【機動戦士ガンダム】七色の新星ガルマ・ザビ   作:おかかと梅干

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第9話 それぞれの狙い

木馬はアジアへ向かっている。この区域はガルマの管理する北米を外れているため、本来であれば直接手を出すことのできない区域であった。それでもなお木馬を追撃するため、地球侵攻軍の最高責任者である姉、キシリアの許可を取らなくてはならない。

 

月のグラナダへと通信を繋ぐ。姉の顔を見るのはいつ以来だろうか。

 

「姉上、お久しぶりです」

 

ガルマの顔に自然と笑みが浮かぶ。演技ではなく、久々に姉と顔を合わせるのが純粋に嬉しいのだ。

 

「久しいな。父上はたいそうご心配されていたぞ」

 

キシリアも笑顔を返す。ガルマを心配していたのは自分も同じなのだが、その事は口にしなかった。

 

「ご迷惑をおかけしました、姉上。今後は油断なきよう、木馬の追撃を続けていきたいと思います」

 

モニターの向こうでキシリアの目元が訝しげに歪む。

 

「お前はまだあれを追うつもりか。赤い彗星と青い巨星を投入しても落とせなかったと聞いている」

 

「はい、恥ずかしながら仕留め損ないました」

 

「アジアまで追うというのか? 随分とご執心だな。あれを追うよりも、太平洋と大西洋の支配を考えたらどうだ。わざわざ潜水艦隊も増強したのだ。有効に使ってみせよ」

 

「確かに、それも重要です。ですが、このまま木馬を逃すのは危険です」

 

ガルマは少し前のめりになりながら言葉を続ける。

 

「木馬との戦闘データは、姉上もご覧になられましたでしょう。我々の武装では傷一つ付けられない戦艦。そしてビーム兵器を携行したモビルスーツ。奴らの戦闘力は異常です。連邦の技術力は侮れません。奴らを破壊するか、捕らえるかしなければ、今後どんな影響を及ぼすことになるかわかりません」

 

「だが、あれが今向かっているのはアジアであろう。容易に手を出せる場所でもあるまい」

 

「確かに、アジアに大部隊で進むことは容易ではありません。そんなことをしては、戦争計画に大きな支障をきたしてしまいます。だからこそ、私の部隊に任せてはいただけませんでしょうか。

シャアとランバ・ラルを中心とした少数の部隊でしたら、連邦に気取られることなく追撃もできます。そして、少数で木馬に勝てるとしたら、それは彼らだけです」

 

キシリアは細い顎に指を置き、しばらく考えた。思考にテンポを作るように、指先が頬をたたく。

 

木馬を放置する危険性は、ある程度計算している。だが、戦争計画全体を考えれば、さほどの脅威ではないのではないだろうか。

 

ガルマは、なぜこれほどまでに木馬に執着を見せるのであろう。度重なる敗北に、復讐心をたぎらせているのであろうか。

 

シャアやランバ・ラルに追わせれば、確かに木馬を倒せるかもしれない。失敗したとしても、彼らはドズル派の軍人だ。失ったとて懐が痛むわけでもない。何か大きな動きがあれば、マ・クベを動かせばいいだけのことだ。

 

「わかった」

 

ただ、このままガルマの我儘を通す必要もあるまい。

 

「追撃を許可しよう。ただし、ランバ・ラル隊だけだ。それ以上の戦力の投入は許さん」

 

「ありがとうございます、姉上」

 

「シャアには別の任務を与えよ。亡命者を確保してほしい。私のフラナガン機関で働いていた科学者の一人だ。研究成果を持って連邦に亡命し、研究を続けている」

 

その研究所のおおよその場所が判明したのだ。北米五大湖周辺にあるようだ。

 

「ここを攻撃し、研究成果を破壊。できるのであれば科学者を確保してほしい」

 

北米はガルマが安定した統治を行ってはいるが、その全てを支配できているわけではなかった。西海岸のキャリフォルニア、東海岸のニューヤークは重点的に安定した統治を行っているが、それ以外の地域はいくつかの拠点を置き、点で支配しているに過ぎない。

 

そもそも戦力が少ないジオンにとっては、北米は広大過ぎる。そのすべてを安定的に支配できるほどの戦力が存在していないのだ。

 

普段は点で支配し、必要な時には一時的に面で支配する。こうした流動的な支配圏の確保が精一杯であった。五大湖周辺は、この点の支配からも外れた場所であった。

 

「北米にそんな研究所があったとは迂闊でした。必ずや、その研究所を破壊してご覧に入れます」

 

「木馬を追うのは良い。だが足元を疎かにはしないことだ」

 

ガルマは口元を引き締め小さく頷いた。

 

「良いか、ガルマ。研究所と研究成果は必ずや破壊しろ。研究の拡大は絶対にさせるな」

 

「それほどまでに重要な研究なのですか?」

 

「あれはモビルスーツの機能強化に関わる重要な研究だ。フラナガン機関からも援軍を送らせよう。協力して必ずや任務を達成しろ。期待しているぞ、ガルマ」

 

 

 

ガルマは会議室へ戻ると、会談の結果を伝えた。ランバ・ラルは木馬追撃を許可されたことに喜び、シャアは不服そうに椅子にもたれる。

 

「ガルマ、面倒事を押し付けられたな」

 

「しかたあるまい、姉上とて私のわがままを全て受け入れられるお立場ではないからな。木馬追撃を断られるよりはずっと良い」

 

「潜水艦隊を率いて大西洋へ行け、と言われるよりは確かにましだ。木馬を追えないのは残念だがな」

 

「シャア少佐、そんなにご心配なさいますな。木馬は必ずや我々が打ち倒し、妹君を無事にお連れいたします」

 

「大尉を信用していないわけではないよ。ただ、あの白いモビルスーツと戦えないことが残念なだけだ」

 

「シャアはフラナガン機関について聞いたことがあるか?」

 

「キシリア様の設立した研究所だな。ニュータイプの研究をしているとは聞いたことがあるが、そんなところの研究がモビルスーツの研究とどうつながるのか、分かりかねる」

 

かつてジオン・ダイクンは宇宙に住まうようになった人類は、次の段階へ進歩すると唱えた。

 

ギレンによって歪められた思想は、宇宙に住む人々を優良人種、すなわちニュータイプとし、地球に住む旧人類をオールドタイプと呼んだ。優生論的な表現だ。もちろん、シャアにとってはもっと別の意味を持つ。

 

だがフラナガン機関はニュータイプを、宇宙で進化した特殊能力を持った人間と定義して、オカルトじみた研究を行っているらしい。

 

「胡散臭い研究所だな…」

 

キシリアがこの研究所に多額の投資をしている事は知られていた。あのキシリアのやることだ。ニュータイプに対する、夢やロマンを追っているわけではないだろう。だが秘密主義なキシリアがやることゆえ、その研究の内容や情報はほとんど表に出ていなかった。

 

「まあ、フラナガン機関からの援軍とやらに聞けば分かることだろう。名前は何と言ったか?」

 

「ニムバス・シュターゼンというらしい。フラナガン機関のテストパイロットだそうだ」

 

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