八千代に響け、この魂   作:zelga

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君は言った。

自分は遠い未来から来たのだと。

君は言った。

これは一緒に来た子の肉体だけなんとか作れたのでそこを通じて話しており、本体は僕が抱えている筍のような舟――『もと光る竹』にあるのだと。

君は言った。

それは食べ物じゃないからお願いだから食べないでくれと。

今だからこそ言葉の意味は分かるが、当時は何を言ってるのかすらさっぱりで。

あっちこっち跳ねながら必死に話す生物(ウミウシ)を、ただ茫然と見つめていた。



この瞬間から、僕の世界は大きく広がることになる。







1:『鏡、写し身』

 

 

 

「VR仮想空間【ツクヨミ】。誰もが表現者になれ、誰もが自由に創作できる夢の空間。その中で現在大流行中のゲーム、それが【KASSEN】です」

 

 

激しい爆発音がする。

 

恐らく反対側のやぐら争いが動き出したのだろう。

戦況は……お、予定通りだ。

 

 

「ルールはいくつかありまして、主要なのは3vs3の陣取り合戦である【SENGOKU】モード。戦場の両端に鎮座する二つのやぐらに攻め込み、立ちふさがる牛鬼を倒して占領。さすれば敵陣地に達磨落としならぬ、大将落としが出現いたします」

「――――ッ!」

 

 

正面からの攻撃をいなしつつ、手裏剣を投げて周辺の雑兵を倒していく。

 

今回は味方の編成を見て足止め役に徹したため、育つのが少々遅れている。

それを見抜かれ積極的に襲われているのだが、現状なんとか粘れている感じだ。

 

 

「勝利条件は大将落としを敵城に撃ちこむか、やぐらを二つとも占領する事。無論、敗北条件はその逆。倒された場合は時間で復活できますが、有限かつ持ち越し不可の残機制です。まぁ、今回はもう終盤なので関係ありませんが」

「余所見たぁいいご身分だな!」

「おっと」

 

 

鍔迫り合いになったため足を止めたのだが、相手の背後に光が一瞬見えたので首を傾ける。

すると直後に先程まで頭があった個所を矢が通り過ぎ、地面に突き刺さった。

 

やはり中央(ミドル)に誘導した敵はこちら側に合流することを選んだようだ。

 

そして南側(ボトム)には味方が2人いる。

あちらが勝つのは時間の問題なので、こちらを取ることを優先したのだろう。

 

 

「現状説明は必要でしょう? それにあなたたち相手に余所見など、なんてもったいない!」

「うるせえ。とっくに万策尽きてんだ、とっとと落ちやがれクソピエロ!」

「ハハッ、すごい勢いですねえ。まるで今の今まで分け身や罠で入念な時間稼ぎをされた積年の恨みを晴らそうとしているかのようだ!」

「わかってんじゃねえか!?」

 

 

行動阻害の設置罠をしかけようとするが、起動する前に矢に撃ち抜かれて壊されてしまう。

 

おかげさまで真正面から人数不利を押し付けられているわけだが、レベルもほぼ同じな現状は大分厳しい。

 

……うーむ、流石にそろそろ時間切れかも。

 

 

「隙ありィ!」

「ッ、しまった!?」

「これで!」

 

 

手に持つ得物を砕かれ、体勢を大きく崩してしまう。

 

その隙を相手は逃さす、大きく振りかぶって一刀両断。

間違いなくクリーンヒットだ、一撃で体力は削りきられるだろう。

 

 

 

 

 

「おっしゃ、見たかこの野rッ!?」

 

 

――まぁそれ、僕の奥の手(ウルト)使って生み出せる分身だったわけなんだけども。

 

 

両断された肉体が風船のように膨らみ、爆発と同時に周囲を毒の煙で包み込む。

 

これによって狙撃手からの援護はなくなり、想定外の状況に相手が動揺。

その隙を逃さず僕は隠密状態になってから背後に立ち、即座に忍者刀を突き立てた。

 

 

「下に恐ろしき突破力。やはりあなた、ノっているときはとことん強い」

「て、めぇ……!」

「だからこそ、狙うべきは目的を達したその瞬間。私を倒し、さぞ達成感に包まれたことでしょう?」

 

 

そう言いながら得物を引き抜く。

 

この武器は何かと使い勝手がいい代わりに、威力は低めに設定されている。

本来なら一撃で倒せるはずもないのだが、僕の尖りに尖った今回のスキル構成がそれを可能にしている。

 

 

「だからこそ、状態異常にかかったあなたを背後から不意打ちすることができたのです。回復するのが遅れてしまいましたねえ?」

「……ありえねえ、お前の分身はさっき南側(ボトム)奇襲(ガンク)しに行ってたじゃねえか!?」

「序盤に出して隠しておいたのですよ。あなたの性格上、分け身を認識すれば意識から外れると思っていましたから」

「ちくしょー!」

 

 

捨て台詞を吐きながら、彼の肉体が消滅する。

まだ残機は残っていたとは思うが、戦況的にもう間に合わないだろう。

 

そう考えていたら、視界の端で大きな爆発が起きる。

どうやら陣地争いに勝った味方がそのまま大将落としを撃ちこむことに成功したようだ。

 

まぁこっちで援護射撃をしていた一人が合流を図ったのかも知れないが、残念ながら進行ルート上には罠を山ほど敷き詰めている。

 

焦れば焦るほど引っかかる配置だ。

たどり着くのは至難の業だっただろう、無念。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、思い付きでしたが上手くいきましたねぇ」

 

 

戦場を離れ、街の中を歩きながら先程までの戦いを思い返す。

 

奥の手(ウルト)は再使用までのタイムラグが存在するのだが、分身の場合は使用してからカウントが始まる仕様だ。

それを逆手にとって終盤で実質連発するなんて突飛な発想だったが、中々の好感触だった。

 

 

「ここはやはり、勝利の美酒ならぬ勝利の抹茶牛乳を――」

「プギュ」

「おや?」

 

 

そう考えつついつもの喫茶店に向かおうと曲がった時、向かいから走って来た少女と正面衝突してしまう。

 

とは言え僕のアバターは長身。

少女が一方的に顔面をぶつけることになってしまった。

 

 

「どうしたのです、そんなに急いで。……っと、まずは大丈夫ですか?」

「いてて……うん、大丈夫!」

「――――」

 

 

僕が声をかけると、少女はそう言いながら鼻を抑えつつこちらを見上げる。

 

 

……驚いた、まさかこんなタイミングで出会うなんて。

 

 

「それは良かっ「あーっ!!」……あれま」

()()と食べようと思ってたパフェがーー!?」

 

 

衝撃で落ちてしまったのだろう。

僕達の間の地面に飲み込まれてしまったアイテムを見つめながらそう考える。

 

そして少女が非常に悲しそうに地面を見つめているのを見て、自分がすべき行動にたどり着いた。

 

 

「申し訳ない、私の落ち度です。どちらの店ですか? お詫びに私が買いなおしましょう」

「……え、いいの?」

「えぇ」

「やったー、いい人だー!」

 

 

あまりにも素直すぎないか?

 

そう考えつつ、こっちこっちと手を振りながら走る少女を追いかける。

 

うーむ……これ多分会うよな?

あんな会話をした手前、あの子としばらく会う予定はなかったのだが。

 

この間のSENGOKUでも同陣営だったし、そういう運命にでもなっているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――というわけで買いなおすことになり。ついでに追加のトッピングを重ねた結果、私も運ぶ役目を承ったわけでして」

「たくさん乗っけてもらった! みて彩葉、デラックス爆盛りパフェ!」

「…………」

 

 

絶句している狐耳の少女の様子を気にせずに彼女は隣に座り、パフェをキラキラした目で見つめている。

 

それを横目に見ながら僕は手に持つパフェを差し出し、少女はそれをおずおずと受け取った。

 

 

「まぁお気になさらず。なんと私、この間のイベントの飛び入り実況でふじゅ~が結構稼げたので」

 

 

いやぁ、あれは実入りのいい仕事だった。

 

僕は基本ランクマッチでやりたい放題しているが、大会にはあまり出ていない。

それもあって、知名度は非プレイヤーからはそこまで高くないのだ。

 

故にこの話し方やキャラクター性が新鮮だったのだろう。

新しい衣装や構築(ビルド)を試せるようになる程、ゲーム内通貨であるふじゅ~を稼がせてもらっていた。

 

 

「アハハ……話題になってましたね」

「皆が笑ってくれたのなら何より!……と、気を取り直して。やぁ、いろ殿。先日以来ですねぇ」

「こんばんは。相変わらず、色んな戦い方をするんですね」

「変わらず?……もしや、どこかの一戦をご覧になられていたので?」

「さっき言ってた件がきっかけで、どうやら注目されているみたいですよ」

 

 

ほら。と彼女は画面を操作し、KASSENのユーザーが集まるページを見せてくれる。

どうやら少女がパフェを買ってくるのを待つ間、そのページを見て時間を潰していたようだ。

 

そしてそこでは定期的に様々なマッチがピックアップされているのだが、その中に先程の私の所業がしっかりと映っていた。

 

 

「あらら……。一発芸なのでこれから初見の方々にやろうと思っていたのですが、これではもう対策されてしまいますねぇ」

「あ、やっぱりそうなんです?」

「言ってしまえばこれは中盤までの優位点(アド)を全て投げ出し、最後だけ輝く構築(ビルド)ですから」

「普通はやりませんよ、重要な中盤で一番弱くなる構築なんて」

「えぇ、そこを逆手に取ったのですが……「ねぇ?」……おや」

 

 

もう使えなさそうだし、秘密にする理由もないか。

 

ちょうどいい話題を見つけたのでそのままアバターネーム『いろ』こと彩葉と話していたのだが、それを遮るように隣の少女が声をかけてくる。

 

二人でそちらに振り向くと既に食べきったのか、空の容器を置いた状態でこちらを不思議そうに見つめていた。

 

 

「どうしました?」

「おじさんは彩葉と知り合い?」

「わぉ」

「ちょ、かぐや!? 初対面の人におじさんとか言わないで!」

「初対面じゃないよ、さっき話したしパフェ奢ってもらったもん!」

「そうじゃなくて!」

 

 

まさかの顔面火の玉ストレート。

 

ほぼ事実なだけに何も言い返せず言葉に詰まってしまったのだが、それを彩葉は悪い方向にとらえてしまったようだ。

 

急いで少女に言い聞かせようとするが、どうやら少女――かぐやの中で私はもう知り合いらしい。距離の詰め方が尋常じゃねえな。

 

 

「いえいえ、お気になさらず。……ではその問いに答える前に、まずは自己紹介といきましょう」

「あ」

「お?」

 

 

そう返しつつ、僕は二人から一歩離れる。

 

かぐやに詰め寄っていたことで僕と距離が離れたため、残念ながら彩葉の静止は間に合わない。

 

前に見せたときはそれはそれは良い反応だった。

せっかくだ、もう一度見てもらうことにしよう。

 

水面に向かって歩き出し、当たり前のようにその足は水中に沈むことはない。

 

彼女たちの視界に映らない場所で画面を操作し、衣装画面に切り替える。

 

 

「私の名はDO・KEKATA(ド・ケカタ)!」

 

 

今二人は僕の背中しか見えていない。

この間に役に入られるよう、SENGOKUでいつも使う格好にしたほうがよさそうだ。

 

そう判断して装飾を普段使いのそれに切り替える。

 

現代風にアレンジされた黒基調の狩衣を身にまとい、道化風の化粧が拵えられた狐面をかぶる。

頭部から生えている大きな山羊角は鮮やかな赤と青に染まり、ジェスターハットを意識した装飾がちりばめられた。

 

 

「主な活動はKASSEN。基本はプレイヤーでたまに解説、たまに指南をしている次第」

 

 

いつもの声色、いつもの手ぶり、いつもの演出で。

 

周囲を賑やかに彩りつつ、中心の僕を際立たせる。

 

 

「好きなものは笑顔、嫌いなものは涙!」

 

 

振り向いた視界の先。

 

前に聞いたことのある彩葉はどこか呆れたようにこちらを見ており、かぐやは楽しそうに瞳を輝かせている。

 

その表情に懐かしさを覚えながら、優雅に一礼して口上を終わらせた。

 

 

 

 

 

「皆が笑えるハッピーエンドをこよなく愛する、ただの道化にございます」

 

 

 

 

 









何はともあれ、まずは必要な前提条件から纏めよう。

その一、電子世界での操作習熟。

彼女が作ろうとしているのは電子世界。肉体ではなく頭の中で動きをイメージするとその通り動く世界……のはずだ。
恐らく事を起こす場合はそこでやることになる。十全に動けるよう、その類が始まったらすぐに着手した方がいいだろう。

その二、舞台の補強手段の確保。

どう見繕っても、これからやるのは超技術と呼ばれる類だ。……まぁ、そもそも月発祥の時点でそうなのだが。
今の人類の技術発展具合から考えても、負荷は相当のものが予想される。
彼女が作るのだから大きく上回っているとは思うのだが、世界中の人々が参加する以上、十全な状態というわけではないはず。
そこを補う手段が欲しいのだが……正直現状だとお手上げ、一旦後回し。

その三、●を知覚できるかどうかの確認。

ほぼ大丈夫とは言え、確信にはまだ至っていない。
しかし現状判明している確実なタイミングは遥か先。かと言って前の経験を基に確かめようとする場合、とんでもないリスクを背負わなければならない。
念のため他の手段を探しつつ、その時を待つとしよう。

その四、見守り。
ここまでやっておいてなんだが、最重要な鍵を握るのは僕じゃない。
あの子がいることが前提条件であり、最後の実行者でもある。
彼女の話から推測するに、この先のどこかであの子は母親と対立する。それを把握し、可能ならば対処したい。
もしそれで未来が変わりそうになったとしても、辻褄を合わせればいいだけだ。過程が違っていても、結果が同じなら問題はないだろう。
幸いなことに、今回の僕はそれが可能な立ち位置にいる。
予兆を見逃さないよう、しっかりと注意しつつ見守っていくことにしよう。

……こんな所か?

そして最後に。
今の僕の考えを、万が一にも彼女に知られるわけにはいかない。

それに彼女はなんだかんだこういう所には敏感だ。
ふとした行動がきっかけでバレる可能性は十分に考えられる。

最悪で幸いなことに最後に直接会った際、喧嘩別れに近い形で終わっている。

これを利用しよう。
僕から行こうとしなければ、輪廻の影響も鑑みて頻度は劇的に下がるはずだ。



例えこの選択が、あの日から続いていた陽だまりを手放すことになるとしても。

あれを完成させた後。
僕からはもう会いに行かない方がいい。




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