遅咲きのプロゲーマー~W杯優勝GK、36歳からeスポーツへ~ 作:タイラー・カイマー
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両チームの複数の選手が集まって戦うこと。攻撃する、味方を守る、敵の動きを止めるなど、それぞれの役割と連携が勝敗を左右する。
*
ARCANAがGame1を取り、まずは1本先取。
向かいの選手席では、俯いたUedaを、他の4人が囲んでいた。何を話しているかは聞こえない。Lemonには、慰めているように見えた。
その向こうの客席も、友人が執拗に狙われ続けたことで、完全に冷え切っている。
Lemon「……ちょっと、大人気なかったかな。同じ子ばかり狙ってさ」
Zark「……これがARAKIさんの狙いか? オレたちがやりづらくなって、手を抜くように」
Lemonは返事をせず、ARAKIを見ていた。
Shadow「荒木将は、現役の時、格下相手にわざとゴールを許しましたか? 違うでしょう」
Lemonが目を戻す。
Shadow「向こうも本気で勝ちに来ています。私たちも、全力で応えましょう」
Pika「大体、こんな理不尽で、アナタの席を渡したくないから戦ってるんデス。当のアナタがその調子では困りますヨ」
Pikaの声に、Lemonは唇を引き結んだ。
Lemon「……うん。勝とう」
ZERO「そもそも手を抜ける余裕はありません。Botは間違いなく、あちらの方が格上です……特にADCが」
Lemon「うん」
Zark「即答しないでくださいよ!」
Pika「でも、上は違いますヨ」
ZERO「次もTopを狙いましょう。そこから崩せば、あの2人も動かせます」
Zark「下は何とか耐えるんで、その代わり、上からさっさと終わらせてくださいよ」
Lemonも頷き、画面へ向き直った。
子どもたちがそれぞれの席へ戻り、ヘッドセットを着け直した。ARAKIもtakaの隣へ腰を下ろす。
Game2の
ARCANA側の使用禁止欄に、ADC向けのChampionが並んでいく。Game1でtakaが使った青髪の少女・ジンクも、その中にあった。
HARU「ARCANA、露骨にtaka選手の選択肢を狭めてきましたね!」
NAGI「先ほどのレーン戦では、taka選手の実力が突出していました。得意なChampionを、そのまま使わせたくないのでしょう」
使用禁止と選択が進み、両チームの5体が出揃った。
〈ARCANA〉
Pika/Top/レネクト
ZERO/Jungle/セジャニ
Shadow/Mid/オリアネ
Zark/ADC/ルシオン
Lemon/Support/ナミラ
〈チームARAKI〉
Ueda/Top/ガレム
MORIMORI/Jungle/マムム
monaka/Mid/エニー
taka/ADC/トゥッチ
ARAKI/Support/サナ
HARU「変更はLemon選手と親子の3人。他は同じChampionです!」
NAGI「今回はARCANAのBotが序盤から攻めやすい組み合わせです。親子は育てば強いですが、そこまで耐えられるか」
HARUは、両チームの構成を見比べた。
HARU「Topは、先ほど崩された組み合わせのままですね。何か作戦が?」
NAGI「次はどう支えるのか。注目したいですね」
Pikaは、相手の構成を見据えていた。
Pika(何を企んでるかは知りませんが、その前に決めてやりますヨ……)
Game2が始まった。
Botでは、先ほどと逆の光景が広がっていた。
takaが操る
向かい合うのは、Zarkの
takaが、弱った兵士へ矢を放つ。
その隙にZarkが前へ出た。銃撃を受けたtakaも矢を撃ち返すが、先に下がった。
HARU「今回は、ARCANAの2人が前へ出ています!」
NAGI「
Lemonも水の魔法で牽制し、親子を下がらせる。
それでも、takaは兵士を倒し、
HARU「taka、ほとんど取りこぼしていません!」
NAGI「ただ、この体力では長く居座れませんね」
中央では、monakaの魔法少女・
MORIMORIの小さなミイラ・
Topは先の試合と同じ組み合わせ――大剣の戦士・
退路を塞いだのは、猪に乗る重装の女戦士、ZEROの
HARU「ZERO、今回もTopへ
挟まれたUedaの戦士が倒れる。先程の試合をそっくりコピーしたかのように。
HARU「最初のキルはPika! またしてもTopからです!」
上田の父は、膝の上で手を握った。
今度こそは。そう思って見ていた。
しかし、息子はまた倒された。先ほど頼もしく見えた親子まで、今回は押されている。また、あの悲しそうな顔に戻ってしまうのか。
高知「……お父さん」
隣から、静かな声がした。
高知「彼ら、サッカーの時と同じ顔をしてますよ」
Uedaは画面を見たまま、短く何かを話していた。
倒される前と、表情が変わっていない。
父親は、握っていた手を少し緩めた。
何かが、先ほどとは違っていた。
*
少し前。Game1を終えた選手席。
Ueda『ほんとごめん。タカのパパの将来がかかってるのに……』
Uedaは俯いていた。椅子の周りに集まった仲間の顔を、見ることができなかった。
ARAKI『ウエ。なぜシルバーのお前に協力を仰いだか、分かるか』
Ueda『え?』
Uedaが顔を上げる。
ARAKI『勝てると踏んだからだ。そうだよな?』
ARAKIが隣を見ると、takaはあっさり頷いた。
taka『そりゃそーでしょ』
monaka『試合が終わるまで、へこんでるヒマねーぞ。サッカーもそーだろ?』
Ueda『……そうだね!』
Uedaは背を起こした。
その顔つきが、少しだけ変わった。
*
キルが増えないまま、試合は進んだ。
それでも、チームARAKIの塔は削られ、Goldの差も開いていく。
Botでは、Zarkが銃を撃ち、親子を塔の下へ追いやっていた。
Zark「全レーン勝ってる。takaも封じた。もう打つ手なしだろ!」
Lemon「無駄口叩かないで集中して!」
takaが、塔の攻撃で弱った兵士を倒す。
そこへ銃弾が飛び込んだ。
takaが身を引く。隣のARAKIも、体力は残りわずかだった。
ARAKI「リコールだ」
taka「うん……」
親子は塔の奥まで下がった。
追撃が届かない場所で足を止めると、2体の足元に帰還の光が広がる。
HARU「Game1で実力を見せつけた2人が、ここで退却です!」
NAGI「この構成は、taka選手が育つことが勝利の鍵です。兵士が塔へ来ているところで離れるのは、痛いですよ」
親子の姿が消えると、残された塔へARCANAの兵士たちが進んでいく。
しばらくして、画面がTopへ移った。
森の中では、猪に乗った女戦士
上田父「また横から来てるぞ……!」
思わず、声が漏れた。
ARAKI「ウエ、構えろ!」
正面では、
ARAKI「今だ!」
命中の直前、大剣の戦士が光の盾を纏う!
上田の父は息を詰めた。
体力が削れる。
しかし、残った。
HARU「耐えています! Ueda、まだ倒れません!」
NAGI「防御技のタイミングが完璧でした! 相手の攻撃が重なる瞬間に、合わせています!」
氷から解放された
ワニの戦士が追撃を試みる……その脇へ、包帯が伸びてきた。
高知「あれは、モリ!」
包帯は
HARU「MORIMORI! monakaが救援に来ました!!」
上田父「よし、今度こそ……!」
身を乗り出した。息子のそばに、仲間がいる。
だが、画面の端から、もう1体が進み出ていた。
Shadow「その2人も、まとめて倒します」
Shadowの機械人形・
次の瞬間、衝撃波が起こり、3体が、一斉に球の中心へ引きずり込まれる。
HARU「Shadow! 救援の2人もろとも、必殺技を叩き込みました!」
重なった3体の体力が、大きく削られた。
その前には、巨大なワニと重装の騎兵。横手の機械人形も、追撃へ進んでくる。
上田の父は、開きかけた口を閉じた。
助けに来た仲間まで、逃げられない……
Pika「これでゲームセットデス!」
巨大化したワニの戦士が、刃を回転させる――
ポロロン♪
華麗なる音撃が走った。
その音撃は、
Pika「なっ……!」
音撃を放ったのは、弦楽器を構えた奏者・
HARU「ARAKI! ここで、ARAKIが駆けつけた!」
その隣には、弩を構えたネズミの射手。退却したはずの親子が、揃ってTopに立っていた。
ARAKI「ウエ、下がれ!」
瀕死の大剣戦士が、戦いの輪から離れる。
ZERO「Botの2人がなぜここに……!?」
Zark「ハァ!? なんでだよ! どういう判断だよ!」
親子は本拠地で回復と買い物を済ませ、
育つまでは弱い
ARAKI「モリ、続けろ!!」
硬直の解けた小さなミイラ・
再び、敵の動きが封じられた。
HARU「今度はMORIMORI! ARCANA、動けません!」
そこへ、矢が飛び込んだ。
takaはポジショニングを継続する。味方の援護を受けながら、最大効率でダメージを与えられる位置へ移動していく。
ARAKI「ナカ!」
monaka「おう!」
Shadow「くっ、誰も動けない……!!」
その間も、
HARU「monakaも続いた! そこへtakaが撃ち込みます!」
ネズミの矢により、
HARU「2人倒した! 残るはPika!」
巨大なワニが、ようやく動き始める。
takaは一歩下がり、撃つ。
ワニが追えば、また下がる。そのたびに、矢だけが突き刺さった。
Pika「この……!」
最後の矢が、
巨体が倒れる。
HARU「トリプルキル! 3人とも、takaが倒しました!」
NAGI「これは大きいですね! 育てば強い
客席から、歓声が上がった。
上田の父も、高知も、思わず拍手する。
さっきまで子どもたちを追い詰めていた3体が、すべて倒れている。
Topに残った4人は、すぐに動き始めた。
目指す先は、守り手を失ったARCANAの塔。
一方、Botでは。
Zark「クソ、だけど下はガラ空きだぜ!? このまま
Lemon「いや……!?」
――攻撃を受ける塔に、光が渦を巻いた。
HARU「おおっと、これは何でしょうか、NAGIさん!」
NAGI「これは……
やがて、光の中へ大剣の戦士が降り立った。
先ほど、瀕死になって退却したはずの戦士だった。
HARU「Ueda! 今度は、こちらの塔を守りに来ました!」
親子の到着とともに戦いを離れたUedaは、安全な場所で帰還し、本拠地で回復を済ませていた。
塔を攻めていた最後の兵士が倒れると、兵士の援護を失ったZarkとLemonが、後退する。
塔は、残った。
高知「うまいぞ、ウエ! これで被害も最小限に抑えられた!」
上田の父は、息子の顔を見た。
派手に目立ったのは、間違いなく他の4人だろう。
しかし、息子は一番誇らしげに笑っていた。
Zark「クソ……! あの足を引っ張ってたTopに、してやられた……!」
上側では、ARCANAの塔が崩れ落ちた。
チームARAKIはその勢いで敵の森へ入り、残された魔物も奪っていく。
HARU「観客の皆さん、これがこのゲームの醍醐味、集団戦です! 仲間と力を合わせて戦い、試合をひっくり返す!」
NAGI「Topに駆けつけた親子の判断、そして
HARU「落ち着いてください、NAGIさん。まず、ULTとはなんでしょうか」
NAGIはハッとする。あまりにも見応えがあったため、今日が初心者の観戦会であることを忘れて専門用語を使ってしまった。
NAGI「すみません。
HARU「では、CCとは?」
NAGI「
HARU「今回は3人が、敵を動けなくする必殺技をつないだんですね」
NAGI「はい。その間にtaka選手が撃ち続ける。プロ顔負けの連携でした」
客席のあちこちで、声が弾んでいた。子どもだけではない。保護者もだ。
同じ場面を見た者同士で、その興奮を分かち合っていた。
片桐は、そんな客席を見渡した。
口元に、笑みが浮かぶ。
片桐(なんだ。見せてみれば、伝わるじゃないか)
*
その後も、Uedaは倒された。
味方から離れた
大剣の戦士が倒れる頃には、敵を貫く矢が飛び始めている。
HARU「Uedaは倒されましたが……takaが2人を倒し返した!」
同じ光景が、別の場所でも繰り返された。
高知「そうか……シルバーランクの息子さんを
こうした誘いを、eスポーツでは
上田父「弱いことを、逆に作戦にした……?」
高知「先ほどは、それで勝ちましたからね。倒しやすい相手から崩す。その合理的な判断を、逆手に取られているんですよ」
2人の目がARAKIへ向いた。子どもたちへ、しきりに何か指示している。
高知「競技は違えど、流石ですね」
ARCANAも、Uedaを追うのをやめた。
しかし、今度は大剣の戦士を先頭に、チームARAKIが塔へ迫ってくる。迎え撃とうと足を止めれば、その後ろから矢が飛んできた。
Uedaのデスは増えていた。
その分、takaの倒した敵の数も増えていた。
HARU「止まりません! 今度は塔の下まで押し込んでいきます!」
NAGI「育ち切った
塔が崩れ、その奥でも敵が倒れる。
Uedaは、復活までの時間を待ちながら、その光景を見ていた。
*
まだARAKIがプロゲーマーになる前。いつもの5人で、遊んでいた時のことだ。
Ueda『ぼく、ゲームの才能ないんだよ……やめようかな』
何度も倒され、Uedaは拗ねていた。
ARAKI『確かに、倒され続けるのはつまらんよな』
通話の向こうから、声がした。
ARAKI『だが、頑張って耐えれば、味方が逆転してくれることもある』
画面では、その日もtakaが戦っていた。
ARAKI『味方がゲームを壊していくのを見る。正直、あの瞬間はたまらないし……それが面白いんだよ』
Ueda『それは、めっちゃわかる!』
*
最後の塔が崩れ落ちた。既にARCANAの面々はtakaに薙ぎ倒されている。
Lemon「……小学生だよね……?」
HARU「takaがネクサスを削っていきます! もう、止められません!」
最後の矢が放たれた。
ネクサスが砕け散り、画面いっぱいに勝利の文字が広がる。
HARU「チームARAKI、取り返しました! これで1対1! 決着は、最後のGame3へ持ち越しです!」
歓声の中、Uedaは椅子の背にもたれた。
Ueda「……死に続けた甲斐、あったな」