仲間へのダメージを肩代わりすることしかできない魔法少女の日記 作:新人魔法少女
◯月×日
職員さんから「本当に危機が迫っている時以外は能力を使わないでほしい」と言われた。
あんまりにも真剣な顔をされて言われたから、それに私は頷くことしかできない。
でも、私は本当に大丈夫なんだ。
確かに傷痕はそこそこ痛むけれど、耐えられないほどじゃないし、別にこれで死ぬっていう訳でもない。
流石に、この傷が原因で死ぬとかだったら私も躊躇するけど、今の所そう言う感じじゃないからね。
日に日に傷跡も消えていっているし、現状、これといって大きな問題はない。
とはいえ、年上の職員さんにそこまで言わせてしまうのは申し訳ないから、しばらくは言いつけを守ろうと思う。
少なくとも、実戦ではない、訓練では無闇に使わないとは約束した。
それと、念のため、これから私が訓練所に来た際には、どれだけ忙しくても見張りに来るそうだ。
そこまでしなくても良い、と断ろうとしたものの、この前職員さんがいない隙に能力を使いまくっていたことを言われると何も言い返せなかった。
魔法少女になってから一ヶ月。
早くも私は、職員さんに手綱を握られそうになっている。
◯月×日
優ちゃんに、最近職員さんとの距離が近くないかと不思議がられてしまった。
これ、私から近づいているわけじゃないんだよね。
いつ私が不用意に能力を使うかって、職員さんに見張られているだけなんだ。
ちょっと前なんか、本当に無意識で能力を使いかけて、その瞬間に肩を掴まれた。
普通に怖かったし、なんで分かったのか普通に謎だった。
聞いた話によると、どうやら職員さんは引退した魔法少女だったらしい。
というか、私たちの職員さんに限らず、ここで働いている職員の人たちはほとんどが元魔法少女だとか。
全く知らなかった。
だけど、このことを優ちゃんに言ったら、もう既に知っていたみたいで、ポカンとされた。
先輩にも聞いてみたけれど、どうやら魔法少女になったその日には知った事実だったみたいだ。
……これは、多分、私が聞き逃していただけかな?
◯月×日
職員さんは、私と同じでサポート型の魔法少女だったみたいだ。
どうりで、私に魔法を教えるのが上手いし、お手本まで見せてくれるわけだ。
なんで一ヶ月前の私は職員さんが平然と魔法を使っているのを疑問に思わなかったんだろう。
冷静に考えて普通の人が魔法を使えるはずがないのにね。
ちなみに、どんな戦い方だったのか聞いてみると、自分を回復させ続けながら怪異に何度も突っ込んでいくというものだったらしい。
……うん、全然サポート型なんかじゃなかった。
アタッカーとも言い難い、ただの脳筋戦法だ。
正直なところ、サポート型って聞いて親近感が湧いていたんだけど、この話を聞いて、それは一気に消え失せてしまった。
そんな戦い方がサポート型に分類されてしまったら、私みたいな本当にサポート特化の魔法少女たちが涙目だよ。
ただ、脳筋戦法をしていた割にはバフとかデバフ系の魔法がちゃんと上手いのがよく分からない。
サポートができて、自分からも攻撃できるとか、それはさすがに最強すぎない?
◯月×日
優ちゃんがどんどん強くなっていく。
バーサーカー系サポーターである職員さんの指導を毎日毎日受けているからだ。
やっぱり実際に魔法を使って見せられるのが強いのかな。
言っていることは抽象的だったり擬音語だったりして分からないこともあるんだけど、目の前で魔法を見せてくれるのがいくらなんでも大きすぎる。
それに、スタイルの違う二人を同じレベルで教えることは、多分、私たちの職員さんにしかできない。
あ、もちろん私も優ちゃんと同じでだんだん強かっている実感がある。
能力は職員さんの厳しい目もあって最近は使っていないけれど、前よりも使える魔法が結構増えた。
バリエーションが増えると、戦う時に選択肢が増えて、何かと動きやすい。
まあ、それでも私には未だに攻撃手段が生まれる気配はないんだけど。
やっぱり私は、何かを傷つけることにとことん才能がないらしい。
◯月×日
怪異を倒した。
今日戦ったのは、この前のとは違う通常の怪異。
だからか、前回ほど苦戦することはなく、私が能力を使うこともなく済んだ。
職員さんと一緒に鍛えた魔法も使うことができたし、成長を実感できた……と言いたいところなのだけど。
ぶっちゃけ、ほとんど私の出番はなかった。
完全に優ちゃん無双である。
今の優ちゃんの実力は、条件さえ揃えれば先輩にも勝てることがあるほどにまで成長した。
さすがに、相性が悪い先輩相手ではまだ難しそうだけれど、同じ近接攻撃系の先輩と比べると、もう大きな実力の差は見られない。
そんな優ちゃんは、怪異を発見するや否やすぐ変身。
職員さんから習った特大バフをかけ終えた時には、もう怪異は優ちゃんの手によって切り刻まれていた。
不謹慎なことを言ってしまうけれど、もう少し訓練の成果を確かめたかったなぁ。
まあ、それでも危険を冒すことなく怪異を倒せたのは良いことだ。
まあ、欲を出すのは良くないし、魔法少女が本気を出さないで済むくらい平和な方がいい。
◯月×日
優ちゃんの凄さがついにバレ始めてしまった。
さすがの先輩たちともいえど、ほとんど一撃で怪異を倒すのは難しいみたい。
だから、それを成し遂げた優ちゃんを一目見ようと、普段からお世話になっている先輩を始めとして、何人もの先輩が訓練場に押し寄せていた。
職員さんのところを訪れている先輩もいて、やっぱり職員さんって凄いのかな、なんて思ったりする。
そして、意外なことに、優ちゃんだけじゃなくて私のところにも先輩たちは話しかけに来てくれた。
今の所、職員さんはパワハラなんて言葉からかけ離れた存在のはずなんだけど……。
先輩たちの声色は冗談には聞こえなかったから、ちょっと気をつけるようにしよう。
まあ、あんなほんわかした職員さんに限ってそんな気質は欠片もないでしょ。
ただ、ちょっと気になりはするから、今度先輩たちに詳しく聞いてみようと思う。
◯月×日
一番仲良くしている先輩から、職員さんの魔法少女自体のことを聞いた。
思っていたより百倍は濃いエピソードが語られたものだから、思わず固まってしまった。
あんなにゆるふわなイメージしか湧かない職員さんにも、荒れていた時代ってちゃんとあったんだ。
道理で、職員さんと先輩がすれ違う時に毎回頭を下げられている訳だよ……。
結構ちゃんと注意した後は、莉里花ちゃんが能力を使うことはひとまずなくなった。
だけど、よっぽど自己犠牲精神が染み付いてしまっているのか、ふとした表紙に彼女は無意識ながら能力を発動させようとする。
そして、その度に決まって「忘れてました」といつも通りの屈託のない笑顔で笑うのだ。
その様子があまりにも痛々しくて、とても見ていられない。
だけど、まだ大人ではない子供にそんなことをさせているってことから目を背けてはいけない。
そう思い、私は今まで以上に莉里花さんと対話を重ねていった。
「そういえば職員さんって基本みんな元魔法少女なんだってね。知らなかった〜」
「え。それ莉里花さんと初めて会った時に言わなかったっけ」
「あれ、言われてたかなぁ? ちょっと後で優ちゃんとか先輩にも聞いてみるね」
ここ最近で一番驚いたのは、彼女は私を含めたこの場所で働く職員が、元魔法少女だと知らなかったことだ。
確かに、莉里花さんはちょっと抜けているところがあるとは思っていたけれど、まさかそこに気づいていないとは。
そもそも、彼女が魔法少女になったばかりの頃に説明した覚えすらある。
だけど、こういうところは、彼女らしいといえばまあ彼女らしい。
本当に大事なことだけはなぜか聞き逃さないのに、ギリギリ大事そうなことを覚えていないなんてことは、彼女によくあることだ。
その後、ついでとばかりに私の魔法少女時代の話を聞かれたが、あれはもう軽い黒歴史に等しい。
それもあって追求される前に誤魔化そうとしたが、当時の私がめちゃくちゃなことをしたせいで、うまく誤魔化せた自信がない。
「いくら傷ついても自分を回復させ続けてゾンビアタックするサポーターって何!?」
「……ま、まあ。色々あったの」
「どう考えても色々あったで済ませられるようなことじゃないよ〜。職員さんがサポーターって聞いたから勝手に親近感感じてたのに……」
「一応、メインはサポーターでやってたから!」
当時の自分は、我ながら随分とめちゃくちゃなことをやっていたと思う。
そのせいで、未だに魔法少女時代に関わったことのある子からはすれ違いざまに毎回頭を下げられるし……。
莉里花さんや優さんたちに、当時の私の破天荒ぶりがバレないと嬉しい。
「ねえ、職員さん。さっき先輩からパワハラに気をつけろなんて物騒なことを言われたんだけど……」
「……ノーコメントでいかせて」
「職員さんの昔って何があったの!?」
……なんて、思っていたのも束の間。
その数日後には、昔の私のやらかしがいくつか莉里花さんに伝わってしまったみたいだ。
優ちゃんの実力の噂が次第に広まり始めたことで、莉里花さんたち自然と他の魔法少女たちとよく関わるようになった。
ということは、私が関わったこともある現役の魔法少女たちと関わる機会も当然増えるわけで。
おそらく一番ヤンチャだった時期のエピソードの一部が、届いてしまったのだろうか。
いや、別にパワハラってほどではないんだけど。
あの頃の私は、自分にも他人にもめちゃくちゃ厳しかったからな……。
「ねえねえ、職員さん。昔のこと聞かせてよ〜」
「お願いだから、先輩たちから聞いて……。あれは若気の至りだから……」
「え、そんな?」
おそらく、そのうち、莉里花さんは先輩たちから私の過去を聞くのだろう。
それで怖いイメージなんか持たれた日には、冗談抜きで絶望してしまうかもしれない。
まあでも、あの頃の私があるから今の私がいるし、無かったことにしたいとは思わないが。
それでもあの頃の話は、うん、恥ずかしい。
「職員さん! 職員さん! 魔法少女の頃の職員さんってふざけてた先輩たちの顔スレスレに魔法をぶつけたことがあるって本当!?」
「あ〜……できることなら、聞かなかったことにして欲しいんだけど……」
「え、本当なの?」
そして、ついに。
案の定、先輩の魔法少女から話を仕入れてきた莉里花さんが、悪戯っ子らしい笑みを浮かべて私に話しかけてきた。
だが、持ってきた話が本当だったか信じかねていたらしく、言葉を濁した私を見て、心から驚いている様子を見せる。
そうなるのも仕方ない。
今の私を見て、魔法少女だった頃の私を連想するのは、かなり難しいはずだ。
なんなら、昔の私を知る人達こそ、今の丸くなった私の姿が信じられないかもしれない。
実際、そんな反応を見せた古い知り合いは何人もいる。
「もう、今となっては黒歴史でしかないよ」
「格好いいとは思うけどね〜。だって、理不尽に怒ったことは無いんでしょ?」
「……いや、今思い返せば結構理不尽だったかな」
「あれ?」
せっかく、フォローしてくれたところ悪いけれど、実際昔の私はかなり苛烈だった。
何の意味なく怒ったことは思うけれど。
難癖って言われて否定できるほどじゃない。
まあ、でも。
昔の自分について話したのは久しぶりだ。
たまには、昔の自分を振り返るのも悪くない。
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