ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:かませ犬S
タマモさまが仰っていた裸の美女は、かつての仲間であったラブリナであった。美女?と聞き返すのはやめてくれ。
性別は今更触れる必要はないと思うが男性である。ただ、その心は誰よりも乙女だったりする。逞しい肉体の持ち主だけど、ちゃんと美形だ。遠目に見れば女性に見えなくも⋯⋯。
それはともかくとして、俺は失態を犯してしまった。ラッキースケベ的なイベントが起こるとあらかじめ分かっていたにも関わらず、予想外の仲間の顔に驚き固まってしまった。何も反応出来なかったわけだ。それがダメだった。
視線の先にいるラブリナはキレている。稀に見せる男の声でブチギレている。無反応がダメだったな。俺が彼女に取った反応は女性らしさを求めるラブリナの神経を逆撫でするような行いであったらしい。
綺麗な女性の裸を見たならもっと興奮しろ。もっと熱い視線を捧げろと、そう言いたいのだろう。
ふむ。今回の件に関してはラブリナのことを良く知っているにも関わらずに無反応を決め込んだ俺に全面的に非がある。目を逸らすとか、顔を背けるとからそういう事をするべきだった。
ひとまず、彼女が今以上にブチ切れて、こちらに迫って来る前に頭を下げよう。
「すみません、あまりの美しさに目を奪われていました!」
彼女との間に距離があるので、声が届くように腹に力を入れて声を出す。ちなみに、口から出た言葉は半分は本当だ。
俺が言う美しさとは、世間一般でいう綺麗なモノを見た時に出る言葉ではない。鍛え抜かれた肉体のみがもつ努力の結晶。無駄のない美しい筋肉。男なら誰もが憧れる屈強な肉体を称えるように、俺は本音を口にしていた。
俺の言葉を受けて、ラブリナは分かりやすく喜んでいる。頬を赤く染めて、身体をクネクネと動かしていた。
かつての仲間というのもあり、かなり好意的に見ても⋯⋯動きが加わると不審者にしか見えない。
「あと、すみません!出来れば、服を着て頂けませんか!⋯⋯少しばかり、目に毒でして!」
正直目のやり場に困っているのが本音だ。同性であるとはいえ、ラブリナの心が女性であることを知っている。彼女のことを思って、お願いした。
「わかったわ!!目を瞑って少し待っててちょうだい!!」
ほんの数秒前に聞こえたドスの効いた声と違い、柔らかな口調と心地の良い低音ボイス。自分の声の質を知っているからこそ、無理に高い声を出そうとしない。そこもまた好感が持てる。
ラブリナの言葉に従って目を閉じているとバシャバシャと水をかき分ける音がした。少しづつ遠ざかっていく音から察するに、俺とは正反対の位置に着替えを置いていたのだろう。
目を瞑ったまま、どれくらい経過しただろうか? 途中から数え出したが優に5分は過ぎているはず。衣服を着て準備をするこの時間を、遅いと取るかまだ早いと取るかで女性からの印象が変わりそうだな。
ちなみに俺はこれくらいの時間なら平気で待てる。好感度稼ぎではなく、単純に慣れている。原作の主人公のアデルが意外と時間にルーズだからな。
これに関して言えば彼の幼少の出来事が原因ではあるので、責めることはできない。村の人間に爪弾きにされていたアデルは人と待ち合わせの約束をしたこともなければ、息子に甘い両親に甘やかされたのでなんというか、色々と自分に甘いのだ。
クラリスと出会って旅をするに当たって少しずつアデルも成長していくのだが、その過程で結構なこと待たされたからな。流石に慣れた。
「ごめんなさい、時間がかかっちゃったわね!」
こうして待たせたことに対するお詫びの言葉が最初に出るのがラブリナである。
その言葉が聞こえると共に瞼を開くと、ゆったりとした女性物の服を着たラブリナがこちらに近寄ってきていた。うん、裸でなければとても好印象。
自分のチャームポイントだと言ってきかない顎髭を剃れば、ガタイの良い女性に見えなくもない。
「それと、裸を見られてパニックになったとはいえ⋯⋯怒鳴ってごめんなさい」
「いや、あれは俺の方に落ち度があるので」
「そう? それじゃあお互い様ということにしましょう」
声を張り上げなくても会話が出来る距離までやってきたラブリナが、俺に向けてウインクする。アイドルがファンに向けてするような自然な仕草だった。
流石はネットの世界に熱狂的なファンを生み出したラブリナだ。ロビンとは比べ物にならないくらいに愛想が良い。
「それで、どうして此処に?人が立ち寄るような場所じゃないと思うのだけど⋯⋯」
言葉に詰まる。
こんな当たり前の質問がくると予想していなかった自分が、いかに愚かか現在進行形で実感しているところだ。
此処に来た理由?タマモさまに言われたから、としか言いようがない。タマモさまに言われなければラブリナが言うように立ち寄るような場所じゃないんだ。
下手に嘘を吐くと、回り回って自分の首を締めることを俺は知っている。だから、表現を変えながら本当のことを口にする。
「そうですね。お告げがありました⋯⋯と、だけ」
「お告げ?」
「そうです。此処にいけば、俺が探している人物に会えると」
他に良い言い訳があった気もするが、ラブリナの頬がほんのりと赤くなっているところを見ると、言葉は間違えていないだろう。
「神にでも、言われたの?此処に行けって」
「そうですね」
この世界には実際に神はいるからな。びっくりするくらい出番が少ないし、神について掘り起こすイベントもサブイベだから印象が薄いと感じるプレイヤーは多いはすだ。
ただ、俺を導いた神さまはゲームに出てくる神なんかじゃない。、神さま見習いのタマモさまだ。
ゲームの神様と、神さま見習いのタマモさま⋯⋯どっちが偉いのだろうか?今度、タマモさまと会話する機会があったら聞いてみよう。
「⋯⋯嘘は、言ってないわね」
ジッと俺の顔を見たラブリナが、優しい笑みを浮かべて断言する。
ラブリナにはこの観察眼の鋭さがあるので、嘘を吐いてはいけないのだ。彼女との固有イベントで、嫌というほど思い知ったからな!
「それじゃあ、本当にあたしに会いにきたのね。神に導かれて⋯⋯」
「そうなります」
「あら、いいわね。運命的な出会いみたいで素敵」
ふふっと、口元に手を当てて上品に笑う。
「それじゃあ、この出会いを祝して挨拶を交わしましょう。仲良くなる、第一歩よ」
「そう、⋯⋯ですね」
俺は、彼女が名乗らなくても彼女のことを知ってる。彼女の葛藤も、胸に秘めた思いも全て。
さりとて、今のラブリナには俺は他人として認識されている。初対面として、こうして挨拶を交わすのは決しておかしな話ではない。
「あたしの名前は、ラブリナ。ラブリナ・ブロックハート⋯⋯こう見えて薬師をしているの」
現代でいう医者である。
筋肉が鍛えられるように脳も鍛えられるというのが彼女の持論であり、救える命を増やすために日夜鍛錬と勉強を続けている。第一印象で誤解されがちだが、とても博識である。
その豊富な知識で、ゲームやこの世界の旅で何度助けられたことだろうか⋯⋯。触れた者を癒すというチート級の能力をアデルが持っているが、あの能力は病や毒などに効かないからな。
綺麗に棲み分けしているのもあって、ラブリナはストーリーで大活躍していた。
「俺の名前は、ガイド。ガイド・ルーカスです」
「ガイドちゃんね、いい名前ね」
俺の名乗りがどのように伝わっているかは分からない。それでも、俺の名前を聞いても大きな反応をしないところを見ると、ロビンと同じだな。
それが、少し寂しい。
親しい仲間だったのもあって、尚更そう感じた。⋯⋯まぁ、仕方ないと割り切ろう。弱音はもう、置いてきただろ?
「あたしのことは気安くラブリナか、ラブリナちゃんって呼んでちょうだい」
「それじゃあ、ラブリナと⋯⋯」
頬が一瞬不満そうに膨らんだな。本当はちゃん付けで呼んで欲しかったらしい。それは申し訳ない。
「それと、敬語は使わなくてもいいわ。ありのままの言葉で話してちょうだい。あたしは固い言葉が好きじゃないの」
───同じだ。
初めて、ラブリナと出会った時もこんなやり取りをした記憶がある。
「分かった。よろしく頼む」
「ふふ、よろしくね」
俺に向けたウインクが様になっている。
「ところで、ラブリナはどうして此処に?貴女が言ったように此処は人が来るようなところではないと思いますが⋯⋯」
「そうね。やっぱり気になっちゃうわよね。あたしがどうして此処にいたのか。あたしがどうして水浴びをしていたのかって」
「水浴びはどうでもいいです」
「ふふっ!初対面なのに、あの子と似たようなツッコミを入れるのね」
つい、いつもの会話のノリで言葉を挟んでしまったがラブリナには好印象だったらしい。嬉しそうに笑みを浮かべている。
「ラブリナ?」
だが、気のせいか?彼女の目は、過去を憂いているようなも見えた。
「⋯⋯ごめんなさい。もう、取り戻せない昔のことを思い出してしまって」
「取り戻せない、過去?」
「ええ、⋯⋯あたしにもっと力があったら結果は変わっていたんじゃないかって三年経った今でも思ってしまうの」
ギュと拳を握りしめたラブリナが拳を顔の近くまで持ち上げる。自分の拳を睨みつけているようだった。
「あの子が死んだあの日から───こんなあたしの、初めての理解者をなくしたあの日から、あたしはずっとあの日のことを後悔してる」