元は一話だけのつもりが一万字超えたので分割。前後編に分けるつもりがボリュームが増えすぎたので再度分割。
そんなこんなで今回は中編、次で一区切りからの後半戦になる予定です。……さすがになるよね?
それを考えるようになったのは感情を整理する前だったのか、後だったのか。
今となってはもう思い出せないが、それでもきっかけとなったのはその周辺だ。
毎度毎度記憶が目覚めるタイミングはバラバラ。
場所を把握する必要がある上、君と出会えるか不安になる日々。
そもそも僕に起きている現象自体が不可思議そのものではある。
とは言えせめて、この辺だけでももう少し改善できないものか。
そう君に溢した際に感じとった違和感、そこで気づいた。
ウミウシの君は笑っているけど、その内に想いを隠したことに勘付いてしまった。
そこでようやく気づいた。
あ、僕って本当の君と話したことなかったんだ。……ってさ。
だからこそ、そのまま思いついた。
今までの旅の中で初めて、明確に僕だけの意思で選んだ、僕だけの願い。
それは、君自身と面を合わせて話すこと。
普段話しているウミウシはあくまで子供?であり、君自身が浮かべる表情じゃない。
かと言って君の本体はもと光る竹であり、見た目はただの筍。
前に教えてもらった容姿とは、似ても似つかないのが現状だ。
――だがしかし、この現状を突破できる手がかりはある。
あの日、あの感覚。
そして別大陸から来た人に教わった、例の概念。
魂、そう呼ばれる理。
僕はそれを知っているし、僅かだが掴む切欠も得ている。
もしも、魂をいつでも感知できるようになって。
あまつさえ、それを視認できるようになれば。
君自身と話せるし、君自身の笑顔を見れるかもしれないだろう?
これこそが、第二の罪。
その先に待つものがハッピーエンドだと信じて疑わなかった、愚か者の始まりだ。
「じゃ、先帰るね」
「ばいば~い」
「またねー」
芦花と真美に挨拶を済ませ、学校を出る彩葉。
「急げ急げ、ライブまでもう時間が……ん?」
駅に向かって小走りで進んでいく途中。
視界の端に映った服装に既視感を覚え、振り返ってその姿を視認する。
「あれって……」
フードを深くかぶり、その顔を見ることはできない。
だが今日は真夏の昼下がり。そんな時期に全身を隠すような服装で出歩く少年など、彩葉は一人しか心当たりがなかった。
「なんでこんなところに……?」
見た感じ、どこかに向かっているようだ。
スマホ片手に誰かと話しつつ、人混みに紛れながら歩みを進めているらしい。
「…………ふむ」
魔が差した、そういう表現が正しいのだろうか。
彩葉はこの時、そういえばあの少年の事何も知らないよなー……と、ふと考えたのだ。
「……そそそ」
二回、それが彩葉と少年が話した回数……のはず。
更にその内一回はあんまり会話と呼べるものでもないため、彩葉は少年のことをほとんど知らない。しかし、明らかに少年は彩葉を知っている。
それがなんとなく、本当になんとな~く不公平に思ってしまった。
「……どこいってんだろ」
人混みの中、少し後ろをついて歩く彩葉。
周辺の音が騒がしいが、集中すれば何とか会話の内容は聞こえそうだ。
――だろ? この時はさすがに驚いたな~――
「え、なにあの口調」
漏れ出る声が聞こえたのだが、彩葉はまずその口調に驚いた。
見た目相応の話し方でもなく、自分と話す際の胡散臭い話し方でもない。まるで対等な友人と話す時のような気やすさで話している……まぁ、それでも年相応とはとても思えないのだが。
――……わかってる。ま、どうとでもなるでしょ――
「誰と話してるんだ……って、え?」
考えているうちに、少年は目的地に着いたようで。
中に入っていく彼を電柱の陰から覗いていた彩葉は、あまりに見覚えがあるその建物を見て思わず呟いた。
「や、竹取姫」
「…………」
結論を言うと。
好奇心に負けた彩葉は建物に入ったのだが、中にいた人間は彼女がここに来ることを知っていた。
あれよあれよと案内され、気が付けば少年が座っている席の向かいに座ることに。
「……なんでここ?」
「僕ご飯まだなんだよね」
好きなの頼んでいいから話そうよ。そう言いながらいつの間にかフードを外した少年は、ミルクコーヒーを飲みながらカラカラ笑う。
それを聞いた彩葉はジト目でそれを見つめつつ、手元に引き寄せたアメリカンを一口飲む。
――苦い。
が、彼女はこの味にはとても親しみがあった。なにせこの喫茶店の名は【BAMBOOcafe】、彼女のアルバイト先なのだから。
「私、バイト中に会ったことないけど」
「流石にあまり来てないよ。……とは言えここのパフェは好きなんだ、だからたまにこっそり来てるのさ」
「つまりは私のシフト知ってるな?」
「おっと藪蛇」
ズゾゾと飲み干し、視線を逸らす少年。
――やっぱ不公平じゃん。
その様子を眺めながら、彩葉はそう思う。
……しょうがない。こうなってしまった以上、もういけるところまで行ってしまおう。
「あのさ」
「どうしたんだい?」
「別に話すのはいいんだけど……まず君のこと教えてくれない?」
「――――――」
素直にそう伝えると、少年はピタリと手を止める。
随分と驚いたようで目をパチクリとさせ、返答もせず何度も瞬きを繰り返していた。
「なに?」
「……いや、本当に変わったんだなって思ってさ」
「なにそれ」
その内容を聞き、彩葉は疑問をぶつける。
その間に落ち着きを大分取り戻したようで、一口飲んで少年は再び言葉をつづけた。
「表情が随分と柔らかくなった。しっかり影響を受けたみたいだね」
「はいはい。……その様子じゃ、あれも知っているんだ?」
「台本の中身はね。でも実際の所、直接見ないとわからないってものさ」
彩葉の予想通り、少年はヤチヨカップの事も知っていたらしい。
そしてこの話し方、今回は割と近くから見ていたのかもしれない。彼女はそう考えつつ、頭の中で浮かんできた疑問をこの際だからぶつけることにした。
「じゃあまず……君の名前は?」
「答えられない」
「えぇ……」
いきなりの頓挫に思わず彩華は呻く。
その様子を申し訳なさそうに見つめながら、しばし考えた後に少年は口を開いた。
「そう言われてもさ……本当に名前がないんだよ。だから僕をどう解釈するかは相手次第になってしまう」
「え?」
「取りあえずは友人Aとでも呼んでくれ。厳しいならジョンでもいいよ?」
「苗字はドゥ?」
「そ。……他なら答えられるかもしれない、まだあるかな?」
「何歳?」
「今年で11」
「なんでいつもフード被ってるの?」
「この髪色目立つんだよ。一々染めるのも面倒で……」
「私の呼び方は一体何?」
「かぐや姫の傍にいるから。立ち位置的には
「……全部答えてくれるんだ」
他にもいくつか疑問をぶつけたのだが、少年はその全てに答えてくれた。
ちなみに試しに聞いた【ヤチヨカップ優勝を言わなかったのは答えになるから?】という問いには【そもそもあの時の竹取姫がそれ信じると思う?】という正論パンチをぶつけられて終了している。
「前に言った通りさ。答えや行き先を示すことはないけど、それ以外ならちゃんと答えますとも」
「答えって……あ、あれか」
――その重荷、本当に君が背負う必要があるのかい?
初めて会った時に聞かれた、あの問いかけ。
その内容を思い出した彩葉は考えてみようとしたが、それを遮るように少年が口を開く。
「その答えを聞くのはまだかな。……そうだね、今抱えている重荷をもう少し降ろしてからになるかも?」
「重荷って、まぁ確かにそうだけど……」
おそらく少年が言っているのはコラボライブの事だろう、そう彩葉は推測する。
既に当日まで1週間を切っているこの頃。毎日のように練習をしている彼女にとって、日に日に緊張が増しているこの一大イベントを軽く捉えることはできなかった。
「お、お待たせいたしました……」
「あ、来た来た」
「そういえばご飯まだって……はい??」
思考の海に潜りそうになった所を、店員からの声で我に返る。
少年の事情を思い出した彩葉はそう呟きつつ隣を見ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
サラダ、スープ、ピザ、トースト、ハンバーグ、グラタン、パフェ、etc、etc……。
成人一人……いや、二人前でも多いかもしれない品数が、机の上に並べられていたのだ。いや流石におかしいでしょと思わず運んできたバイト仲間の少女を見たのだが、彼女は驚きつつも不可能とは思っていない様相だった。
「…………」
「あ、アメリカンのおかわりお願いします!……さて、いただきます」
「待って待って待って!」
「ん?……竹取姫も食べる?」
「食べない食べない、ってか食べきれない!」
止めないってことは、前にもこの量を食べきったことがあるって事?
これを? 皿を全部積み重ねたらこの子の顔まで届きそうな量のこれを?
そう考えている間に構わず食事を開始しようとする少年を制し、思わずツッコミを入れる彩葉。
それを勘違いしたのか、一部をこちらに差し出そうとしたのでそれも止める。そこで彼女の様子を察したのか、彼は笑いながら状況を説明しつつ食事を開始した。
「いや~最近別のことで忙しくてさ。数日ぶりにまともなご飯食べれるんだよ」
「……地球の人ですよね?」
「日本生まれ日本育ちだね」
「こっちはこっちで理解の範疇越えてきやがった……ん?」
あまりの状況に彩葉は絶句していたのだが、スマホが振動したことで我に返る。
画面を開いてみるとメッセージが届いており、宛先はかぐやで『まだ~????』といった内容だった。
「やっば、急いで帰らないといけないんだった……!」
「予定あったんだ?……じゃあ今日はここまでかな」
彩葉の様子を察したのか、少年はそう締めくくって飲み物を飲む。そして食事を再開し、その体躯からは想像もつかない速度で机上の食べ物が減り始めていた。
「飲み物ありがとう! じゃあ――――」
「ねぇ、これだけ聞かせてよ」
「え、なに?」
急いで支度を済ませ、コーヒーを飲み干す彩葉。そのまま店を出ようと立ち上がったのだが、それを少年が止める。
そして問いかけられた彼女の意識が向いたことを確認し、真剣で、どこか不安そうな表情で口を開いた。
「竹取姫。……あの戦い、君は楽しかった?」
扉が閉まる音がする。
彩葉が店を出ていく音を聞きながら食事を続けていたのだが、隣から聞こえる声に我慢ができなくなって口を開く。
「笑いすぎじゃない?」
「ハハハ……いや、なんだそのしゃべり方。似合わなすぎる……!」
「うっさい」
先程駅前で待ち合わせをした僕達、目的は近況報告だけだった。
そのついでに昼食を食べようと出歩いていたのだが、まさかこのタイミングで彩葉に見つかるとは思ってもみなかった。
普段対策として電話をしているフリをしながら話すことで違和感を持たれることはなかったのだが、その結果彼に彩葉用の話し方を聞かれる羽目になってしまったわけで……。
「まさかこのタイミングで会うと思わないって……」
「ハハ……酒寄彩葉、か。あんまり君に似てないんだね」
「母さん似だよ。……ま、中身はお互い半々といったところだけど」
「うん、随分と変化した。前はともかく、今の彼女なら否定しきれないかな」
「見とけよ、あの子は絶対に届く」
なんならそのうち見えるようになるかもよ?
そう思いつつ隣に座っている彼を見ていたのだが、飲み物のおかわりが運ばれてきたことで意識を逸らす。
「よかった、オレの飲み物取られちゃってたから」
「こればかりはしょうがないだろ。なにせ――――」
「で、あの子を名前で呼ばないのは引っ張られるからかな?」
「…………」
話している途中にいきなり図星を突かれ、思わず黙り込む。
……まぁ隠し事はできないと思っているけどさ。本当にあっさりと見抜いてくるよね。
僕だって人生経験豊富なはずなんだけど、彼は文字通り桁が違う。奥底にしまっていた本当の理由も、こうして一度目の前で見せただけで見破られてしまった。
隠すだけ無駄だな。そう判断した僕はため息をつき、残りを食べながら答える。
「そう。前世は流石に影響が大きいんだ、ふとした切欠ですぐに父親面しそうになってしまう」
「面、じゃないだろ?」
「面だよ。……今の僕は他人だ、踏み入る権利はもうない」
そう言い終え、最後の一口を食べる。
修行のおかげか、はたまたせいか。高出力高燃費になったこの脳を動かし続けるには、こうして大量のエネルギーがいる。お陰様でエンゲル係数はエライことになりつつあり、此度も無事五桁に突入しそうだ。
「ごちそうさまでした。……まだ話してないことあったっけ?」
「もうないよ。オレ達もまた見守る側だ、来客に興味はあるが干渉するつもりもない」
「了解。じゃあ僕も用事あるからここで」
「あれ、この間調整は目途が立ったって言ってなかった?」
彼はそう言う。
それならもう大丈夫なので会計を済ませ、早々と支度を済ませる。それを意外と見たのか疑問を投げられたので、午後の予定を話すために口を開いた。
「違う違う。……ちょっと鬼いちゃんに呼ばれてるんだよね」
なあ、わかっているんだろ?
このままでいいわけなんかない。
あれ程の苦しみを味わったのに、これじゃあんまりじゃないか。
そりゃ僕だってあの子を信じてるし、大丈夫だとも思ってるよ。
でもこのままでは、彼女は最悪の可能性を抱えながら日々を過ごすことになってしまう。
そんな中指をくわえて結末を見届けるなんてこと、僕はするつもりはない。
別の可能性を全力で探し出し、実行するつもりだ。
彼女に言うかどうかは好きにしていい。
……ただ、お前はこのエンディングでいいのか?
いいか。
今ツクヨミで浮かべているあれは【月見ヤチヨ】の笑顔だ。
決して彼女の笑顔じゃない。
彼女が諦めてしまった夢を、隠してしまった笑顔を。
僕は取り戻したい。
だから頼む。
僕に力を貸してくれ。
※主人公の容姿について
至って普通の容貌だが、髪が真っ白。アルビノと言うわけではないようで、彼自身は無茶した代償だと思っている。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
火山野郎さん。評価ありがとうございます、大変励みになります!
ストック尽きた途端に更新頻度がた落ちで草。
マジですみません。ウマ娘の急遽始まった対人イベントの準備ができていなくて同時並行でやっていたらこんなことになってしまいました。もう少ししたらこっちに力入れれるようになります……多分。