【機動戦士ガンダム】七色の新星ガルマ・ザビ   作:おかかと梅干

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第13話  死神の残滓

 

ガルマ一行は息を潜め、丘の稜線と生い茂る木々に身を隠しながら、標的へ接近していた。

 

「まさか、あれが連邦の研究所か?」

 

ガルマの声には、明らかな困惑が混じっていた。

 

彼らの眼下に広がっていたのは、最先端の研究施設とはかけ離れた、うらぶれた光景だった。くすんだ二階建てのビルに、錆びの浮いた古いハンガー。まるでとうの昔に放棄された地方部隊の駐屯地だ。のどかな田園風景のなかに、それはあまりにも不自然に溶け込んでいた。

 

だが、その静けさは欺瞞であろう。

 

建物の出入口からは、白衣をまとった何人もの人間が、血相を変えて慌ただしく出入りしている。

さらに敷地内には、その小規模な施設にはおよそ似つかわしくない大型輸送機が、重低音を響かせて鎮座している。周囲に滑走路はない。しかし、不整地での離着陸を想定した重厚なランディングギアなら、目の前に広がる剥き出しの畑を滑走路代わりに使うだろう。

 

科学者たちは、次々と重要そうな機材を輸送機のコンテナへと運び込んでいる。空き地の一角では地面に深い穴が掘られ、書類らしき束が容赦なく投げ込まれては、激しい炎を上げていた。

 

「連中、大急ぎで引っ越しの最中みたいですね」

 

アポリーが茶化したような口調で言った。だが、その声の端々には隠しきれない緊張が滲んでいる。

 

どうやら撤収には間に合ったようだ。

 

「ブルーの姿が見えないのは不気味だが……」

 

ガルマはコックピットのメインモニターを睨みつけ、入念に辺りを見回した。しかし、あの忌まわしい『死神』のシルエットはどこにもない。

 

代わりに、大型輸送機の周囲を固めるように、2機のモビルスーツが油断なく警戒の目を光らせていた。

 

「ガンダムか!?」

 

一瞬、ガルマの背筋に冷たいものが走った。だが、拡大スクリーンで凝視すると、細部に明確な違いがあった。それはガンダムというよりも、昨夜交戦したあのブルーの色違いに近い。地上での迷彩効果を狙ったのだろう。泥や砂地に紛れるような、ベージュの塗装が施されていた。

 

「ジムというやつか? まさかあれにもEXAMが──」

 

ガルマの声がわずかに強張る。

 

「いいえ。あれはEXAMではありません」

 

ニムバスが静かに、だが確信を込めて断言した。誰もその言葉の根拠を尋ねようとはしなかった。彼ならば分かって当然だと誰もが肌で理解していたからだ。

 

EXAM搭載機がいないのであれば、今が攻撃のチャンスだろう。ガルマは自他の戦力と環境を考慮し、作戦を立てる。

 

「アポリー、ロベルトはこの丘の稜線から出るな。ここから施設を狙えばいい」

 

「そりゃあ助かります」

 

ガルマの指示に、ロベルトがホッとしたように息を吐き出す。

 

「シャア、ニムバス中尉は突入だ。ジムと輸送機を叩け」

 

「ガルマ、君も後ろにいろよ」

 

シャアがたしなめるように言うと、ガルマは小さく頷いた。

 

「ああ、そうさせてもらう。私は離れて君たちの援護に回る」

 

布陣は決まった。あとはやるだけだ。

 

死神が現れないことを祈りながら。

 

ガルマのザクⅡFSが丘を離れ、森の木々を隠れ蓑にしながら素早く移動を開始した。所定の射撃ポイントへ滑り込むと同時に、その手に握られたザク・マシンガンが火を噴く。

 

乱射された120ミリ弾の数発が、警戒中だったジムの周囲を激しくかすめた。地面を無残に抉り取った弾丸が、激しい土煙を巻き上げる。

 

2機のジムは、舞い上がる土煙越しにガルマのザクを視認した。すぐさま100ミリマシンガンで猛烈な応射を開始する。互いの放つ火線が、真昼の宙で激しく交差した。

 

それまで田園を包んでいたのどかな静けさは、轟音と爆発音によって吹き飛ばされ、戦場の狂気に支配される。

 

ジムの足元では、白衣の科学者たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っていた。誰もが口を大きく開け、必死に何かを叫んでいる。それが退避の指示なのか、あるいはただの悲鳴なのか。容赦なく連射される砲声にかき消されて届かない。

 

ジムのマシンガンから次々と吐き出される巨大な薬莢が、地面に重金属の山を作っていく。運の悪い者が、排莢されたばかりの、赤熱した巨大な薬莢を頭に受け倒れ伏している。

 

ジムがガルマのザクを排除すべく、前方へと移動を開始した。その瞬間だった。

 

赤と蒼のMSが、ジムの背後から襲いかかった。シャアの駆る赤とニムバスの蒼いイフリート。2機はそれぞれ高熱に焼けたヒート・サーベルを煌めかせ、お互いの獲物を一刀のもとに切り伏せた。

ジムの残骸を背に、ニムバスが吐き捨てるように呟く。

 

「EXAMが無ければ、こんなものか」

 

ジムの破壊を合図に、丘の稜線の向こう側からアポリーたちのザクが砲撃を開始した。狙うのは動かない固定目標だ。わざわざ身を晒す必要すらない。

 

ロケット弾と榴弾が、雨となり施設へ降り注ぐ。轟音と爆炎が踊るたび、古びたハンガーは紙細工のように吹き飛び、建屋は更地へと変えられていく。

 

激しい砲撃のなか、大型輸送機のジェットエンジンが悲鳴のような排気音を上げ、出力を高めていく。ハッチを閉める時間さえ惜しかったのか、巨大な搬入口は大きく口を開けたままだ。

 

「この状況で、まだ逃げ延びるつもりか」

 

シャアは冷徹に呟くと、イフリートを滑走させ、すれ違いざまに輸送機の両翼を根元から鮮やかに切り落とした。

 

「荷物は置いていってもらう」

 

シャアはイフリートの膝をつき、貨物室を覗き込む。とにかく無秩序に詰め込んだのだろう。コンテナや様々な機器が乱雑に散らばっていた。

 

「……いないか」

 

ブルーが格納されているかもと考えたのだ。

 

「もう運び出されたか?」

 

「いえ……」

 

ニムバスは力強く否定する。

 

「近くにいます」

 

感じるのだ、EXAMの鼓動を。

 

「やつが目覚めようとしています」

 

マリオンが囁くのだ。

 

「──来る!」

 

ハンガーの瓦礫が突如弾け飛んだ。2機のイフリートが同時に身を翻す。

 

「地下かっ!」

 

爆発するように弾けた残骸の中心から、それは向かってきた。脚力とスラスターを使い、瞬間的に距離を縮める。

 

2機のイフリートは同時に飛び退る。寸前まで2機がいた空間を、ビーム・サーベルが引き裂く。

それは2機のイフリートの真ん中を陣取り、静かにその姿を誇示する。

 

全身を蒼く塗装し、EXAMを搭載したMS「蒼い死神──」

 

「見つけたぞブルー!」

 

ブルーは自身と同じ色をしたMS、イフリート改を睨みつける。その頭部にはバイザーは無く、デュアルアイが鮮血のように輝いていた。

 

シャア馴染みの顔に驚きの声をもらす。

 

「ガンダムタイプ!」

 

ニムバスが憎悪を込めた声を上げる。

 

「他にもいたのか!」

 

──ここにもわたしが

 

「まだマリオンを引き裂くかぁっ!」

 

イフリート改のモノアイが赤く変わっていく。主の怒りに応えるように、憎しみを輝きに変えるように。

 

「エグザァァーム!」

 

咆哮とともにイフリート改を駆り立てる。両手にヒート・サーベルを構え、正面から突撃する。

 

ブルーは躱さなかった。正面から突撃し、ビーム・サーベルを突きつける。イフリート改は左手のサーベルで受け流し、軌道をそらす。残る一刀を下から上へと振り抜いた。

 

そこにブルーの姿は無い。既にイフリート改の背後へと回っている。

 

──うしろ

 

「速い!」

 

イフリート改は両手のサーベルを振りかざし、コマのように回転する。その時、脚部が金属の軋む音を発する。脚部の追従が鈍い。

 

──あしもと

 

ブルーはイフリート改の脚部の不調に気づいたのか、足元を狙いビーム・サーベルを振るう。

 

「焦るな中尉」

 

赤いイフリートがショットガンを構え、ブルーを中心に赤く尾を引く彗星のように旋回する。イフリート改が射線から外れた瞬間、躊躇い無く連続で散弾を叩き込む。

 

ブルーは足運びだけで散弾を躱す。だが連続する散弾を避けきれなくなったのか、スラスターをふかし後ろへ退く。

 

着地を狙い、イフリート改が脚部のロケット弾を連射した。命中。2発、3発、連なる熱と爆風がブルーを包み込む。

 

──みられた

 

晴れぬ爆炎の中から、一条の閃光が放たれる。イフリート改の左肩をエネルギーの塊が抉り飛ばす。

 

爆炎の中からシールドを構えたブルーが姿を現した。炎の中で、呼吸するように排気口から深く熱を吐き出す。シールドの縁からビーム・ライフルの銃口が覗く。

 

──みられた

 

ブルーの真紅の双眸がイフリート改を捉えた。再びビームが放たれる。ニムバスはサーベルを十字に構え、ビームを受け止める。ヒート・サーベルの中心で、重粒子のエネルギーが弾け飛ぶ。だが次の一撃は防げなかった。

 

──げんかい

 

再び同じ場所を襲ったビームの奔流はヒート・サーベルを吹き飛ばす。同時にサーベルを構えていた左腕を根本からもぎ取った。

 

「この程度!」

 

ニムバスは残ったロケット弾を全て打ち込んだ。少しでも軽い方がまだ戦いになる。

 

ブルーはスラスターをふかし、ロケット弾の数発を盾で防ぎながら、イフリート改へと突撃する。

 

──あし

 

ブルーは突撃と同時に頭部のバルカンで容赦なく脚部を狙う。

 

ニムバスはスラスターをふかし左右へと回避する。かわしきれない弾丸は、ヒート・サーベルで跳弾させる。

 

遅い機動ではない。だがブルーを相手にするには遅すぎる。ブルーは強大な出力が生み出す脚力で、一瞬で眼前へと迫った。

 

「よく来た!」

 

ニムバスは狙っていた。自分が動けないなら敵を動かせばいい。ヒート・サーベルを逆袈裟に振り上げる。ブルーはビーム・サーベルで受け流す。イフリート改は伸び上がった勢いを回転力に変え、今度はサーベルを叩きつけた。ブルーはこれもサーベルで受け止める。互いのサーベルが交わり、粒子とエネルギーが火花を散らす。にらみ合う、3つの瞳が散らす火花のようだ。

 

「……貴様にも言わないとならないか」

 

赤いイフリートがブルーの背後から斬りかかる。

 

ブルーは2機のイフリートに挟まれるが、僅かな隙間を飛び抜ける。赤いイフリートは追従する。いや、動きを読んでいたかのように一瞬速い。

 

ヒート・サーベルを一線に頭上から叩きつける。ブルーは膝を付きながらサーベルで受け止めた。

 

蒼と赤のMSは眼前で睨みあう。

 

「あまり無視しないでもらおうか」

 

赤いイフリートはもう一刀を引き抜き、脇腹に斬りかかる。ブルーは脚を振り上げ、イフリートの腹を蹴り上げた。スラスターの推力を加え、バック転し後方へ退く。

 

「さすがガンダムタイプ。動きが良い」

 

ブルーは動きを止めなかった。着地の勢いを使い、退いた以上に前に出る。胸部有線ミサイルを放つ。右と左、赤いイフリートを挟み込む。

 

シャアは頭部バルカンでミサイルを迎撃する。だがミサイルは軌道を変えた。

 

「読まれた!?」

 

有線ミサイルはイフリートを回り込み、背後で爆発する。爆風はイフリートを押し出す。

眼前でブルーの双眸が光る。ビームサーベルを振り下ろした。

 

イフリートは二刀を重ね、眼前でビームサーベルを防ぐ。

 

ブルーがさらに踏み込む。力を込めるように、スリットから吐き出される排熱が土煙をあげる。イフリートは両足で踏ん張るがまだ押される。バーニアをふかし、どうにか耐えた。バランスを失えば斬られる。シャアは四肢の制御に神経を集中する。

 

横合いからイフリート改が割って入った。ブルーの腕を狙いヒートサーベルを振り下ろす。

 

ブルーは回避を試みるが、シャアは許さなかった。ブルーが引いた分追従し、機体制御を阻害する。

 

「もらった!」

 

ニムバスの握る操縦桿に少女がそっと手を重ねる。渾身の一刀はブルーの前腕を半ばから切り捨てた。

 

切断面から冷却材とオイルがまざり、雫となり滴り落ちる。ブルーの両眼が炎のような赤みを増す。ブルーはスラスターを激しく燃やし、イフリート改に体当たりした。重い金属音が響き、互いの装甲を削り合う。

 

──かお

 

ブルーはイフリートを押し込みながら、切断された腕で殴りつけた。顔を狙い、二度、三度と腕を叩きつける。ときには傷口を擦り付けるように殴打を続ける。切断された腕は損傷をひろげ、オイルと冷却剤を吹き上げる。

 

──かお

 

流れ出る液体が、イフリート改のモノアイを塞ぐ。

 

「メインカメラが!」

 

ニムバスが周囲の状況を見失ったその瞬間、ブルーは全てのスラスターを全開にした。2機はもつれあいながら移動する。そしてブルーはイフリートを蹴り上げた。

イフリートは前方から蹴りの激しい衝撃を受け、ほぼ同時に背後からも衝撃を受ける。

 

視界を塞がれたニムバスには状況を判断できなかった。何か金属にめり込んだような衝撃と音。

 

──まえ

 

モノアイの視界が戻ったとき、炎のようなデュアルアイが見下ろしていた。立ち上がろうとするが金属が機体に絡まり、思うように動けない。イフリート改は輸送機にめり込んでいた。周囲をジェット燃料が溢れて落ちる。

 

──まえ

 

ブルーがミサイルを放つ。

 

ミサイルの作る爆炎は、ジェット燃料を爆発的に燃焼させ、巨大な火の玉となった。

 

燃え盛る炎を前にしてさえ、ブルーの姿は尚蒼くその姿を誇る。

ブルーは大きく咆哮するように、全身のスリットから灼熱の息を吐き出した。

 

「中尉!」

 

シャアはイフリートを駆り立て、ブルーに横薙の斬撃を繰り出す。

ブルーは振り返る。その動きは奇妙な不器用さがあった。

 

斬撃はブルーの脇腹を掠める。続く逆袈裟斬りが胸部の排熱口を切り裂く。返す袈裟斬りは肩部装甲に深く食い込んだ。灼熱の刃が強靭であった装甲をも溶かし、胸部まで食い込む。損傷部からは液体と気体が蒸気を纏いながら吹き上がる。

 

ブルーはシールドを高く掲げ、その先端で殴りかかる。

 

イフリートは身を屈め打撃を躱し、飛び上がるように体当たりした。シールドは弾け飛び、ブルーは体勢を崩す。

 

「動きが鈍い。活動限界か──」

 

 

***

 

 

──ニムバス

 

声が聞こえる。

 

──ニムバス

 

たぶん耳元で。

 

──ニムバス

 

いや、頭の中か。

 

ニムバスはゆっくりと目を開いた。見慣れたイフリートのコクピット。妙に明るく、暑い。

 

コンソールを操作し、ダメージチェックを行う。ほぼ全身が赤く表示されている。コクピット周辺は不思議なほどダメージが少ない。左腕と頭部は欠損を示している。

 

「まだ動けるか」

 

──わたしは

 

マリオンが耳元で囁く。

 

「まだうごける」

 

小さく細い指先で優しく頬にふれながら尋ねる。

 

「あなたはまだやるの?」

 

「EXAMがそこにいる」

 

炎の壁の向こう、見えないはずのMSを睨みつける。

 

「マリオン」

 

引き裂かれ、血を流すマリオンの傷をそっとなでる。

 

「終わらせよう」

 

私ももう限界だから。

 

少女は悲しそうに微笑んだ。

 

 

***

 

 

燃え盛る炎の中から、蒼い機体が立ち上がる。その機体は隻腕となり、頭部は深く抉られている。

 

「無事か中尉」

 

シャアが声をかけるが、返事は無い。

 

モノアイが赤く、なお赤く光を放つ。

 

一歩、一歩、右手のサーベルを引きずりながら歩みを続ける。

 

ブルーはその存在をじっと睨みつけ、残った左腕でビームサーベルを引き抜いた。光刃は不安定で時折、刃の形を失う。

 

ブルーはイフリート改に向かい、走り寄る。

 

合わせるようにイフリート改も走り出す。装甲が落ち、部品を撒き散らしながら、だが力強く走る。

2機は距離を見誤ったかのように接触し、弾かれた。

 

先にバランスを取り戻したのはイフリートだった。サーベルを掲げ、全体重を乗せ振り下ろす。ブルーも一瞬遅れ、ビームサーベルをつき立てる。

 

イフリートのサーベルは、地面までも深く抉りとった。

 

刃の一撃に頭部を粉砕された蒼い機体は、機能を停止し膝から崩れ落ちる。

 

立っていたのもまた、蒼い機体だった。

肩だけを赤く染めた機体は、勝利を誇るように、膝を折ることなく機能を停止した。

 

 

***

 

 

ブルーが沈黙すると、ガルマはやっと近づいて来る事ができた。常軌を逸した戦いにガルマの技量で参加するなど、出来ない事は明白だったからだ。

 

アポリーとロベルトは命令をよく守り、本当に一度も顔を出さなかった。それでも施設を壊滅させたのは、称賛に値する。

 

「怪我は無いか、シャア?」

 

ガルマはニムバスの事は尋ねなかった。全身から蒸気と黒煙を上げるイフリート改のコックピットは、無残に抉り取られ、ぽっかりと空洞を晒していたからだ。

 

「研究成果も全て灰か…」

 

あとはクルストさえ見つければ任務は終わる。

 

ガルマが外部スピーカーを使い、瓦礫に身を隠していた科学者に尋ねた。

 

「クルスト博士はどこにいる?」

 

怯える科学者が指で示す。震える指先を追った先には、男が倒れていた。

頭から血を流し、周りには100ミリ弾の薬莢がいくつも転がり、まだ硝煙を上げている。

 

「……死んだか」

 

狂気を込めEXAMを生み出した男は、EXAMの最期を見ることは叶わなかった。

 

「設備が残っていたら面倒だ。念の為潰しておこう」

 

ガルマとシャアは手分けして残骸を見て回った。

 

シャアはブルーが飛び出して来たハンガーへ向かう。残された物など無いように思えるが、念のため地下施設を探す。

 

その時だった。

 

空間に甲高い金属の悲鳴のような駆動音が木霊した。

 

瓦礫から立ち昇る煙の向こうで、蒼く塗装された機体が立ち上がっている。

血のように不吉な赤に染まった頭部バイザー。それがまっすぐにシャアのイフリートを見つめている。

 

「昨日の!」

 

シャアは直感的な危険を察し、素早くショットガンを構えた。その銃口の先、照準器に映し出されたブルーのコックピットハッチは、開放され、無人のシートを晒している。

 

「無人…!?」

 

シャアは躊躇なく、ショットガンを素早く連射した。

 

重苦しい轟音が響くたび、ブルーの装甲は激しい火花を散らして弾け飛ぶ。

 

散弾を至近距離で浴びたブルーは、操り人形が踊るように体勢を激しく崩した。だが、その前進する勢いだけは衰えない。一歩動くたびに、内部フレームからの耳障りな金属音が悲鳴となって周囲に響き渡る。

 

「……まだそこにいるのか、マリオン・ウェルチ」

 

さらに散弾を撃ち続ける。装甲は完全に剥がれ落ち、内部のフレームやちぎれた配線が剥き出しになる。それでも、死神の動きは止まらない。

 

カチリ、と弾切れの音が響く。シャアは空になったショットガンを躊躇なく投げ捨て、ヒート・サーベルを正眼に構えた。

 

「頭だな」

 

ブルーは何かを求めるように、両腕を伸ばしてイフリートへ迫る。

シャアは一歩踏み出し、迷いなく真っ直ぐにサーベルを突き立てた。高熱の刃が、正確にブルーの額の中心を貫く。

 

「これで良いのだな?」

 

ブルーのバイザーが粉々に砕け散った。剥き出しになった、赤く禍々しく光る双眸がシャアを見つめる。冷却剤だろうか、瞳の縁から液体がひとすじ伝い落ちる。

 

赤い瞳から完全に光が消えた。

 

蒼い死神はすべての機能を停止し、力なくその場に膝をつき、やがて静かに倒れ伏した。

 

 

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