【機動戦士ガンダム】七色の新星ガルマ・ザビ   作:おかかと梅干

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第17話 砂漠の死闘

 

 

消沈し、肩を落とすランバ・ラルに、ハモンは心配そうに声をかける。

 

「あなた、よろしかったの?」

 

ラルは自分に言い聞かせるように呟いた。

 

「意思の強い方だ。捕虜にして自殺されてもかなわん」

 

ラルの中の迷いは、長年連れ添ったハモンに筒抜けのようだ。

 

「戦えますの?」

 

ラルは半ば自嘲するように口角を上げた。

 

「わからん。だがホワイトベースを落とせば、あの方が艦にいる理由もなくなる」

 

アルテイシアの凛とした決意を思い出し、ハモンの顔から自然と笑みがこぼれる。

 

「強くなられていましたね」

 

「ああ、あの兄弟は昔から手がかかる」

 

ラルとハモンが外へ出ると、セイラとアムロがバギーに乗り込む所だった。セイラが運転席に座り、エンジンをかけた。

セイラが何か迷うような表情で、ランバ・ラルと横目で目を合わせる。

 

「隊長さん、逃してくれたから教えてあげる。連邦の兵隊さんから聞いたんだけど、ここも戦場になるそうよ」

 

そこまで言うと視線を前に戻し、エンジン音に消え入りそうな声で呟いた。

 

「逃げるなら、早くにげて」

 

セイラは前を真っ直ぐに見つめ、バギーを走らせた。途中、アムロは振り返り、ラルとハモンを見つめていたが、何かを言うこともなく、前を向いた。

 

クランプが平静を装いながらラルに尋ねる。

 

「隊長、本当に逃して良かったんですか?」

 

「ああ、盗んだ制服を着ていただけだ。その方が商売がしやすいらしい」

 

ラルはクランプを見ることもなく答えた。視線は見えなくなりつつあるバギーを見つめている。

 

「若いのにたくましいもんですね」

 

ハモンもまた、見えなくなったバギーを見つめながら答える。

 

「ええ、ほんとうに」

 

「そろそろ戻るぞ。ろくな土産もないんだ。居残り組から殴られる準備はしとけよ」

 

 

 

ザンジバルに戻り、居残り組とラル隊が殴り合いの準備をしていると、突然アラートが響き渡った。

 

「何事だ?」

 

基地の兵たちも事態が飲み込めないのか、不思議そうに顔を見合わせている。

 

基地内から下士官が怒鳴りながら指示を出し始めた

 

「敵襲だウスノロども! ボケっとするな!」

 

ラルが下士官を捕まえて情報を聞き出す。

連邦の機甲部隊がここへ向けて進軍しているという。

 

「主力は61式。後方に自走砲も。3個大隊相当です!」

 

「多いな。なぜこんな所に連邦が」

 

「他の基地は既に攻撃されているようです」

 

戦場になるとはこの事か……。

 

「ここの戦力は?」

 

「マゼラアタック5両。まともに動くのは3両だけです」

 

「話にならんな。撤退か?」

 

「いえ、時間を稼げと本部から指示がありました」

 

「だろうな…。ザンジバルの作業中止! 出港準備! グフを用意しろ!」

 

ここの基地司令に恩がある訳ではないが……。

ラルは下士官の肩をポンと叩く。

 

「わしらが前に出てやる」

 

***

 

この偵察基地は砂漠の海に浮いた島のようなものだった。砂と土が広い平地を作っているため滑走路を備えられたが、遮蔽物も無い。

包囲されたら逃げることも叶わない。

この状況では敵との距離こそが障壁になる。近づかれる前にこちらから近づく。

 

ランバ・ラルは6機のグフを2隊に分けた。小隊ごとにかたまり、戦車部隊へと走る。

 

「クランプ小隊、お前たちは奥の自走砲を狙え。わしらは前衛の足をとめる」

 

開始!

 

言うがはやいか、ランバ・ラルは戦車隊に向け、マシンガンを発砲する。

かつては連邦軍の主力として地球の大地を支配した61式も、MS相手では分が悪い

頭頂高18mに及ぶMSからは、戦車の弱点である上部装甲が丸見えなのだ。

戦車砲に匹敵する砲弾を、マシンガンは連射する。

 

戦車は上部装甲をつらぬかれ、炎を上げ爆散した。

 

周囲の61式が一斉に砲塔を動かし、グフを狙う。グフは撃たれる前に跳躍した。

この機動力こそがMSの強みだ。脚力と各部スラスターを併用した立体機動。

大地を這う戦車には到底成せない、大きなアドバンテージだ。

 

飛び上がったグフは空中でバランスをとり、戦車を直上から撃ち抜く。機銃の対空砲火が装甲を揺らすが、グフの厚い装甲には傷はつかない。

着地までの短時間にもう1台追加で破壊した。

 

6機のグフは連携し、火力を集中させた。陣形に穴が開けばそこから扇状に火線を広げていく。

基地を包囲するために戦車隊は横陣を取っていた。それが裏目に出たようだ。薄い隊列の壁は貫通し、後方への道が開く。

 

「行けクランプ!」

 

ラルは短く指揮をだし、クランプ隊は速やかに遂行した。

3機のクランプ小隊は戦車からの攻撃を躱しながら、後衛の自走砲に向かう。やや距離があるが、グフの速度ならすぐに行き着く。

 

戦車隊の横陣の真ん中に陣取ったラルは次の指示を出す。

 

「敵左翼を先に潰すぞ」

 

3機のグフは横陣の裏に回るように走り抜ける。

戦車隊も停まっているわけではない。左翼は機動しながら射撃を続け、斜線陣を敷いていく。右翼も包み込むように陣形を変え、グフの包囲網の完成を目論む。

 

包囲を恐れ、固まっては集中砲火を受ける。

 

「分散して前にでろ。臆するな」

 

ラル隊は三角を描くように散開した。

ラルはマシンガンを撃ちながら前進し、戦車に取り付くとヒートロッドを叩きつけた。

ジェネレーターが回転を上げ、瞬時に大電力を作り出す。ヒートロッドを通じ、戦車を雷のような光が覆う。車体を駆け巡る電流は砲弾を過熱させ、連鎖的に暴発した。

 

「ほぅ、意外と使える。食わず嫌いはするものでは無いな。ジオンのふざけた兵器も実用的ではないか」

 

ラルはヒートロッドを鋭く唸らせ、振り向きざまに次の獲物に叩き込む。

 

僚機の動きも見事だった。戦車相手なら、近づいてしまった方が戦いやすい。マシンガンやバズーカを放ちながら隊列に穴をあけ、接近してはヒートサーベルを叩き込む。

誤射を恐れる戦車は発砲を躊躇わざる得ない。

 

戦車隊の数は圧倒的に多い。ランバ・ラルは数の不利を、部隊を常に巧みに動かし続ける事で補っている。だが戦いが長引けば疲労の蓄積と、弾薬の消耗で戦闘力を失っていく。

 

クランプ隊も着々と仕事をこなしていた。自走砲は圧倒的火力を誇るが、それは長距離に対してのみだ。護衛の戦車さえ倒せば、全滅さえ可能だろう。

 

「向こうはどうにか片付きそうか」

 

そう僅かに安堵した瞬間、一条の閃光が戦場を貫いた。クランプ隊の方向だ。

 

「ビーム!?」

 

閃光の先で爆発が起こる。

 

「ビームの軌道が低い。モビルスーツ──ガンダムか!」

 

ラルがビームの出どころを目で追うと、その先には純白のモビルスーツの姿があった。

 

「隊長、コズンがやられました!」

 

クランプからの悲痛な報告が上がった。

 

ガンダムが前線に現れたのに合わせ、戦車隊の一隊が後退を始めた。続いて別の隊も隊列を整えながら後退していく。戦車隊はMSとの性能差で後れを取ったが、部隊の統率は取れていた。散り散りに逃げるのではなく、常に集団として隊列を作り、交互に射撃を行いながら引いていく。

 

「来たのはガンダムだけか?」

 

戦場でガンダムを常に支援していた、ガンキャノンとコアファイターの姿が無い。母艦であるWBも見当たらない。

他の戦線へ別れたのか、この戦場に現れたのはガンダム単機だ。

 

──千載一遇の好機

 

そう思わざるを得ない。

 

「全機集合しろ! ここでガンダムを討つ!」

 

ランバ・ラルは深く呼吸をし、気持ちを落ち着けようと試みる。

 

「アルテイシア様には悪いが、こいつは手加減はできん」

 

ガンダムに正対し、意識を集中していると、視界の端で薄い影が高速で移動しているのが目に入る。

 

「上か! 邪魔をするな!」

 

戦闘機。だが以前より大きい。コアファイターの後部に、巨大な幅広のブースターのような物を備えていた。

 

「奇襲のつもりか! 後ろに回るべきだったな!」

 

戦闘機は上空から下降し、両翼の付け根から二条のビームを同時に放った。

 

「こやつまでビーム兵器か!」

 

僚機が慌てたように散開する。ビームがえぐった土と砂の地面は、エネルギーの塊に溶かされガラス化し、キラキラと陽の光を照り返す。

 

素早く空を舞い、そして強力なビーム砲を放つ戦闘機。厄介だ。

 

「だが!」

 

ラルは戦闘機の進路上に躍り出し、前後左右にステップをくりかえす。

戦闘機は下降し、グフに真っ直ぐ向かう。だがグフが細かく移動する為ビームを撃てないでいる。

戦闘機の高度が下がり、至近まで迫った。慌てたようにビームを放つが、狙いを定めた一撃ではない。

強力なビーム砲も、射角は固定のようだ。MSを狙うなら高度を下げるか下降しながら撃つしか無い。

ラルは前転でビームをかわし、

戦闘機の進路上にヒートロッドを振り上げる。

戦闘機は慌てたように機首をあげ、ヒートロッドの先端を通り過ぎて行った。

 

「ええい、中途半端な長さだ。もっと長くできんのか!」

 

「隊長、戦闘機は自分達がやります!」

 

戦闘機に向かいマシンガンを撃ちながら、クランプ隊が戻ってきた。隊とはいうが、クランプ、ステッチの2機のみだ。

 

「アコース、ギーン、お前たちは戦車隊を牽制しろ。ここには近づけるなよ」

 

これで邪魔は入らない。

ガンダムは横槍を入れられながら戦える相手では無い。何よりも、こいつとは真剣勝負をしたい。

 

ランバ・ラルが駆るグフはじっとガンダムを睨めつける。

気迫はMS越しにも通じるのか、ガンダムは一歩、退く。

 

「一歩で耐えたか。いい度胸だ」

 

ラルはマシンガンを素早く構え、引き金を引く。重い連射音が響き、120ミリ弾がガンダムを襲う。

ガンダムはシールドをかざし、銃弾を防ぐ。重い衝撃音が連続して空気を震わせる。その衝撃自体も大きいはずだが、ガンダムは身動ぎ一つしない。

銃撃が止んだ瞬間、ガンダムは抜き撃ちのようにビームライフルを放つ。1発、2発──

グフは1発目を左ステップでかわし、2発目を上体を反らしてかわす。いつの間にか撃たれていた3発目はシールドで防ぐ。

重粒子の閃光がシールドで弾ける。厚い装甲を溶かし、シールド表面を斜めに抉り取った。

グフはシールドをマウントした左腕を振り払うように上げ、五指をガンダムへと向ける。

フィンガーバルカンを放つ。狙いは足元。

 

ガンダムは反射的に後退る。

後退のために片足を上げた瞬間、グフは一気に距離を詰めた。オートバランサが利かない一瞬の間を狙う。

左肩に備えた鋭いスパイクを、ガンダムの胸部に叩きつける。

グフの質量と脚力から生み出された運動エネルギーが、全て一点にかかったはず。

ガンダムは後方へ大きく吹き飛び、激しい土煙を上げ仰向けに叩きつけられた。だがガンダムの装甲はまだなお耐え抜く。

衝撃に耐えられなかったのはグフの方だった。ひしゃげた左肩のスパイクアーマーが脱落した。

 

グフは倒れたガンダムに向かい、マシンガンを連射する。パイロットは気を失ったのだろうか、防御姿勢を取らない。

腹部を狙い集弾させる。弾速は遅いが重い銃弾が、装甲を通しパイロットに衝撃を与えているはずだ。

カチッという音が弾切れを伝える。

グフは銃身が焼け、硝煙を上げるマシンガンを投げ捨てると、間髪入れずヒートロッドを叩きつけた。

ジェネレーターが唸り、発生させた大電力をガンダムに流し込む。常識外れの強度を誇るガンダムの装甲だが、電気は装甲表面を走り内部機構を暴れ回る。

雷のように暴れまわる電気はやがて熱となり、内部の精密機器を焼いていく。機体各部から黒と白の煙が上がり始める。

 

グフは一度ヒートロッドを収めた。一度に放てる電力には、コンデンサを使っても限界がある。

 

煙を上げながらも、ガンダムは上体を起こしはじめた。その姿はMSでありながら痛みに苦しむようで、動きは緩慢だ。

 

「ほう、まだ動くかパイロット」

 

グフの攻撃は内部への衝撃を狙ったものだった。MSへのダメージは少なくとも、パイロットへのダメージは大きかったはずだ。

それでもガンダムと、そのパイロットは戦う事を諦めてはいない。

 

「腕は未熟。だが褒めてやろう」

 

グフは再びヒートロッドを叩きつける。

ガンダムは片膝を着きながら、ビーム・サーベルを引き抜き、ヒートロッドを切り落とした。内部でのダメージコントロールが進んでいるのか、動きの精細さが戻りつつある。

ガンダムは片膝から立ち上がり、ビーム・サーベルを構えた。

 

グフも盾裏のマウントからヒートサーベルを引き抜く。瞬時に刀身が赤く染まる。

 

グフが一歩踏み込むと、ガンダムは一歩左にずれる。グフがもう一歩進むとガンダムは今度は後ろに下がる。

常に間合いをとり、有利な位置へ機体を置いている。

 

「面白い……」

 

グフはシールドを投げつけた。不意を突き、ガンダムの視覚を遮る頭部前面。お互いの姿をシールドが一瞬遮る。グフは同時に大きく一歩踏み込み、裂帛の気合を込め上段からサーベルをたたき下ろす。シールドの向こう、ガンダムを一刀にたたき切る一閃。

 

だがランバ・ラルの必殺の一撃は、幻のように消え失せた。

 

ガンダムは膝を落とし、伸び上がるようにビームサーベルを振り上げる。サーベルを握るグフの両腕を一刀で切り落とした。ビーム・サーベルの切っ先は、同時にグフのコクピットハッチをもきり裂く。

 

「抜かったか……」

 

驚愕するランバ・ラルの身体に、砂漠の風が吹き付ける。

 

「侮りはしていない。だが今は負けを認めよう!」

 

ラルはビームサーベルで融解したハッチを足でこじ開けた。

 

「ガンダムのパイロット! キサマはモビルスーツの性能に頼りすぎだ。実力で勝てたとは思うなよ!」

 

ラルはコクピットから這い出すと、宙に飛び出した。落下しながら腰からマグネットアンカーを引き抜き、ガンダムを狙い、撃つ。ワイヤーを引き出しながら放たれたアンカーは固定され、ラルは振子のようにガンダムの股下を通り抜け、背部へと着地した。

 

「クラーンプ! わしを回収しろ!」

 

ラルは腕の通信機に向かい叫ぶ。

戦闘機を相手にしているクランプは、マシンガンを撃ちながら答えた。

 

「無茶言わないで下さい!」

 

クランプを援護するため、2機のグフがガンダムの左右を挟み込む。ビームサーベルの届かない間合いを測り、交互にヒートロッドを繰り出す。

ガンダムの装甲はバズーカの砲弾にさえ耐え抜くが、電撃は有効だ。防ぐわけにはいかず、ステップで回避を続ける。ヒートロッド1本なら動きを読めても、不規則に動く2本のロッドは見切れずにいる。

 

その隙にクランプはラルの元へ行き、マニピュレータに乗せ回収した。

 

「隊長、無茶し過ぎです」

 

「ワイヤーアクションか? 一度やってみたかった」

 

ラルが時計を確認する。戦闘開始から約2時間。稼いだ時間としては十分だろうか。

 

戦闘継続の判断を迷うラルのもとに、ノイズ混じりの通信が入る。

基地から5機のマゼラアタックが現れた。いや、2機はマゼラベースだけだ。

 

「時間稼ぎご苦労! 殿くらいは任せてもらおう。ザンジバルは出られるぞ」

 

「基地司令……。掩体で待ち伏せしていれば良いものを」

 

「私は左遷されてきたわけではない。基地を任された責任は果たす。青い巨星の殿を務める栄誉もいただくぞ!」

 

ランバ・ラルの内に逡巡はあった。だが留まるわけには行かない。

 

「全機引け! ザンジバルに乗り遅れるな!」

 

 

 

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