タイムループ能力者の最後の一周 作:クイヤ
『おお 勇者よ! 死んでしまうとは なにごとだ!』
日本を代表するRPGで、とある王様が吐いたセリフを見るたびに稲葉は思うのだ。
死にたくて死んだわけじゃないのに好き勝手に言いやがって、と。
そもそもの話、勇者は本当に世界を救いたいのだろうか?
自分の言葉を吐けない主人公は「はい」と「いいえ」の二つしか選択肢を持たない。
もしかしたら消極的な選択で世界を救いに行けと言われて「はい」と言ってしまったのかもしれない。
だからこそ、世界の半分をやると魔王に言われて「はい」という選択肢が現れるのかも知れない。
勇者という役目を押し付けて来た王様への恨みつらみから、それならお前が世界を救いに行けという王様へのカウンターとして。
まあ、その選択を選んだところで、世界の半分はもらえないのだけれども。
きっと勇者の意志に関係なく、彼には世界を救う使命があったのだ。彼でなくては世界を救えないというルールがあったのだ。
子供の頃の自分は、最終的に自分をそう納得させた。
では勇者ではなく、自分には何か特別な使命があっただろうか?
世界を救うのは、自分の役割だったのだろうか?
間違いなく稲葉 渉にはその素質があったと思う。並大抵の困難なら一人で解決できたのだから。
何回もやり直した。時間を遡る能力を使い、全ての問題を解いて解いて、最終的に一つの未解決問題に行き着いた。
まだ、それを解く事はできない。
そして、俺がそれを解く事はないだろう。
解けないから、停滞することにした。
同じ時間を何度もやり直す、みんなは何も知らないまま終わりまで平和を享受する。
それは勇者にあるまじき行為。
どうしようもないところに行き着いて、最終的には問題の解決を放棄したのだから、我ながら勇ましきものとはかけ離れた姿だった。
だから、罰が当たったのだ。
惰性で過ごすうちに知らないフラグを踏んで、全く違うルートに進んでいた。
稲葉 渉はもう、自分の時間を戻せない。
守るべきものを自分の手に掛けてしまったが故に。
出血が酷すぎて、既に視界も朧だった。
ただ感じるのは愛おしそうに頭を撫でる感触だけ。
目が見えれば、きっと荒れ果てた校舎の屋上が広がっているだろう。激しい戦闘の痕跡がそこかしこに残っているに違いない。
切り刻まれた道路標識に、馬鹿げた力でひしゃげたフェンス。水溜りには何本もの傘が転がっている。
倒れ伏した遺体は二つ。
その両者とも稲葉が手に掛けたもの。
もうまもなく、彼に最後の暗闇が訪れようとしている。
そこから先は、もう誰も知らない未知の話。