【機動戦士ガンダム】七色の新星ガルマ・ザビ 作:おかかと梅干
設定はアニメ、オリジン、ゲーム等から都合良く摘んでいます。少しづつ書いていますので、気長にお付き合い頂けましたら幸いです。
興味を持って頂けた事に感謝申し上げます。
終わりのない時の狭間で、彼は後悔していた。
彼が愛した女性イセリナ・エッシェンバッハ。まさか彼女が自ら戦場に赴くとは考えもしなかった。
ところが彼女は敵討ちのために、ガウ攻撃空母へと乗り込んでしまった。
そして戦場の空へと散った。
柔らかな黄金色の髪も、白磁のような滑らかな肌も、おおらかで慈愛に満ちた心も。一人の男を命がけで愛する魂をも。
爆炎が全てを吹き飛ばし、金属とコンクリートの散らばる大地へとまき散らした。
終わりのない時の狭間で、彼は言葉にならない悲しみを叫び続けた。
彼もすでに肉体は失っている。声を出すことも涙を流すこともできないが、慟哭は止むことなく続いた。
終わりのない時の狭間で、愛する女性の最後の瞬間を何度も、何度も彼は目撃し続けた。何度も、何度も名前を呼び続けた。
──イセリナ
彼を見つめ返す笑顔はなかった。自分を呼び返す言葉はなかった。
永久に失ったのだ。
ただ一人、終わりのない時間の狭間で彼は自問をしていた。
──ジオン公国に栄光あれ
自分が最後に発した言葉。何故自分は最後にその言葉を選んだのだろうか。
彼には分らなかった。命の灯を失うその瞬間、自然と発したその叫び。
何故恋人の名を呼ばなかったのだろうか。彼の中で最も大切な存在であったイセリナ。
何故その名を呼べなかったのであろうか。
──北米方面軍司令官ガルマ・ザビ
ひとりの男として、ひとりの軍人としての誇りが彼にもあった。
ザビ家の四男として親の七光りとの嘲りに対する反発があった。
そして、親友であるシャア・アズナブルの裏切り。
ガルマは死の瞬間、激昂していた。誼を打ち砕かれ、誇りを汚され、心を支配していたのは怒りであった。
その怒りが大切な恋人の存在を、刹那的にとはいえ霞めてしまっていた。
──坊やだからだ
真に男であるのなら、親友の仕打ちに激昂してはならなかった。
真の軍人であるのなら、背負った責任を放棄するような特攻をするべきではなかった。
真に一人の人間であるのなら、愛する人のために死んではならなかった。
未熟だったのだ。齢20を数えながら、成長できていなかったのだ。
脆弱な心は友の裏切りに慄き、希薄な責任感は後顧を忘れさせた。
そしてガルマはその命を無意味に散らし、続いてイセリナの命までも奪ってしまった。
全ては己の未熟が招いた。その事に気付いたガルマは己の心が砕ける音を聞いた。
ばらばらと、ガラスのように心が砕け剥がれ落ちていく。
──イセリナ
彼は何度も名前を呼んだ。最後の時に声に出せなかったぶん、それを取り戻すようにその名を呼び続けた。
やがて彼は延々と続く時の狭間で意識を失った。その瞬間まで名前を呼び続けた。
「イセリナ!」
ガルマが意識を取り戻した瞬間、眼前に地表が見えた。そして白い巨艦がその砲口でこちらを捉えているのが見える。
彼は驚き、そして手に握る固い操縦桿の感触に気が付いた。
考えるよりも早く、ガルマは操縦桿を引き上げた。
彼の乗るガウ攻撃空母はすでに墜落寸前であった。だが最後の力を振り絞るように、片肺のエンジンは出力を上げ上昇を始める。
わずかな上昇であった。だが十分だった。木馬の放った砲弾は翼端をえぐりとり、エンジンへの直撃を失敗した。
機体はわずかずつにも上昇し、徐々に速度を増していく。
幸いにも追撃はなかった。木馬自身が建造物に隠れての射撃を行ったため、射線がなかったのだ。MSによる追撃はできなかった。
突如赤いザクが姿を現し、マシンガンによる牽制射を行ったからだ。
ガルマを乗せたガウはゆっくりと戦場を離れ、瓦礫と化した都市の一角に胴体着陸をした。