やり込んだゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:パンデュウ郎
「俺は、⋯⋯死んだのか」
見渡す限りに広がる青い空。足元を見れば、そこに地面はなく何もない空中の上に俺は浮かんでいた。その非現実的な光景が問いの答えだった。
それに、俺には命が途切れる直前までの記憶が確かにある。瞼を閉じれば自然とその時の光景が浮かび上がるくらいに鮮明に記憶に刻まれていた。
駆け寄ってくる仲間たちの姿。
零れた涙。
悲痛な叫び。
悲哀に満ちた空間で、俺だけが満足感に浸っていた。やり切ったと、護りきったと、自己満足で喜んでいた。
───俺は所謂、転生者と呼ばれる人間だ。
交通事故で死んで、気付いたら青春の全てを注ぎ込んだとあるゲームのキャラに転生していた。チュートリアルお兄さんなんて呼ばれる、一度しか登場しないモブキャラだ。
どうしてゲームの世界に転生したかなんて俺には分からない。けど、死んで⋯⋯好きだったゲームの世界に生まれ変わったならやることは一つだ。
───エンディングを変える。
可愛いヒロインと仲良くなって恋人になるでもなく、ゲームの知識を活用して創作の主人公のように無双するでもなく、俺はゲームにおけるエンディングを変えることだけに全てを費やした。
異常者だってことは分かってる。
それでもあのエンディングだけは受け入れることが出来なかった。
けどさ、ヒロインは死んじゃだめだろ。
そうなるしかなかったのは分かってる。ヒロインが死ぬ以外に世界を救う方法がなかったのも重々承知だ。
それでも、ヒロインは死んじゃだめだ。どんなに結末が美しくても⋯⋯どんなに素晴らしいエンディングでも、好きだったキャラが死ぬことだけは受け入れることが出来ない。
ビターエンドじゃダメなんだ。
ヒロインが生きて、仲間たちと一緒に笑い合う⋯⋯そんなハッピーエンドが俺は見たかった
だから、俺はこの世界に転生してクソッタレなエンディングを変えるために奮闘した。ゲームの知識を活かしてステータスを上げて、ストーリーに介入できるだけの力を手にした。
俺が転生したキャラはプレイヤーの記憶の端に残るかどうかも分からないモブキャラだ。どれだけ鍛えても創作の主人公みたいに最強にはなれなかった。
けど、そんな俺でもストーリー上で起こる悲劇を事前に防ぐくらいはできた。流れる涙を減らすことができた。
そういった原作介入もあって俺は自然と主人公たちと行動を共にするようになり、こうあって欲しいという
そして、俺の行動指針となっていたエンディング。ゲームのヒロイン───クラリスの死も食い止めることができた。
その結果、俺が死ぬことになっても後悔はなかった。
「なんじゃ、清々しい顔をしておるの。後悔や未練もないのかえ」
不意に、見知らぬ声が聞こえた。
声のした方へ振り返ると、そこには狐のような女性がいた。
赤い着物と、金色の髪、目尻のつり上がった細い目。何より目を引くのは頭の上に生えたキツネの耳と、腰から伸びたフサフサの尻尾。
一目で人じゃない存在だと分かった。
「なんじゃ、期待したほど驚いてはおらぬの」
「いや、これでも驚いてるつもりですが」
少なくとも、生前なら今のように突然現れたら腰でも抜かしていたかもしれない。前世でも、その前の世界でも人ではないナニカはいなかった。
ただ、今の俺は⋯⋯俺自身に課した役目を終えて心が凪いでいる。全てをやりきった満足に浸っていて、自らの死を受け入れられるくらいには心は落ち着いている。
「そうか、自己紹介は必要かえ?」
「そうですね、⋯⋯なんて呼んだらいいか分からないからお願いしてもいいですか」
「うむ、ならばその願い聞き届けよう」
なんというかキャラが立ってるな。俺が先程まで生きていた世界も中々に個性的なキャラがいたが、この女性も負けず劣らずに個性的だ。
まず見た目からしてインパクトが強いからな。口元に手を添えて、ふふと上品に笑った女性は何処からか取り出した扇子をパッと広げて俺に見せる。
広げられた扇子には文字が書かれている。
「タマモ、さま?」
「ふふ、そうじゃ。気軽にタマちゃんと呼んでくれても構わんぞ───ガイド・ルーカス」
その名は、俺の名前だ。
俺が転生した世界『ヴァルキリー戦記』において、チュートリアルを担当するモブキャラに相応しい名前だと思わないか?
俺自身この名前を気に入っている。ガイドには案内以外にも正しい道へ導くという意味もある。俺が見たかったエンディングへと導く、そういう意味ではピッタリの名前じゃないか?
「なんじゃ、びっくりせんのかえ」
「そうですね、タマモさまの正体がなんとなく分かった気がしたので」
期待通りの反応じゃなかったからか、タマモさまが頬を膨らませて分かりやすく不満げだ。タマモさまが俺の予想通りの存在なら、なんのも人間くさい反応だ。
「ほぅ!わしの正体が分かったと申すか」
「はい」
「ならば申してみよ」
パチンっと扇子を閉じて、楽しげにタマモさまが笑う。
「神さま、ですかね」
死んだ後に訪れた見知らぬ空間、人ならざる姿をしたタマモさま、そして名乗っていないにも関わらず俺のことを知っていた。
それらの情報を纏めて整理すると、なんともありきたりな答えにたどり着いた。小説や漫画の読みすぎな気もするが、タマモさまの反応を見るに間違えたはいないらしい。
俺が神さまと言った瞬間に、細い目を見開いて驚いていた。
「⋯⋯ふふっ」
タマモさまが笑った後にパッと扇子を広げた。書かれていた文字が変わっている。
「神、見習い?」
「そうじゃ。良い線を言っておったのぅ。わしは神ではあるが、まだ見習いじゃ!」
パチンっとタマモさまが扇子を閉じる。
「惜しかったのぅ」
「そうですね⋯⋯」
流石に見習いまでは分からなかった。というより、分かるはずがない。予想が外れて少しだけ悔しい。
タマモさまはそういう反応が見たかったんだろうな。扇子を閉じたり開いたりしながら、楽しそうに俺を見ていた。
「ようやく、わしの見たかった反応をしてくれたのぅ」
「そうですか?」
「うむ。何やらやりきった顔をして、心が凪いでおったからのぅ。ようやくお主の感情が見えた気がしてわしは満足じゃ」
真っ直ぐにタマモさまに見つめられた。心まで見透かされているような気がした。
「それで⋯⋯、最初の問いに戻ろうか」
「最初の問い?」
そういえば、タマモさまは俺に何かしら問いかけていた。人ならざる姿だったら、タマモさまとの会話だったりですっかり頭から抜けていた。
「そうじゃ。清々しい顔をしておるが、後悔や未練はないのかえ?」
「そんなの⋯⋯」
ない、とは言えなかった。
「あるに決まっている⋯⋯」
「そうよなぁ」
クラリスが生きて仲間たちが笑っているハッピーエンドが見たかった。けど、俺が最後に見たのは笑ってる顔じゃない。ゲームで見たエンディングと同じ。
主人公たちの泣き顔だ。そこにクラリスが加わっただけ。
エンディングは変わった。クラリスを救った。それで満足な筈なんだ⋯⋯けど、彼女たちの泣き顔を見たらこれで良かったのかと疑問に思ってしまった。
───俺も、死にたくなかった。
もし、クラリスを救って⋯⋯俺も生きていたらそこにはきっと俺が心の底から望むハッピーエンドがあったんじゃないか?
誰も泣かずに済む世界があったんじゃないか? そんなタラレバを考えてしまった。
───なんで⋯⋯死んだんだ俺。
クラリスを救うためには俺が死ぬ以外に取れる選択肢がなかった。創作の主人公のように全てを救えるスーパーヒーローじゃない。
俺は凡人だ。俺にはあれが限界だった。
だから死ぬことに後悔なんてない。
けど、未練は生まれてしまった。
「なんじゃ、あれほど格好つけて死んだのに未練はあるようじゃな」
「そりゃあるさ。好きだった人と両思いだったんだ⋯⋯」
死ぬ間際に聞けたクラリスの言葉。
あの言葉がなければ、未練はなかっただろうか? いや、どうだろうな。きっと女々しく会いたいって思ってしまったと思う。
好きだからこそ、クラリスを救いたいって心の底から思ったんだ。エンディングを迎えた世界で、クラリスと一緒に笑い合いたかった。
「ふむ、お主に未練があるようで良かったぞ」
「どういう意味ですか?」
俺に未練があって、何故タマモさまが喜ぶ。嬉しそうに笑うタマモさまの真意が分からない。
「お主に未練がないようであれば、次の世界に送るつもりじゃった。最初にお主を見た時は満足そうな顔をしておったからのぅ⋯⋯」
扇子を閉じて、ビシッと扇子で俺の顔を指す。
「じゃが、もしお主に未練があるならばもう一度同じ世界に送るのも面白いと思ったのじゃ」
「同じ世界に⋯⋯」
神さま見習いであるタマモさまなら、そういった行いができるのか?
もし、タマモさまの言葉が嘘じゃないなら⋯⋯またあの世界に行ける?また、クラリスたちに会える?
潰えた希望が、また俺の前に顔を出した。
「そうじゃ。一度あの小娘を死の運命から救ったお主なら⋯⋯今度こそあの小娘を救うことができるかも知れぬと思ってな」
「え?⋯⋯」
タマモさまの言う死の運命から救った小娘というのはクラリスで間違いないだろう。そのクラリスを今度こそ、救う?
その言い方じゃ、また彼女じゃ死ぬって言っているようなもんじゃないか。
「どういうことですか」
「なんじゃ、お主知らんのか。あの小娘、お主が死んだ後⋯⋯お主を生き返らそうと世界を敵に回して暴れ回ったんじゃぞ」
───へ?