後半戦に向けての箸休め(前編)と言った感じ。
最初の切っ掛けは、君の姿絵を見せてもらった時。
ウミウシで書くしかなかったとはいえ、ありとあらゆる線がぐにゃぐにゃで。
それでもその姿は、声から感じる活気ある解釈と一致していた。
次の切っ掛けは、君と話している時。
僕はどうやら、君が傍にいるだけで幸せだと感じるらしい。
話を聞いて、時に歌を聴いて。
どんなに理不尽な目にあったとしても、僕が僕でいられ続けたのは、間違いなく君の存在のおかげだった。
そして最後の切っ掛けは、とある廻りの時。
生涯を終え廻る時、いつもどこかに引っ張られる感覚がある。
普段はその勢いに押されて意識を失い、記憶が戻ると同時に目覚めていた。
ただとある時、君がすぐ隣にいるときに気合で耐えようとした事があった。
その時にふと、傍に確かな存在を感じたんだ。
今まで一度も感じたことのない感覚で。
けれども自然と、安らぎを覚えていた。
その後再開した時、会話の中で確信した。
あの時の安らぎは、君と話す時にいつも感じていたそれと同じだったことを。
これらの出来事を通じてわかったのだが、僕は君に特別な感情を抱いているらしい。
……一応、数多の生涯の中で家族を作った時もある。
故に愛情という感情自体は知っている。
けれど、君に抱くこれはそれとは少し違うような気がしていた。
……って、下手に誤魔化してもしょうがないか。
結局の所、僕は最期までこの感情に名前を付けなかったんだ。
それはきっと、この時にはうっすら分かっていたからなのかもしれない。
「…………」
「…………」
互いに一言も発することなく、ただ見つめあう。
KASSENはSENGOKU、その中央陣地。
試合が始まってからかれこれ何分経っただろうか。定期的に話し合いこそすれど、それ以外はこうして静寂を保ってる。
「…………」
「…………」
とは言え、戦況は着々と進むわけで。
互いに狙うは大将落とし。なれば、そこに最速でたどり着けるこの中央を通る必要があるわけで。
「さて、今回は如何様でしょう?」
背後に迫る気配を感じ、振り向きながら得物を後方に向ける。
高速回転しながら迫るそれとぶつかり、ギャリギャリと擦れる音が周囲に響く。
「よっと」
これ以上の仕掛けはなさそうなので、押し上げて上空に弾く。すると武器を投げてきた張本人がそれを空中でキャッチし、そのまま自らの体重を乗せて振り下ろす。
……片手じゃ無理だな。
そう判断した僕は上げた手に持つ得物――腕よりも一回り以上大きい本体を持つトンファーの握りの先端にもう片方の手を添え、正面から受け止めた。
これで僕の動きは完全に止まる。後は、死角から迫りくる最後の一人が止めを刺せばそれで終わり――――
「と、思っているのでしょうけど」
得物から手を放し、空間の隙間を縫って相手の腕をつかむ。そのまま背負い投げの要領で振り下ろし、背後から迫りくる一人に向かって投げ飛ばした。
回避は間に合わず、二人は衝突。それを見ながら空を舞う得物をキャッチし、一気に接近。
威力の底上げのため、展開していた本体を格納。本来の形状である槌に戻しながら強化を施し、地面に重なった状態で転がる二人に向けて全力で振り下ろした。
「……さて」
衝撃とともに、土煙が周囲を覆い。目の前に散る花弁を見つめながら、その向こう側で行われている戦いが敗北に終わったことを悟る。
「ふむふむ……」
煙が晴れ、その先にいる無傷の彼女もまた何か考え込んでいるようで。
先程までのデータを含め、恐らく答えが出たのだろう。
視線が合って数秒後、互いに口を開いてこう言った。
「「アサシンじゃないと分身意味ない(です)ね」」
「やはりオートでは強力な雑兵、プレイヤーでも中の下が精々ですな」
「コンビネーションはバッチリだったんだけどね~」
先程の戦いを終え。
改めて向き合った僕は、一緒に検証をしていたヤチヨにそう話を切り出した。
あの世紀の竹取合戦から、既に三日が経過していたある日。
いつも通りログインしていたのだが、突如運営……もといヤチヨからDMが届いたのが始まりだった。
内容を確認すると、SENGOKUのスキルバランス調整のために協力してほしいとの事。
……いや、正直本気で冷や汗が出た。
ずっと演じている以上、僕の正体はバレていないはず。あの日の行動も監視の目がないのを確認したし、ログが残らないよう対策した状態で動いたはずだ。
だからバレるはずがない。そう思っているのだが、それでも怖いものは怖いわけで。
とは言えこの内容を見た時、僕は同時に納得もしていた。
なにせあの日に彩葉が特大の見せ場で分身を使った結果、ここ最近KASSEN内で分身が大流行しているのだ。
実際僕も何度か対戦で目撃しており、その頻度は今までとは比べ物にならないと言える。それにアーカイブとして残すために投稿してある僕の動画の内、分身暗殺ビルドだけ再生数が異様な伸びを見せていた。これも恐らくプレイヤーが手本を探した結果なのだろう。
「やっぱりオジサマの分身は滑らかに動くね、ヤッチョのとほとんど変わんないや」
「専売特許です故!……とはいえ、ヤチヨ殿ほどの数は流石に出せませんけど」
「そこはヤッチョの専売特許だもんね~」
……そう。それはつまり、まともな手本がよりにもよって僕しかいないということでもあるのだ。
忘れてはいけない、分身があまりにも癖が強いマイナースキルであるということを。
実装当初はキーマウで操作する人が多く、それなりに活躍はしていた。……が、現在主流のイメージ操作となると話は別。
前に言ったとおり、イメージ+マニュアル操作だと難易度が跳ね上がってしまう。かと言ってオートにした場合、イメージ操作によって個性が溢れるようになったプレイヤーとの識別が簡単になってしまうわけで。
そんな訳で担い手が増えた結果、その仕様も明るみになったのだ。
実戦での運用方法も基本参考にならず(上位層での使用者がほぼ僕のせい)、なんとかしてほしいとの要望が殺到したらしい。
「やっぱり支援職じゃないと厳しそ?」
「と言うよりは、火力職だと倒される意味が薄いのが痛いですねぇ。性能維持の方向ですと、デバフスキルを所持していることが必須になるかと」
「よよよ~、つまりは罠職か暗殺職のスキルってことなのです……」
そこで今回を機に、分身がバランス調整の対象に選ばれたらしい。そして現状それを最も上手く扱えるプレイヤーの意見を聞こうと考えた、との説明を集合した際に聞かされた。
そんな経緯から始まったのが、このカスタムマッチという名の検証会。この中で僕達は何度か条件を変えて戦い、その使用感を話し合った。
時に耐久値を弄り。
時に分身できる数を弄り。
時に使える職業条件から弄った。
同じ設定で戦ったり、互いに仮説を建てた内容で戦ったり。
そんなこんなで、もう何試合もこの作業を行っているわけだ。
「かと言って耐久を上げてしまうと別方向で崩れてしまいます。……となれば、対策は」
「オート操作での精密性向上かにゃ〜?」
「そうなるかと」
できれば天井を下げるんじゃなくて、土台を上げたい。
始まる前に聞いた彼女の希望を叶えるため、最終的な方向性を示す。
「どうでしょう、その方向性でもう少し確かめますか?」
「……んにゃ、欲しかったデータはもうバッチリ! ありがとね、オジサマ!」
「いえいえ、一助になれたのなら何よりです」
続きを促そうとした僕に、少々考えた後のヤチヨはそう返す。
流石に調整内容をプレイヤーである僕に伝えるわけもなく。このデータを基に運営側でいくつか調整案を出し、最も感触が良かったものを実装していく予定なのだろう。
……さて、どうしたものか。
この後の予定は決まっている。そこで何を悩んでいるのかと言うと、目の前にいる彼女を誘うべきかどうかを悩んでいるのだ。
状況を考えてみると、誘ってもおかしくはない。が、運営でもある彼女をライバーでもないプレイヤーである僕が誘うのはおかしくないか、とも思ってしまうのだが……。
……ん、いや待った。それは変だな。僕はともかく、
よし、なら大丈夫。これからやることは、余計なおせっかいではないはずだ。……多分。
「ヤチヨ殿、この後は御手隙ですかな?」
「ん、なんだいなんだい?」
DMで内容を再確認しつつ、ヤチヨに声をかける。
部屋を閉じる前に返事を返してくれたのでマップを見せながら、事前にあの子達と決めた内容を彼女にも話していく。
「実はこの後かぐや殿、イロP殿と合流して【プチお疲れ様会】なるものを行うのです」
「おぉ、それは楽しそう!」
プチお疲れ様会。
プチ、と言うのは参加するのが私含めて三人だけだからだ。
なんでもかぐや達は既に友達とお疲れ様会をやっており、そこには僕と面識がない子もいたらしい。そんな祝いの席にも招待をもらっていたのだが、それもあって流石に辞退していた。
そこを察せられたのか、こうして軽くでもいいからやろうと誘われたのが今回の始まりだ。
「そこでいかがですか?」
「私も?」
「えぇ。ヤチヨ殿もあの竹取合戦で共に戦った仲、共に祝ってもよろしいのでは?」
「……そっか。うん、それなら確かに……?」
うんうんと考え込むヤチヨ。きっと彼女の頭の中では、様々な思いが混ざり合っているのだろう。
……もう一押しか。
「きっと皆喜びますよ。私が補償いたします」
「……
「えぇ、もちろん」
彩葉はもちろんだが、かぐやだって歓迎するに決まっている。
そう考えて言葉を続けると、何かが引っ掛かったのかヤチヨはこちらをじっと見つめる。
どうやらいい具合にハマったらしい。少しずつ口元が緩んでいき、微笑みながらヤチヨは片手をあげて口を開く。
「ふふふ……よーし、ここはいっちょヤッチョも――」
「おぉ!」
「バカタレ、この後やることをもう忘れたのか?」
「おぉ?」
いざ行かんとした寸前、ヤチヨの肩に乗っているFUSHIが呆れた声で割り込む。
それを聞いたヤチヨの動きがピタリと止まり、ギギギと鈍い音を立てながらFUSHIに視線をゆっくりと向けていく。
「うぐ、FUSHI……」
「……もしや、午後からの」
「あぁ、あいつらとライブの練習だ。振付があいつらでもできるくらい、簡単にしなきゃいけないんだろ?」
「そうでした……」
……そういえば今回がプチな理由の一つに、二人とも今日ライブの練習があることも含まれていたんだった。
とは言え、そんなに手間がかかるのか?
てっきり彼女の事だから、同時並行で来れると思ったのだが……。
そんなことを考えていると、同じことを彼女も思っていたようで。おそるおそるFUSHIの方に視線をチラチラ向けながら口を開く。
「で、でも? 分身なら行っても問題なかったり……?」
「あの曲はヤチヨが躍る前提の振付だ。一週間ちょっとしかないのに、あの二人が覚えれるわけねぇだろ」
「ハイ、ソノトオリデス」
「それにヤチヨは誰かと遊ぶ時、すぐそっちにリソース割いちゃうからな。今回ばかりは諦めるこった」
「……あい」
「あらら……」
すごい。FUSHIの声を聞くたびに、ヤチヨがどんどん小さくなっていく。
てか怖いよ、一体どんな踊りをする気だったんだよ。
内心慄いていたことが漏れ出たのか、FUSHIが簡単に説明してくれる。
なんでも分身を使い、まるでグループのようにライブ想定のダンスを行う想定だったらしい。
つまりは実質分身のマニュアル操作を歌いながらやれって事か。……あぁ、そりゃ無理だ。
「よよよ~、ヤッチョはこの後お部屋で貝になるしかないのです……」
「こればかりはしょうがありませんか……」
「アホタレ、リアルタイムが駄目だと言ってるだけだ」
「「?」」
「さて、この辺のはずですが」
通りを抜け、目的地に向かう。
念のため人通りを避けて向かったせいか、思ったよりも時間がかかってしまった。そう考えつつ進んでいくと、やがて小さな喫茶店が見えてくる。
実際にお店をやっているわけではなく、基本的には貸し切りスペースだ。だからこそ、今回はちょうどいいわけで。
そう考えつつ店に入ると、二人の姿が見える。
あれま、時間ぴったりだったみたいだ。本当は早めに来るはずだったんだが、こればっかりは事情が事情なのでしょうがない。
「やぁ、お二人とも。御久しゅうございます」
「こんにちは。……って、その帽子は?」
「烏帽子ですね」
「おー、服とピッタリなのに間のお面のせいで違和感すげえや」
声をかけると、先に彩葉がこちらに振り向く。
しかし頭部が普段と違う僕を見て、当たり前の疑問を投げかける。それに対し端的に答えると、かぐやがまじまじとこちらを見ながら感想を述べた。
「なんの! これは私を象徴する特注の一品、外すことなどないのです」
「アハハ……でも、実際珍しいですね」
「先程までお手伝いをしておりまして、そこで少々。最後に長引いてしまったのもあり、遅れてしまいました」
いやはや、申し訳ない。
そう言いつつ、二人の向かいに座る。そして烏帽子をひっくり返しながら外しつつ、彩葉の方を見ながら口を開く。
「ただそのおかげで、良き縁に恵まれまして。イロP殿、両手を掬水の形にしてもらえますかな?」
「掬水……こうですか?」
「えぇ」
「なになに?」
肯定すると、彩葉は素直に水を掬える形にして両手を差し出す。
それに感謝しつつ、烏帽子を彼女の手の前に持っていきながら言葉を続ける。
「此度は誠にめでたき日!……なのですが、少しだけ思っていたのですよ。せっかくのお疲れ様会なのですから、やはり全員集合の方がいいのでは?……と」
「それな。ってかそう思うなら、やっぱあの時来りゃ良かったじゃん」
「まみまみ殿はともかく、リアルのご友人もいたのでしょう? さすがにそこに入るほど無粋ではありませんよ」
かぐやからのツッコミを流しつつ、烏帽子の狙いを定める。
「あと一人いるじゃないですか、ここで共に祝える存在は」
「え」
「もしや?」
「と言うわけで最後の一人がこちら、ヤチヨ殿――――!」
すぐに勘付いた彩葉が硬直し、その隙を逃すはずもなく。
最後の参加者の名を言いながら彼女の掌の上で烏帽子をひっくり返す。すると中に入っていた存在がコロコロと転がり、掌に収まった。
「――――ッ!?」
「お?」
「……の分身が一人、ミニヤチヨ殿でございます」
よく見る月見ヤチヨではなく、たまに見かけるちびヤチヨの姿でもなく。
ライブ演出の際にのみたま~に見かける、通称ミニヤチヨと呼ばれる約二頭身の小人がそこにはいた。
そして彩葉がその存在を認識したと同時に、目が合う。
しばらく見つめった後、ミニヤチヨはニコッと笑った。
「ミ゛ッ」
彩葉は昇天した。
「それではかぐやイロPチャンネルの、ヤチヨカップ優勝を祝しまして!」
「「「乾杯!」」」
数分後、かぐやの手により彩葉の再起動に成功し。
あらかじめ用意しておいた飲み物を配り、合図と共にコップをぶつける。
小気味いい音が響く中、中身の炭酸飲料を一口飲む。ちなみにミニヤチヨも彼女用のコップに同じものを分けている。
うん、喉越しさわやか。……な気がする。弾ける炭酸が花火のように煌めく様はとても綺麗なのだが、相も変わらず無味なのだから。
「改めて目出度い! このDO・KEKATA、感服の至る限りでございまする!」
「どや!」
「ありがとうございます」
乾杯の音頭も終わり、改めて二人の偉業を称える。
それを受けてかぐやはドヤ顔でピースを返し、彩葉も素直にそれを受け止めていた。
……うん、良い表情するようになった。やはり竹取合戦でいい感じに吹っ切れたらしい。以前までの造られたそれではなく、自然な表情だ。
そんな内心を隠しつつ話を続けようとしたが、どうやらそこであの試合を思い出したらしい。かぐやは残っていた分を一気に飲み、空になったコップを机に叩きつけながら口を開く。
「でもグヤジイ゛~! あれで負けるの納得いかな~い!」
「リプレイ映像のスロー再生ですら、同時に見えていましたからねぇ」
「ケカタさんはどっちだと思っていたんですか?」
「無論、お二人の勝利を。システム判定なので異は唱えませんが、得心がいかないのはしょうがなきことかと」
いや本当、正直僕は勝ったとすら思っていた。
鬼退治による逆転からの、雷の罠による再逆転。
そこから更に彩葉のあの一手だ。再々逆転かと思い固唾をのんでリザルト画面を見守っていたのだが、そこに表示された名はブラックオニキス。
あの竹取合戦に敗北したかぐやは、ヤチヨカップも敗北したと思っていたらしい。彩葉曰く、むくれてへたり込んでいじけていたとか。
「とは言え、雪辱は既に果たしたのでは?」
「い~や、足りないね! SENGOKUで負けたんなら、SENGOKUで返さなければ!」
「出た、欲深怪獣かぐや」
「名は体を表すとはまさにこの事」
とは言えその先での結果は、先程の言葉の通り。
二人の輝きは、あの日見に来た神々の心をがっちりと掴んだらしい。
最後のバズりを見事に掴み、急速に登録者を得たことで大逆転。ブラックオニキスを抜きさり、見事にヤチヨカップを優勝したわけだ。
「てかどうよおじさん、あれビックリした!?」
「御美事!……どころか、豆鉄砲を食いましたよ」
「おじさん鳩だったん?」
今にも火を噴きそうな表情から一転し、ニヤリと笑ってこちらを見るかぐや。コロコロ表情変わるなぁと思いつつ、僕は本当のことを話す。
いや本当、あれにはびっくりした。
思わず仮面が外れてしまったのかと錯覚するほど、あの時の衝撃は凄まじかった。
「是非とも教えていただきたいですな。どんな魔法を使ったので?」
そう言いながら彩葉を見る。
大層自慢げな様子のかぐやだが、実行したのは彼女なわけだしね。それに実際、滅茶苦茶興味があるのも確かだ。
そしてそれを聞いた彼女は当時の事を思い出しつつ、状況を説明するために口を開く。
「えっと、かぐやと色々対策を考えていたんです。その中で、私だけじゃ敵本陣を突破できないことが話題に上がって」
「ふむふむ」
「私の戦い方じゃ突破力が足りない、なら火力を上げればいい。それでどうしようってなった時に、二人になれば火力も二倍になると思ったんです」
「ふむふむ……ん?」
何言ってんだこの子?
「幸い操作している様子はずっと見ていたので、戦闘中じゃなければ数秒だけできました。あとはかぐやと話し合って、いくつかパターンを想定して動きを考えたんです」
「…………」
「でもやっぱりケカタさんは凄いですね。武器を振り回してそれを足場に一気に飛び移る、それだけなのに手間取ってしまいました。……それさえなきゃ、きっと」
「かぐや殿?」
「彩華はちょ~最強なのです!」
あ、駄目だ。完全に彩葉にデレデレになってやがる。
彩華の言葉を聞き、確認のためにかぐやに話を振る。しかし両手にVサインを構えた状態でドヤ顔キメている彼女の姿を見て、一旦受け入れるしかないと脳内で判断を下した。
……えっと、つまりあれか?
コーチング中の僕の動きと、過去動画で見ることのできる視点操作。それだけを基に、条件付きとはいえ僕達に並びたてる制度のマニュアル操作ができるようになった、と。
……げに恐ろしき、天賦の才。
「今回は流石に時間が足りんかった。もっと練習すれば……」
あぁもう、集中しすぎて口調まで素に戻りつつあるじゃないか。
かぐやのおかげでやりたいことを素直に出せるようになったのはいい事なのだが、言葉を漏らす方向にまで影響を受ける必要はなかっただろうに。
「ほらほら、反省は程々でよいのです。此度は祝いの席。後ほど見るヤチヨ殿のためにも、笑顔笑顔」
パンパンと手を叩き、空気を入れ替えながら視線を横に向ける。
そこには犬DOGEと戯れるミニヤチヨがおり、僕達の視線に気づいた彼女はこちらを見て彩葉の方に近づいていった。
「ワッワッ」
「ってかしゃべんないのな、ミニヤチヨ」
「曰く、ビデオカメラのようなものらしいですからな」
そう言いながら、手にじゃれつくミニヤチヨに半分限界化しつつある彩葉を見つめて思い返す。
分身なのだが敢えて機能を制限してあり、結果感情制御も若干甘いとのこと。
無邪気と言うか、素と言うか。とにかく見た目通りの幼さで接していい、とFUSHIから聞かされていた。
「準備及び練習の後、記憶を同期してじっくり楽しむとのこと。……ですので時間が来るまでの間、もっとたくさんのことを聞かせてくださいな?」
それから貸し切り時間が来るまでの間、僕達は同じ空間で話し合った。
そしてその光景を、僕は生涯忘れまいと魂に刻み付けていた。
今日、初めてこの目で様子を見に行くことができた。
死ぬことが運命だったとか。
死ぬことで始まるのだから、いくら予防しても無駄だったとか。
言い訳なんざ、いくらでも吐き出せる。
だが現実を見ろよ。
その結果はこれだ。
彼女は皆が一人で生きていけるよう、厳しさを増し。
あの子は縛られ、自由を失い。
兄は補うため、将来の夢を捨て去った。
……なぁ、これで良かったのか?
本当はもっと、何かできたんじゃないか?
もっと、家族に時間を割くことができていれば。
もっと、皆と会話を重ねていれば。
もしも、●●が▲▲▲を●▲●◆●――――
頭を壁に叩きつけ、強制的に頭を冷やす。
額を流れる血とともに、余計な思考が流れ出るのを感じる。
そうでもしないと、この泥のような感情に吞まれそうだった。
ごめんよ彩葉。
なにもできなかった僕で、本当にごめん。
※ヤチヨの分身について
後から楽しむように設定された分身。……のはずだったのだが、先週届いたブルーレイのキャラコメンタリーを見た結果解釈を変える必要が出たのであの結果に。新設定が大量に出てきちゃってどうしたもんかねこれ()
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
さて、遂にストックが尽きました。
もしかしたらもう1話なら間に合うかもしれませんが、ここからは完成次第の不定期投稿になります。頑張るぞー。