【機動戦士ガンダム】七色の新星ガルマ・ザビ 作:おかかと梅干
ランバ・ラルとハモンが司令室を訪れると、ガルマが先に声をかけ敬礼をした。
「ランバ・ラル大尉、遠いところ感謝する」
軍隊の上下関係を多少逸脱するが、この気さくさがガルマの人受けの良さのひとつであった。ラルとハモンも、この若者に対して青臭さを感じはするが、それ以上の好意を感じている。
ランバ・ラルは慌てず敬礼を返す。青い巨星の名に恥じぬ、力強い姿だ。
「ドズル閣下は大層悲壮なお顔でしたが、ご壮健なようで何よりです」
「兄上には大分心配をおかけしてしまったな。戦果を上げることで報いさせてもらうよ。ラル大尉、お力添えを頼む」
ラルは続けてガルマの隣に立つシャアにも敬礼を行う。
「よもや貴方までご同席とは。ご無沙汰をしております、シャア少佐殿」
「幸いにも首は繋がっているよ。今はガルマ大佐の副官というところかな」
ラルとハモンは訝しげに顔を見合わせた。
二人が聞いていたところでは、今回のガルマ負傷の原因の一つがシャアの失策によるものだとの事だった。またその行動に不審な点があると。にも関わらず、なぜここにいる。少なくとも左遷は当然であろうと考えていた。
ラルは瞳に警戒の色を浮かべた。シャアとガルマの深い誼は知っている。お人よしのガルマを、シャアが誑かせたのではないかと。
「大尉、そう警戒しないでくれ」
シャアは少し困ったように声をかけた。
ガルマは二人の顔を見比べ、笑いをあげる。
「ラル大尉、あなたの不審はもっともだ。実際、私はシャアに殺されかけたんだからな」
「それはどういう──」
ラルは困惑の表情を浮かべた。幾らなんでも話が全く分からない。悪い冗談なのか出来の悪いドッキリなのか、これが最近の若者とのジェネレーションギャップかと戸惑いの声を上げる。
ガルマは笑いをおさめ、改めてラルに語りかける。
「ラル大尉、あなたには大切な話がある。あなたはシャアの素顔を見たことがあるか」
いえ、とラルは短く答え、仮面姿のシャアの顔を見やる。するとシャアは仮面を外した。もったいぶる事もせず、実に自然な動作であった。
「あの時は私も幼かった。妹ともども世話になったな」
ラルとハモンは驚き目を見開いた。忘れもしないあの時の記憶。幼い子供二人をザビ家の手から逃すために、手を尽くした事を。偉大な思想家ジオン・ズム・ダイクンの子、美しい兄妹の顔を。
「キャスバル様か──」
まさかこのような形で再会することになるとは。驚きと感動に、精悍なラルの顔が僅かにほころんだ。一歩後ろに控えたハモンは口元をおさえ、涙ぐんでいる。
「ランバ・ラル、クラウレ・ハモン、お二人に改めて力添えを頼む。私ガルマ・ザビと、このキャスバル・レム・ダイクンの野望の成就のために」
「野望──?」
ラルは同じ言葉を繰り返した。反芻し、その言葉をかみ砕き理解するように。
「大尉、ハモン殿、二人は今のジオンの在り様をどう思う?」
ラルは返答に窮した。こういった話題にはすべてを語るわけにはいかない。返答次第では以前のように閑職で不遇をかこつ事になる。今は多くの部下を率いる身。彼らの進退にもかかわる。しかも目の前にいるのは、ザビ家とダイクン家の直系の子。どう答えてもどちらかの心証を悪くする。ラルは返答するかわりに唸り声を低くもらした。
「すまん大尉、この状況では答えられんな。説明するよ」
ガルマはひとつひとつ説明した。シャアとの深い誼を、そのシャアに殺されかけた事を。実は傷はたまに痛むし、その度にシャアに不快感を覚える事を。それでもシャアの行為を許し、二人でジオン公国を変えようとしている事を。
ザビ家のあまりにも独善的な思想による残酷な破壊行為、いびつに歪められたジオニズムの是正。イセリナをいかに愛しているか、彼女のためにも地球とコロニー国家の間に平和を成し遂げたい事を。
イセリナとの愛を語るときは特に熱心だったので、ガルマ以外の三人はさすがにちょっとげんなりと疲れた顔をしていた。
ラルは話を聞き終わると、目を閉じた。
今のジオンに対し大きな不満はある。だがその不満を隠し、ジンバ・ラルの子という境遇にもめげず、ここまでのし上がってきた。若いふたりの夢や野望の話を聞くと、正直心の踊るものがある。若者の純粋な情熱は見ていて心地良い。だが簡単な話では無いだろう。完全な独裁政を敷くジオン公国を変えていくなど。
ラルはゆっくりと目を見開く。
だが目の前にいる二人はザビ家とダイクン家の子。旗頭としてこれ以上のものがあるだろうか。彼らの行動無くして、それを成し遂げることができるであろうか。
ガルマは国民受けが非常に良い。能力的に未知数な部分は多いが、人望の点ではほかの兄弟に劣るものではない。
シャアは能力的には申し分無いだろう。赤い彗星の名も国内に知れ渡り、兵の人気も高い。キャスバルの名も効果的だろう。ジオン公国はザビ家に支配されてはいるが、未だにダイクン派は存在し隠した不満をくすぶらせている。
「簡単な事ではないが」
ラルは後ろに控えるハモンの顔をみた。ハモンは何も語らず優しく微笑むだけだった。
ラルは小さく笑い返す。そして正面のガルマとシャアを見つめ姿勢を正した。
──かつてはジオン・ダイクンとデギン・ザビも手を取り合っていたのだ
「ガルマ様、キャスバル様、お心の内をお明かし下さった事を感謝いたします。お二方のお気持ちしかと受け止めました。ランバ・ラル、クラウレ・ハモン、私達は全身全霊をもってお二人にお力添えいたします」
──この二人に悲劇の再現はさせまい
その言葉を聞いたガルマは顔全体に喜びを浮かべ、ラルの手を両手で強く握った。何度も何度も手を上下に振る。ギレンやキシリアとは違い、こういう所が国民から好かれているのだろう。
「ラル大尉、ハモン、父ジオンに代わり礼を言う」
ラルの手がまだ空かないので、シャアは二人に対して頭を下げた。
ラルは手を振られながら姿勢を正し、ハモンは深々と礼を返した。
ガルマはラルの手を力強く握りながら、宣言する。
「当面は連邦との戦争に決着をつける事を考えねばならない。手始めはV作戦に関連する木馬の始末だ。功を上げジオン公国と連邦に私たちの名と力を知らしめるのだ」
ラルは退室するとお腹をさすり、背後のハモンにつぶやいた。
「わし、この時間で少しやせたよな」
次回でやっと戦闘回です。
一話は5〜10分で読める事を目処にしてますが、次はちょい長めになりそうです。
戦闘シーンは書いてて楽しい。