
一人目は、朝日優さん。
背が高くて、とにかく戦い方に華がある。
中性的なルックスも相まって、聞いた話によると、魔法少女内にも彼女のファンがいるのだとか。
私は、転びそうになっていたところを彼女に助けられた経験があって、その時の彼女のイケメンっぷりといったら。
年下の子ってことも忘れて惚れてしまう一歩直前だったと思う。
……まあ、その瞬間に担当しているもう一人の子が来て、これでもかと茶化された後は気の迷いだったと自信を持って言える。
だけど、そんな気の迷いを起こしかねないくらい、彼女は同性にとっても魅力的だ。
そして、二人目は、
この子は、私が見出したこともあって、結構気にかけている子……なのだけれど。
どうも自己肯定感が低いようで、放っておけば何処かへ行ってしまいかねない。
彼女は、そんな危うさを抱えている。
「ねえ職員さん。私って、本当に優ちゃんの役に立てるのかなぁ」
「……間違いなく役に立ってる。バフがある時とない時じゃ優さんの動きが全然違うよ」
「えー、でも優ちゃんってさ。私がいなくても意外と勝てちゃいそうじゃない~?」
「そんなことないって。莉里花ちゃんのサポートがあるから優さんは輝けてる」
この前、先輩の魔法少女と手合わせをしたときも、彼女はこんな弱音を私にぶつけていた。
優ちゃんに私は必要がなのか、と彼女は度々不安がる。
でも、私だけでなく、彼女たちを見ている人間は誰もが優さんには莉里花さんが必要だと確信している。
だって、二人を見ていたら互いに信頼し合っていることがちゃんと見なくても分かるのだから。
莉里花さんがいなくなれば、逆に優さんが危うくなってしまう。
そう思えるくらい、彼女たちは互いに絶大な信頼を寄せていた。
そもそも、役に立てるか立てないか、なんてことで優さんが莉里花さんをどうこうするとは、到底思えない……のだけど、それでも彼女の不安は止まらない。
どうしたら彼女を安心させられるだろうか。
そう、私は考え続けていた。
そして、たまたま優さんが訓練所に顔を出していなかったある日。
その日、私は大量に残していた書類仕事を終わらせるのに必死で、訓練所を訪れていた莉里花さんに気づくことができなかった。
彼女が訓練所に来ていることを知ったのは、溜めていた仕事をなんとか終わらせた後。
同僚から彼女が訪れていると聞かされた時だった。
当時の私は、これでもかというほど呑気で、この前みたいに優さんの話でもしよう、なんて思いながら、ゆっくりと足を運んだ。
「すいません、先輩。もう一回そこにいてもらっていいですか?」
「おうよ。でも不思議だな、『治癒』って能力なのに相手を傷つけられるって」
「この能力、私もまだよく分かってないんですよ~」
「まあこれから鍛えていけばいいさ! 次に優と会った時は驚かしてやろうぜ!」
そうして、やってきた訓練所。
そこには、先輩を誘い能力を使っている、莉里花さんの姿があった。
莉里花ちゃんの能力は、表向きには『治癒』ということになっている。
だが、彼女の本当の能力は『肩代わり』。
彼女一人が仲間の傷を引き受けるという、大人として、使わせることに忌避感を覚えるような、他の魔法少女と一線を画した能力なのだ。
能力が判明した後、私は彼女になるべくその能力は使わないように、と念を押した。
彼女は構わない様子だったようだけれど、あの能力は莉里花さんを傷つける。
多用させるにはあまりにも危険な能力だったからだ。
「いやぁ、それにしても本当に傷がつかないんだな、お前の能力」
「えへへ、優ちゃんにもそうやって褒められましたよ」
だが、その能力を、彼女は何の抵抗もなく使い続けている。
いくら彼女の素の治癒能力が高いとはいえ、それで痛みが消える訳ではないのに。
彼女はそんな中でも笑い、何もないかのように振る舞っていた。
私は、その光景が耐えられない。
どうして、自分が傷つくのに莉里花さんはあの能力を使い続けるのだろう。
どうして、私は莉里花さんにあんなことをさせてしまっているのだろう。
たまらず、私はその場から逃げ出してしまった。
その後日、私は偶然、彼女の着替えを目撃してしまう。
彼女の細い体には、昨日のものらしい傷がいくつも残っていて、お腹をぐるっと一周縛ったかのような傷の跡がとりわけ目立っていた。
それを問い詰めても、彼女は、自分だけが傷ついて皆が幸せになれるのなら、それで良いと言う。
信じられなかった。
そんな自分を蔑ろにするようなことを、彼女には言ってほしくなかった。
ねえ、莉里花さん。
どうしてあなたは、そんなにも自分が傷つくことを許容できるの……?