初戦闘の時点で最初からクライマックスです。
夜の静寂を、一筋の閃光が引き裂いた。
東京都西部。
都市部から離れた山間。
普段ならば人の姿などほとんどない場所に、今夜だけは二つの巨大な魔力が存在していた。
一つは黄金。一つは翠緑。
それらはまだ衝突すらしていない。ただ二人の英霊が向かい合っている。
それだけで――大気が軋んでいた。
◇
「王様」
「何だ」
「一応聞くけど」
綾人は隣に立つ黄金の英雄王を見る。
「加減する気は?」
「無い」
「だよね」
ギルガメッシュは即答する。
予想通りだった。綾人たちが到着したのは、周囲数キロに人家が殆ど存在しない山間部。
目の前には巨大な採石場跡地が広がっている。見た限り既に廃業して久しいらしい。
人払いについては玉藻前が担当している。
「ご主人様。結界は張りました」
玉藻前が告げる。だが、いつもの陽気な雰囲気はない。
「認識阻害、音響遮断、それから一般の方々が近づかないよう誘導術式も重ねています。ただし――」
玉藻が前方を見る。
「アレが本気で戦ったら、どこまで持つかは保証出来ません」
「分かった。ありがとう、玉藻」
綾人は玉藻に礼を言う。隣ではアルトリアが険しい表情を浮かべていた。
「マスター、注意を。相手はエルキドゥだけとは限りません」
「分かってる」
綾人は周囲を見る。周りにはアルトリア、ギルガメッシュ、カルナ、アキレウス、玉藻前、頼光、メルトリリス。綾人が契約するサーヴァント6騎が実体化していた。
呪腕のハサンは離れた場所で偵察を任せている。万が一エルキドゥ以外のサーヴァントが現れた時はいち早く伝える様指示を出している。
そして、ギルガメッシュが歩き出した。
「王様」
「何だ?」
綾人が呼び止めると、ギルガメッシュが振り返る。
「戦いに関して、俺は基本何も言わないよ」
「マスター?」
「ほう?」
綾人の発言にアルトリアが目を見開き、ギルガメッシュは眉を少し上げる。
「折角友達と会えたんだから、思いっきりやってくれて構わない」
「元より貴様に言われなくとも手を抜く気はない」
「だけど、死ぬ事だけは許さないから。絶対生き残ってくれ」
綾人はギルガメッシュを真っ直ぐ見ながら言った。それを聞いたギルガメッシュは目を細め綾人を見る。
「フン、雑種ごときが我の心配なぞ。思い上がりにも甚だしい」
ギルガメッシュは鼻を鳴らした。そして、不敵に笑う。
「貴様はただ、この我の戦いを最後まで見届ければ良いのだ」
ギルガメッシュはそう言って採石場の中央へ向かう。
すると月明かりの下に、向かいから一人の人物が近付いてくる。
長い緑色の髪、中性的な容貌、白い衣。
自然そのものを人の形へ押し込めたような、美しい英霊。
アレが敵陣営のサーヴァントの一角。そしてギルガメッシュの唯一の友『エルキドゥ』。
「久しぶりだね、ギル」
エルキドゥの柔らかな声に、ギルガメッシュの足が止まる。
数秒。二人は何も言わなかった。
英雄王。そして、その唯一無二の友。
生前。互いに全力をぶつけ合い、その末に友となった二人。
やがて、ギルガメッシュの口元が吊り上がった。
「随分と待たせたな、エルキドゥ」
「それはこっちの台詞だよ」
エルキドゥも微笑む。
「君が現界しているのは、すぐに分かってたよ」
「当然だ。我が存在を貴様が見誤るはずもあるまい」
「相変わらずだね、ギル」
「貴様こそ」
二人の笑みが同時に深くなった。
次の瞬間。
「――では」
ギルガメッシュの背後の空間が黄金に染まった。
「再会を祝おうではないか!」
数十。否。百を超える黄金の波紋。
その全てから、剣。槍。斧。鎌。矛。
名も知れぬ神代の武装。人類史に刻まれた宝具、その原典たちが姿を現す。
「うん」
エルキドゥが微笑む。
大地へ裸足を触れさせた。
瞬間。地面が爆発し、無数の武器が地中から形成される。
槍。剣。刃。
大地そのものがエルキドゥの武器へ変貌していく。
「僕も――」
翠緑の瞳が輝く。
「全力で応えよう!」
同時に、二人が腕を振った瞬間、世界が爆発した。
「――――ッ!」
綾人は反射的に腕を顔の前へ翳した。
轟音などという言葉では足りない。数百の宝具と数百の武器が空中で激突した。
一発。二発。十発。百発。
爆発が連鎖し、黄金と翠緑の閃光が夜空を昼間のように照らした。
二人の攻撃による衝撃波が大地を走る。岩盤が砕け、巨岩が吹き飛び、山肌が削られる。
「おいおいおい!」
アキレウスが興奮気味に叫ぶ。
「挨拶代わりでこれかよ!」
「感動している場合ではありません!」
アルトリアが不可視の剣を振い、飛来してきた岩石を両断。
頼光も刀を抜いた。
「まあ……!綾人に石など当たったらどうするのです!」
「いや、頼光さん。多分あの二人そこまで考えてないと思う」
「ならば母が守ります!」
「それはお願い!」
綾人が『玩具箱』を起動させると、腕輪は音を立てて変形する。機械部品が展開され、左腕へ巨大な盾が形成された。
「魔力供給、開始」
自身の魔術回路を起動し、魔力を流し込む。
綾人は盾の正面へ放り投げると、盾は空中で固定される。そして一枚。二枚。三枚と光の花弁が次々と形成される。
合計七枚。
トロイア戦争の大英雄が使用した宝具を擬似的に再現させた防御魔術。
その名は。
「『
直後。巨大な衝撃波が直撃し、七枚の花弁が激しく明滅する。
「っ……!」
綾人の靴が地面を滑る。ただの余波。二人の攻撃ですらない。
それなのに、全身に響く様なこの威力。
「強烈だな……!」
「だから言ったでしょう」
メルトリリスが隣へ着地する。
「神代の英雄同士の喧嘩なんて、まともに付き合うものじゃないわ」
「友達との再会ってもう少し穏やかじゃない?」
「あの二人に言いなさい」
その当人たちは、既に第二射へ移っていた。
◇
「フハハハハハハハハ!」
ギルガメッシュが笑う。
『
百。二百。三百。
夜空を覆い尽くす黄金の門。
「どうしたエルキドゥ!」
「まだ始まったばかりだろう!」
一斉射出。無数の武具によって空が黄金で埋め尽くされた。
宝具の豪雨。
一本一本が必殺の神秘を宿す。
通常のサーヴァントならば、一つを凌ぐだけでも容易ではない。
それが数百。文字通り、規格外。
しかし、エルキドゥは逃げない。
「そうだね」
両手を大地へ向けると、地面が鳴動した。
山が、森が、大地がエルキドゥへ応える。
巨大な魔力が流れ込む。
「じゃあ――」
地面から無数の武器が生まれた。
数百。いや、数える意味すらない。
「もっと速くしよう!」
エルキドゥも一斉射出。
黄金と大地。二つの弾幕が真正面から激突する。
轟音。轟音。轟音。
衝突するたびに火球が生まれ、爆炎が夜空を埋め尽くす。
それでも、二人は止まらない。
ギルガメッシュが右へ跳ぶ。その直前、巨大な槍が地面から突き出した。
ギルガメッシュは紙一重で回避する。
「温い!」
王の財宝から三本の剣を射出。エルキドゥが身体を捻る。
一つ目を回避。二つ目を手で弾く。
三つ目が頬を掠める。
「――!」
エルキドゥの目が輝くと、地面を蹴った。
一瞬、音速を超え、エルキドゥはギルガメッシュの目前へ現れる。ギルガメッシュとエルキドゥの拳が交差し、激突。
「ぬっ!」
ギルガメッシュが数十メートル吹き飛ぶも、空中で体勢を立て直す。着地して地面が砕ける隙に、エルキドゥが追撃する。
「ギル!」
「舐めるな!」
黄金の門が至近距離で開く。
零距離射撃。だが、エルキドゥの身体が変形した。
腕が刃となって宝具を弾き、脚を槍に変化させ、薙ぎ払う。
ギルガメッシュが跳躍すると、その足元を巨大な刃が通過した。
次にギルガメッシュの背後に王の財宝が開き、十六本の武具が射出。エルキドゥが地面へ両手を叩きつける。すると巨大な土壁が出現し、宝具が突き刺さる。
土煙が舞い上がると、その中から鎖が現れる。
「ッ!」
ギルガメッシュの腕へ絡みつく。
「捕まえた」
「馬鹿め!」
ギルガメッシュが笑いながら『
同時に鎖が飛び出した。
エルキドゥ自身、『天の鎖』そのもの。神性が高いほど拘束力を増す宝具。
しかし、それをギルガメッシュは躊躇なく友へ向ける。
黄金の鎖と白銀の鎖。
二つが空中で絡み合った。
「ハハハハ!」
「ふふっ!」
二人が笑う。
二人は互いに自分に絡みつく鎖を引いて、互いの身体が引き寄せられる。
そして、拳と拳が真正面から激突。
◇
遠方で二人の戦いを見守っている綾人は言葉を失っていた。
「……自分で言ってアレだけど。王様、本気も本気だな」
「今更かよ」
アキレウスが苦笑する。
「つーか、アーチャーの奴めちゃくちゃ楽しそうじゃねえか」
確かに、ギルガメッシュは笑っている。しかも、心の底から。
対するエルキドゥも同じ。互いに相手が何をしてくるか知っている。
だからこそ、遠慮がない。二人とも全力を出せているのだ。
「生涯の友情って凄いな」
綾人が呟く。
「参考にしてはいけませんよ、マスター」
アルトリアが即座に釘を刺した。
「分かってる。と言うより、参考にならないかな」
その時、呪腕のハサンが綾人の隣へ現れた。
「主殿」
「呪腕さん?」
「見つけましたぞ」
綾人の表情が変わる。
「敵マスター?」
「左様」
呪腕が視線を向ける。綾人は両目を強化魔術で視力を向上させ向けられた方角を見る。
視界に映ったのは採石場から離れた山腹。
そこに、一人の少女が立っていた。
年齢は綾人と同程度。黒に近い藍色の髪が特徴的な少女だった。
間違いない。彼女がエルキドゥのマスターだ。
少女もこちらを見ていた。
そして。
『初めまして』
声を拡張する魔術なのか、距離があるにも関わらず声が届く。
『睦月綾人君』
「俺を知ってるのか」
『ええ』
少女は微笑んだ。
『少し調べさせてもらったから』
メルトリリスが綾人の前へ出る。
「随分趣味が悪いのね」
『あら。貴女はメルトリリス。と言う事は、睦月綾人の陣営のエキストラクラスはアルターエゴ?』
少女が興味深そうに見る。
『珍しいクラスを引いたのね』
「質問に答えてもらうわ」
メルトの脚部が僅かに動く。
「貴女、敵なの?」
空気が張り詰める。少女はしばらくメルトを見た。
『今のところは違う』
「今のところ?」
綾人が聞き返す。
『私には大聖杯で叶えたい願いがある』
少女は自分の胸へ触れる。そこには彼女自身の擬似聖杯が存在する。
『だから最終的には七つを集めなきゃならない』
綾人陣営の空気が変わる。
『でも』
少女は続けた。
『だからといって、最初からマスター同士で殺し合うつもりもない』
「矛盾してない?」
『そう?』
少女は微笑む。
『方法を探してるのよ。誰も死なずに擬似聖杯を集める方法をね』
綾人は少女を見る。嘘を吐いているようには見えない。
もっとも、初対面の人間を簡単に信用する程、綾人も甘くない。
「名前、聞いても良いかな?」
少し間が空き、少女が答えようとした。
『良いわ、教えてあげる。私は――』
その瞬間、世界が震えた。
「っ!?」
綾人が振り返る。
黄金と翠緑。ギルガメッシュとエルキドゥの二つの巨大な魔力。
だが、先ほどまでとは桁が違う。
「おい……」
「これは……」
アキレウスの笑みが消え、カルナが目を細める。
アルトリアが息を呑んだ。
「宝具が来ます!」
「さっきまでお互いに対軍宝具使ってたけど!」
「それとは違います!互いの切り札を出す気です!」
戦場の中心に立つギルガメッシュとエルキドゥが、互いに距離を取っていた。
二人とも笑っている。
そして、ギルガメッシュの手に一本の『鍵』が現れた。
「久方ぶりだ」
鍵剣が回転し、空間が開く。
そこから姿を現したのは、異形の剣。しかし、剣と呼ぶにはあまりにも異質。
三つの円筒状の刀身。それは世界そのものを切り裂く対界宝具。
『乖離剣エア』。
「受け取れ、エルキドゥ!我が至宝を抜かせた褒美だ!」
ギルガメッシュが乖離剣を高々と持ち上げると、大気が悲鳴を上げた。
「さあ。目覚めよ、エア!」
乖離剣の三層の刀身が回転し、赤い魔力が渦巻く。これまでは桁違いの魔力に空間が歪み、世界が軋む。
対するエルキドゥは、静かに両手を広げた。すると、大地が応える。
森、大地、星。
自然そのものがエルキドゥという一つの兵器へ力を貸す。膨大な魔力を供給され、その身体そのものが一つの神造兵装へ変貌していく。
「僕も嬉しいよ、ギル」
エルキドゥは笑った。
「また君と――」
鎖が天へ伸びる。
「全力で戦える事が!」
エルキドゥの表情を見たギルガメッシュが笑いながら乖離剣を掲げた。
「原初を語る。天地は分かれ、無は開闢を
赤い暴風が天を覆う。
「星々を廻す臼、天上の地獄とは創世前夜の終着よ」
対するエルキドゥの身体が光へ包まれる。
「呼び起こすは星の息吹。人と共に歩もう、僕は。故に」
そして、同時に二つの宝具が真名解放する。
赤と白。
二つの極光が、激突。
そして、世界から音が消えた。
ほんの一瞬。
世界そのものが静止したように見えた。
次の瞬間。大爆発が二人の中心で起こる。
「――――ッ!!」
強烈な光で視界全てが白く染まる。
遅れて轟音が鳴り響き、山々が震える。雲が吹き飛び、大地が割れる。
採石場全体が巨大なクレーターへ変わっていく。
二つの対界級攻撃が真正面から衝突し、空間そのものに亀裂めいた歪みが走る。
「全員、防御!」
綾人が叫ぶ。
『玩具箱』盾形態による七枚の光の花弁にありったけの魔力を注ぎ込む。
アルトリアが前へ。
「風王結界――解放!」
「ライダー」
「応よ!」
カルナとアキレウスが自身の強靭な肉体で壁となる。
頼光が綾人の前に出て、玉藻前が結界を最大出力。
そして、メルトリリスが叫ぶ。
「馬鹿二人! 限度ってものを知らないの!?」
「無理言うな!」
盾になったアキレウスが叫ぶ。
衝撃波が直撃し、光の花弁の一枚目が砕ける。
二枚目破砕。
三枚、四枚、五枚と連続で粉々に吹き飛ぶ。
「マジかよ……!」
綾人が魔力を注ぎ込む。
六枚目に亀裂が入り、七枚目で何とか耐える。
「ぐっ……!」
綾人の足元の地面そのものが崩れた。
その時、背中へ手が添えられる。
「踏ん張りなさい!」
メルトリリスが後ろから綾人を支える。
「助かる!」
「後で絶対あの金ぴかに文句言うわよ!」
「流石に俺も少し言う!」
「なら決まりね!」
二人で踏み止まる。
そして、長い長い数秒の後。
ようやく、光が消えた。
綾人は肩を上下にして荒くも息しながら盾を下ろした。
言葉が出ない。
採石場だった場所が、ほんの数分で地形が変わっていた。
中央には巨大なクレーター。周囲の岩山は削り取られ、空には雲一つない。
その中心に二人の英霊が立っている。
ギルガメッシュとエルキドゥ。
「…………」
「…………」
二人とも暫く沈黙する。
「ハ」
そして、ギルガメッシュが笑った。
「ハハハハハハハハ!」
エルキドゥも笑う。
「ふふ……」
やがて、二人とも武器を下ろした。
「変わらんな、エルキドゥ」
「君もね、ギル」
殺意などない。あるのは純粋な歓喜。全力でぶつかり合える唯一無二の相手。
再会を喜ぶための、あまりにも規格外な挨拶だった。
「…………」
綾人は無言で二人を見ていると、メルトが隣で腕を組む。
「言ってやりなさい」
「そうだね」
綾人は息を吸った。
「王様ァ!!」
声がクレーターへ響いた。
ギルガメッシュが振り返る。
「何だ、綾人。騒々しい」
「全力で良いって言ったけどやり過ぎ!!」
「フハハハ! 細かいことを気にするな!」
「地形が原型無くなるくらい変わってるんだけど!?」
「些事よ!」
「何処が!?」
エルキドゥが楽しそうに笑っている。
「ギル。面白いマスターだね」
「当然だ!未熟だが我が認めた雑種だからな!」
「それ褒めてないだろ!」
綾人が頭を抱えるその様子を、第二陣営の少女は静かに見つめていた。
「……やっぱり」
少女は、誰にも聞こえない声で呟く。
「この人なら――」
その先は口にしなかった。
◇
しかし、彼らは知らなかった。
今の衝突が、玉藻前の結界だけでは完全に隠蔽出来なかったことを。
遠く離れた場所。
日本魔法協会や国防軍。そして、十師族。
複数の観測設備が同時刻、同地点で発生した現代魔法の体系では説明不能な超大規模エネルギー反応を観測していた。
「これは……魔法なのか?」
誰かが呟く。
「戦略級魔法……?」
だが、既存の分類では説明できない。
二つの存在がただ再会を喜び、全力でぶつかり合った。
それだけの事。しかしその一撃は、魔法社会という巨大な歯車を確かに動かし始めていた。
極東大聖杯戦争 第二夜。
英雄王ギルガメッシュと天の鎖エルキドゥ。
二人の再会は、魔法社会にとって最初の『英霊』という未知との接触事件となった。
やっぱり『Fate/strange Fake』になったじゃないか!!
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