【機動戦士ガンダム】七色の新星ガルマ・ザビ 作:おかかと梅干
ガルマがキャリフォルニア基地の医務室で目を覚ましたのは、墜落から5日目の日だった。
彼は、手を包み込む温もりに気づき痛みに耐えながら身を起こす。そして目の前の女性に抱き付いた。
「イセリナ──」
ガルマは何度もその名をつぶやきながら、自然と涙をこぼした。
顔をくすぐる柔らかな黄金色の髪、抱きしめ返す白磁のような滑らかな腕、耳にささやく甘い声。
「ガルマ様──」
イセリナもやつれた頬に涙を流しながら、ぎゅっとガルマを抱きしめた。たぶん傷は痛むだろうとは思った。だがその手を緩められなかった。
二人は永久の別れからの再開を喜ぶように抱きしめあい、お互いの体の感触を、温もりを、声を、匂いを確かめあった。
「ガルマ様…ご無事で、よかった」
ガルマはその声を味わうように瞳を閉じた。
絶望的な木馬との戦い、そして墜落。その中でガルマは生き残った。
シャアがガルマを連れ帰ってから5日間。奇跡を信じてイセリナは祈り続けた。そしてガルマは奇跡的に死の淵から戻ってきた。イセリナにはきっとわかっているだろう。貴女に会うために戻ってきたのだと。
そう、ガルマにも分かっていた。自分はイセリナと会うために、また生きているのだと。
自分は確かに一度死んでいる。親友に欺かれ、強敵に打倒され、自暴自棄に死を選んだ。
愚かであった。無思慮であった。まるで自分が悲劇のヒーローであるかのように錯覚した。
永久の時の狭間でガルマは学んだ。イセリナを幸せにしたい。ただそれだけが彼の全てなのだ。
司令官職も、ザビ家の四男であることも、彼を彩る装飾に過ぎない。
ガルマはいま至福の中にいる。二度と会えないと思っていたイセリナに会い、言葉を交わし、抱きしめあい、そして口づけを交わした。
この幸せを二度とは手放してはならない。
「イセリナ、私は必ず君を幸せにする」
ガルマは力強く誓いの言葉を口にした。
「ガルマ様、私はすでに幸せです貴方さえいれば」
イセリナも力強くガルマの瞳を見つめ返す。
ああなんと誇り高く猛々しい魂なのだろう。ガルマは一瞬気圧され、そして恥じた。
イセリナに会うために生まれ変わってきた?
違うかもしれない。彼女が呼び戻してくれたのではないだろうか。
──またやってしまったな
まるで自分が万能なヒーローだと勘違いしてしまった。自分の力で奇跡を起こしたのだと思ってしまった。
まだまだ坊やだ。ガルマは自分にそう言い聞かせた。
ガルマとイセリナはしばらく二人だけの時間を楽しんだ。まるで何年も会っていなかったかのように。
軍医たちが気を利かせ、しばらく時間と空間を提供してくれたのだ。だがさすがに焦れたように入室してきたのは、昼食と夕食をすませたあとだった。
軍医が状況を説明する。奇跡的に程度としては軽傷である。切り傷や打撲、火傷はあるが痕は残らない。頭をうっているが脳内に出血は見られない。墜落の衝撃で意識を失ったようだが、後遺症の心配はないだろう。意識を失っている時間が長かったのは不安材料だが、経過観察で十分である。
説明する軍医の顔が憔悴しているのがガルマには分かった。ザビ家の四男の命を預かる身だ。どれほどの心労を重ねただろうか。
ガルマは苦笑を隠し、軍医たち医師団に労いの言葉をかけた。
医師団が去った後、イセリナが話しづらそうに男の名を口にした。
「シャア少佐なのですが──」
ガルマを連邦の魔手より救い出してきたのは赤い彗星シャア・アズナブルであった。
しかし今、シャアは危うい立場にいる。木馬の追撃作戦中、ガルマを危険な目に合わせたからだ。
最終的にガルマを救ったのはシャアであったが、功績と失態、天秤は微妙なバランスをとっていた。
シャアは今キャリフォルニア基地預かりで軟禁されている。何かの一押しが天秤をゆらせば、軍法会議という私刑にかけられるだろう。
ガルマを殺そうとしたのが、シャア自身だとはまだばれてはいない。
シャアとガルマの間で交わされた危うい会話はミノフスキー粒子の影響で傍受はされていない。交信記録と戦闘記録の残るザクとガウは機密保持のため破壊していたからだ。
ガルマにとってはいささか苦い状況だ。まさかシャアが自分を救っていたとは。
保身のためだろうとは思う。だが同時にひとつの可能性を見つけていた。
シャアは自ら手を下すことができなかったのでは──
手を汚す事をおそれるシャアではない。ただガルマを、自らが殺すことができなかったのでは。実際、シャアが直接手をくだせばガルマの命を奪えるチャンスは幾度もあった。
しなかったのか、できなかったのか。
ガルマは考えるのをやめた。分からないのだから直接訪ねれば良い。
ガルマの心にはシャアに対する怒りがある。だが別の感情が燻っているのも自覚していた。