【機動戦士ガンダム】七色の新星ガルマ・ザビ 作:おかかと梅干
消沈し、肩を落とすランバ・ラルに、ハモンは心配そうに声をかける。
「あなた、よろしかったの?」
ラルは自分に言い聞かせるように呟いた。
「意思の強い方だ。捕虜にして自殺されてもかなわん」
ラルの中の迷いは、長年連れ添ったハモンに筒抜けのようだ。
「戦えますの?」
ラルは半ば自嘲するように口角を上げた。
「わからん。だがホワイトベースを落とせば、あの方が艦にいる理由もなくなる」
アルテイシアの凛とした決意を思い出し、ハモンの顔から自然と笑みがこぼれる。
「強くなられていましたね」
「ああ、あの兄弟は昔から手がかかる」
ラルとハモンが外へ出ると、セイラとアムロがバギーに乗り込む所だった。セイラが運転席に座り、エンジンをかけた。
セイラが何か迷うような表情で、ランバ・ラルと横目で目を合わせる。
「隊長さん、逃してくれたから教えてあげる。連邦の兵隊さんから聞いたんだけど、ここも戦場になるそうよ」
そこまで言うと視線を前に戻し、エンジン音に消え入りそうな声で呟いた。
「逃げるなら、早くにげて」
セイラは前を真っ直ぐに見つめ、バギーを走らせた。途中、アムロは振り返り、ラルとハモンを見つめていたが、何かを言うこともなく、前を向いた。
クランプが平静を装いながらラルに尋ねる。
「隊長、本当に逃して良かったんですか?」
「ああ、盗んだ制服を着ていただけだ。その方が商売がしやすいらしい」
ラルはクランプを見ることもなく答えた。視線は見えなくなりつつあるバギーを見つめている。
「若いのにたくましいもんですね」
ハモンもまた、見えなくなったバギーを見つめながら答える。
「ええ、ほんとうに」
「そろそろ戻るぞ。ろくな土産もないんだ。居残り組から殴られる準備はしとけよ」
ザンジバルに戻り、居残り組とラル隊が殴り合いの準備をしていると、突然アラートが響き渡った。
「何事だ?」
基地の兵たちも事態が飲み込めないのか、不思議そうに顔を見合わせている。
基地内から下士官が怒鳴りながら指示を出し始めた
「敵襲だウスノロども! ボケっとするな!」
ラルが下士官を捕まえて情報を聞き出す。
連邦の機甲部隊がここへ向けて進軍しているという。
「主力は61式。後方に自走砲も。3個大隊相当です!」
「多いな。なぜこんな所に連邦が」
「他の基地は既に攻撃されているようです」
戦場になるとはこの事か……。
「ここの戦力は?」
「マゼラアタック5両。まともに動くのは3両だけです」
「話にならんな。撤退か?」
「いえ、時間を稼げと本部から指示がありました」
「だろうな…。ザンジバルの作業中止! 出港準備! グフを用意しろ!」
ここの基地司令に恩がある訳ではないが……。
ラルは下士官の肩をポンと叩く。
「わしらが前に出てやる」
***
この偵察基地は砂漠の海に浮いた島のようなものだった。砂と土が広い平地を作っているため滑走路を備えられたが、遮蔽物も無い。
包囲されたら逃げることも叶わない。
この状況では敵との距離こそが障壁になる。近づかれる前にこちらから近づく。
ランバ・ラルは6機のグフを2隊に分けた。小隊ごとにかたまり、戦車部隊へと走る。
「クランプ小隊、お前たちは奥の自走砲を狙え。わしらは前衛の足をとめる」
開始!
言うがはやいか、ランバ・ラルは戦車隊に向け、マシンガンを発砲する。
かつては連邦軍の主力として地球の大地を支配した61式も、MS相手では分が悪い
頭頂高18mに及ぶMSからは、戦車の弱点である上部装甲が丸見えなのだ。
戦車砲に匹敵する砲弾を、マシンガンは連射する。
戦車は上部装甲をつらぬかれ、炎を上げ爆散した。
周囲の61式が一斉に砲塔を動かし、グフを狙う。グフは撃たれる前に跳躍した。
この機動力こそがMSの強みだ。脚力と各部スラスターを併用した立体機動。
大地を這う戦車には到底成せない、大きなアドバンテージだ。
飛び上がったグフは空中でバランスをとり、戦車を直上から撃ち抜く。機銃の対空砲火が装甲を揺らすが、グフの厚い装甲には傷はつかない。
着地までの短時間にもう1台追加で破壊した。
6機のグフは連携し、火力を集中させた。陣形に穴が開けばそこから扇状に火線を広げていく。
基地を包囲するために戦車隊は横陣を取っていた。それが裏目に出たようだ。薄い隊列の壁は貫通し、後方への道が開く。
「行けクランプ!」
ラルは短く指揮をだし、クランプ隊は速やかに遂行した。
3機のクランプ小隊は戦車からの攻撃を躱しながら、後衛の自走砲に向かう。やや距離があるが、グフの速度ならすぐに行き着く。
戦車隊の横陣の真ん中に陣取ったラルは次の指示を出す。
「敵左翼を先に潰すぞ」
3機のグフは横陣の裏に回るように走り抜ける。
戦車隊も停まっているわけではない。左翼は機動しながら射撃を続け、斜線陣を敷いていく。右翼も包み込むように陣形を変え、グフの包囲網の完成を目論む。
包囲を恐れ、固まっては集中砲火を受ける。
「分散して前にでろ。臆するな」
ラル隊は三角を描くように散開した。
ラルはマシンガンを撃ちながら前進し、戦車に取り付くとヒートロッドを叩きつけた。
ジェネレーターが回転を上げ、瞬時に大電力を作り出す。ヒートロッドを通じ、戦車を雷のような光が覆う。車体を駆け巡る電流は砲弾を過熱させ、連鎖的に暴発した。
「ほぅ、意外と使える。食わず嫌いはするものでは無いな。ジオンのふざけた兵器も実用的ではないか」
ラルはヒートロッドを鋭く唸らせ、振り向きざまに次の獲物に叩き込む。
僚機の動きも見事だった。戦車相手なら、近づいてしまった方が戦いやすい。マシンガンやバズーカを放ちながら隊列に穴をあけ、接近してはヒートサーベルを叩き込む。
誤射を恐れる戦車は発砲を躊躇わざる得ない。
戦車隊の数は圧倒的に多い。ランバ・ラルは数の不利を、部隊を常に巧みに動かし続ける事で補っている。だが戦いが長引けば疲労の蓄積と、弾薬の消耗で戦闘力を失っていく。
クランプ隊も着々と仕事をこなしていた。自走砲は圧倒的火力を誇るが、それは長距離に対してのみだ。護衛の戦車さえ倒せば、全滅さえ可能だろう。
「向こうはどうにか片付きそうか」
そう僅かに安堵した瞬間、一条の閃光が戦場を貫いた。クランプ隊の方向だ。
「ビーム!?」
閃光の先で爆発が起こる。
「ビームの軌道が低い。モビルスーツ──ガンダムか!」
ラルがビームの出どころを目で追うと、その先には純白のモビルスーツの姿があった。
「隊長、コズンがやられました!」
クランプからの悲痛な報告が上がった。
ガンダムが前線に現れたのに合わせ、戦車隊の一隊が後退を始めた。続いて別の隊も隊列を整えながら後退していく。戦車隊はMSとの性能差で後れを取ったが、部隊の統率は取れていた。散り散りに逃げるのではなく、常に集団として隊列を作り、交互に射撃を行いながら引いていく。
「来たのはガンダムだけか?」
戦場でガンダムを常に支援していた、ガンキャノンとコアファイターの姿が無い。母艦であるWBも見当たらない。
他の戦線へ別れたのか、この戦場に現れたのはガンダム単機だ。
──千載一遇の好機
そう思わざるを得ない。
「全機集合しろ! ここでガンダムを討つ!」
ランバ・ラルは深く呼吸をし、気持ちを落ち着けようと試みる。
「アルテイシア様には悪いが、こいつは手加減はできん」
ガンダムに正対し、意識を集中していると、視界の端で薄い影が高速で移動しているのが目に入る。
「上か! 邪魔をするな!」
戦闘機。だが以前より大きい。コアファイターの後部に、巨大な幅広のブースターのような物を備えていた。
「奇襲のつもりか! 後ろに回るべきだったな!」
戦闘機は上空から下降し、両翼の付け根から二条のビームを同時に放った。
「こやつまでビーム兵器か!」
僚機が慌てたように散開する。ビームがえぐった土と砂の地面は、エネルギーの塊に溶かされガラス化し、キラキラと陽の光を照り返す。
素早く空を舞い、そして強力なビーム砲を放つ戦闘機。厄介だ。
「だが!」
ラルは戦闘機の進路上に躍り出し、前後左右にステップをくりかえす。
戦闘機は下降し、グフに真っ直ぐ向かう。だがグフが細かく移動する為ビームを撃てないでいる。
戦闘機の高度が下がり、至近まで迫った。慌てたようにビームを放つが、狙いを定めた一撃ではない。
強力なビーム砲も、射角は固定のようだ。MSを狙うなら高度を下げるか下降しながら撃つしか無い。
ラルは前転でビームをかわし、
戦闘機の進路上にヒートロッドを振り上げる。
戦闘機は慌てたように機首をあげ、ヒートロッドの先端を通り過ぎて行った。
「ええい、中途半端な長さだ。もっと長くできんのか!」
「隊長、戦闘機は自分達がやります!」
戦闘機に向かいマシンガンを撃ちながら、クランプ隊が戻ってきた。隊とはいうが、クランプ、ステッチの2機のみだ。
「アコース、ギーン、お前たちは戦車隊を牽制しろ。ここには近づけるなよ」
これで邪魔は入らない。
ガンダムは横槍を入れられながら戦える相手では無い。何よりも、こいつとは真剣勝負をしたい。
ランバ・ラルが駆るグフはじっとガンダムを睨めつける。
気迫はMS越しにも通じるのか、ガンダムは一歩、退く。
「一歩で耐えたか。いい度胸だ」
ラルはマシンガンを素早く構え、引き金を引く。重い連射音が響き、120ミリ弾がガンダムを襲う。
ガンダムはシールドをかざし、銃弾を防ぐ。重い衝撃音が連続して空気を震わせる。その衝撃自体も大きいはずだが、ガンダムは身動ぎ一つしない。
銃撃が止んだ瞬間、ガンダムは抜き撃ちのようにビームライフルを放つ。1発、2発──
グフは1発目を左ステップでかわし、2発目を上体を反らしてかわす。いつの間にか撃たれていた3発目はシールドで防ぐ。
重粒子の閃光がシールドで弾ける。厚い装甲を溶かし、シールド表面を斜めに抉り取った。
グフはシールドをマウントした左腕を振り払うように上げ、五指をガンダムへと向ける。
フィンガーバルカンを放つ。狙いは足元。
ガンダムは反射的に後退る。
後退のために片足を上げた瞬間、グフは一気に距離を詰めた。オートバランサが利かない一瞬の間を狙う。
左肩に備えた鋭いスパイクを、ガンダムの胸部に叩きつける。
グフの質量と脚力から生み出された運動エネルギーが、全て一点にかかったはず。
ガンダムは後方へ大きく吹き飛び、激しい土煙を上げ仰向けに叩きつけられた。だがガンダムの装甲はまだなお耐え抜く。
衝撃に耐えられなかったのはグフの方だった。ひしゃげた左肩のスパイクアーマーが脱落した。
グフは倒れたガンダムに向かい、マシンガンを連射する。パイロットは気を失ったのだろうか、防御姿勢を取らない。
腹部を狙い集弾させる。弾速は遅いが重い銃弾が、装甲を通しパイロットに衝撃を与えているはずだ。
カチッという音が弾切れを伝える。
グフは銃身が焼け、硝煙を上げるマシンガンを投げ捨てると、間髪入れずヒートロッドを叩きつけた。
ジェネレーターが唸り、発生させた大電力をガンダムに流し込む。常識外れの強度を誇るガンダムの装甲だが、電気は装甲表面を走り内部機構を暴れ回る。
雷のように暴れまわる電気はやがて熱となり、内部の精密機器を焼いていく。機体各部から黒と白の煙が上がり始める。
グフは一度ヒートロッドを収めた。一度に放てる電力には、コンデンサを使っても限界がある。
煙を上げながらも、ガンダムは上体を起こしはじめた。その姿はMSでありながら痛みに苦しむようで、動きは緩慢だ。
「ほう、まだ動くかパイロット」
グフの攻撃は内部への衝撃を狙ったものだった。MSへのダメージは少なくとも、パイロットへのダメージは大きかったはずだ。
それでもガンダムと、そのパイロットは戦う事を諦めてはいない。
「腕は未熟。だが褒めてやろう」
グフは再びヒートロッドを叩きつける。
ガンダムは片膝を着きながら、ビーム・サーベルを引き抜き、ヒートロッドを切り落とした。内部でのダメージコントロールが進んでいるのか、動きの精細さが戻りつつある。
ガンダムは片膝から立ち上がり、ビーム・サーベルを構えた。
グフも盾裏のマウントからヒートサーベルを引き抜く。瞬時に刀身が赤く染まる。
グフが一歩踏み込むと、ガンダムは一歩左にずれる。グフがもう一歩進むとガンダムは今度は後ろに下がる。
常に間合いをとり、有利な位置へ機体を置いている。
「面白い……」
グフはシールドを投げつけた。不意を突き、ガンダムの視覚を遮る頭部前面。お互いの姿をシールドが一瞬遮る。グフは同時に大きく一歩踏み込み、裂帛の気合を込め上段からサーベルをたたき下ろす。シールドの向こう、ガンダムを一刀にたたき切る一閃。
だがランバ・ラルの必殺の一撃は、幻のように消え失せた。
ガンダムは膝を落とし、伸び上がるようにビームサーベルを振り上げる。サーベルを握るグフの両腕を一刀で切り落とした。ビーム・サーベルの切っ先は、同時にグフのコクピットハッチをもきり裂く。
「抜かったか……」
驚愕するランバ・ラルの身体に、砂漠の風が吹き付ける。
「侮りはしていない。だが今は負けを認めよう!」
ラルはビームサーベルで融解したハッチを足でこじ開けた。
「ガンダムのパイロット! キサマはモビルスーツの性能に頼りすぎだ。実力で勝てたとは思うなよ!」
ラルはコクピットから這い出すと、宙に飛び出した。落下しながら腰からマグネットアンカーを引き抜き、ガンダムを狙い、撃つ。ワイヤーを引き出しながら放たれたアンカーは固定され、ラルは振子のようにガンダムの股下を通り抜け、背部へと着地した。
「クラーンプ! わしを回収しろ!」
ラルは腕の通信機に向かい叫ぶ。
戦闘機を相手にしているクランプは、マシンガンを撃ちながら答えた。
「無茶言わないで下さい!」
クランプを援護するため、2機のグフがガンダムの左右を挟み込む。ビームサーベルの届かない間合いを測り、交互にヒートロッドを繰り出す。
ガンダムの装甲はバズーカの砲弾にさえ耐え抜くが、電撃は有効だ。防ぐわけにはいかず、ステップで回避を続ける。ヒートロッド1本なら動きを読めても、不規則に動く2本のロッドは見切れずにいる。
その隙にクランプはラルの元へ行き、マニピュレータに乗せ回収した。
「隊長、無茶し過ぎです」
「ワイヤーアクションか? 一度やってみたかった」
ラルが時計を確認する。戦闘開始から約2時間。稼いだ時間としては十分だろうか。
戦闘継続の判断を迷うラルのもとに、ノイズ混じりの通信が入る。
基地から5機のマゼラアタックが現れた。いや、2機はマゼラベースだけだ。
「時間稼ぎご苦労! 殿くらいは任せてもらおう。ザンジバルは出られるぞ」
「基地司令……。掩体で待ち伏せしていれば良いものを」
「私は左遷されてきたわけではない。基地を任された責任は果たす。青い巨星の殿を務める栄誉もいただくぞ!」
ランバ・ラルの内に逡巡はあった。だが留まるわけには行かない。
「全機引け! ザンジバルに乗り遅れるな!」