メタルは令嬢の嗜みでして   作:きむちーず

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第一話

 

 とあるお嬢様は、小さい頃から英才教育を受けていた。

 ピアノにヴァイオリン。書道に茶道、馬術にその他諸々。

 

 他の子供と比べると尋常ではないほどのハードスケジュールであったが、彼女はそれらを難なくこなしていった。

 

 だが、本人にとって苦でもなかったし、それぞれの習い事にやりがいも見つけていた。

 

 学校でも成績優秀、運動神経抜群。

 才色兼備という言葉をそのまま体現したような少女だった。

 

 周囲にはたくさんの友人がおり、何不自由のない生活を送っていた。

 

 ――そう。

 

 彼女は、何もかもが順風満帆だった。

 不満はなかった。

 

 だけどある日、彼女は目覚めた。

 

 ギター、ひいてはメタルという存在に。

 

—-

「ふむ、ここがらいぶはうすというものですか…」

 

 彼女は初めて訪れたライブハウスに、興味深そうに視線を巡らせていた。

 

 薄暗い店内。

 壁に貼られた大量のライブ告知。

 所狭しと置かれていた。

 

「本日は、どのような音楽に出会えるのでしょう……!」

 

 紫苑は今日、このライブハウスで行われるライブを見に来ていた。

 

「……あれ?」

 

 そんな紫苑を見つけた少女が一人。

 

「皇さん…であってるよね?」

「……はい?」

 

 声のした方を振り向く。

 

 そこには、同じ学校の制服を着た1人の少女が立っていた。

 

「あ、やっぱり皇さんだ!」

「あなたは伊地知さんであっているかしら?」

「知ってるの?」

「ええ。同じ学校ですもの」

「そっか!」

 

 伊地知虹夏は、ほっとしたように笑う。その隣には、もう一人。何やらミステリアスな雰囲気の少女がいた。

 

「……」

 

 無言で紫苑を見つめている。

 

「あなたは山田さん?」

「そう!山田リョウ。私と同じバンドのメンバーだよ」

「どうも」

「お二人は、こちらのライブをご覧になるのですか?」

「ううん。私たちはバンドの練習で来たんだ」

「まあ、バンドを?」

「うん。今、ギタリストを探しててさ」

「……!」

 

 紫苑の目が輝いた。

 

「ギタリストを?」

「うん」

「……」

 

 紫苑はゆっくりと自分の足元に目を落とした。

 そして、再び虹夏を見る。

 

 紫苑は胸元に手を添え、にこりと微笑む。

 

「私で宜しければ、ぜひ参加させていただけないでしょうか?」

「えっ?」

「ギターでしたら、お力になれるかと」

 

 あまりにも自然な申し出だった。

 

 虹夏は一瞬、隣のリョウを見る。

 

 彼女はというと――

 

「いいんじゃない?」

「リョウ、決めるの早くない!?」

 

 虹夏は困ったように頭を抱える。

 

「うーん……」

 

 しかし、ギタリストを探しているのも事実。

 

 それに、同じ学校の生徒なら色々とやりやすい部分もあるだろう。

 

「じゃあ……今度、音合わせしてみる?」

「まあ!」

 

 紫苑の顔がぱっと明るくなった。

 

 

 

 

 

———

 

「へ?」

 

「ホントにごめん!! 紫苑さんのやりたい音楽と、私たちのやりたい音楽が違うんだ。きっと他のバンドの方が紫苑さんのためにもなるよ」

 

 その言葉を聞いた時、紫苑は心底悲しそうな表情を浮かべた。

 

「…………」

 

 実のところ、彼女にとってこの二人はとても良い物件そのものだったのだ。

 

 同じ学校。感じの良い性格。

 

 何より、二人とも上手い。

 

「……メタルは、お嫌いですの?」

「嫌いっていうか……」

 

 虹夏は言葉を濁す。

 

「私たちがやりたいのは、もうちょっと普通のロックというか……」

「そう……ですか……」

 

 紫苑の肩が、目に見えて落ちる。

 

「……せっかく、素敵な方々と出会えたと思いましたのに」

「そ、そんなに落ち込まないで!」

「わたくしは……」

 

 紫苑は悲しげに俯く。

 

「このお二人となら、一生音楽を続けていけると思っていましたわ……」

「重い重い!!」

 

 虹夏が思わずツッコむ。

 

「まだ一回しか合わせてないから!」

「でも、リョウさんはメタルにもご理解がありますし……」

「うん」

「虹歌さんも、とても素敵な方ですし……」

「え、私も?」

「はい」

 

 紫苑は真剣な表情で頷く。

 

「でも、分かりましたわ。お二人の邪魔をするのも私のポリシーに反しますし。あなたたち二人の成功を心から願い申し上げますわ」

 

 そう言って、紫苑は優雅に微笑んだ。

 

「紫苑さん……」

 

 虹夏は少し申し訳ない気持ちになる。

 

「本当にごめんね」

「いえ。お気になさらず」

 

 紫苑は首を横に振る。

 

「音楽の方向性が違うのであれば、仕方のないことですもの」

「うん……」

「それに」

 

 紫苑はギターケースを手に取る。

 

「お二人なら、きっと素敵なバンドになりますわ」

「……ありがとう」

「こちらこそ、本日は素敵な時間をありがとうございました」

 

 最後まで笑顔を崩さない紫苑。その姿を見て、虹夏はどこか寂しい気分になった。

 

「……リョウ」

「なに?」

「なんでそんなに名残惜しそうなの?」

「ギターのお下がりとかもらえるとおもったのに……!」

「おい山田ァ!!」

 

 紫苑はそんな二人を見て、くすりと笑う。

 

「それでは、失礼いたしますわ」

 

 そう言って、彼女は二人に背を向けた。

 

 数歩進んだところで――

 

「……」

 

 足を止める。

 

「……やはり」

 

 小さく呟いた。

 

「惜しいですわね……」

 

 その呟きだけは、先ほどまでの優雅な笑顔とは裏腹に、本気で悔しそうだった。

 

 

 

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