転生先が殺し合いを約束された帝国の第三王子だった件 作:冷やかし中華
不可持民は見た。謝肉祭からは眼を背けた。
万能には、しません。
姉さんを連れていった。最初に俺が不可持民を見た場所ではない。もっと、普通の場所。
市場。その裏。荷物を積む場所。
朝から人が働いている。怒鳴る人がいる。走る人がいる。
荷車。帳簿。
食べ物の匂い。
何も知らなければ、ただの、忙しい朝だった。
◆
「どれ?」
「何が?」
「不可持民」
「当ててみる?」
服でも顔でもない。立っている場所で分かる。
「何で?」
「見たいって言ったから」
嫌そうな顔をされた。
「カミィに試験する気?」
「そういうわけじゃないけど」
「じゃあ教えなさい」
「嫌」
教えたら、その見方しかしなくなる。
「カイエン」
「見れば分かるかもしれないよ」
睨まれた。
でも、姉さんは見た。しばらく、何も言わなかった。
「……あれ?」
「どれ?」
「あそこ」
一人。荷を運んでいる男。
「何で?」
「さっきから誰もあの人に触らない」
「うん」
「それだけ?」
「それだけじゃない」
姉さんが見る。
「水」
「うん」
「別?」
「うん」
「休む場所も?」
「うん」
数えているのは姉さんの方だった。
「何で?」
「不可持民だから」
「それは聞いたわよ」
姉さんの眉が寄る。
「何で不可持民だと、そうなるの?」
「それを調べてる」
「まだ分からないの?」
「前よりは」
「じゃあ言いなさい」
説明した。分かっている範囲で。何が決まりで、何が慣例で、何が誰も理由を知らないまま続いているものなのか。
姉さんは、途中で何度も嫌そうな顔をした。たぶん、話が長かったからだ。
◆
「じゃあ」
全部聞いて、姉さんは言った。
「やめさせればいいでしょう」
「何を?」
「全部」
「全部?」
言葉を消しても、人は残る。
「不可持民」
「どうやって?」
答えは早かった。
「今日から不可持民なんてないって言うの」
「誰が?」
宣言で消えるなら、とっくに誰かがやっている。
「王が」
「それで?」
「終わり」
「終わらないよ」
姉さんが俺を見る。
「何で?」
「明日から、あの人と同じ水飲む?」
「飲めばいいでしょう」
「姉さんじゃなくて、同じ井戸を使う周りの人が飲めないんだよ」
「飲ませればいいわ」
命令で足りると思っている。
「同じところで雇う?」
「雇わせる」
「同じ給金?」
「当然でしょう」
当然、で全部通ると思っている。
「同じ宿舎?」
「そう」
「同じ学校に子供を入れる?」
返事がない。
「結婚したいって言ったら?」
姉さんの口が、一度、開いて、閉じた。
「病院で順番が来たら?」
「不可持民じゃなくなりましたって紙に書けば、明日から全部そうなる?」
姉さんが黙った。
俺は知っていた。前の世界で、似たことがあった。身分の名前を、法の上から消す。それ自体は、間違っていない。必要だった。
それでも、名前が消えた翌日に、人の目まで変わったわけではない。
仕事。土地。生活。婚姻。
昔から積み重なったものは、紙一枚より、ずっと重かった。
「言葉だけなら」
俺は言った。
「一日で変えられる」
姉さんは、何も言わない。
「でも、それで終わったことにしたら」
市場の隅。同じ場所で、同じように、一人だけ違う水を飲む男を見る。
「多分、一番たちが悪い」
「じゃあ、どうするのよ」
「そこから考える」
「まだ考えるの!?」
半年、ずっとそこにいる。
「うん」
「いつまで?」
「終わるまで」
「最悪」
「俺もそう思う」
◆
姉さんが本当に関わり始めたのは、その少し後だった。
「まず何するの?」
「数える」
「は?」
「不可持民がどこに、何人いるか」
数が分からないものは、直しようがない。
「そんなことも分からないの?」
「正確には」
「何で?」
「管理が別々だから、どこの帳簿を足しても合わないんだよ」
姉さんが顔をしかめる。
「揃えなさい」
「それやる?」
「何が?」
「姉さんも」
「カミィが言った方が早いでしょう」
その通りだった。少し、悔しい。
まず、数えた。簡単ではなかった。地方によって呼び方まで少し違う。記録が古い。本人が載っていない。家族単位でしか残っていない。そもそも、公的な記録と、現場の扱いが一致しない。
調べる。
揃える。
確認する。
また、調べる。
半年。それだけで、半年。
「遅い!」
「国だから」
「カミィが命令してるのよ!」
急がせた分だけ、数字が雑になる。
「だから役人も急いでる」
「もっと急がせなさい!」
「間違った数字集めても意味ないよ」
黙る。
「姉さん?」
「分かってるわよ!」
怒った。でも、待った。
◆
次に、仕事。
全部の仕事を変える、ではなく、まず、不可持民だからという理由だけで条件が悪くなっている仕事を探した。
同じ仕事。同じ時間。同じ成果。
それなのに、給金が違う。道具が違う。休憩場所が違う。怪我をした時の扱いが違う。
そこから、揃えた。
「簡単じゃない」
俺が言う。
「簡単でしょう」
姉さんは言う。
「同じ仕事してるなら同じにしなさい」
「同じ給金にするなら、反対する人は必ず出てくるよ」
「何で?」
反対の理由は、だいたい金だ。
「今まで安く使えてたから」
「だから?」
「困るって」
「知らないわ」
姉さんが、本当に、不思議そうな顔をした。
「カミィの民を勝手に安く使って、自分だけ得してたんでしょう?」
「……うん」
「じゃあ返しなさい」
「誰に?」
理屈は雑だが、動く理由としては一番強い。
「カミィに」
「そこなんだ」
「当然でしょう」
姉さんだった。
俺たちの考え方は、やっぱり、違った。
「王って」
ある日、言ってみた。
「民のためにいるものだと思うんだ」
「逆でしょう」
即答。
「民が王のためにいるの」
「真逆だなあ」
「何でカイエンが正しい前提なのよ」
「言ってないよ」
言っていない。思ってはいた。
「顔が言ってる!」
「痛い痛い」
頬を引っ張られた。
でも、少しして、姉さんが資料を見ながら言った。
「だから余計に変でしょう」
「何が?」
「王のためにいる民を」
紙。指。
「使えないようにしてる。誰かが決めたんじゃなくて、積み重なってそうなってる」
「使えない?」
「公の仕事に就けない。軍にも入れない。仕事は限られる。教育も場所で違う」
「うん」
「何のために?」
答えられなかった。
「王の民なのに」
その時、分かった。
姉さんは、俺の考えにはならない。多分、これからも、ならない。
でも、それでよかった。
◆
最初の冬。王家が直接管理する施設から、扱いを揃えた。
同一労働。給金。休息。怪我。食事。使用する設備。
不可持民だからという理由で違っていたものを、一つずつ外した。
次の年。姉さんの背が、少し伸びた。俺の方が、もう少し伸びた。そのことで一度喧嘩になった。
その頃には、働く場所を少しずつ増やしていた。
ただし。
「今日から何でもできます」
とはしなかった。できると言われても、雇う側が拒めば意味がない。だから、受け入れる場所を先に作った。
王家の施設。姉さんの領地。俺が関わっていた部署。
そこから、実績を作った。
誰かが言った。不可持民を雇うと問題が起きる。
起きなかった。
能力が低い。
そんなことはなかった。
客が嫌がる。
嫌がる客もいた。
だから、そこで初めて、どうするか考えた。
「追い出せばいいでしょう」
「客を?」
「そう」
「全部?」
「文句言うなら」
客を全部追い出した店が、次の月にどうなるか。
「姉さん」
「何よ」
「それだと客が来なくなって、店の方が先に潰れるよ」
金で解決しようとする。
「じゃあカミィが買う」
金で解けるものと解けないものの線が、まだ引けていない。
「そういう問題じゃない」
「面倒ね!」
「うん」
面倒だと言いながら、紙束を離さない。
「何でこんなの始めたのよ!」
「姉さんが途中から入ってきたんだけど」
「カイエン!」
「はい」
それでも、やめなかった。
◆
俺たちは、人の心を変えようとはしなかった。多分、できない。少なくとも、命令では。
代わりに、行動した時に何が起きるかを変えた。
といっても、国全体を動かせるわけではない。俺たちが手を出せるのは。
姉さんの領地。王家が直轄している施設。俺が関わっている部署。そして、姉さんが金を出す仕事。
その範囲だけだ。
不可持民だから、雇わない。それ自体を、禁止したりはしない。
できない。
ただ、姉さんの領地で商売をするなら、基準を守ってもらう。王家の施設を使うなら、同じ扱いをしてもらう。姉さんが発注する仕事なら、条件に入れる。
守らないなら、次はない。
それだけ。
暴力。
賃金の未払い。
治療拒否。
それは、身分とは関係なく、元から駄目なことだ。なのに、相手が不可持民だと、誰も届け出なかった。だから、届け出られる場所を作った。
逃げ道を、一つずつ、塞いだ。
俺たちの手が届く範囲で。
それでも、足りなかった。住む場所がない。家を借りられない。仕事を得ても、戻る場所が、前と同じ。
そこで、姉さんが土地を出した。
◆
「ここ」
「何?」
「使うわ」
「何に?」
地図の上を指で押さえたまま動かない。
「住ませる」
「誰を?」
「不可持民」
地図を指している。
「……姉さんの私有地だよ?」
「だから?」
「結構広い」
「知ってるわ」
知っていて言っている。
「本気?」
「何でカミィが冗談言うのよ」
「言うじゃん」
「言わない!」
言う。とは、言わなかった。
◆
特別区。最初にそう呼んだのは、役人だった。
姉さんは。
「何でもいいわ」
と言った。
俺は、名前より、中身を決めた。
住居。診療。学校。職業訓練。仕事を探す場所。記録。相談窓口。それから、戻りたい人が戻れる仕組み。
「何で?」
姉さんが聞く。
「何が?」
「出ていくなら分かるけど。戻る?」
「ここが嫌だったら?」
「不可持民だった場所に?」
「それでも故郷なら」
姉さんが、少し、考える顔をする。
「ここを檻にしたら、前と同じだから」
姉さんは、少し考えて。
「分かった」
それだけ。
◆
特区ができても、すぐには誰も来なかった。
◆
「何で!?」
「そりゃそうでしょ」
「何でよ!」
「王子が急に『土地用意したから来い』って言ってるんだよ?」
善意で来いと言われた側が、何を想像するか。
「来ればいいでしょう!」
「怖いよ」
「またそれ!?」
「またそれ」
罠かもしれない。実験かもしれない。集めて、まとめて、何かされるかもしれない。
俺なら、そう思う。
「じゃあどうするの?」
「待つ」
「嫌」
「知ってる」
待った。
最初に来たのは、十人にも満たなかった。
次。
少し増えた。
そこに住んだ人が、手紙を書く。家族へ。知り合いへ。
俺たちは、その内容を見なかった。見ることもできた。でも、見ないと決めた。
数ヶ月。
また、増えた。
一年。
増えた。
それでも、全員ではない。
途中で、一人、出ていった。元の土地へ戻る。そう言ったらしい。
報告が来た時、担当の役人が困った顔をしていた。
止めますか。
と聞かれた。
止めない。
そう答えた。手続きをして、荷物を渡して、送り出した。
姉さんは、その話を聞いて、しばらく黙っていた。
「戻るの?」
「うん」
「せっかく作ったのに」
「そうだね」
戻ると言った人間が、思っていたより多かった。
「……止めなくていいの?」
「止めたら、ここが檻になる。帰る自由がない場所は、ただの囲いだよ」
姉さんは、何も言わなかった。
半年後、その人はまた戻ってきた。
今度は、家族を連れて。
◆
「呼びなさい」
「誰を?」
「残ってる人」
「もう呼んでるよ」
「命令で!」
命令で集めたら、集まった人数は数字でしかなくなる。
「姉さん」
「何よ」
「来るかどうかは本人が決める。命令で来た人は、命令がなくなった日に残らない」
姉さんが眉を上げた。
「何で?」
「姉さんの民だから」
「?」
姉さんの理屈を、そのまま裏から使う。
「王のためにいるんでしょう?」
「そうよ」
「なら」
俺は、姉さんを見る。
「自分で歩けない民ばっかり集めてどうするの」
言葉が返ってこない。
「命令されないと動けない人が、姉さんの欲しい民?」
姉さんの目が細くなった。殴られるかと思った。
「生意気」
「はい」
「でも」
少し、間。
「そうね」
殴られなかった。
◆
姉さんが変わった。というより、やり方を覚えた。
◆
「困ってることは?」
とは、もう聞かなかった。
「これと、これ。どっちが必要?」
と聞く。
「何が欲しい?」
ではなく。
「何を変えたら、ここで働ける?」
と聞く。
返事がなければ、待つ。その場で答えろと、言わなくなった。
俺より、待つのは下手だった。
一度、相手が黙り込んだまま、ずいぶん経ったことがある。姉さんの足が、小刻みに動いていた。口も、何度か開きかけた。その度に、閉じた。
結局、答えが返ってきたのは、だいぶ後だった。
姉さんは。
「遅い」
とだけ言って、ちゃんと聞いた。それから、俺の方を見て、睨んだ。
褒めろ。
という顔だった。
褒めた。
でも、待った。
ある日、不可持民の男が姉さんに言った。
「殿下。一つ、お願いがございます」
その瞬間、姉さんが俺を見た。ほんの一瞬。笑いそうだった。
俺も、少し、笑った。
「何?」
姉さんが聞く。
男が答える。
俺が、口を挟む話ではなかった。
◆
三度目の冬が来る頃、特区の子供たちが学校へ通うようになっていた。最初に来た十人足らずのうち、何人かは、もうそこで働いていた。
その年、姉さんが兵を募集した。
「兵?」
「そう」
「不可持民から?」
「何か問題?」
「いや」
むしろ、前の世界で読んだ話を思い出した。
これだ。
カミーラの私設兵。不可持民。ずっと、頭にはあった。言葉としては。
でも、そこへ至る道を、今、初めて見ていた。
誰かが決めたわけではなかった。
姉さんが、自分で、そこへ来た。
◆
「全員?」
「希望するなら」
「軍人にはなれないよ」
「だから私設兵よ」
制度の外側に、自分で枠を作った。
「なるほど」
「カミィの兵なら、カミィが決める」
全部、姉さんが決める話になっている。
「うん」
「給金も」
「うん」
「住む場所も」
「うん」
一つずつ並べている。並べているうちに、こちらが黙った。
「地位も」
「……うん」
「何?」
「いや」
姉さん、考えていた。俺より、ずっと、姉さんらしい方法で。
調べているうちに、古い記録の中に、死後伴侶、という言葉を見つけた。王になれなかった王子が死んだ時、一緒に埋める相手のことらしい。怨霊にならないように。監視のために。そういう理屈だった。
その相手は、不可持民から選ばれた。強制的に。
俺は、しばらく、その紙を見ていた。
始まりを見つけた。
と。一瞬。
思った。
違う。
この紙から分かるのは、そこまでではない。死後伴侶が、不可持民を作ったのか。不可持民がいたから、死後伴侶に使われたのか。書いていない。
分かるのは、もっと古い時代から、この人たちが王家の都合に使われていたということだけだ。
そして、死後伴侶は、もう、ない。とっくの昔に廃れている。誰も、やっていない。
それでも、不可持民は、残った。
紙を置く。
結局、ここでも同じだった。
一つ見つければ終わる。そんなものは、最初からどこにもない。
◆
国の制度そのものは、残った。
俺は、それが悔しくなかった、と言えば嘘になる。
不可持民という。
名前。身分。出生で、一生、ついて回るもの。
本当なら、なくしたかった。
でも、まだ、そこまで届かなかった。
そして、名前だけ消すことを、俺は選ばなかった。
紙の上で。
「今日から平等です」
と書くより、先に。平等に。食べられる場所。働ける場所。住める場所。病院。学校。仕事。逃げ込める場所。
それを、作った。
綺麗な言葉より、先に、生活を変えたかった。
◆
「ねえ」
「何?」
姉さんが資料を投げる。
「これ」
「兵士希望者?」
「そう」
「多いね」
「当然でしょう」
予想より二倍多い。
「何で?」
「カミィの兵になれるのよ?」
思わず笑った。
「何その顔」
「姉さんらしいなって」
「当たり前でしょう」
紙を見る。
名前。名前。名前。
俺が、最初、数えることすらできなかった人たち。今は、一人ずつ、名前がある。
その中の一人に、聞かれた。
◆
「第三王子殿下」
「何?」
「この兵団は」
「うん」
「殿下のお考えなのでしょうか」
少し、考える。
「違うよ」
男が、こちらを見たまま、動かない。
「最初に不可持民を調べ始めたのは俺」
「はい」
「でも」
向こう。姉さんが、兵の編成について、誰かと怒鳴り合っている。
「今決めてるのは姉さん」
「では」
「俺に聞かなくていい」
男が俺を見る。
「姉さんに聞いて」
「……はい」
「それと」
「はい」
「俺に恩を返さなくていいよ」
目。
少し、見開く。
「助けてもらったと思ってるなら」
言葉を選ぶ。
「その分、ここでちゃんと生きて。それが一番、こっちの得になる」
男の目が、少しだけ、揺れた。
「それでいい」
男は、何も言わなかった。
◆
少しして、俺は会議に出なくなった。
◆
「何で来ないのよ!」
「もう俺いらないでしょ」
「いる!」
いらない、と言ったのは本心ではない。
「何に?」
「全部!」
「雑」
「カイエン!」
「姉さん」
資料。
返す。
「始めたのは俺」
「そうよ!」
「でも、続けるって決めたのは姉さん」
姉さんが黙る。
「もう」
少し、笑う。
「姉さんの仕事だよ」
「勝手」
「うん」
「勝手に始めて」
「うん」
「勝手に渡すの?」
返事を待たれている。
「嫌なら返して」
「嫌!」
「じゃあ」
「でも腹立つ!」
「難しいなあ」
怒鳴られた。
でも、資料は、返ってこなかった。
そこから、俺の名前は、少しずつ消えた。
相談。姉さんへ。要望。姉さんへ。兵。姉さんへ。特区。
姉さん。
俺は、たまに、聞かれたら答える。それだけ。
悪くなかった。むしろ、その方が、上手くいっていた。俺が前に出ていた頃より、話が早い。決まるのも早い。
誰も、第三王子の顔色を見ない。姉さんを見る。
それでいい。
いつだったか、先生に言われたことがある。
人に譲るのはいい。
人を立てるのもいい。
でも。
自分を消す癖はつけない方がいい。
あの時は、消していない、と答えた。今も、消しているつもりはない。
ただ、俺がいない方が、上手く回るものがある。
それが分かってしまった。
それは。
たぶん。
便利な発見だった。
◆
ある日、特区へ移った人たちが姉さんに頭を下げるのを見た。命令されたからではない。誰かに、そうしろと言われたからでもない。
「第二王子殿下」
一人が言う。
「我々は、殿下にお仕えしたく存じます」
姉さんは、当然のように、受けた。
「いいわ」
それから。
「カミィを王にしなさい」
そう言った。
俺は、少し、呆れた。
でも、誰も、嫌そうな顔をしなかった。
ああ。
と思った。
俺では、駄目だったのかもしれない。
俺なら、たぶん。
「恩を返さなくていい」
と言う。
姉さんは、違う。
「返しなさい」
と言える。
それは、傲慢で、わがままで、ひどく、姉さんらしい。
でも、返す先を、ちゃんと作っていた。
生きる。
働く。
兵になる。
王を選ぶ。
その全部を、本人たちが選べる場所を、先に作った。
だから、それは、命令だけではなかった。
◆
その頃には、俺が不可持民という言葉を初めて現実の人間へ結びつけてから、何年か経っていた。
先生に聞いた。大きな問題へ、どう向き合えばいいのか。
答えは、もらえなかった。
見る。分ける。聞く。戻る。また、見る。何度も、一回目から。
それだけ、だった。
それでも、一つだけ、分かった。
紙の上で、人を救ったことにするのは、簡単だった。名前を変える。身分を変える。規則を消す。それで、終わったと言う。
でも、人は、紙の中では生きていない。
朝、起きる。食べる。働く。怪我をする。
恋をして、子供が生まれて、歳を取る。
そこが変わらなければ、名前だけ変えても、多分、何も終わっていない。
◆
だから、この件については、時間をかけた。かけて、よかったと思う。
そして、だからこそ、次に見つけたものが、余計に、分かった。
◆
記録を、整理していた。
不可持民。出生。地方。移動。古い、王家関係の資料。その中。一つ。
見覚えのある。
言葉。謝肉祭。
「……あ」
声が、出た。
思い出した。不可持民とは、違う。これも、知っていた。前の世界で、読んだ。
カキン王家。選ばれる村。その後で。生まれてくる子供。顔に。傷を。
そこまで思い出して、止まった。
その先は、思い出したくなかった。
資料を、閉じた。
不可持民では、誰が、どこで、何をしているのか、調べられた。役人へ聞けた。現場へ行けた。時間をかければ、触れられた。
これは、違う。王族。やっている側に、王族がいる。
調べる。それ自体が、何になる。
誰が参加した。誰が命じた。どの村。いつ。何人。
それを、第三王子が調べる。王家を、調べる。
姉さん。
母さん。
不可持民の特区。関わった役人。今、やっと、少し、動き始めたもの。
全部、浮かんだ。
先生の声も。自分で狩れないものまで。
何でも抱え込まない。
「……最悪」
誰もいない部屋で、言った。
資料を、元へ戻した。
燃やさない。隠さない。持ち出さない。
続きを、調べない。
それが正しい判断なのか、逃げただけなのか。
分からなかった。
不可持民は、見た。姉さんにも、見せた。
謝肉祭は、見ないことにした。
違う。見なかったことには、できない。知っている。
ただ、これ以上、見に行かない。
一つを選ぶということは、多分、選ばなかったものを作ることだった。
俺は、まだ、全部を抱えられるほど大きくなかった。
その日も。次の日も。
朝は《纏》から始めた。
最初の。一回。
日本語すらまともに読めない、理解できない人間に配慮する必要ある?
せめてタグとあらすじくらい読めば?
と寄せられた感想に対する毒を吐き続けたい。
ホント、初めての感想返しがコレとか、嫌になるな。
挙げ句に評価0ておまえ。
メノムメノム65(めのむめのむ) ID:295414 ね。覚えたよ。
とりあえず、ブロックしとこ。