ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:パンデュウ郎
この世界へ戻ってきてから、既に二日ほど経過している。
現在俺は、成り行きで一緒に脱獄することになったロビンと行動を共にしており、彼が備えとして用意していた隠しアジトで身を隠していた。
というのも、国家転覆罪で収監されていたロビンはもちろん、その逃走を補助した罪で俺もまた指名手配される形となったからだ。当然では、ある。
監獄から脱獄した時点で指名手配になることは確定事項であったため、手配書が出回る前に食料や道具などを買い漁って隠しアジトに溜め込むという作業を行った。
ロビン曰く、今回の指名手配はあくまでもオーストリン王国だけのもの。国を出れば身を隠す必要はないと言っていた。なら、手配書が出回る前に国を出ればいいじゃないかと、当然考えるだろう。
これにも一応訳がある。
知って通りロビンは重罪人として二年以上、囚人生活を送っていたため身体能力が著しく衰えている。
敵か味方かも分からない俺の前では虚勢を張っていたようで、この隠しアジトにたどり着いて直ぐにぶっ倒れてしまった。
今のロビンの体力では、捕まる前に国を出ることは不可能。現に、今も隠しアジトに置かれたベッドに横になって体を休めている。
ロビンを置いて、俺一人で行動するなら問題なくこの国から離れることはできるが⋯⋯ロビンの目的を考えると目を離すのは得策ではない。
俺を思って行動してくれているとはいえ、ロビン目線で価値がないと思えば即座にこいつはクラリスを殺すために動くだろう。
行動を共にし、言い方は悪いが監視下においた方がロビンがおかしな行動をした時に気付くことができる。止めることができる。
そんなわけでロビンと共に隠しアジトで身を潜めて、コソコソしているというのが現状だ。そして、予想していた通り俺たちの手配書が出回ってしまった。
「なるほどな⋯⋯」
現代のように写真のようなものはないので、手配書に書かれた俺たちの顔は似顔絵だ。これが中々に上手く描けており、俺たちの顔を見た看守の中に絵が上手い人間がいたのかもしれないな。ロビンの顔なんてこの手配書の似顔絵と瓜二つだ。
そんでももって良くも悪くも、俺はこの手配書で俺以外の人間にどのように映っているかが判明した。
手配書に描かれているのは狐の仮面を付けた白髪の男。仮面の穴から見える目の色は赤。俺が今着ているコスプレ衣装ではなく、この世界で広く流通している皮の軽装を身に着けているらしい。
違うな。
何もかも違う。確かに、⋯⋯この見た目では俺だとは思わない。
部屋にある姿見に映る俺は手配書と違って、茶髪の髪に青い目をしている。元がモブキャラというのもあってめちゃくちゃイケメンではないんだが、まぁ前世の俺よりはちゃんとかっこいい。
一応、美男美女揃いの主人公たちに混ざっても浮かないように、身嗜みには気を付けたつもりだ。⋯⋯悪く言われたことはないから、多分、大丈夫だと思う。
「いつまで手配書と姿見を見てるんだ、てめぇは」
声に反応して振り向くと、ベッドで横になるロビンと目が合った。ちなみに、ベッドで横になっている理由は筋肉痛だ。久しぶりに無理したせいで、体を動かすのは怠いらしい。
「いや、流石に手配書が出ると気になってな」
「はっ!オレさまと違って顔がバレてないんだ、その仮面を外せば問題ねぇだろ」
「いや、⋯⋯外せなくてな」
姿見に映る俺は当然ではあるが仮面は付けていない。手で顔に触れて見てもそこにあるのは人の肌。仮面のような無機質なものではない。
そんなわけで、付けてないものを取れるはずもなく⋯⋯ロビンが言うように、仮面を外せば済むわけじゃないのが困ったところだ。
「自分の意思でも外せないってことは、てめぇ⋯⋯
───『
ヴァルキリー戦記に出てくる能力の名称だ。在り来りではあるが、この世界にはごく稀に能力を持って生まれてくる人間がいる。
ただ、能力を持っているから人生イージーゲームとはならないのがヴァルキリー戦記。基本的に、このゲームに出てくる
分かりやすい例で言えばヒロインであるクラリス。彼女は自身が味方だと認識した人間の身体能力を強化する
もう一人の例としてアデルを挙げよう。彼は触れた者を癒す能力を持っているが、生まれつき両目に奇妙な模様が入っている。
ゲームの主人公として見れば特徴的な瞳で個性が出ているし、かっこいいなと思う。ただ、現実的な観点で見れば普通とは違うその目を見て、気持ち悪い、怖いと感じるのが正常の反応だ。
人を癒す力とはいえ異能も持っている。殺されこそしなかったが、アデルの周りにいる人間は彼のことを気味悪がり⋯⋯距離を置いた。幼少の頃から原作が始まるまで彼は両親以外とまともに接することなく孤独に生きてきた。
生まれつき何かしらのハンデを持っている者を救うために神が授けた能力が───
ゲームのラスボス、ロブが使う人の身体を乗っ取る能力も
恐怖を感じないから刺激がない。人生に刺激が欲しいから、戦いを求め⋯⋯その果てに世界征服という野望を見つけた。本当に傍迷惑な男だ。
───能力の代わりに生きる上で不便となる
ただ、俺の場合はそういったデメリットも持っておらず、メリットであるはずの能力も持ち合わせていない。その為、
「いや、俺は
一応否定はしておくが、ロビンの目は信じちゃいないな。
「オレ様は別に能力を教えろとは言っていないが⋯⋯まぁいい、オレ様とてめぇの関係性なんて所詮そんなもんだ」
俺からすれば嘘は言っていないんだけどな。俺の回答に満足しなかったのか、ロビンは不貞腐れるように背中を向けた。
⋯⋯子供か、こいつ。
「寝る」
「分かった」
短い一言だが、話しかけるなという意思は伝わってきた。これ以上、会話をしようとしても機嫌を損ねるだけだな。話しかけてきたのはロビンからだが⋯⋯。
「はぁ⋯⋯」
ロビンを残し、アジトを出る。外の空気を肌に感じた途端に自然とため息が出た。
───これが今の俺とロビンの関係性だ。
仲間というわけでもない。今のところ敵でもない。ただ、親しい間柄ではない。共に脱獄して、指名手配になった共犯。それだけだ。
今の関係性で仲良くするのは難しいだろうな。
隠しアジトに滞在することを許し、追い出さないだけ温情といったところか。
「さて、どうする」
手配書が出回っているので、アジトを出る前に持ってきたフード付きのマントを羽織る。
できるだけ指名手配犯だと分かりにくくするのが目的だが、パッと見で怪しいので呼び止められる可能性が高いな。羽織らない方がいいのか、羽織った方がいいのか判断に困るところだ。
まぁ、似たような格好をして姿を隠している者がチラホラ見えるので意外と目立たないかも知れない。
「スラム街か⋯⋯」
ロビンの隠しアジトがあるのは王都の外れ、⋯⋯あるいはスラム街なんて呼ばれる地域。華やかな王都にある闇の部分とでも言うべきか。この地域は脛に傷のあるワケありの人間が集っている。早い話、治安が悪い。
現代よりも闇が深い夜のお店があったり、薬物が平気で売られていたりと興味本位で近付いてはいけない場所だ。ただ、そういう人間が集まる場所だけに隠れるにはもってこいという訳だ。
どうも国の上層部がこのスラム街の利権に絡んでいるらしく、犯罪者の根城になっているのに野放しにされているのが現状らしい。まぁ、いつの世も金ということだ。
「⋯⋯ん?」
特に目的もなくスラム街の汚い道を歩いていると、この地域の住人が育てているであろう畑を見つけた。パッと見で分かる。健全な花じゃない。
明らかに薬物に使われていそうな違法な植物が平然と育てられていた。
「カカシ先生か」
俺の目を引いたのは薬物の材料なんかではなく、畑に置かれたカカシだ。ヴァルキリー戦記をプレイしたことがあるプレイヤーなら必ずお世話になる、スキル上げの先生。敬意を込めてプレイヤーはカカシ先生と呼んでいる。
ゲームと違って比較的現実に近いこの世界ではカカシ先生を相手にしてスキル上げなんてことはできないが、感慨深いのもあってついつい見てしまった。
とはいえだ。目的がないからと、いつまでもカカシを見ていても意味はないので足を進めようとした時。
『なんじゃ、わしに話しかけずに行くつもりかえ。冷たい男になったのぅ、お主も⋯⋯』
見知った声が聞こえた。
声の発生源はカカシ先生だ。
間違ってもカカシ先生が言葉を発しているわけではない。ゲームにおいてカカシ先生は無口な先生なのだ。このような女性の声が聞こえてくるはずもない。
というか、聞こえてきた声はタマモさまの声だしな。聞こえてきた声の持ち主が分かった時点で立ち去るという選択肢は存在しないので、カカシへと近付く。
「お久しぶりです」
『うむ。無事で何よりじゃ』
正直な話、この世界に戻ってきたらタマモさまとはこうして会話は出来ないと勝手に思っていたので、素直に嬉しい。色々と聞きたいこともあるしな。
「はい。戻ってきた直後は⋯⋯まぁ、驚きはしましたがなんとか」
『すまんのぅ。わしでも行先までは操作できん⋯⋯既に決まった運命であるなら尚更じゃ』
「どういう、意味ですか?」
『いや、なに⋯⋯お主は知らん方がいいじゃろう。その方が肩を張らずに済む』
まぁ、タマモさまがその方がいいと言うのなら従うべきか。
『さて、本題に移ろう。お主に話しかけたのは他でもない。いま、⋯⋯どうしたらいいか、困っておるな?』
「そうですね」
正直、右も左も分かっていない状態だ。
本来であれば、これが普通なんだ。この世界の住人はこれから何が起こるかも分からずに生活している。未来なんて分かるはずがない。これまでの俺が異常だっただけだ。情報一つ集めるのだって苦労すると、今になって実感している。
原作知識というアドバンテージがないだけで、この有様か⋯⋯。
『ふふ、ならばお主にヒントをくれてやろう!これからの行動の道標となる、ヒントをじゃ!』
そんな俺の姿を見ていたんだろうな。あるいは見ていられなくなったか⋯⋯こうして助け舟を出してくれているのは素直に感謝だ。
『東に向かうのじゃ!王都を出て東に二日ほど歩んだ先に深き森がある。そこにお主と縁深き、裸の美女がおるぞ』
───知り合いなのは嬉しいが、裸?