【機動戦士ガンダム】七色の新星ガルマ・ザビ 作:おかかと梅干
──若さ故の過ちか
シャア・アズナブルはコクピットの中で独り言ちた。自嘲気味に歪む口元を他人に見られなかったのは、彼には幸いだっただろう。
赤く塗装されたザクIIを崩れかけたビルに身を隠し、時にはビル上に身をさらし、赤い彗星は木馬とMSに対し牽制攻撃を行う。
彼の頭上ではガウが緩慢な飛行を続け、黒煙が線をひいていく。
後方のビル上へと、赤いザクIIが身を躍らせる。その瞬間、直前までいたビルが爆炎を上げ吹き飛んだ。
跳躍したままマシンガンを放つ。タンク型のMSに直撃するがダメージは見られない。
後方の空では、ビルの稜線の向こうにガウが消えていくのが見えた。マシンガンの残弾は少ない。
シャアは潮時と判断し、クラッカーを周囲のビルへと投げつけた。
ビルは崩壊し、大量の埃と煙を上げながら道路上へと瓦礫を積み重ねていく。敵の進路をふさいだシャアはザクIIを翻し、ガウの姿を追った。
シャアはガウを追うコクピットの中で深い息をつき、次にはコンソールに拳を叩きつけた。
──自分は何をしている
彼シャア・アズナブルの本当の名はキャスバル・レム・ダイクン。ジオン・ズム・ダイクンの息子であり、父を殺したザビ家への復讐者だった。
そして今回、復讐の機会を得た。ザビ家の四男ガルマを罠にはめ、木馬によって殺させようとしたのだ。
その復讐は完遂されるはずだった。
木馬の放った砲撃が外れたとき、シャアの体はひとりでに動いた。心も動いていた。
一瞬の安堵と高揚。その感情を自認したのは白いMSに向かい銃弾を放ったあとだった。
ガウが安全な場所まで飛び去るまで、シャアは木馬とMSを牽制し続けた。
ガウを追い墜落地点が近づくにつれ、焦燥感が胸を襲う。
──ガルマは無事だろうか
当のガルマを殺めようとした自分が、今その無事を願っている。
ガルマを罠にはめ、木馬がガウを攻撃するあいだ、シャアの心を何かが締め付けていた。
士官学校時代の数年にわたる交友、ルームメイトとして苦楽をともにした。ときには彼の脆弱さや甘さに蔑みや怒りを覚え、だが一緒に笑いあった。
暁の蜂起ではガルマを指揮官とし、命を預けた。
ガルマは復讐すべき対象だった。ザビ家であるのだから。
ガルマに復讐の真意を告げ、返ってきた怒声。その声に怒りと、戸惑いと、そして悲しみをシャアは感じとっていた。
──自分の生まれを恨むがいい
その言葉は今となっては誰に向けていたのか。
ガウが見えた。爆散はしていない。ガウがキャリーを腹に抱える構造をしていたのが幸いした。膨れた腹部は大地に削り取られていたが、上部のコクピットは強度も高く、姿をとどめていた。
自分の口元から笑みがこぼれていることにシャアは気付かぬまま、ザクをガウのコクピットに近づけた。マニュピレーターを足場に使いザクから躍り出る。ガウの割れた風防越しにガルマが見えた。
切り傷や打撲がある。火傷もしているようだ。その痛みにうっすらと呻き声をもらしている。
シャアはため息をひとつつき、声をだして笑った。
「さあこれからが大変だ」
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