ういざーどりぃな世の中で   作:ゴールドアーム

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04 職業をクラスという訳

 「それじゃ明日はダンジョン実習だな」

 

 そう言われた次の日、ぼくは街の隣にあるダンジョンの入り口に、ギルドのみんなと一緒に立っていました。

 今日のメンバーは戦士さんと侍さんのほか、盗賊さんと魔術師さんと僧侶さんが来ている。

 それに加えて忍者のぼく。ギルドで組めるパーティーとしてみれば、大体中の上ランクになるのかな。

 最強メンバーは、僧侶さんとぼくが抜けて、聖騎士さんと賢者さんが入る形になる。

 この世界で現在見つかっている職業(クラス)は8つ、戦士、魔術師、僧侶、盗賊、侍、聖騎士、賢者、忍者。

 かなりウィザードリーと被ってます。聖騎士が君主で賢者が司教ならそのまんまですし。

 もっとも、ぼくが一度だけ聖騎士さんと話した時、実はある意味そのまんまだと聞かされました。

 

 「元々ゲームのウィザードリィじゃな、ゲーム中の上級職……ビショップとかニンジャとかは、本来別の呼び方があったんだよ。ただ、元になったD&D……今のじゃなくて、TSR発売の第一版の方、というかAD&Dか、そっちと被りすぎてまずかったから変えたって言う噂があってな。まあ正確な話はどこまでそうかは知らないが、上級職本来の名称は、ロード、サムライ、ニンジャ、ビショップじゃなくて、パラディン、レンジャー、アサシン、セージだったらしいな」

 

 パラディンは聖騎士、レンジャーは一応野伏という和訳もありますけどそのままレンジャー、アサシンは暗殺者、セージは賢者です。

 元になったD&Dというか旧版のAD&Dでは、パラディンは僧侶系の魔法も使える、正義の味方の騎士、レンジャーは野外活動に長けた、魔法使いとドルイド……自然系の魔法を使える特別な僧侶……の魔法を使える軽戦士、アサシンは不意打ちで大ダメージを出せる盗賊、賢者は元ネタ無しだそうです。

 ぼくが知っているウィザードリー系のゲームにあったモンクとかアーチャーとか超能力者とかは今のところこちらにはありません。

 

 それはさておき。

 

 街の隣のダンジョンは、公称ランク16、ダンジョンとしては中堅レベルだけど、奥が深く、弱い敵から強い敵まで幅広く出るダンジョンとして知られています。

 近くの森の奥に濃いマナのたまりやすい谷があって、そこが一種の自然ダンジョンになっているので、そこからあふれたモンスターがここのダンジョンに入り込むかららしいです。

 実際、このダンジョンは最下層までいくと逆に昇っていく道があって、そちらから出るとくだんの谷の近くに出るとか。

 ダンジョンの建設時も、谷からのモンスターをダンジョンで足止めするのが目的だったらしいですし。

 なお、奥の谷は正式にはダンジョンじゃないけど、事実上のダンジョンとして認定されているそうです。

 ランク24、魔王城の50は別格としても、かなりの上級ダンジョン。

 聖騎士さんと賢者さんがいなければ足を踏み入れることすら出来ない場所だって聞いてます。

 ちなみに聖騎士さんはレベル70、賢者さんは78。この世界でもトップランクの冒険者なんだけど、どっちもちょっと年齢がヤバいところに来ているので後継者の育成を積極的にしています。

 例の問題でパワーレベリングするわけにもいかないので、地道に鍛えまくるしかないのだとか。

 そういう意味では、ぼくなんかかなり幸せな方です。召喚された経緯はあれですけど、彼らみたいないい人に助けられましたし。

 捨て駒にされたり搾取されている人もいるとか。

 まあバレ次第そういう事をした冒険者は粛清されちゃうそうですけど、そういう真似をする下衆は後を絶たないそうで。

 

 なんにしても、郊外のモンスターハントや護衛といったクエストっぽいお仕事の段階を過ぎて、ぼくもいよいよ本格的なダンジョンデビューです。

 普通は初心者ダンジョンでモンスターとの戦い方を学び、次にクエストという順番なんだそうですけど、そうするとちょっと問題があるそうで、ぼくはクエストからになりました。

 ちなみにその問題とは、低レベルの忍者はとにかく死にやすいんですとか。

 実はここもウイザードリーっぽく、この世界にも転職の概念があります。

 システム的に言うと後期の派生系ゲームに近いですね。

 いわゆる能力値やレベルが転職しても下がりませんし、寿命も短くなりません。

 レベルは紋章入れ替えに伴う結晶の再結合・再構成・最適化のため、クラスによっては少し下がることがあるそうですけど、決してゼロにはなりません。

 経験値の総量からレベルを再計算する感じが近いです。

 あとヒットポイントにあたる積層バリアの層数が変動します。

 戦士系から魔法使い系に変わると大幅に減りますし、逆は大幅に増えます。

 というのはこの世界、HPとMPがある意味共通なんです。

 総マナ量とでもいう隠しパラメーターみたいなものがあって、積層バリアを形成するための固定化マナと魔法を使うための自由化マナをそこから割り振る形になるそうです。

 これは紋章回路についても同等なんですけど、一部の特別なものを除いて、各クラスの紋章回路が消費するマナは微量(大体1つの技能・能力で0.1HPくらい)なので、クラス無視とかの無茶をしなければ紋章回路の負担が影響することはないそうです。

 より正確に言うと、この負担を大幅に軽減するためにクラスという概念があるのだとか。

 紋章回路は、結晶が導いたマナを物理的な力に変えるためのもの。ただ、適当に詰め込んでしまうと負担が指数関数的に増えてしまうのだそうです。

 そのため、賢者という存在が生まれるまでは、僕たちのような冒険者は存在していなかったのだとか。

 とある賢者としての資質を持っていた人が、紋章回路に潜んでいた意味を解析し、プログラム言語のようにそれを組み合わせて、現在の冒険者としてのクラスに当たる職業系統別紋章セットを生み出したのだそうです。

 単純に組み合わせたらパンクする紋章回路を、サブルーチンや関数を駆使してコンパクトな塊としていく様がちょうどプログラミングのクラスという概念に似ているのが、戦士とか魔術師という職業を『クラス』と言うことの元になっているのだとか。

 今は名前の残っていない『始原の賢者』様ですが、この概念を築けた理由は僕たちのような来訪者……異界からの人物との接触のためなのは有名な事実です。

 ぼくにはさっぱりな概念ですけど。

 

 話を戻すと、今の説明にもありましたけど、クラスとして初めて生まれたのは『賢者』です。ウィザードリーとはちょっと違って、賢者は『紋章』の解析と応用の力を持ちます。そして最大の違いは、賢者は『魔法を覚えられません』。

 魔法使い、僧侶、双方の呪文を使えたウィザードリー系との最大の違いがこれです。

 但し、彼らは『覚えられない』……紋章回路に魔法使用の紋章を組み込めないだけで、『外付けであらゆる呪文紋章を使用できる』というものすごい能力を持っています。

 さすが紋章の専門家です。

 戦士が武器を振るうように、賢者は外付けで魔法使用のための紋章アイテムをいくつも接続して、適宜取り替える必要はあるものの、その場その場に合わせてあらゆる魔法を駆使できるのです。ものによっては、魔法だけではなく、モンスターの持っている特殊能力すら再現可能です。

 FFの青魔法ですね。要はモンスターの特殊能力が刻まれた中心核を改造・接続して再現しているわけですが。なので喰らってラーニングするわけではないんですけど。

 その分、賢者のクラスを得るためにはその負担に耐えられるレベルと紋章に対する高度な知識が必須です。また、魔法を使用するという点では魔法使いや僧侶と変わらないので、双方の魔法使用に対する知識と経験も必要です。

 何しろこの世界の魔法、きちんと使わないとフレンドリーファイヤーしますから。

 なので普通魔法使いと僧侶をそれぞれ経験し、レベルを上げた後賢者になるのが普通です。

 たまに最初から賢者という天才もいるそうですけど、それは本当に例外です。

 それと同じなのが忍者。忍者はその特性上、能力が開花していないと本当に脆い存在です。

 装備無し……その上での極限を目指すため、他のクラスが装備という外付け紋章の形で補っている部分を、忍者は全て自前で持っています。その負担度は呪文を抱え込んでいる魔法使いや僧侶に匹敵し、MP分が無いだけ魔法使いよりましという重さです。魔法系クラスにおいて呪文の負担度はかなり大きいので、クラスとしての本体だけなら忍者の紋章のプログラム的な重さは現在のクラスで最大です。

 その重さゆえ結晶を成長させるために必要なマナ総量は全クラス最大となり、しかもいわばじりじりと基礎能力が伸びることによって強くなる形の忍者は、序盤のもろさに関しては魔法使い以下です。

 普通忍者の道を望む人は戦士や盗賊あたりで充分基礎的な力を付けてから忍者に転職します。それなら再構成で多少レベルが下がっても、忍者の持つ力を十全に生かせます。

 ちなみに純粋な忍者1レベルの実力は、1レベルモンスターですら2対1では勝てない可能性が高いくらい。ただ、その代わりとして転職忍者がどうしても持っている戦士や盗賊としての癖がないので、真の究極忍者になれると言われてますけどね。

 ぼくは別段そんなのにはなりたくないです。

 

 

 

 そんなわけで、ぼくはみんなに助けられてから、ゆっくりと成長させてもらいました。

 ただでさえ成長の遅い忍者が、普通の冒険者の半分近いペースで修行していたので、今のレベルになるまで4年近く掛かってしまいました。

 戦士や盗賊なら、10レベルになるまで半年、1年あれば13レベルくらいにはなります。

 そこから先が長いんですけどね。それでも2年間頑張れば20レベルはかるく超えます。

 そこから30レベルになるまでにまた2年くらい、40レベルになるには更にそこから4年くらい掛かるそうですけど。

 上のレベルになるほど成長が遅くなるのはゲームと同じですね。

 戦士さんや侍さんは若い頃からバリバリの人ですが、今はそろそろ青年というのがきつくなってきていますし、聖戦士さんや賢者さんはどっちもご老人と呼ばれる頃合いです。

 ぼくなんか孫扱いですし。

 一番年が近い僧侶さんでも、立派な成人です。

 今のぼくですと、ダンジョンでの間引きを普通にこなして、年1レベル上がるかどうかだそうですから、しばらくは今の強さで戦うことになります。

 但し、その一年、全く成長しないわけではありません。

 この世界はゲームに近く、ゲーム的な方法で強くなると言っても、ゲームそのものじゃありません。

 同じレベル、同じクラス、同じ装備でも、しっかりそこに強さの差が出ます。

 いわば隠しパラメーター・熟練度が存在するようなものです。

 同じ能力であっても、経験の長い人の方が攻撃の有効度も回避率も確実に上です。

 時にはレベルの差を覆すくらいに。

 でも、それでも3レベルの差はまずひっくり返せません。

 これはもういわば技術以前の差です。小学生の全国柔道優勝者でも、大人の柔道経験者と戦ったら勝つのは難しいでしょう。技術以前に、相手を投げ飛ばすのに最低限必要なパワーとリーチが足りません。そういうレベルでの差が生じます。

 結晶と紋章の与える力は、それほど絶大なんです。

 実際70レベルの聖騎士さんともなると、もはや世界が違います。僕たちがウィザードリーやっている隣で無双シリーズをしているようなことになりますし。

 剣閃一撃でゴブリンの群れ一つが丸ごと全滅しますし。森に向かって本気の剣を振るったら開拓地がキロ単位で出来るというのは有名な話です。

 壁がマナ強化されているダンジョン内ならともかく、屋外で本気を出すと周辺の土地ごと滅茶苦茶にしちゃいます。

 守りの方も半端なく、確かHPは600越え、おまけに戦士さんでも普通の攻撃じゃ1枚削るのが精一杯とか。

 魔王城だとそんな聖騎士さんの守りを一撃で100枚抜くモンスターもいるというんですから、昔の魔王や勇者ってどんだけ強かったんでしょうか。

 あ、ちなみに勇者は職業として成立するらしいんですけど、現在は伝わっていません。何しろ最強にして至高の魔王に喧嘩売るのに、気づかれないようにスネークしていた勇者ですから、味方にすら情報を漏らしていなかったそうで。

 現在も残るダンジョンのモンスターの強さから、推定100レベルを超え、かつ特殊な専用紋章を宿していたことは確定らしいです。

 パーティーにそれを知る賢者がいたのも確定です。

 それ以外の仲間に至っては、職業も伝わっていません。唯一、目立たぬように当時も今も変わらない、6人パーティーだったことが伝わっているのみです。

 

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