自室のベッドの上で、絵名は膝を抱えたまま
激しい呼吸を繰り返していた。
「あんな場所..もう二度と行きなくないな.....」
壁に向かって吐き捨てた声が、虚しく部屋に響く。
モノクロの何もかもが死に絶えたようなセカイ。そして何よりあの場所にいた雪の瞳。
『Kだって、えななんだってAmiaだって本当は、消えたがってるくせに』
思い出すだけで、吐き気がした。
私だって消えたい。
才能のなさに打ちのめされて、画家としても父親としても尊敬してた人から切り捨てられて
夜中に一人で泣きながら絵を描いているとき
何度も「消えてしまいたい」って思った。
雪だけが特別な絶望を抱えているみたいな顔をして、私の傷口を土足で踏みにじってきたのだ。
「消えたいのは、あんただけじゃない……っ!」
絵名の手が震える。寄り添うイーブイが心配そうに「ぶい……」と小さく鳴いて絵名の手に鼻先を擦りつけた。ブリムオンも静かな瞳で絵名の背中を見守りドブールは絵名がいつでも絵を描けるようにと、そっと足元に筆を運んできていた。
その時、机の上のパソコンからナイトコードの通知音が鳴った。
画面を開くと、Kからのメッセージが入っていた。
『みんな、さっきのことだけど私、もう一度セカイに行く』
絵名は思わず目を疑った。
『正気なの、K!?あんな場所、普通じゃないよ!雪だって…私たちのことなんて拒絶してたのに」
怒りに任せてボイスで話す絵名。
しかし、返ってきた奏の言葉は、静かでけれど逃れられない重みを孕んでいた。
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薄暗い奏の部屋。
カップラーメンの空き容器やエナジードリンクが転がる部屋で、奏は自分の手を見つめていた。
(……私じゃ、雪を救えなかった)
あんなに心を削って命を削る思いで作った曲。それなのに雪の心には届かなかった。「何も感じない」と言われてしまった。
絶望が全身を駆け巡り、立ち上がることすら恐ろしい。
(でも……なら、私は何のために曲を作ってるの?)
脳裏に浮かぶのは、倒れて今も病室のベットで眠っている父親の姿。
そして「奏は曲を作り続けるんだよ」という呪いのような約束。
(逃げたら、本当に雪が消えてしまう。雪が消えたら…私の曲は、誰も救えなかったことになる)
奏の瞳に、揺るぎないどこか狂気にも似た光が宿る。
(救うんだ。雪が『救われた』と思えるまで…何度でも曲を作り続ける)
奏は鍵盤に手を置いた。まふゆの絶望を打ち砕くための新しいメロディを紡ぐために。
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『K、やめといたら。雪には誰の言葉も届かない状態だよ』
ナイトコードのチャット画面で、Amiaが静かに声を掛ける。
瑞希だって本当は怖かった。あのモノクロのセカイの異質さも、まふゆの痛々しい姿も。
そして何より自分自身も「本当の自分」を隠して生きている逃亡者だからこそ、まふゆの「消えたい」という言葉の重みが分かってしまう。
『でも、このまま放っておいたら雪は本当に消えちゃう』
奏の強い一言に、瑞希は画面の前で息をのんだ
瑞希は画面の向こうの絵名の気持ちも痛いほど察していた。
『えななん、大丈夫だよ無理に来なくて。
ボクとKで、とりあえず様子を見てくるから』
瑞希のその気遣いが、逆に絵名の意地に火をつける。
(……は? 何よそれ)
絵名は画面を見つめていた__
不気味なセカイなんて行きたくない。雪の顔なんて見たくもない。
だけど——kはあの華奢な身体で、誰かを救うために絶望に立ち向かおうとしている
ここで私が逃げたら、私は「ただ傷つけられて逃げ出した弱虫」のままだ。
「……ふざけないでよ」
絵名は立ち上がる。
その音にイーブイが顔を上げ、ブリムオンがゆっくりと立ち上がる。
「あんな奴に……私の生き方、否定されたままなんてっ!」
絵名はスマートフォンを強く握りしめコードを開いた
『待ちなさいよ。誰が行かないって言った?
私も行くわよ』
画面の向こうで、Amiaがフッと優しく微笑んだ気配がした。
こうして、それぞれの葛藤と決意を胸に、3人は再びあのモノクロのセカイへと足を踏み入れること____。