「よう、そっちは終わったか?」
「うん、ウォーライオン一匹だったし」
ぼくに声を掛けてきたのは、大きな剣を担ぎ、頑丈な鎧を着込んだ巨漢。どう見ても『戦士』です。
ただ、その鎧姿は、よく飾ってある甲冑と言うより、SFのパワードスーツの方がイメージ的には近いかもしれない。いや、実はもっとふさわしい物がある。
何より特徴的なのは、その腰の部分だ。
ベルトである。もちろん、強調するからにはただのベルトではない。
元の世界の知識のあるやつが見たら、こう言うことは間違いない。
「なんだ、あのライダーベルトしたコンバットスーツは! 宇宙刑事ライダーかよ!」
そう。彼の宇宙刑事風鎧の腰には、メダルのような物がはめ込まれた大きなバックル付きのベルトが巻かれているのである。
○3つのライダーっぽいそれは、もちろん伊達じゃない。よく見れば彼の担ぐ大剣にも、似たようなメダル装着部がある。
ますます○3つじゃんとは言わないように。
ぼくだってこれを初めて見た時は同じ事を思ったし。
ちなみにぼくは一言で言い表せる姿をしている。
黒ジャージ。以上。
伸縮性の高い布で出てきた服。この世界にはあちらの合成繊維はないのでちょっと質感は違うが、見た目と言いシルエットと言い、どう見てもジャージである。長袖長ズボン、チャックじゃなくて紐な所くらいしか違わない。ズボンはベルトじゃなくてゴムだし。
あ、言い忘れていましたが、この世界は中世じゃありません。
1960年代に内装とかインフラの中身方面を21世紀くらいまで進化させたような感じです。
ただし、現代物と違うのは飛び道具がありません。火砲とかそういう方面の発達が極度に遅れています。
というのも、僕たちみたいな結晶持ちやモンスターの存在ゆえ。
基本的にマナバリアはマナバリアでしか破れません。マナを帯びていないもので僕たちに被害を与えようとしたら、それこそ戦艦大和の主砲を至近距離でぶつけるくらいのことでもしないといけません。純物理力による衝撃では、マナバリアを貫くどころか衝撃を与えることすら出来ません。実際一度ぼくも見たことがあります。
今隣にいる彼が、一度落石に巻き込まれたことがあります。ライダーの特訓ではないですが、直径3mくらいの岩が、遙か上から複数落ちてくるんですよ。
それもものすごく加速されて。
なのにその岩が彼に命中したとたん、その莫大な運動力を奪われて、ぴたりと静止してしまいました。
瞬間停止能力。完全弾性衝突のように、運動エネルギーを吸収・無効化してしまう性質が僕たちを守るマナバリアにはあります。ですのただの物理学的な運動エネルギーでは、マナバリアを持つ僕たちやモンスターにはかすり傷一つ付けられないのです。
マナバリアを持つものを打ち破る方法はただ一つ。より密度の高いマナバリアと接触させることだけです。
僕たちの持つ装備は、基本的にそのための補助具なのです。
マナをバリアとして収束させられるのは生きている生命体か、マナ生命体と化したモンスターのみ。モンスターの中心核などは、基本ブースターにはなり得ますが、バッテリーにはなりません。
つまり、使い手たる生命体と接触していないとマナバリアを破る武器は使用できないのです。
『戦士』の彼は、剣に組み込まれた紋章とはめ込み式の『マナメダル』の力を借りて、より高密度、かつ特徴的な属性を持った『マナの刃』を生み出します。マナバリアは炎の中でも暑さを感じたりしませんが、炎にマナが通っているとしっかり熱く感じますし、バリアも損傷します。
冷気や電撃なども一緒。マナを軸としてそういう力を乗せると当然HPが削れます。
個人の持つマナバリアは、自分より密度の薄いマナでは傷つきませんので、それを利用して装備でマナの密度を上げ、防御力をより高める工夫も当然あります。
但し、自然の状態よりもマナの密度を上げようとする行為は、自由な運動を阻害します。
元世界で判りやすくたとえるなら、空気中の行動と水中の行動を比較すると判りやすいと思います。自分のマナバリアの密度を自然より高めるという行為は、自分のまわりが空気から水に変わるようなものですから。
その状態でいつも通りに行動しようとした場合、『紋章』によるアシスト能力を使う必要があります。
紋章のアシストプログラム容量には限りと相性があり、彼はそのシステムセットを防御力や攻撃力を増すためのマナ密度上昇システムとその運用に割いたものに最適化しています。
それこそが『戦士』クラス。彼の装備になるわけです。
ちなみにこの世界には、今までの説明で判ったかもしれませんが、マナを帯びた熱や電撃による攻撃運用、つまり魔法に当たるものも存在しています。
ただ、この世界の魔法は、呪文とかよりむしろ一種の固定兵装に近い存在です。戦士が剣技のアシストや鎧着用負荷の軽減に使う容量を、魔法兵装のツリーに割り振ったのが魔法使い。基本魔法の呪文はそれ単独で一種の武器のようなもので、魔法使いはその制御に固有マナを取られるせいで積層バリアが薄くなりがちですし、その密度もあまり上げられません。
HPも防御力も薄い、まさにゲーム的な魔法使いになってしまっています。
ちなみに魔法の呪文一つ一つがゲーム的に言えば装備のようなものになるので、まともに1つずつ組み込んでいたらすぐに容量オーバーしてしまいます。ただ、この呪文兵装はテンプレート化と共有によって大幅に容量を減らすことが可能です。それがいわゆる属性系統なんかを生み出しているのがよく出来ていると言うかなんというか。
ちなみに今僕たちが使っている『紋章』、実はこれ、モンスターの中心核に組み込まれている『マナ回路』を解析して得られたものだったりします。
僕たちはいわばモンスターの力を奪い、利用している存在なんですね。
全身マナの塊であるモンスターは、結晶を埋め込み、紋章で肉体を守っている僕たちより遙かに高密度・高精度の紋章を持っています。
だけども、そうして全身をマナ化してしまったモンスターは、全身のリソースをほぼ好きに出来る代償として、どうしても『進化しすぎ』てしまいます。
不老不死化するモンスターは、通常の意味での食事や生殖が不要になります。生命体として持っている本能に対する前提条件が書き換わってしまうモンスター化は、本来生命体として持っていた精神活動を大幅に歪めてしまうのです。
それは人間も例外ではありません。僕たち『結晶持ち』というのは、レベル1……いわばOSにあたる基礎紋章と電源及び記憶装置に当たる起源結晶を体内に受け入れるだけのマナ容量を肉体が持ち得た存在です。そして結晶を緩衝材として肉体がマナに喰われることを押さえ、人として理性を保っている存在、それが僕たちです。
僕たちのような異世界から『落ちた』人間は、マナの薄い世界から来ているが故に、こちらの人達よりもマナに対する器が大きく、優秀な『結晶持ち』となる素質を持っています。
こちらの人達は普段からマナの中で生活しているので、全身がある程度マナを帯びてしまっていて、結果として容量が小さいのだそうです。
でも、それがいいことばかりではありません。こういうことが判るまでには、悲劇もたくさんあったと聞きました。
結晶利用技術の初期段階に、こんなことがあったそうです。
それは初心者の促成成長……いわゆるパワーレベリングを行った時に起きました。
初心者を大量のマナがあふれる大物狩りに連れて行った結果、一度に大量のマナを吸収した彼は、結晶があまりにも急速に成長し、肉体がそれに耐えきれずにマナに呑まれてしまいました。
そう……モンスターです。彼は人からモンスターになってしまったのです。
しかも悲惨なことに、彼には結晶のおかげでぎりぎり人としての理性が残りました。ですがあふれる力が彼の良識をすり減らし……結果彼は膨大な力を自儘に使う存在に堕ちてしまいました。
『魔王』の誕生です。
ちなみにそれまで謎だった、『何故この世界にモンスターが存在するのか』という命題もこれがきっかけで解き明かされました。自然におけるマナの過剰摂取が原因だったのです。
幸いなことに彼は討伐され世界に平和が戻りましたが、この事は教訓と闇、二つの側面を世界に知らしめました。
一つはモンスター化の恐怖。
もう一つはモンスター化の誘惑です。
マナの過剰摂取は、人に限らず、あらゆる存在をモンスターへと変える危険があります。
生き物だけとは限りません。過去、マナを込めすぎた武具が魔性のモンスターと化した事件もありました。
そのせいか、実はこの世界にはあまり大きな戦争がありません。戦争で大量の人が局地的に死亡すると、その無念と放出された生体マナの密度が上がりすぎて、モンスターの大量発生を招くことがあるためです。今の研究では、原初のモンスターも自然災害で大量の生き物が死滅し、濃くなりすぎたマナを生き残った生き物が生存のために過剰摂取したのが始まりと言われています。
ですが人間というのは度し難いもので、理性を保ったままのモンスター化に挑戦する馬鹿が後を絶ちません。そしてそれをやった馬鹿が様々な魔王となり、この世界を混乱させているのです。
ちなみにごくまれにモンスター化しても人としての理性と人格を保った成功例も存在しているそうです。人としての老いと寿命を克服し、マナで生きる存在となった人間。この世界では、僕たち異世界の人間が広めた呼び方で、二通りに呼ばれています。
俗世との縁を薄くし、静かに生きている『仙人』。
人としての欲望を色濃く残す迷惑な存在『魔人』。
ぼくがここにいる理由にも、魔人が関わっていました。
「そっちも終わったか」
合流した僕達二人の所にやってきたのは、3人目の仲間。
一言で言えば『巫女侍』。
緋袴に日本刀を持った巨乳のお姉さんです。
この世界の魔法剣士。防御システム用の紋章ツリーに使う容量を攻撃魔法や攻撃特技に割り当てた超攻撃型戦士系クラス、『侍』。
彼女が侍になったのは、一説によるとその目を引く巨乳のせいだとか。
戦士の彼が宇宙刑事っぽいのをみて判るかもしれないけど、防御力を上昇させる装備は全身を覆うタイプが多いんです。この世界の高性能鎧は、個人の体格に合わせた雛型の鎧に、モンスターから取れる中心核から加工できる強化紋章を組み込んで作られているので。
こんな大仰なのは、強化紋章を鎧に組み込むのにもある程度の大きさと容量がいるせいでもあります。
モンスターから装備(の重要部品)が取れる所と言い、それを鑑定(再加工)しないと使えないところと言い、それなんてウィザードリーって、ぼくも最初に知った時には思いました。
で、彼女はその某胸革命さんを想像させる爆乳とも言える胸のせいで、雛型の鎧のコストがとんでもないことになってしまうため、あえて防御を捨てた侍を目指したのだとか。
侍の防具は雛型も布ベースですので特注しても安価ですし。その分強化加工費用が高いんですが。
なお、最低限の防御力を維持するためには肉体の方にそれなりの負荷を掛けるので基本となる素質が高くないと侍にはなれません。
ますますウィザードリーです。
え、ぼくですか?
ぼくは『忍者』。
実はこれまたウィザードリーっぽいんです。
忍者は装備による強化システムを全て捨て、攻撃や回復の魔法も装備せず、その容量の全てを個人の強化に振り分けたクラスです。
『極められれば最強なれど、資質無ければただの馬鹿』と呼ばれるクラス。
本家ゲームの忍者と違うのは、『装備をしないと強くなる』ではなく、『そもそも装備が出来ない』という点ですか。
戦士さんの所で説明した通り、この世界の装備はマナ収束具であって、純粋な武器としての意味は副次的なものです。紋章によって生きた結晶と接続していなければただのがらくたに過ぎません。
『忍者』は、紋章接続によって肉体に刻める限界を超えた、モンスター由来の高密度紋章に頼らずに、純粋な『人』の枠内でその限界を極めるという目的の下生み出されたクラスだそうです。
一見いい話ですが、その裏は人のモンスター化の限界を見極めるためのクラスだそうで。
ぼくもそれを知った時はいろいろなものが台無しになった気分でした。
その特徴は文字通り大器晩成。この世界にレベル限界はほぼ無いので、装備の強さを越えられない戦士系と違い、仙人や魔人すら越える、無限の強さを極められるクラスと言われています。
実のところ仙人や魔人は、絶大な強さを持つものの、唯一の弱点が『殆ど成長できない』なのです。奇跡的なバランスの元に生まれる彼らは、うかつに成長すると安定を崩して魔王化する危険性が極めて高いからです。
その点忍者は寿命の許す限り安全に成長できます。過剰摂取さえしなければ魔人を越えることも理論上は不可能ではありません。
あくまで理論上ですけど。
ちなみにぼくが忍者なのには選択の余地がありませんでした。
それこそ『やめろ、ショッカー』って叫ぶ現実でしたから。
落ちてきたぼくには、人として並外れた器があったそうです。というか、そういう器を持った存在として、ぼくの意思を無視して召喚されたそうで。
召喚したのは何度か出てきている魔人の一人。魔人として極まってしまったため、限界を超えるために最強の資質を持ったものを忍者にし、その器を乗っ取る形で限界を超えようとしたそうです。
幸いぼくはこうしてぼくのまま忍者していられますけど。ちなみに助かったのは戦士さんや侍さんたちパーティがその魔人を倒してくれたから。
お二人を初めとする仲間達には足を向けて眠れません。
「所で今日はちゃんと着ているな」
「はい。脱がずに勝てました」
ぼくは忍者である自分に不満はないんですけど、一つだけ困ったことが。
忍者は他のクラスと違って、自分の身を守るマナバリアを武器に転化することが出来ます。
マナバリアは基本相手より密度が高くないと破壊できないので、武器によってマナを収束するか、魔法によってバリアの特性を変え、間接的に相手のバリア密度を下げないといけません。いわゆる属性付与ですね。
忍者は某念能力風にマナの密度や波長を制御し、魔法とはまた違った形で相手のマナ密度を実質的に下げる事が出来ます。マナ密度のムラを突いて、薄いところをピンポイントで狙う技術です。
なのであれもあったりします。そう、クリティカルヒット。完璧に決まると相手の積層バリアを全てすり抜けての攻撃が可能になります。最終防衛線だけはこれでも越えられませんが、一撃で相手の最終バリアを破壊することが可能なんです。
ただ……そこまで高度なマナ制御を実行するには、全身全ての感覚を動員しなければなりません。
そうすると邪魔になるんですよ……服を着ている事による皮膚感覚の阻害が。
結論。忍者は全裸が最強。父さんのコレクションに有ったエロゲじゃ有るまいし。
しかも困ったことに、不慣れでレベルも低い忍者がこれをやろうとすると、制御を外れたマナが全身から噴出して、北斗のケンシロウさん状態に。
しかも下までデスヨ……
何回服をダメにしたか判りません。その意味でもパーティーのみんなには頭が上がらないぼくだったりします。
「よし、どうやらおまえも一緒に冒険できそうだな」
長かったなあ、と、ぼく自身も思いました。