それを見たのは偶然で。
ふと空を見上げた時、それが目に入ったんだ。
あまりにも綺麗で、あまりにも輝いていて。
頭上を通り過ぎたそれを、必死で追いかけた。
走って、飛び込んで、泳いで潜った。
そして視線の先、光り輝くそれを見つけた時。
僕は迷わず手を伸ばしたんだ。
竹林の中を駆ける。
道中にいる雑兵をなぎ倒し、目標に向かって一直線に。
目的地に着くまでの間に準備を整えるため、両手に持つ拳銃で一人残らず撃ち抜いていく。
そして予定通り、目的地に着く前にゲージが溜まり切ったことを確認し、迷わず実行。
拳銃が光を纏い、巨大な銃砲身へと変化して両腕と一体化する。
チャージをしながら、状況を再確認する。
戦況は最終盤。
互いに残機はなく、仲間たちは敵味方含めて全損。
既にやぐらは落ち、戦わずとも先にトドメを刺した方が勝ちではある。
……が、そんなことを互いに望むわけがなく。
――いた。
やはり同じことを考えていたらしく、中央から堂々とこちらの陣地を目指している。
味方陣営の雑兵は大半が金棒の一撃で吹き飛ばされ、残りも銃弾の嵐を浴びさせられている。
……てことは、お互いに準備万端ってわけだ。
地面を強く蹴って空中に飛び上がり、姿を晒す。
すぐにこちらの方を向いた相手と視線が交わり、互いに得物を構える。
空中にて銃を向ける。
反動なんて知ったことか、この一撃で決めてミせる。
地上にて刀を構える。
回避なんて知ったことか、受け止めきって夢をミせる。
放たれた砲撃と、振るわれた刀身がぶつかり合い。
激しい光と衝撃が、戦場一帯を包み込んだ。
「や、やっと三連休がきた……。超久々に一日六時間は寝られる……」
西暦2030年、夏。
夜の街中を疲労困憊で帰路に就く少女がいた。
彼女の名は酒寄彩葉。
母親との大喧嘩の末、生活費と学費の両方を自力で稼ぐという無理難題な条件で一人暮らしを始めており、文武両道を維持しつつバイトもこなしているめちゃ頑張り女子高生である。
「買い物して、帰ったら明日の予習して、ヤチヨの配信見て、KASSENやって。……あれ、もしかしていきなり夜更かしコース?」
本日の予定を思い返し、その終わりの時間が予測できたことで冷や汗をかく彩葉。
嫌な予感が確信に変わる前に頭を振って思考を追い出し、スマホを操作していつも聴いている曲を再生する。
「あ~沁みる……」
ポップな曲調と優しい歌声。
心にスッと入ってくる歌詞がヘトヘトの心を溶かし、思わず涙が出そうになる。
彩葉の最推しである月見ヤチヨのデビュー曲、【Remember】。
ライブでは聞かなくなったが一番好きな曲を聞きつつ歩みを再開しようとした時、ふと横から視線を感じることに気が付いた。
「…………?」
建物と建物の間。
一般的に路地裏と呼ばれる場所につながる入口。そこに人が一人立っていた。
フードを深くかぶっていて顔は見えない。
だが恐らく、背丈からして子供だ。
それがただ静かに、恐らくだが彩葉を見つめていた。
「えっと……君、どうしたの?」
「ねぇ、
「へ?」
「君はなんでそんなに頑張るんだい?」
「んえ?」
沈黙に耐えれず、彩葉が先に声をかける。
しかしそれに答えることはなく、中性的な声色から妙な単語を投げかけられる。
(なに、竹取姫?)
見たことも聞いたこともない名称で呼ばれたことに驚き、思わず返事をする。
そこに畳みかけるように問いかけられ、混乱して何とも言えない返事を返してしまった。
「君は多くの積荷を抱えている。それは君の魂を削り、輝きを鈍らせている。この先にも数多の苦難が待っているというのにさ」
「……なに、言ってるの」
だからこそ、彩葉は彼が最後まで言葉を紡ぐまで気が付けなかった。
目の前の子供――おそらく少年が、異様に流暢な言葉遣いをしていることに。
「ごめんね、話がややこしくて」
彩葉が動揺していることを分かっているようで、少年は困ったように笑う。
表情は見えないが口角は少し上がっており、困らせてしまったことを自覚して反省しているようだった。
「あ、いや……ていうか、なんでそれを」
「でも大丈夫、本題はここからだよ」
少年は歩き出し、彩葉の目の前で立ち止まる。
騒がしかったはずの周囲は鳴りを潜め、否が応でも眼前の存在を強く感じてしまう。
そして彼女を見上げながら、目を離せないどこか不思議な雰囲気を纏わせた少年は口を開いた。
「ねぇ、竹取姫」
「その重荷、本当に君が背負う必要があるのかい?」
「……それ、は」
「今は答えなくて大丈夫。……でもいつか、その答えを聞かせてくれると嬉しいな」
気がつけば目の前にいたはずの少年は姿を消し。
周囲の喧騒は元に戻り、最初から誰もいなかったかのように日常が再開していた。
「……ま、さすがに警戒されるよね」
しばらく周囲を見渡していた彩葉だったが、やがてその場を離れて帰路に就く。
その様子を屋上から眺めていたのだが、先程までの会話を思い出して思わず内心苦笑してしまう。
いやはや、流石に違和感が凄かった。
こちらの事情を万が一にもバレるわけにはいかないので、今まで出会ってきた中で最も得体が知れなかった奴の話し方を参考に話しかけることにした。……のだが、物の見事に裏目に出た気がする。
既に若干後悔の念が浮かび上がってきそうだが、頭上に光を感じてそれを押しとどめながら空を見上げる。
「――――来た」
それを視認し、待ちに待っていた物であることを確信する。
まるで夜空を切り裂くように。
視線の先には鮮やかな輝きを纏う飛翔体が映っていた。
「あぁ、遂に始まったんだ」
まるで流れ星かのように見えるそれだが、僕はそれが何なのかをよく理解している。
「ようやくだ、ようやく来てくれた」
見間違えるはずもない。
果ての記憶は朧気になってきているが、この光だけは魂に焼き付いているのだから。
「やれるだけのことはした。できる限りの手は打った。……ここから先は天のみぞ知る、ってやつかな」
そう呟きつつ、飛翔体に向けて手を伸ばす。
決して届くはずのない距離。
遠いからこそ手中に収まるそれを見つめつつ、昂る感情を言葉に乗せる。
「覚悟しなよ、月見ヤチヨ」
「君の存在を、僕は決して認めない」
決意を込め。
開いた手を、そのまま強く握りしめた。
これは言うなれば決意表明。
もしもこの先、迷ってしまったとしても。
もしもこの先、躊躇うことになったとしても。
もしもこの先、後悔してしまうことになったとしても。
原初の想いをここに残し、原初の願いをここに刻む。
少しでも立ち止まりそうになった時。
ここに戻ってくることでまた前を向けるようになるために。
ただ僕は、君の笑った顔が見たいんだ。
苦しむ様を見たい奴なんてどこにいる。
あれが君の望むエンディングだというのなら、僕はそれを否定する。