遅咲きのプロゲーマー~W杯優勝GK、36歳からeスポーツへ~   作:タイラー・カイマー

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第16話 Ward

【Ward(ワード)】

Map上に設置し、周囲の視界を確保する道具。敵のWardを破壊すれば、その場所の情報を相手から奪うこともできる。

 

*

 

 ARCANAのレギュラーシーズン第2戦。WISHとのGame1。

 

 大型スクリーンでは、Ban & Pickが進んでいた。

 

 客席の一角で、Uedaは父親と並んでステージを見つめていた。

 

 以前の非公開対抗戦で、チームARAKIのTopとして勝利に貢献した少年である。

 

Ueda「まさか、お父さんから観に行こうって言うとは思わなかった」

上田父「前の対抗戦、面白かったからな。今度は公式戦も見てみたくて」

 

Ueda「ルール、まだ全然分かってないじゃん」

上田父「前よりは分かるよ。少しは」

 

 父親はそう答えながら、客席を見回した。

 

 先ほどの選手入場から、会場の熱はまだ冷めていない。あちこちで揺れるコーラルピンクのタオルやボードには、Lilyの名前が入っている。

 

上田父「……すごい人気だな」

Ueda「Lily、配信でも人気あるからね」

 

 父親の視線が、ステージのARAKIへ移った。

 

上田父「……荒木さんの方が、すごい人なのにな」

 

 ワールドカップで日本を初優勝へ導いた、国民的英雄。サッカーの試合なら、あの人が誰よりも大きな歓声を浴びるはずだった。

 

Ueda「でも、ここSOLの試合だよ」

 

上田父「……そうか。そうだよな」

 

 父親は、少し困ったように笑った。

 

Ueda「僕はARCANA応援するけどね」

上田父「私もだよ」

 

 その時、大型スクリーンの最後の枠が埋まった。

 

HARU「さあ、両チームのPickが出揃いました!」

 

 大型スクリーンへ、両チームの編成が表示された。

 

〈ARCANA〉

Pika/Top/レネクト

ZERO/Jungle/セジャニ

Shadow/Mid/オリアネ

Zark/ADC/ジンク

ARAKI/Support/ブラウン

 

〈WISH〉

Knox/Top/オルン

Mantis/Jungle/J9

Ciel/Mid/ヴィクト

Kite/ADC/エズレール

Lily/Support/セラカ

 

NAGI「Lily選手のセラカは、味方を回復して支えるSupportです。エズレールと組んだWISHのBotは、かなり守備を重視した組み合わせですね」

HARU「対するARCANAは、開幕戦と同じ5体です!」

 

 画面が切り替わる。

 

HARU「Game1、スタートです!」

 

*

 

 試合が始まって、まだ数分。

 Botでは、早くも差が表れた。

 

 Lilyの操る回復僧侶・セラカ(Support)は、既に何度かZarkの射撃を受けていた。

 それでも、牽制のために兵士の列の横へ出る。

 

ARAKI「今だ」

Zark「うっす!」

 

 ARAKIが操るのは、大盾を構えた大男・ブラウン(Support)。

 冷気砲がセラカ(Support)を捉え、その動きを鈍らせた。後退を始めたところへ、Zarkの操る青髪の少女・ジンク(ADC)も前へ出る。

 

 逃げる先へ、銃弾が容赦なく突き刺さる。

 セラカ(Support)がTowerへ辿り着く前に、その体力は尽きた。

 

HARU「FIRST BLOOD! ZarkがLilyを倒しました!」

 

 Kite(カイト)のエズレール(ADC)は、ビームを放つ青年だ。

 その姿がふっと消え、Tower側へ現れる。Lilyが倒れた時には、既に追撃の届かない位置にいた。

 

NAGI「Lily選手、少し迂闊な位置取りでしたね。体力が減っているのに、味方ADCから離れてしまいました。ARAKI選手は、その隙を見逃しませんでした」

 

HARU「一方、Kite選手は逃げ切りましたね」

NAGI「エズレール(ADC)には、距離を離すスキルがありますからね。捕まる前に使って、退避できました」

 

 Zarkが兵士を敵のTowerへ押し込む。

 その間に、ARAKIはLaneを離れ、川へ向かった。

 

HARU「ARAKI、ここでWISH側の森へ入っていきます。深い位置にWardを置きますね」

 

 客席で、上田父がスクリーンを指した。

 

上田父「荒木さん、何をしているんだ? 味方から離れてしまったけど」

Ueda「Wardを置きに行ってるんだよ。周りが見えるようになる道具。監視カメラみたいな」

 

上田父「……ああ、そういえば観戦画面では全てが見えるんだったな」

Ueda「そう。でも、プレイヤーは味方やWardの周りしか見えないんだよね」

 

 父親は、画面に映る森を見た。

 木々の間を、ARAKIが進み、森の奥へWardを置く。

 

上田父「なるほど。奥の方に置けば、もっと早く敵に気づけるのか」

Ueda「そうそう。相手を倒せたから、その分タカのパパが奥へ行けたんだ」

 

 父親は頷き、Botへ戻っていくARAKIを目で追った。

 

*

 

 WISHの選手席で、Lilyはモニターを見つめていた。

 あれほど簡単に捕まるとは思わなかった。逃げようとした時には、もう遅かった。

 

Lily「ごめん。前に出すぎた」

Kite「気にすんな」

 

 Lilyは小さく頷いたが、マウスを握る手から力が抜けなかった。

 

 JungleのMantisが口を開く。

 

Mantis(マンティス)「やっぱBotはうめえな。Mid狙うぞ」

 

 誰も、Lilyを咎めなかった。

 Mantisの操る、槍を持った王子・J9(Jungle)が、森を抜けて中央へ向かう。

 

 一方のShadowはMapへ目をやった。

 

 敵Jungleは、しばらく姿を見せていない。

 ARAKIが森の奥に置いたWardにも、映っていない。

 

 別の道を通って、こちらへ来ているかもしれない。

 

 すると、Ciel(シエル)の機械仕掛けの魔術師・ヴィクト(Mid)が、僅かに前へ出てきた。

 

Shadow「J9(Jungle)、Midに来るかもしれません。下がります」

 

 Shadowの操る機械少女・オリアネ(Mid)が、後退する。

 

 観客用の画面には、川の茂みに潜むMantisのJ9(Jungle)が映っていた。

 だが、オリアネ(Mid)は既に仕掛けられる位置から離れている。

 

Mantis「チッ、勘づかれたか……」

 

 J9(Jungle)はLaneへ出ることなく、森へ引き返す。

 

HARU「Mantis、Midを狙っていましたが、仕掛けられません! Shadowが先に下がっています!」

NAGI「素晴らしい危機管理ですね。敵Jungleが見えない時間と、対面の動きを合わせて、危険を読んだようです」

 

 取り逃した兵士が、倒れていく。そのGoldは得られない。

 

 それでも、WISHにKillは渡さなかった。

 

 その後も、WISHはMidを執拗に狙った。

 Mantisが姿を消すたび、Shadowは視界の空白と対面の動きから推測する。危ない時は兵士を捨て、後退。

 

 その間、BotではARAKIとZarkが、Lilyたちを押し込み続けていた。

 

*

 

 しばらくすると、1体目のドラゴンを巡り、両チームが下側の川へ集まり始めた。

 

Pika「対面、下へ行きました。ワタシも兵士を押してから飛びマス」

ARAKI「了解。Pikaを待つぞ」

 

 WISHのTop、Knox(ノックス)は既に川へ入っていた。

 そして、Topの兵士を処理したPikaが、長距離移動の呪文・Teleportで合流する。

 

 これで、5対5。

 

 その時、Lilyのセラカ(Support)が味方の前衛から少し離れた。

 

ARAKI「セラカ(Support)、取るぞ!」

ZERO「はい!」

 

 ブラウン(Support)が前へ出る。

 セラカ(Support)は慌てて下がり、瞬間移動の呪文・Flash(フラッシュ)で後方へ飛んだ。

 

 その先へ、ZEROのセジャニ(Jungle)がULTで氷の塊を放つ。

 

HARU「必殺の氷結が命中!! またしてもLilyが捕まったぁ!」

 

 セラカ(Support)の全身が凍りつき、動きが止まった。

 

Lily「ううっ……」

 

 Lilyの指が、慌ただしくキーを叩く。

 

 Pikaのワニ戦士・レネクト(Top)が、移動スキルで距離を詰める。

 Shadowのオリアネ(Mid)も攻撃を合わせ、Zarkのジンク(ADC)の銃弾がとどめを刺した。

 

HARU「ARCANA、ZarkがKillを獲得します!」

 

上田父「よし! これならドラゴンも取れるんじゃないか?」

Ueda「いけぇ!」

 

 だが、WISHの4人は退かなかった。

 

Mantis「前の2人、取るぞ!」

 

 戦場に、法螺貝の音が響く。Knoxの操る獣人の鍛冶屋・オルン(Top)のULTの合図だ。

 

 川の奥から、巨大な獣の幻影が突進してくる。セラカ(Support)へと踏み込んでいたPikaのレネクト(Top)と、ARAKIのブラウン(Support)が、まとめて打ち上げられる。

 

 そこへ、MantisのJ9(Jungle)が飛び込む。ULTにより岩壁を生み出し、2人を完全に閉じ込めた。

 

Pika「出られマセン!」

ARAKI「クソ、してやられた!」

 

HARU「WISHが反撃! ARCANAの前衛を完全に捕まえました!」

 

 外側から、Kiteのエズレール(ADC)と、Cielのヴィクト(Mid)の攻撃が集中する。

 

 身動きを封じられたレネクト(Top)、そしてブラウン(Support)の体力が遂に尽きる。更に後ろの3人にも攻撃が刺さり続ける。

 

HARU「Pika、そしてARAKIが倒されました! 残る3人のHPも削れていきます!」

 

 不利を悟り、ARAKIは決断する。

 

ARAKI「全員下がれ! ドラゴンは渡す!」

 

 ARAKIの号令で、残る3人が退避する。

 

上田父「ああっ、せっかく最初に1人倒したのに……」

 

NAGI「WISH、見事な連携で人数差を跳ね返しましたね」

 

 WISHは追い続けず、ドラゴンへ向き直り、そのまま撃破する。

 

HARU「1体目のドラゴンはWISH! Lilyを失いながら、2Killとドラゴンを取り返しました!」

 

Kite「よし、取れた」

Lily「……よかった」

 

 安堵はした。

 けれど、ヘッドセットの向こうの明るい声に、自分も同じ調子で返すことはできなかった。

 

 また、最初に倒れてしまった。

 Lilyは、自分の操るセラカ(Support)へ視線を戻す。

 

 一方、ARCANAのVCには、短い沈黙が落ちた。

 

ZERO「セラカ(Support)に、スキルを使いすぎましたね」

Pika「ワタシも、追いかけるのに移動スキルを使ってしまいました」

 

Shadow「次は使うスキルを絞りましょう」

ARAKI「ああ、そうしよう」

Pika「ラジャ!」

 

ARAKI「…………」

 

 大型スクリーンに、ARAKIの顔が大きく映し出された。

 

上田父「荒木さん、眉間の皺が増えているな。そんなにまずいのか?」

 

 隣を見ると、Uedaも同じように眉間へ皺を寄せていた。

 

上田父「……お前も、どうした?」

Ueda「いや……まだARCANAが不利になったわけじゃないよ。元々リードしてたし」

 

 大型スクリーンが、再びゲームの画面へ切り替わる。

 

*

 

 それから数分後。2体目のドラゴンを巡り、両チームが再び川へ集まった。

 ARAKIたちの先に、Wardを置きにきたらしいLilyのセラカ(Support)が見える。前衛から、ほんの僅かに離れている……。

 

ARAKI「今度は手短に取るぞ!」

Pika「ラジャ!」

 

 選手席で攻撃号令が飛ぶ一方、客席のUedaが、目を見開いた。

 

Ueda「まさか…………」

 

 スクリーンでは、Lilyのセラカ(Support)に対して、ブラウン(Support)、レネクト(Top)、ジンク(ADC)が隙間なく攻撃を叩き込む。

 

Lily「……」

 

 また、自分だ。

 

 マウスを握るLilyの指が、固く強張った。

 

 瞬く間にセラカ(Support)のHPは尽きた。

 

HARU「またZarkがLilyを倒した!」

NAGI「今回はARCANA、ULTを残せています。少ない手数で仕留めましたね」

 

 その瞬間、横手の茂みから槍が伸びた。

 

Zark「あ……!?」

 

 MantisのJ9(Jungle)は、Wardの視界を避けて遠回りし、この茂みで待機していた。

 そこから突進し、ジンク(ADC)を岩壁で囲む。

 更に法螺貝が鳴り、Knoxのオルン(Top)が放つ獣の幻影までが後衛側へ迫った。

 

ARAKI「Zarkを守れ!」

ZERO「止めます!」

 

 セジャニ(Jungle)の氷が、J9(Jungle)を凍らせ、Shadowのオリアネ(Mid)も衝撃波で敵を引き戻す。

 ジンク(ADC)はFlashで岩壁を越え、幻影からも離れる。

 

HARU「WISH、今度はZarkを狙った! ARCANA、ULTを使って守ります!」

 

上田父「よし、逃げられた!」

Ueda「でも、前の2人が……!」

 

Pika「これはまずいデス……!」

 

 Kiteのエズレール(ADC)とCielのヴィクト(Mid)の攻撃が、レネクト(Top)へ集中する。

 ブラウン(Support)が盾を構えて間へ入るが、レネクト(Top)は倒れた。

 

HARU「ARCANA、前後に分かれてしまった! Knoxが退路へ回り込む!」

 

 ジンク(ADC)が後退しながら撃ち返す間に、エズレール(ADC)とヴィクト(Mid)も追いついてきた。

 

 ビームと雷の嵐が重なり、セジャニ(Jungle)、続いてオリアネ(Mid)の体力が尽きた。

 

HARU「ZEROとShadowも続けてダウンだぁ!」

 

 ブラウン(Support)が後方へ跳び、ジンク(ADC)の前で盾を掲げた。

 

ARAKI「Zark、戻れ!」

 

 ジンク(ADC)が下がる。

 追手の攻撃を受け、大盾を構えた巨体が地に伏した。

 

HARU「ARAKIも倒された! 残るはZarkだけです!」

 

 WISHの4人は追撃を切り上げ、ドラゴンへ戻っていく。

 

NAGI「Zark選手を守る間に前衛が孤立し、陣形を戻せませんでしたね」

 

 ドラゴンが倒れ、客席を歓声が満たす。

 

HARU「4Kill、そして2体目のドラゴンもWISHが獲得です!」

 

上田父「またLilyって子を先に倒したのに……」

 

 Uedaは、スクリーンを見つめていた。

 

Ueda「……僕の時と同じだ」

上田父「……?」

 

 上田の父は一瞬考える。そういえば、あの時も似たような展開だった。

 

上田父「まさか、あの対抗戦の時か?」

Ueda「うん。僕が狙われてる間に、みんなが技を重ねて勝つ……あの時は、僕が囮だった……」

 

 今度はそれを、ARAKI自身が食らっている。選手席でも、あの対抗戦を思い出した者がいた。

 

Pika「コレ、あの時と同じじゃないデスカ!?」

 

 灰色の画面を見つめたまま、ARAKIが頷いた。

 

ARAKI「ああ……ウエの時と同じだ。Lilyを囮にする作戦。厄介なのは、プロが緻密に組み立ててきたって事だな……」

 

Zark「じゃあ、狙うのやめたらいいんじゃないすか?」

ARAKI「いや。このGameでは、このまま狙うぞ」

 

ZERO「何故ですか? 罠だとわかっているはずです」

 

 ARAKIはZEROの疑問に間髪入れず答える。

 

ARAKI「Lilyを狙ってZarkを育てる形で、今は動きが揃ってる。半端に変えて、5人の動きが一拍でもずれればそれこそ勝てなくなる」

 

 ここ数日の練習で、5人は次の展開を思い描き、そのイメージを共有してきた。誰が仕掛け、誰が続くか。新しい狙いを土壇場で告げても、仕掛けた後の連携まで揃え直すのは難しい。

 

ZERO「それは確かにそうです」

 

ARAKI「それに、あのような分断の条件が毎回揃うとは限らん」

Shadow「一理あります。Zarkさんは育っています。勝ち目はありますね」

 

 Zarkのジンク(ADC)が、兵士を撃っていた。味方が復活するまでの間も、装備を揃える金を稼いでいる。

 

Pika「……Lilyさんをボコボコにしまショウ!」

 

ZERO「テンション上がってきました」

Zark「え〜〜……」

 

 反射的に漏れた声に、ARAKIがギロリと目を向ける。

 Zarkは慌ててモニターへ向き直った。

 

Zark「わ、わかってますよ、やりますやります!」

 

 復活した4人が、再び持ち場へ向かった。

 

*

 

 そこからは、Killが飛び交う乱打戦になった。

 

 ARCANAがLilyを捕まえ、WISHが反撃する。

 

Lily「ごめん、また……!」

Mantis「後ろを切るぞ!」

 

 だが、ARAKIの見立て通り、分断が決まらない時もあった。その時はZarkが撃ち続け、逆に敵を倒した。

 

ARAKI「Zark、そのまま撃て!」

Zark「押し返せるっす!」

 

Kite「下がれ! 無理に追うな!」

 

HARU「今度はZarkが取り返した! ARCANA、負けじと押し返す!」

 

 Lilyは戦闘のたびに狙われ、Deathを重ねていく。

 繰り返すうち、謝罪の声も小さくなった。

 いつしか、口を閉じて画面を見つめる時間の方が長くなっていた。

 

 互いの選手が倒れ、復活し、またぶつかる。

 

 Zarkは育っていた。だが、WISHの攻撃役も、その前を守る前衛も、装備を揃えていた。

 

Zark「硬ェ!」

 

 次第に、敵の前衛を撃ち倒すより先に、味方が崩れるようになり――

 

 やがて、ARCANAの本拠地が崩れる音が響く。

 

HARU「Game1、勝ったのはWISH! ARCANAから先勝をもぎ取りました!」

NAGI「ARCANAも、Lily選手を狙って育ったZark選手の火力で取り返していました。ただ、2度のドラゴン戦で得たリードを、WISHが最後まで守り切りましたね」

 

 Zarkは、机の上に置いた手を握った。

 やがて、その指をゆっくり開く。

 前の敗戦のように、机を叩くことはなかった。

 

Zark「……次、勝つ!」

ARAKI「ああ」

 

 5人はヘッドセットを外し、席を立った。

 ARAKIを先頭に、控室へ戻っていく。

 

*

 

観客「Lilyちゃーん!」

観客「やったぁ! 初勝利おめでとう!」

 

 歓声が、選手席まで押し寄せていた。

 ピンクのペンライトが揺れる。立ち上がり、両手を振る者もいる。

 

 Lilyは、モニターに表示された自分の成績を見つめていた。

 0(キル)―8(デス)―2(アシスト)。

 目を背けたくなるような凄惨な数字だ。

 

 試合中、何度も「ごめん」と繰り返した。

 味方は誰も責めず、そのたびに戦い続けてくれた。

 最後まで、自分が役に立てたという実感は持てなかった。

 

 客席から、また自分の名前が飛んできた。

 

観客「Lilyちゃん、こっち見てー!」

観客「最高だったよー!」

 

 カメラが、こちらを向いていた。

 

 勝った。

 勝ったのだから、喜ばなければ。

 

 Lilyは口角を上げ、客席へ小さく手を振った。

 歓声は、さらに大きくなった。

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