魔法科高校の大聖杯戦争   作:けーやん

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前回のギルガメッシュvsエルキドゥ回でお気に入り登録数が増えました。やっぱりこの二人の人気は凄いですね。

引き続きお気に入り登録と感想コメントお願いします。


第二陣営

かつて採石場だった場所には、もう以前の面影など残っていなかった。

 

山肌は大きく抉れ、大地には巨大なクレーターが穿たれている。夜空を覆っていた雲さえ衝撃によって吹き飛ばされ、頭上には不自然なほど澄み切った星空が広がっていた。

 

その中心で、ギルガメッシュとエルキドゥは満足そうに向かい合っている。

 

互いに傷らしい傷はない。それだけを見れば、旧友同士が久しぶりに再会して談笑しているようにさえ見えた。

 

周囲の惨状を無視すれば、だが。

 

「…………」

 

綾人は無言でクレーターを見渡した。それから、隣に立つメルトリリスへ尋ねた。

 

「メルト」

 

「何よ」

 

「これ、どうやって誤魔化せばいいと思う?」

 

「知らないわよ」

 

即答された。

 

メルトは呆れたように長い髪を払う。

 

「山一つの形を変えておいて『ちょっとした事故です』で済むと思ってるの?」

 

「思ってないから困ってるんだよ」

 

「だったら、あの金ぴかに直させなさい」

 

「王様が?」

 

二人の視線がギルガメッシュへ向く。英雄王はエルキドゥと何事もなかったかのように話している。

 

「……無理、かな」

 

「でしょうね」

 

意見が一致した。少し離れた場所では、アルトリアが険しい顔で惨状を確認していた。

 

「まったく……宝具を使用するにしても限度というものがあります」

 

「そう言うな、セイバー」

 

ギルガメッシュが振り返りもせず答える。

 

「我とエルキドゥの再会だ。この程度は当然であろう」

 

「当然ではありません!」

 

アルトリアの声が採石場跡へ響いた。エルキドゥが申し訳なさそうに微笑む。

 

「ごめんね。久しぶりにギルと会えたから、少し楽しくなってしまって」

 

「少し……」

 

アルトリアが周囲を見る。

 

「これが、少し……」

 

言葉を失っていた。

 

アキレウスが肩を震わせる。

 

「まあまあ、いいじゃねえか。誰も巻き込まれなかったんだろ?」

 

「結果論です」

 

「おっと」

 

即座にアルトリアから睨まれ、アキレウスは両手を上げた。その横ではカルナが淡々とクレーターを見ている。

 

「しかし見事だな」

 

「カルナさんまで褒めないでくれ」

 

綾人が頭を抱える。

 

「いや、褒めてはいない。ただ地形を変化させるほどの威力を正確に評価しただけだ」

 

「それ、カルナの場合ほとんど褒めてるようなものだから」

 

「そうなのか」

 

カルナは僅かに首を傾げた。

 

その時だった。

 

「主殿」

 

影から音もなく呪腕のハサンが姿を現したので綾人が振り返った。

 

「呪腕さん」

 

「先ほど確認したマスターが、こちらへ近づいております」

 

空気が変わった。アルトリアの手が剣へ伸び、頼光の笑みが静かに消える。メルトリリスも脚部へ魔力を通した。

 

しかし綾人は右手を軽く上げる。

 

「待って、皆。まだ敵って決まったわけじゃない」

 

「ですが綾人」

 

頼光が心配そうに見つめてくる。

 

「母としては、素性の知れぬ女を綾人へ近づけることには賛成できません」

 

「今は聖杯戦争の話だからね、頼光さん」

 

「聖杯戦争でなくとも賛成できません」

 

「そっちはもっと分からないんだけど」

 

「まあまあ、ご主人様」

 

玉藻前が尻尾を揺らしながら間へ入る。

 

「こういう時こそ正妻たる私の出番です」

 

「誰が正妻ですって?」

 

メルトの声が一段低くなる。

 

「あら?」

 

玉藻が笑顔を向ける。メルトも笑顔を返す。

 

二人の間に妙な緊張が生まれた。

 

「……敵より先に味方同士で戦うのやめて欲しいな」

 

綾人が疲れた声を漏らしたところで、瓦礫を踏む音が聞こえた。

 

全員がそちらを見る。

 

月明かりの下、一人の少女が歩いてくる。先ほど遠方から話していた人物だった。

 

年齢は綾人とほとんど変わらないだろう。身長はそれほど高くない。百五十六センチほど。黒に近い藍色の髪を揺らしながら、彼女は巨大なクレーターを前にしても怯むことなく進んでくる。

 

私服姿だった。そして右腕には、マスターの証である令呪が刻まれていた。

 

それを見た瞬間、綾人は確信する。間違いない、自分と同じ八人の転生者の一人である事を。

 

少女は十メートルほど手前で立ち止まった。

 

「改めて」

 

綾人を真っ直ぐ見る。

 

「初めまして。水原陽奈です」

 

少し間を置いて。

 

「十六歳。高校二年生」

 

「高校生だったんですね」

 

「そっちもでしょ」

 

「そうですね」

 

「普通の私立高校に通ってる。貴方みたいに魔法科高校じゃないわ」

 

陽奈は綾人の制服へ視線を向けた。

 

「それにしても、本当に第一高校の生徒だったのね」

 

「今日入学したばっかりですけど」

 

「その入学初日にこんなことしてる人、初めて見た」

 

「俺じゃないです」

 

綾人は即座にギルガメッシュを指差した。

 

「主犯は王様」

 

「何だ、綾人」

 

「何でもない」

 

責任追及は諦めた。陽奈が小さく笑う。先ほど遠くから会話した時よりも、ずっと普通の少女に見える。

 

だが。

 

「陽奈」

 

エルキドゥが彼女の隣へ戻った。

 

「ただいま」

 

「おかえり、エルキドゥ」

 

陽奈は笑顔を返した。

 

そして。

 

「満足した?」

 

「うん。とても」

 

「それはよかった」

 

陽奈は周囲を見渡す。

 

「私は全然よくないけど」

 

「……ごめん」

 

エルキドゥが素直に謝る姿を見てギルガメッシュが鼻で笑う。

 

「何を謝る必要がある。実に良き戦いであった」

 

「王様は少し反省しようか」

 

「断る」

 

「知ってた」

 

綾人が肩を落とした。すると陽奈が小さく息を吐く。

 

「エルキドゥだけ紹介して、他を隠したままなのもフェアじゃないわね」

 

その言葉に綾人陣営が反応した。

 

陽奈が右腕を上げる。

 

「みんな。出てきていいよ」

 

瞬間、周囲の空間に魔力が満ちた。

 

一つ。二つ。三つ。

 

次々と英霊の気配が実体化していく。最初に現れたのは、銀色の義腕を持つ騎士だった。

 

端正な顔立ちに、穏やかで実直な佇まい。白銀の騎士は陽奈の前へ半歩進むと、綾人たちへ礼儀正しく頭を下げた。

 

「セイバー、ベディヴィエールと申します」

 

円卓の騎士の一人で、アルトリアの最期を看取った騎士。その名を聞いた瞬間、アルトリアが目を見開いた。

 

「ベディヴィエール……」

 

騎士もまた彼女を見る。一瞬、その表情に強い感情が浮かんだ。

 

「――我が王」

 

アルトリアは静かにベディヴィエールを見つめ返す。二人の間に流れたものへ、綾人は口を挟まなかった。

 

「いやぁ……」

 

すると、気の抜けた声が響く。緑色の外套を身に纏った男が姿を現した。

 

「こいつはまた、とんでもねえ面子だな」

 

アーチャー『ロビンフッド』。

 

彼は綾人陣営を順番に眺める。アルトリア。ギルガメッシュ。カルナ。アキレウス。源頼光。そしてメルトリリス。綾人陣営の主力達。

 

「正面からやり合うのは勘弁願いたいね」

 

アキレウスが笑う。

 

「そう言う割には随分余裕そうじゃねえか」

 

「俺は真正面から英雄様と殴り合う趣味はないんでね。勝てる手段があるなら何でも使うさ」

 

「嫌いじゃねえぜ、そういうの」

 

「そりゃどうも」

 

軽口を交わす二人の隣。すると、エルキドゥが陽奈の傍らに立つ。

 

「改めて紹介するね。僕はランサー。エルキドゥ」

 

「ランサー……」

 

綾人が呟く。『Fate/Grand Order』や『Fate/strange Fake』でもランサーだったエルキドゥは今回の聖杯戦争でもランサーとして召喚された様だ。

 

ギルガメッシュは満足そうに笑っている。

 

「なるほど。槍兵の座を得たか」

 

「君はアーチャーなんだね、ギル」

 

「我に相応しかろう?」

 

「うん。すごく君らしい」

 

「そうであろう!」

 

何故か誇らしげだった。

 

続いて現れたのは、一人の聖女。その清廉な雰囲気とは裏腹に、どこか拳で物事を解決できそうな力強さがある。

 

「ライダー、マルタよ」

 

穏やかに名乗った直後、彼女の視線が巨大なクレーターへ向いた。

 

「それで」

 

マルタは笑顔のまま問う。

 

「これをやったのは誰?」

 

ギルガメッシュとエルキドゥが同時に沈黙した事に綾人は少し感心した。

 

(凄いな。あの王様が黙った)

 

マルタの笑顔が深くなる。

 

「ちょっとお話が必要かしら?」

 

「マルタ」

 

陽奈が袖を引く。

 

「それは後にしよう」

 

「……そうね」

 

マルタは深呼吸する。

 

「今は淑女らしく、ね」

 

ロビンフッドが目を逸らした。その隣へ、古代エジプトを思わせる装束の褐色の肌を持つ少女が現れる。

 

「私はニトクリス!天空神ホルスの化身にしてファラオ――」

 

堂々と言いかけ、綾人陣営の顔触れを見た。

 

「…………」

 

一瞬止まるも、すぐに胸を張った。

 

「と、とにかく! キャスターとして陽奈に召喚されたファラオです! 敬意を払いなさい!」

 

綾人は素直に頭を下げた。

 

「よろしく、ニトクリス」

 

「えっ」

 

あまりにも普通に礼を返され、ニトクリスの方が戸惑った。

 

「え、ええ。殊勝な心掛けですね!」

 

「あの……」

 

ニトクリスの後ろから遠慮がちな声と共に、頭に黒いハット帽、白い服を纏った茶髪の女性が姿を現した。彼女からはどこか普通の少女を思わせる柔らかな雰囲気を持つ。

 

「アサシン、シャルロット・コルデーです」

 

彼女は丁寧に頭を下げる。

 

「よろしくお願いします」

 

綾人も礼を返す。

 

「こちらこそ、コルデーさん」

 

「はい。よろしくお願いしますね」

 

呪腕のハサンが静かにシャルロットを見る。同じアサシンだが両者の雰囲気は大きく異なる。

 

シャルロットは呪腕の仮面へ少し驚いたものの、すぐに微笑んだ。

 

「同じアサシンですね」

 

「左様」

 

呪腕が静かに答える。

 

「されど我らは別陣営。今宵は刃を交えぬことを願いますぞ」

 

「はい。私もそう思います」

 

その穏やかな空気は次に現れた女性によって一変した。

 

「負傷者は?」

 

開口一番がそれだった。

 

軍服にも似た赤い装い、手には白い手袋。そして、鋭い眼差しで此方を状態を診ていた。

 

バーサーカー、ナイチンゲールである。

 

彼女は周囲を見渡す。

 

「先ほどの戦闘規模から推測し、骨折、裂傷、内臓損傷などの可能性があります。負傷者がいるなら直ちに治療を開始します」

 

「大丈夫。全員無事だから」

 

陽奈が答えるが、ナイチンゲールは納得しない。

 

「自己申告は信用出来ません」

 

「え?」

 

「診察します」

 

「いや、俺達は敵陣営ですけど」

 

綾人が口を挟むと、ナイチンゲールの視線が飛んでくる。

 

「患者に敵味方はありません」

 

「あ、はい」

 

反射的に返事をしてしまうと、メルトが呆れる。

 

「何で素直に従ってるのよ」

 

「ああ言うタイプには逆らっちゃ駄目な気がした」

 

「その判断は正しいと思うわ」

 

珍しく意見が一致した。

 

そして、最後。

 

空気が重くなる。声はなかった。ただ、暗闇の中から巨大な獣が現れる。

 

黒い毛並み、鋭い牙。人間に対する深い憎悪をその身に宿した魔獣。その背には首のない騎手。

 

アベンジャー『ヘシアン・ロボ』。

 

「…………」

 

ロボが低く唸る。アルトリアたちの警戒が一気に高まった。しかし陽奈は慌てない。

 

「大丈夫、ロボ」

 

その声に、魔狼は一瞬だけ陽奈を見る。陽奈は手を伸ばそうとはしなかった。不用意に触れない。人を憎むロボとの距離を理解している。

 

「今日は戦いに来たんじゃないから」

 

ロボはしばらく綾人を睨んでいると、やがて鼻を鳴らす。

 

「……ありがとう」

 

陽奈が小さく告げた。

 

こうして、第二陣営の八騎全員が姿を現した。

 

セイバー『ベディヴィエール』。

 

アーチャー『ロビンフッド』。

 

ランサー『エルキドゥ』。

 

ライダー『マルタ』。

 

キャスター『ニトクリス』。

 

アサシン『シャルロット・コルデー』。

 

バーサーカー『ナイチンゲール』。

 

アヴェンジャー『ヘシアン・ロボ』。

 

綾人は彼らを一人ずつ見た。

 

強い。間違いなく。陽奈陣営もまた、一国の軍事力という尺度すら簡単には当てはめられない戦力を有している。

 

「これでお互い八騎を見せた」

 

陽奈が言う。

 

「少なくとも、私は今此処で貴方と戦うつもりはない」

 

「俺もです」

 

「話が早くて助かる」

 

だが綾人は続けた。

 

「一つ聞いても良いですか?」

 

「何?」

 

「貴女は大聖杯に叶えて欲しい願いがあるって言ってたけど」

 

陽奈の表情が僅かに変わる。

 

「ああ。それは――」

 

その時だった。二人のマスターの端末がほぼ同時に鳴った。

 

「……?」

 

綾人が端末を見る。非通知。陽奈も同じらしい。

 

「何これ」

 

次の瞬間、二人の端末へ同じメッセージが表示された。

 

『第二夜戦闘に関する秘匿処理を開始しました』

 

綾人の目が細くなる。続くメッセージを読む。

 

『参加者各位へ通達』

 

『大規模宝具使用による一般社会への影響は、監督役が処理します』

 

『ただし、不要な大規模戦闘は極力避けること』

 

『今回は初回につき警告のみとします』

 

沈黙。全員の視線がゆっくりと、ギルガメッシュとエルキドゥへ向いた。

 

「…………」

 

「…………」

 

エルキドゥが微笑む。

 

「怒られちゃったね、ギル」

 

「我に指図するとは不敬な奴よ」

 

「王様」

 

綾人が真顔になる。

 

「そこは素直に反省して」

 

「断る」

 

「知ってたよ……」

 

     ◇

 

その頃。

 

既に日本の各所では、異常な速度で『事後処理』が進められていた。

 

国防軍へ届いた報告書。実験中の魔法演算装置による観測障害。日本魔法協会へ回された資料。局地的なサイオン異常現象。原因調査中。

 

警察。消防。地方自治体。報道機関。周辺地域の通信事業者。それぞれに異なる説明が用意されていた。

 

現場周辺の道路には工事を名目とした通行規制。衛星画像の扱いにも手が回る。SNSへ投稿された異常な閃光の映像には、試験飛行、隕石、大気現象、魔法実験事故など複数の情報が意図的に流され、真実が雑多な情報の中へ埋没していく。

 

そして、とある場所。

 

薄暗い部屋の壁一面のモニターに、事後処理の進捗が表示されていた。

 

その中央に一人の人物が椅子へ座っている。この人物こそ。今回の極東大聖杯戦争における監督役。

 

「まったく……」

 

監督役は深い溜め息を吐く。

 

「まだ開始二日目ですよ?」

 

モニターには巨大なクレーターが映し出されていた。

 

「どうして開始二日目で地形を変えるんですか」

 

誰に聞かせるでもなく呟く。

 

『秘匿率 87%』

 

別のモニターに表示された数字が徐々に上昇する。

 

「現代は神秘の秘匿に向いていないんです。監視カメラ、人工衛星、個人端末……ましてこの世界では魔法現象を常時監視する設備まである」

 

キーボードを操作し新たな指示を送る。

 

「だからこそ」

 

監督役は呟く。

 

「こちらも最初から、この世界の仕組みを利用する」

 

この聖杯戦争には、通常の聖杯戦争とは比較にならない規模の事後処理が必要になる。

 

六十四騎。八人のマスター。

 

そして、現代魔法が軍事技術として社会へ組み込まれた世界。英霊同士が戦えば、いずれ十師族や国防軍も動く。外国も気付く。

 

それでも可能な限り隠す。それが監督役の仕事だった。

 

「しかし……」

 

別の画面に視線を向けると、そこには第一高校の情報が表示されていた。

 

第一陣営のマスター、睦月綾人。

 

司波達也。

 

司波深雪。

 

柴田美月。

 

さらに。

 

第二陣営のマスター、水原陽奈。

 

監督役の指が止まった。

 

「既に一般人が一人、サーヴァントを視認した可能性あり」

 

柴田美月。

 

その名前を見つめる。

 

「こちらも時間の問題ですね」

 

そして、画面を切り替える。そこには別の表示。

 

『第三陣営――活動開始』

 

監督役の表情が消えた。

 

「……早いですね」

 

第二陣営と綾人陣営が接触した。それだけではない。既に別のマスターも動き始めている。

 

しかも、その人物の目的は綾人とも、陽奈ともまるで違っていた。

 

     ◇

 

「ところで」

 

陽奈が口を開いた。

 

「はい?」

 

「睦月君」

 

「綾人で良いですよ」

 

「じゃあ私も陽奈でいい」

 

「分かりました」

 

「それで綾人君」

 

陽奈は巨大なクレーターを指差した。

 

「監督役が処理してくれるみたいだけど」

 

「はい」

 

「これ、物理的にはどうするの?」

 

「…………」

 

綾人はクレーターを見る。全員も見る。ギルガメッシュとエルキドゥも見る。

 

長い沈黙。

 

「王様」

 

「何だ」

 

「直せる?」

 

「何故我がそのような雑事をせねばならん」

 

「だよな」

 

綾人は少し悩む。魔術で多少は修復可能だが、それにも限界がある。

 

すると、エルキドゥが手を上げた。

 

「僕なら、ある程度は戻せると思うよ」

 

「本当?」

 

「大地と話してみる」

 

エルキドゥが地面へ手を触れると地鳴りが響く。

 

「おお……」

 

綾人が感心する。

 

崩壊した大地が少しずつ、本当に少しずつ形を変え始める。

 

陽奈が安堵した。

 

「よかった……」

 

その横でギルガメッシュだけが不満そうだった。

 

「エルキドゥ。貴様がそのような雑事をする必要はないぞ」

 

「ギルも手伝う?」

 

「断る」

 

「じゃあ黙ってて」

 

「…………」

 

綾人が目を見開く。

 

(王様を一言で黙らせた。エルキドゥ凄え)

 

流石は英雄王の唯一無二の友。妙なところで感心していると、メルトが綾人の脇腹を軽く小突いた。

 

「痛っ」

 

「何ぼーっとしてるのよ」

 

「いや、王様を扱える人って存在したんだなって」

 

「どうでも良いでしょう」

 

メルトはそう言いながら陽奈を見る。

 

「それより」

 

声が少し低くなる。

 

「敵陣営の女と随分すぐ仲良くなるのね?」

 

「え?普通に話してただけだけど」

 

「何でもない」

 

「またそれ?」

 

「うるさい」

 

綾人は首を傾げる。その後ろでは玉藻前と頼光が同時にため息をついた。アルトリアまで僅かに目を閉じる。

 

陽奈はその光景を見て。

 

「ああ……」

 

何かを理解したらしい。

 

「大変そうね、綾人君」

 

「何がです?」

 

「ううん」

 

陽奈は笑った。

 

「頑張って」

 

「だから何を?」

 

答えは返ってこなかった。

 

その夜、睦月綾人と水原陽奈。二つの陣営は互いを敵と断定しないまま別れた。

 

まだ同盟ではない。完全な信頼もない。

 

それでも、六十四騎が入り乱れる異常な聖杯戦争において。初めて戦わずに言葉を交わすことのできた二人のマスター。それが何を意味するのか、この時点では誰にも分からない。

 

ただし――。

 

彼らが知らない場所では、既に第三陣営が最初の獲物を決めていた。

 

その標的は、マスターではない。サーヴァントでもない。

 

第一高校一年E組。

 

――柴田美月。

 

理由はただ一つ。彼女の『眼』が、この聖杯戦争にとってあまりにも都合の悪い眼だったからである。




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