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第一陣営と第四陣営という、本来ならば聖杯を巡って競い合うはずの二つの陣営。そのサーヴァントであるアキレウスとケイローンが並んで歩いている光景を眺めながら、綾人は自分が今どんな状況に置かれているのかを改めて考えていた。
少なくとも、命の危険はない。
その点については安心していいだろう。ケイローンから殺気も敵意も感じないし、アキレウスは久しぶりに師と再会できたことを心の底から喜んでいる。気配を消して周囲を警戒している呪腕からも、新たな敵影を知らせる報告はない。
問題があるとすれば――。
「では綾人。まず現在の実力を確認しましょう」
「やっぱりやるんだ……」
「当然です」
ケイローンが爽やかな笑顔で答えた。
綾人たちが移動した先は、第一高校からも住宅街からも離れた人気のない場所だった。周囲には建物がほとんどなく、多少大きな音を立てても問題になりにくい。もちろん魔法や宝具を好き放題使えるわけではないが、純粋な体術訓練程度なら問題ないだろう。
アキレウスは完全に楽しそうだった。
「安心しろマスター。先生の稽古は為になるぜ」
「経験者の意見として?」
「おう」
「ちなみに楽だった?」
「いや?」
「帰ろうかな」
綾人が踵を返した瞬間、アキレウスが肩を掴んだ。
「待て待て待て」
「離して、アキレウス。俺には帰って夕飯を作るという大切な使命がある」
「まだ早いだろ!」
「仕込みがあるんだよ」
「絶対今考えただろ!」
「夕飯が遅くなるとセイバーが不機嫌になるし」
「キャスターとバーサーカーが何とかするだろ!」
その様子を眺めながら、ケイローンは僅かに笑っていた。
英霊として召喚されてからアキレウスと再会できたこと自体、彼にとっても喜ばしい出来事だった。生前の師弟関係を引きずりすぎるつもりはない。今の自分たちは異なるマスターに仕え、状況次第では敵同士になる可能性もある。
それでも、教え子が楽しそうにしている姿を見れば嬉しい。
しかも、ケイローンの視線が綾人へ向けられる。アキレウスがこの少年を気に入っていることは、僅かな時間を共にしただけでも十分に理解できた。
主従というだけではない。アキレウスは綾人を守るべきマスターとして扱いながら、一人の戦士としても認めている。さらに年長者として弟分を見るような親しみまで感じられた。
それだけに興味が湧く。英雄アキレウスが認めた少年は、どれほどのものなのか。
「安心してください」
ケイローンは穏やかに言った。
「今日は確認程度です」
綾人が振り返る。
「本当に?」
「ええ」
「アキレウス」
「何だ?」
「先生の『確認程度』って信用出来る?」
「…………」
アキレウスが視線を逸らした。
「おい」
「まあ、死にはしねえよ」
「基準がおかしいだろ」
『主殿』
呪腕の念話が届く。
(何?)
『ご武運を』
(見捨てないでくれる?)
『……………』
「呪腕さんまで……」
綾人は諦めて制服の上着を脱ぐ。
「分かりました。それで、何すれば良い?」
「まずは純粋な体術を見せてください。魔法も魔術も武器も使用せず、アキレウスから学んだ技術を中心に」
「了解」
綾人はゆっくり構えた。その瞬間、ケイローンの目が変わった。先ほどまでの柔和な教師の顔は残っている。しかし観察する視線が鋭い。
足。膝。腰。肩。腕。視線。呼吸。重心。
一つとして見逃さない。綾人はそれを感じ取り、内心で苦笑した。
(やりづらいなぁ)
強敵と向き合う時とは違う。此方の全てを分析されている感覚があった。
「ではアキレウス」
「何だ?」
「相手を」
「嘘でしょ」
綾人が思わず言った。アキレウスが笑いながら前へ出る。
「安心しろって。力は抑える」
「そもそもサーヴァントと生身の人間を戦わせる時点で何か間違ってない?」
「マスターなら慣れてるだろ?」
「否定出来ないのが嫌だな……」
二人が向き合うと、アキレウスも構えた。
途端に綾人の雰囲気が変わった。軽口が消える。瞳が静かにアキレウスを捉える。
最初に動いたのは綾人だった。
一歩低く踏み込み、拳を放つとアキレウスが受ける。そこから綾人は止まらない。
拳から肘。足払い。掴み。崩し。
アキレウスから教わったパンクラチオンを基礎としながら、そこへ綾人が以前から身につけていた複数の格闘技術が自然に混ざっていく。
ケイローンは目を細めた。
「なるほど」
アキレウスが綾人の腕を取ろうとするが、綾人は逆らわない。
寧ろ掴ませる。そこから身体を回転させ、相手の力を利用しながら体勢を崩そうとした。当然、純粋な身体能力ではアキレウスが圧倒的に上だ。
だが重要なのはそこではない。
「良い判断です」
ケイローンが呟く。
力で勝てないなら、力比べをしない。当たり前のようで難しい。特に自分より強い相手と対峙した時、人は無意識に相手の力へ対抗しようとしてしまう。
綾人にはそれがない。勝てない部分を即座に捨てて別の方法を探す。
アキレウスが軽く押し返す。綾人は後退しながら着地し、直後には再び距離を詰めた。
「へぇ?」
アキレウスが笑う。
右拳はフェイント。本命は左脚。
だが、それすら囮。アキレウスが蹴りを防いだ瞬間、綾人の手が腕へ伸びる。掴みから関節技に繋がる。
「悪くねえ!」
アキレウスが身体を捻って抜ける。綾人は追わない。
一度離れて呼吸を整え、再び構える。
「そこまで」
ケイローンの声で二人が止まった。
「え、もう?」
綾人が尋ねる。
「確認には十分です」
「助かった……」
「では修正しましょう」
「助かってなかった」
アキレウスが吹き出す。ケイローンは綾人の前まで歩いてくる。
「まず、非常に良い部分があります」
「はい」
「自分より身体能力で優れる相手に対し、正面から競おうとしない。相手の動きに合わせ、選択肢を変化させている。この点は非常に良い」
綾人は素直に頷いた。
「ありがとうございます」
「ですが、少々技術が多すぎます」
「……多過ぎますか?」
意外な指摘だった。
「貴方は多くの武術を身につけていますね?」
「はい。一つに絞るより、使えるものは使った方が良いと思って」
「その思想自体は間違っていません。しかし――」
ケイローンが綾人の肩へ手を置き、僅かに位置を修正する。
「選択肢が多い事と、最適な選択が出来る事は別です」
綾人の表情が変わった。
「今、アキレウスの二度目の踏み込みに対して、貴方は三つの技を候補として考えましたね?」
「分かるんですか?」
「身体が僅かに迷いましたから」
ほんの一瞬に生じた、綾人自身ですら意識していなかった迷い。
「実戦なら致命的になる可能性があります」
「……なるほど」
綾人は真剣な表情で頷いた。ケイローンもその反応を見て、内心で評価を一段上げる。
指摘されて不機嫌にならない。言い訳もしない。まず受け入れ、理解しようとする。教える側にとって、これほど伸ばしやすい生徒はいない。
「技を減らす必要はありません。寧ろあなたの強みとして磨くべきでしょう。ただし、考えて選ぶ段階から一歩進みなさい」
「身体に覚え込ませる?」
「正確には、状況と選択を結びつけるのです」
綾人は考える。
アキレウスが横から笑った。
「だから言ったろ? 先生の稽古は為になるって」
「悔しいけど本当だね」
「何で悔しいんだよ」
「これで帰りにづらくなったから」
「最初から帰す気ねえぞ」
「横暴だ」
ケイローンが小さく笑った。
「では続けましょう」
「はい」
今度は綾人も素直に構えた。ほんの数分。たった数度の攻防。それだけで、自分では気づかなかった癖を見抜かれた。
ならば学べるものは学んだ方がいい。
敵陣営のサーヴァントだからと意地を張って機会を捨てるほど、綾人は頑固ではなかった。
もっと強くなれる。その強さがあれば、守れるものも増える。聖杯戦争がどう転ぶか分からない以上、力を身につけておいて損はない。
何より――。
「綾人」
「はい、ケイローン先生」
自然とそう返していた。ケイローンが僅かに笑う。
「今度は私が相手をします」
「……………おぉ?」
思わず綾人の思考が止まり、後ろでアキレウスが大笑いした。
◇
同時刻。
都内に存在する巨大な屋敷。広大な敷地を囲う塀の向こうには、歴史を感じさせる本邸と近代的な別棟が共存していた。
この家は魔法師の名門ではない。十師族でも、百家でもない。そもそも魔法を家業とした歴史すら持たない。
しかし、この国で「名家」という言葉を使うならば、その名を知る者は決して少なくなかった。
政界。財界。官僚。法曹。学術。報道。そして国外の要人。
時代に合わせて人脈を築き、特定の一分野へ偏ることなく、様々な世界の中枢へ繋がりを持ち続けてきた家系。
魔法が社会的価値を大きく増した現代においても、その影響力は失われていない。
その家に生まれた一人娘にして第四陣営のマスターは、全国的にも知られた名門女子校に通う高校一年生だった。
学校では立ち居振る舞いの美しい令嬢として知られている。
教師へ向ける言葉は丁寧。同級生にも穏やか。公の席では家名に恥じない態度を崩さない。
今日も帰宅するまで、それは完璧だった。
「ただいま戻りました」
玄関で使用人へ微笑みかける。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ええ。お父様とお母様は?」
「旦那様は会食へ。奥様は慈善団体の会合へ出席なさっております」
「分かりました。ありがとうございます」
優雅に一礼し、そのまま自室へ向かう。
扉を開けて中へ入り、扉を閉めて鍵を掛ける。
三秒の間が空くと、彼女の雰囲気が変わった。
「疲れたぁ……」
そのままベッドへ倒れ込んだ。この時点で令嬢の姿が消滅した。
「今日も長かった……なんで放課後のお茶会で二時間も話せるのかな……」
顔を枕へ埋める。
「ケーキと紅茶は美味しかったけど……」
『お帰り、マスター!』
爽やかで明るい男の声を聞き、少女が顔を上げる。
「ただいま……」
霊体化を解き、一人の青年が姿を現した。
第四陣営セイバー。真名は『シャルルマーニュ』。
「随分疲れてるな」
「学校ではちゃんとしてないといけないの」
「大変だなぁ、名家のお嬢様ってのも」
「シャルルには分からないよ」
「俺も一応、王様なんだけどな?」
「そうだった」
「忘れんなよ!?」
少女はようやく笑った。
この屋敷。この部屋。そしてサーヴァントたちの前。
此処だけは彼女が「名家の令嬢」である必要がない。生まれた時から、周囲には常に家名がついて回った。誰かと会えば、家同士の関係を考える。何かを言えば、それが父や母にどう影響するか考える。学校で友人と話す時でさえ、完全には忘れられない。
だが彼らは違う。
サーヴァントたちは彼女の家名など気にしない。一人のマスターとして接してくれる。
それが彼女には心地よかった。
「ケイローンは?」
「まだ戻ってない」
「そっか」
少女が身体を起こす。
「睦月君と会えてるかな」
昨日、ケイローンから報告を受けた。
第一陣営のマスター、睦月綾人。自分と同じ高校一年生。自分とは違い、魔法師を育成する第一高校へ通っている少年。
第二陣営の水原陽奈とも接触しているらしい。
そして、無用な戦闘を避けようとしている可能性が高い。
「話せる人だと良いな……」
少女は小さく呟いた。
彼女にも願いはある。だから聖杯戦争へ参加している。
しかし願いがあるからといって、同年代の少年少女を殺し、その身体に宿る擬似聖杯を奪うことを簡単に受け入れられるわけではない。
聖杯戦争が始まって以来、その矛盾はずっと胸の中にあった。
勝ちたい。だが誰も殺したくない。
自分は甘いのだろうか。そんな迷いを抱えている。
「大丈夫じゃないかしら?」
別の声がした。
少女が振り返ると、いつの間にかそこには美しい女性がいた。
赤を基調とした優雅なドレス。頭には大きな帽子。そして、華やかな笑顔。
第四陣営ライダー『マリー・アントワネット』。
「ケイローンが自分から会いに行ったのでしょう? なら、少なくともお話の出来ない方ではないと思うわ」
「マリー」
「それに貴女と同じ年なのでしょう?」
「うん」
「でしたら、お友達になれるかもしれないわ!」
あまりにも明るい。少女は思わず苦笑する。
「一応、聖杯戦争の敵陣営なんだけど?」
「それとお友達になれるかどうかは別でしょう?」
「そうなのかなぁ……」
「きっとそうよ!」
マリーの中では既に決定事項らしい。
「単純ね」
冷ややかな声が加わった。室内の温度が僅かに下がったように感じられる。
第四陣営キャスター『アナスタシア』。
「相手が友好的に見えるからといって信用出来るとは限らないわ。マスター、警戒は必要よ」
「分かってる」
「本当に?」
「分かってるってば」
アナスタシアはじっと少女を見る。
「貴女って人が良過ぎるところがあるもの」
「マリー程じゃないよ」
「マリーは……」
アナスタシアがマリーを見る。マリーは満面の笑顔を返す。
「……諦めたわ」
「何で!?」
少女が吹き出す。
「でもぉ、ユゥユゥは仲良くできる方が良いと思うなぁ」
そこへ、更に一人が会話に加わる。
第四陣営エクストラクラスのフォリナー『楊貴妃』が楽しそうに顔を出した。
「ほらほら、折角同じ時代に召喚されたんだもの。いっぱいお話した方が楽しいよ?」
「貴様は少し警戒心を持て」
低い声が響く。
第四陣営バーサーカー『ヴラド三世』。
バーサーカーのクラスにありながら、その佇まいには王としての威厳があった。
「戦とは、相手の腹中が見えぬからこそ恐ろしい。言葉を交わすことに異論はない。だが、相手の善性を期待して策を組むべきではない」
少女は姿勢を正す。ヴラドの言葉には重みがある。
「うん。それは分かってる。ケイローンにも偵察以上のことはしなくていいって言ってあるし」
「ならば良い」
「それに」
別の方向から小さな声。
「もし、そのマスターが悪い人だったら……」
第四陣営ランサー『エレシュキガル』が僅かに視線を逸らしながら続ける。
「べ、別に私が心配しているわけじゃないけど、ちゃんと逃げるのよ? マスターなんだから、自分の命を一番に考えなさい」
少女は微笑んだ。
「うん。ありがとう、エレちゃん」
「な、何よ!当然の事を言っただけでしょう!?それと!その呼び方辞めて欲しいのだわ!」
「うんうん。ごめんね、エレちゃん」
「だから、その呼び方は辞めてって言ってるのだわ!」
呼び方を変えないマスターにエレシュキガルが顔を真っ赤にして叫んだ。
「そうです!もし相手がマスターを傷つけようというのなら、この呼延灼が華麗に!完璧に!見事に守ってみせましょう!」
第四陣営アサシン『呼延灼』が胸を張る。
そんな彼女を見て、少女は笑顔で頷いた。
「頼りにしてるよ、呼延灼」
「……!」
呼延灼が固まった。
「頼りに……」
「うん?」
「マスターが私を頼りに……!」
見る見るうちに嬉しそうな顔になる。
「もっと言ってください!」
「え?」
「出来れば具体的に!」
「具体的に?」
「どの辺りが頼りになるのかとか!」
「そこまで求める?」
「アハハハ!面白いなぁ、アサシンは!」
シャルルマーニュが大笑いする。アナスタシアは呆れ、エレシュキガルは「何なのよ、このアサシン」と小声で呟き、マリーと楊貴妃は楽しそうに笑っていた。
少女も笑う。不思議な集まりだった。
皇帝。ルーマニアの王。冥界の女神。フランス王妃。ロシアの皇女。好漢。ギリシャの大賢者。そして異界と縁を結んだ絶世の美女。
時代も国も、生き方も価値観も違う八騎。それでも彼らは今、自分のサーヴァントだ。そして、自分は彼らのマスター。
だからこそ、誰一人無意味に失いたくない。その思いだけは、聖杯戦争が始まった日から変わらなかった。
「ただいま戻りました」
静かな声が響き、少女が顔を上げる。
「ケイローン!」
アーチャーが実体化する。
「お帰り。どうだった?」
「接触には成功しました」
全員の視線が集まった。少女も自然と表情を引き締める。
「睦月綾人君は?」
「少なくとも現時点では、交渉可能な人物と判断します」
少女の肩から僅かに力が抜ける。
「良かったぁ……」
「更に一つ、想定外の情報を得ました」
「何?」
ケイローンは一拍置いた。
「第一陣営のライダーが判明しました」
「へぇ!」
「ほぉ?早いな」
シャルルマーニュの表情が変わる。ヴラドも僅かに目を細めた。
サーヴァントの真名。それは聖杯戦争において極めて重要な情報だ。
「誰なの?」
少女が尋ねると、ケイローンは答えた。
「アキレウスです」
沈黙。
「……アキレウス?」
少女が首を傾げる。そしてハッとした表情をする。
「あ」
気づいた。そして、全員の視線がケイローンへ向かう。
「ケイローンの……」
「はい」
ケイローンは穏やかに微笑んだ。
「かつての教え子です」
「えええっ!?」
少女の素の声が部屋へ響いた。シャルルマーニュが笑い出す。
「マジか!すげえ再会じゃん!」
「第一陣営にアキレウス……」
アナスタシアは冷静に考える。
「かなりの戦力ね」
ヴラドも頷いた。
「ギリシャ屈指の大英雄か。敵となれば容易ではあるまい」
「でも、ケイローンは嬉しかったでしょう?」
マリーが優しく尋ねると、ケイローンは少しだけ黙った。
「ええ」
そして、素直に認める。
「成長した姿を見ることが出来たのは、師として喜ばしい事です」
「そっか」
少女も笑った。ケイローンがそう言うなら、本当に嬉しかったのだろう。
「それで、睦月君は?」
「現在、アキレウスからパンクラチオンの指導を受けています」
「……ん?」
「その為、私も少々指導をしてきました」
少女の笑顔が止まる。
「ケイローン」
「はい」
「今、睦月君と話してきたんだよね?」
「はい」
「交渉しに行ったんだよね?」
「そのつもりでした」
「何で他陣営のマスターを鍛えてるの?」
「…………」
珍しくケイローンが沈黙した。シャルルマーニュが腹を抱えて笑い始めた。
「アーチャー!何してんだよ!」
「これは……」
ケイローンが言葉を探す。
「教師としての性分と申しますか」
「敵が強くなるんだけど!?」
「ごもっともです」
「ごもっともじゃないよ!」
少女は頭を抱えた。
しかし、不思議と嫌ではなかった。寧ろケイローンがそこまで自然に接することの出来る相手なら、一度会ってみたいという気持ちが強くなっている。
睦月綾人。自分と同じ高校一年生。そして、第一陣営のマスター。
第二陣営とも接触し、無意味な殺し合いを望んでいないらしい少年。
「……私も会ってみようかな」
ぽつりと呟きに、ケイローンが少女を見る。
「綾人にですか?」
「うん」
少女は自分の左手を見る。そこには二十四画の令呪。そして身体の奥には、擬似聖杯が存在する。
この戦争へ参加する資格。同時に、他の七人から命を狙われる理由。
「ずっとケイローンに任せてるわけにもいかないし。私がマスターなんだから、私自身が話さないと分からない事もあると思う」
ケイローンは静かに頷いた。
「良い判断だと思います」
「でしょう?」
「ただし護衛は必要ですね」
「勿論」
「なら俺も行くぜ!」
シャルルマーニュが即座に手を挙げるもアナスタシアが冷静に反論する。
「セイバーは目立つでしょう」
「何でだよ!」
「貴方は性格が目立ちます」
「性格!?」
「私が行くわ!」
マリーも手を挙げる。
「もっと目立つわ」
アナスタシアが即座に却下した。
「我輩が行こう」
ヴラドが言う。
少女が想像する。ヴラド三世を連れて同年代の少年と初対面。
「……威圧感が凄そう」
「む」
「ご、ごめん」
「私なら冥界の女神として――って何を言わせるのよ!」
「誰も言わせてないよ、エレちゃん」
「マスター!?」
賑やかになる部屋を見渡し、少女は笑った。
聖杯戦争は怖い。この先どうなるのかも分からない。
監督役の正体。擬似聖杯の仕組み。残りの陣営。
願いを叶えるために、本当に七人を倒さなければならないのか。分からないことばかりだ。
それでも、話す事は出来る。
第一陣営と第二陣営がそうしたように。自分達第四陣営にも、それが出来るかもしれない。
「まずは私とケイローンで会うよ。その方が相手も警戒しないと思う」
少女の決断にケイローンは満足そうに頷く。
「承知しました」
「それとケイローン」
「はい?」
「会うまで睦月君を鍛え過ぎないでね」
少女の言葉にケイローンは少し間を空けて答える。
「ええ。善処します」
「善処じゃなくて!」
少女の声と、サーヴァントたちの笑い声が部屋へ広がった。
第四陣営のサーヴァント一覧
セイバー シャルルマーニュ
アーチャー ケイローン
ランサー エレシュキガル
ライダー マリー・アントワネット
キャスター アナスタシア
アサシン 呼延灼
バーサーカー ヴラド三世
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