依頼を終えて、街へと帰る間。
ぼくは前々から疑問に思っていることを聞いてみました。
「地方の村にはたまにああいったモンスターが出るのに、なんで街のまわりとか街道とかにはモンスターが出ないんですか? ここってものすごくゲームっぽい世界ですけど、あくまでも現実なんですよね」
「ああ、現実の癖してものすごくゲーム的だが、それにはちゃんと理由がある。頭痛くなるようなトンデモ話も多いが、それ以上にあっちと変わらない真っ黒な話も多いぞ」
戦士さんはこちらでも古手の冒険者だ。レベル33だと聞いています。
ちなみに馬車の中で寝ている侍さんは27。
ちなみにこの世界、現代風だけど車はないんです。というのも、マナ結晶からエネルギーを取り出して現代的な生活を送ることは出来るんだけど、そのための機構が小型化できないからだそうで。
携帯電話的なものくらいまでならどうにでもなるらしいんだけど、車のエンジン代わりの出力となると、質量比、だったかな? 要するに取り出せるエネルギーに対してそのためのシステムが重くなりすぎて、持ち運びできなくなるらしいんです。
逆に言うと小さくて大してエネルギーを使わないものは想像以上に小型化可能らしくて、こっちの技術でノートパソコンをつくろうとすると……僕たちがいつも携帯しているギルドカードになります。
クレジットカード大なのに、空間投影ディスプレイやらネット接続やらおサイフケータイ機能やら何でも入っています。ゲームまで遊べたりするんですよ。
ちなみに一番人気がウィザードリーのパクリなのは何故なんでしょう。
こんな高性能の上、バッテリーは僕たちの持っている『結晶』から取れるため生きてる限り電池切れ無し。
昔は馬鹿高かったそうですけど、今は減価償却というか、作るための紋章回路が完全に極まってしまったので、レベル1のモンスターから取れる中心核一個で作れるそうです。
電卓と同じ運命を辿った、と、今はここにいない『賢者』さんが言っていました。
昔は高かったそうですね、電卓。前の世界では100円ショップでも売っていましたけど。
さて、街や街道にモンスターが出ない理由ですが。
「街や街道には、マナ結晶を使った現代的機構があるだろ?」
街は当然ですし、街道には街灯が立っていますね。
「あれな、本来はああいう文化的な生活をするためのものじゃないのさ。意外かも知れないが、そっちはあくまでも副産物なんだ。生活様式があっちに似ているのは、俺達みたいな来訪者が持ち込んだせいだしな」
「元々こっちにはそういう発想がなかったの。紋章を扱える賢者達が、よってたかって元の世界の便利な生活を再現しまくったせいなのよ、あれ」
僕たちの話で起きてしまったのか、侍さんも話に加わってきました。
「じゃあ本来なんのためだったんですか?」
「ちょっと考えてみればコロンブスの卵なんだが」
戦士さんはそう言って、倒したモンスターの中心核を眺めました。
ちなみに紋章無しの『外れ核』です。中心核に紋章が残っていると、価値がぐんと上がるんで。
ゲーム的にに言えばドロップアイテムありとなしの差です。
「モンスターは、マナを吸収して生きてる。強いやつほど、濃い目のマナが生きるのに必須になる」
「ですよね」
「なら逆に、まわりのマナが薄いところには、モンスターは寄りつかないんじゃないかって考えたやつがいてな」
あ、その発想はありませんでした。でも、なんか昔聞いた話と矛盾するような。
「あ、でも、確か生きている生物はマナを垂れ流すから、人がたくさん集うとモンスターを引き寄せるんじゃ」
「ああ、それも間違いじゃない」
モンスターが人を襲うのは、ある意味食欲だそうです。生きているものは、たとえ結晶持ちじゃなくてもマナを取り込むため、必然的にマナ密度が濃くなるそうで。
あくまでも相対的なものらしいですが。
ちなみにモンスター同士だと、ある意味『加工済み』とでも言うのか、うまく吸収できないそうです。モンスターが吸収できるのは、モンスター化していないマナだけ。
特に結晶持ちは濃いマナをふんだんに持っている上にモンスター化していないので狙われまくるのだとか。
だからモンスターは冒険者を見ると襲ってくるのですね。
ちなみにモンスターは性欲がないので、エロゲ的展開はこちらの世界ではまずないそうです。魔人か魔王が絡まない限り、色気より食い気だとか。
「人がいる街では余剰マナがどうしても出る。これが出るとモンスターがよってくる。そして襲撃で街が壊れるので一定規模以上の街はなかなか出来なかった。
けど、それを解決したのが、マナ機械なんだ。
マナ機械はマナを吸収して電気みたいな万能エネルギーに変える。そのせいで結果的に街周辺はマナが薄くなってモンスターが寄りつかなくなるんだ。
ま、吸収できるマナにも限界があるから、マナを枯渇させるほどは吸えないし、エネルギー使い放題とも行かないけどな。
んでも元の世界よりエコなのは確かさ」
「そう。オルゴンドライブが出来たおかげで、ある程度は安定した社会が営めるようになったのよ。後はダンジョンね」
「そうそう、オルゴンドライブオルゴンドライブ」
あの機械オルゴンドライブって言うのですか。元の世界で言えば魔力発電機です。
戦士さんは具体的な知識に対しては弱いほうですので。その分理を見通す能力は高いんですけど。
「まあ、ダンジョンについては裏がものすごいんだけど……話したことあったっけ」
「ぼくはまだ聞いたこと無いです。以前賢者さんがダンジョン探検するようになったら教えてくれるって」
ダンジョンは文字通りゲームのあれです。洞窟みたいな所に、外とは比べものにならないくらい一杯モンスターがいて、しかも強いやつばっかりという所。
その上いわゆる『ボス』までいるんです。しかも『沸き』ます。
ついでに言うと何故かダンジョンは街の近くにあります。危ない場所なのに。
どこまでゲームチックなんでしょうか、この世界は。
「まあ、ならいいかしら。そろそろ教える気みたいですし。ダンジョンがなんで出来たかは知ってる?」
「確か、『最強の魔王』が作ったんでしたっけ」
「正解。でも、『何故』魔王がダンジョンを作ったのか。そしてどうやって作ったかまでは知らないでしょ?」
「はい」
考えてみれば、いくらゲームチックな世界でも、ダンジョンが魔法でぱぱっと作れたとは思えません。しかも聞くところによるとそれこそウィザードリーのゲームマップみたいに区画化されてて部屋とか扉まであるって言うし。
「元々ダンジョンは『マナ溜まり』を作ってモンスターをそこに誘導、幽閉するために作られたのよ。モンスターはマナをほしがるから自然マナの濃い場所に居を構える。ならマナの濃い場所を人為的に作ってやれば、っていう発想」
「あ、それってうまい手ですよね」
街の発想と逆だ。
「それを指導したのが、当初は最高の賢者と言われ、のちに至高の魔王と言われたルルーシュよ」
「ぶっ」
なんですかそれは。
「あ、判ったって言うことは見てた世代なのね」
こちらに落ちてくる人がどの時代に出るかはけっこういい加減らしいです。最強の魔王の時代は今から500年以上は昔の筈なんですけど。
「まあ由来はともかく……ルルーシュは最初、街をモンスターの脅威から守るためと称してダンジョンの建設を指導したわ。そしてそれは実際にものすごく有効だった。
そのためその時代、人の生活圏や生活水準が劇的に向上したわ。だから今でも魔王ルルーシュは『至高』と言われるの。
それがのち200年にわたる魔王支配のためだったとしても、その功績は無に出来ないから」
「そういう言い方だと、裏があるみたいですけど、何があったんですか?」
「ええ。ダンジョンシステムは周辺のモンスターを集めるので、治安維持にはものすごく効果的だわ。定期的に中のモンスターを『間引き』しておけば核も集められるしトレーニングにもなる。
ダンジョンの中は基本下層ほどマナが濃くなるんで、モンスターの強さが自然と段階的になるのも特徴だったわ。だんだん強くなるから、まさに『訓練場』としての価値も高かったのよ。
でもね、それは魔王の仕掛けた壮大な構想の一部だった。
彼はね、周辺のマナを集める基本システム、そこに己の力の端末を繋いでいたの。世界を巡り、至る所に町の人の力を使って築かれたダンジョン。彼はそのダンジョンに集まったマナの一部を、己の力として取り込んだのよ。
結果、大量のマナを継続的に集められるようになった魔王は、10万の軍勢を片手で葬るほどの力を得てしまったわ。200年後にこの仕掛けに気がついた勇者が、魔王のネットワークを破壊するために、全世界のダンジョンを建設順に回って、密かにシステムをクラックするまでの間ね」
うわ~、それなんてドラクエ。
「なんというかドラゴンクエストチックよね。この世界じゃ、元の世界でよく言われていた、『なんで魔王を倒すのに世界中のダンジョンをちまちま巡っているんだ。特殊部隊を養成して魔王を暗殺しろ』って言う理論がそもそも成り立たないのよね。
そうしたくても魔王単体が馬鹿強い上、全く隙がないんですもの。
対抗手段はただ一つ、魔王が張り巡らしたネットワークに密かに介入して、魔王と対決するその瞬間に力の源を立つしかなかった。
幸いこの策は成り、それでも無茶苦茶強かった魔王も、何とか手の届く強さにまで弱体化できた。というか、強さはそのままでも回復が出来なくなったから何とかなったのよね。
あなたもいやでしょ、ベホマ使う魔王なんて」
それなんて無理ゲーですか。
「魔王ルルーシュはいわばHPとMPが、毎ターン全回復する能力を持っていたみたいなものだったし。ま、何とかなった訳だけど、今でも彼の作ったシステムとダンジョンは生きているわ。ボスが沸くのもそのせいよ。
あれはね、周辺のマナを収集してダンジョン内の環境を保つと同時に、たまりすぎたマナを元にボスモンスター化させることでマナの密度と量を安定化させるシステムだから。
魔王が生きていた頃は、タネがバレた際の施設護衛目的でもあったらしいけど。
でもね、あれのおかげでモンスターの大量発生とかが抑えられているものだから、今更止められないのよね。
それにそうやって生成できるボスの中心核って、価値高いし」
汚い、さすが人間汚いです。人間に掛かればモンスターも資源です。
「たまに放置しすぎてダンジョンバーストって言う、マナのたまりすぎによるカタストロフが起きたりするけど、それは近くの街の管理責任だし。まあこの辺は安心ね。私たちのギルドが間引きしてるから」
こうして冒険者は安定した糧を稼ぐんですね……
「あとね、ダンジョンの強さがこう一本道ルートで段階的に強くなっているのも、魔王時代の名残よ。
このシステム、今の時代から見てもものすごく高度でいまだ再現できていないんだけど、一つだけ魔王にもどうにも出来ない欠点があったのよね。
というのは一度設置すると止められない……正確には止めるとネットワークが破綻するんで、強化・改修が出来なかったこと。ダンジョンの設置によって魔王はだんだん強くなっていき、ダンジョンの強度やマナの収束率、ボスの強さとかはどんどん上がっていったけど、最初の頃作ったダンジョンを強化することは出来なかったの。
だから今も残る魔王城跡を最強とした、ダンジョンランクが存在しているのよ」
過去魔王を倒した勇者は、弱いダンジョンから順番に巡ることで、魔王にバレないようにこのネットワークに介入が出来たらしいです。
順番を無視していたら、絶対に途中でバレて、もくろみが潰えていたとか。
「ま、魔王自体はその後も出現しているし、この魔王ルルーシュのネットワークに倣って、バレないようにいろいろ偽装した上でダンジョンに当たるマナ供給システムを構築するのは、魔王としてのたしなみみたいなものになったわ。
今じゃそっちのシステムも、『魔王システム』として確立しているくらいだし」
「そ、そんなものまであったんですか?」
「有るわよ。まあ今じゃ魔王になるリスクも知れ渡っちゃったから、魔王化を目指す馬鹿は大分減ったけどね。でも貧民とかからすると一発逆転の最終手段だから、10年に一度くらい雑魚魔王が沸いたりするわけ。そんなのはすぐ冒険者に討伐されちゃうけどね」
昨今はリターンも大きいけどリスクも大きい魔王化より、魔人化を狙う人(馬鹿)の方が多いとか。
「でも魔人とかってそんなにホイホイ生まれるものなんですか?」
「そんなわけないでしょ。でもね……ちょっときな臭い噂が流れているの」
「ああ。ここ100年ばっかり停滞していたマナ科学に、新展開があったという噂があってな」
「噂、なんですか?」
新発見ならもっと広まりそうなんですけど。
「ああ、悪い面でな」
「成功率の高い魔人化の方法が確立されたらしいのよ」
「ぶ」
ぼくはまた吹き出しました。
なんですかそれは!
「費用とかが馬鹿みたいに掛かる上、魔人化してもあんまり強くなれない……つまり一見メリットが少ないらしいんだけど」
「老化が抑えられるのが大きくてな。つまり不老不死を求める権力者達が関わっているらしい」
あーそーゆーことですか。永遠の若さを求める女の人とか、多そうですものね。
「でも魔人化は魔人化……人をやめることには変わりない。最初はまだまともらしいが、やっぱり破綻するらしくてな」
戦士さんがどこかし遠くを見るような目出いいました。
「まだあなたには早いけど、いずれはあなたもそういう堕ちた人と対決することになるかもしれないわ」
ぼくを召喚した人も、上を目指した魔人ですしね。
「じゃ、ぼくももっともっと頑張ります!」
そういったぼくの頭を、侍さんが優しくなでてくれました。
ふと気がつくと、馬車は街の入り口近くに来ていました。
街を囲う城壁と、ダンジョンの入り口が遠目にも見えてきます。
ぼくは今この場にいないギルドメンバー……賢者さん、僧侶さん、盗賊さん、魔術師さん達のことを思い出しながら、ダンジョンに挑む日のことを考えていました。
*魔王システムはマンション&ドラゴンズ及びダークローダーズなんかで藤浪&佐々木様が確立したあれっぽいものです。元ネタとして参考にさせていただきましたのでここに記しておきます。