ボクたちは、今、間引き予定のダンジョンの前に居ます。
メンバーは戦士さん、侍さん、盗賊さん、僧侶さん、魔術師さん、忍者こと僕の6人。
僕は今回がダンジョンデビューです。
「これからダンジョンだが、質問とか確認したいことあるか?」
戦士さんが僕に聞いてきました。僕はいくつか聞きたいことがあったので、ちょうど良かったです。
「ここのダンジョンで、罠とかみたいな気を付ける物ありますか?」
「ああ、ゲームだといろいろあるからな。落とし穴とか、一方通行の壁とか」
「だがこのダンジョンにはそんなもんは無い」
盗賊さんが、専門家らしく戦士さんに代わって答えました。
盗賊さんはレベル41のベテランさん。周辺界隈でも一二を争う腕利き盗賊です。
「実のところ、ここだけはゲームと違ってな、ダンジョン内にはトラップはまず無いし、残念ながら宝箱も無い。理由は判るか?」
僕は少し考えて……その理由に思い至りました。
「あ、ダンジョンは魔力を餌にモンスターを誘引して閉じ込めるシステムだから」
「正解だ。この世界のダンジョンは原則宝とかを隠したものじゃ無い。侵入者を警戒する必要性が薄いんだ。むしろいわゆるスタンピードみたいな、モンスターが出てくることを警戒しないといけねぇ」
ですよねぇ。
だとすると、盗賊さんがいる意味、あんまり無さそうなんですが。
「だからこういう、魔王ルル時代の町近ダンジョンだと、普通盗賊の出番はまず無い」
「じゃあなんでわざわざ?」
すると盗賊さんは少し顔を歪めて言いました。
「ここはその数少ない例外なんだよ。ここの中層に、コボルトがコロニーを作っているからな」
「コボルト、ですか?」
僕が知っているコボルトは、ゴブリンより弱いモンスターですが。
「コボルトは個体ではかなり弱いモンスターだが、数集まってコロニー作られると途端に厄介極まりないモンスターに化けるんだよ。この世界のモンスターは繁殖しないが、コボルトやゴブリンは擬似的に繁殖して数を増やすんだ。どっちかって言うとスライムが分裂するようなもんなんだがな」
「この世界のモンスター、マナ風船ですしね」
前にも言いましたか、この世界のモンスターは基本的にマナの塊です。
「ゴブリンやコボルトは、核の仕様の関係で、ため込んで制御出来るマナの限界が低いんだ。普通はそうなるとモンスターは進化するんだが、ゴブリン達はそこで斜め上に行っちまったモンスターだ。質じゃなく、数の方向に行っちまったんだな」
「数、ですか?」
僕がそう聞くと、今度は魔術師さんが乱入してきました。
「ええ、忌まわしいことに。どこから拾ったのか、ヤツら、魔石でインターネット作りやがったんですのよ、本能だけで」
「ええっ!」
流石に初耳でした。この世界、魔力ネットは冒険者カード見ても判る通り前世並みに発達してますけど、なんでゴブリンが?
ちなみに魔術師さんはレベル29のお姉さんです。侍さんと真逆の『貧』スタイルですが、決して口にしてはいけません。『お姉さん』です。
うっかり見た目から『炉』などと言おうものなら……。
それはさておき。
「ゴブリンやコボルトの核は、とにもかくにも質がいまいちで、と言うか、そういう核にしかなれない魔力が集まってできているモンスターなんですの。それでもモンスターの本能的な生き汚さはありますから、モンスターには珍しく集団を形成するのですわ」
「ウルフ系みたいな、元々集団を形成する資質の動物がモンスター化したタイプは自然にそういう方向に行くんだけどね。ゴブリンなんかはある種の突然変異だ」
僧侶さんが合いの手を入れてきました。
レベル21の、僕に一番年の近い美青年です。
この世界の僧侶は、ゲーム的な医者ではなく、どちらかというとエンジニア寄りです。
医者としての技術を持つ人もいますが、基本僧侶の役割がマナバリアの修復ですので、どうしても修理工的な方面になっちゃうんですよね。
なお残念ながらこの世界、アンデッド系は全く原理が違うので僧侶さんがディスペルとかターンアンデッドすることはありません。
「なんでそんな特性がって言い始めると魔力とアカシックレコードとかの専門的な話しに行っちゃうから置いとくけど、ゴブリンやコボルトは、モンスターとしての限界の低さを『数と連携』で補う方向に謎進化したモンスターなんだ」
「一見するとゴブリンリーダーだとかソルジャーだとか、部族を形成するように進化しているみたいだけど、実態は生物の進化よ。ゴブリンキングは脳髄、ソルジャーは手、ザコは脂肪みたいな、集団で役割分担して一体のモンスターを形成しているみたいなものなの」
うわ、なんでまたそんな進化を。
僕がそう思っていると、盗賊さんが言いました。
「ゴブリンはまだましだ。コボルトはさらに弱かったせいか、人の利点を取り込んで進化しやがった。だから個体的には最弱なのに、集団化すると最悪になる」
なぜ盗賊さんが、と思った僕の脳裏に、イヤなひらめきが浮かんでしまいました。
「コボルトって、ひょっとして、道具とか罠とか」
「お、鋭いな。その通りだ。ヤツら、寄りにも寄って人間の持つ創造性を取り込みやがった。コボルトのコロニーがダンジョンに巣食うと、ダンジョンが要塞化しちまうんだ。こうなると普段出番がねぇ盗賊がいないと歯が立たなくなる」
「そこで止まっていてくれれば、まだましだったんだけど」
魔術師さんがため息交じりに言います。
「インターネットは伊達じゃないわ。コボルトのコロニーが巨大化すると、モンスターが『連携』し始めるのよ。こうなると魔力濃度詐欺のダンジョンになりかねないの」
なんですかそれ、あ、ひょっとしてこのダンジョン。
「ああ、中層に『罠』があったって報告が来てな」
どうやら、僕のダンジョンデビューはなかなかハードなことになりそうです。