ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:かませ犬S
彼女の言葉が指すあの人とは、時系列から考えると間違いなく俺だ。初めての理解者と、酒の席で言われた覚えもある。
ラブリナが俺の死を悲しんでいる。
その事実が嬉しいのか、悲しいのか、はたまた申し訳ないのか、自分でもよく分からない。ただ、切なそうに遠くを見るラブリナに何も言えなかった。
「ふふ、ごめんなさい。出会ったばかりのあなたに話すようなことじゃなかったわね」
「いや、人に話して楽になることもあるし⋯⋯ラブリナが話してもいいなら聞きたいかな」
「そうよね⋯⋯あんな話し方されたら気になっちゃうわよね。あたしの失敗」
顔の前で両手の人差し指を交差させながらラブリナが笑う。指で作られた✕のマークで⋯⋯なんとなく重く捉えてはいないと思った。辛かったら、苦しかったら、こんな仕草はできないから。
「でも、そうね⋯⋯。出会ったばかりのガイドちゃんにお願いするのも申し訳ないのだけど、少しだけお話させてくれる? 」
「好きなだけ付き合うよ」
「ふふ、そういうところも似てるわね。年下なのに年上のあたしを気遣って⋯⋯だから、口が滑っちゃったのかしら」
似ているも何も、俺だからな。いつもと同じように俺と接していれば、必然と普段のやり取りとなる。
「そんなに似ているか?」
「そうね、声も見た目も名前も違うのに纏ってる雰囲気はあの子と一緒。あたしを見つめるその目の優しさも、ね」
人から見える認識が違うだけで、俺自身は何一つ変えていないからな。姿形が違う人間から俺の面影見えるみたいな感じなんだろうな。
「普通はね、あたしを初めてみたらそんな目は向けないわ」
「え?」
「普通じゃないの、あたしは。それもちゃんと自覚してる。だから初めて会った人が珍獣や奇妙なモノを見る目で見ても、何も思わない。慣れてるから」
顔、身体、服装という順番で指差したあと胸の当たりをトントンと叩く。心に響いてない、気にしていないと言外に言っているようだった。諦観にも似た、彼女なりの結論なのだろう。
あまりに悲しい、辛い現実。
「あたしがね、ガイドちゃんと交友を持とうと思ったのは貴方がそういう目を向けなかったから。⋯⋯ガイドちゃんは、あたしの裸を見ても反応もしなかったわね」
「それは、すみません」
「いえ、謝らなくていいよ。あの時はあたしも防衛本能で怒っちゃったけど、普通はね⋯⋯あたしより先に見た人が叫ぶのよ。見たくもないモノを見ちゃったから」
この話は一度聞いたことがあるな。酒の席で酔っ払ったラブリナが俺にもたれ掛かりながら愚痴ってた記憶がある。『あたしは見られてる側なのに、見た方が叫ぶって何事よ』ってプンプンしてたな。
ラブリナのことを何も知らない人からすれば、彼女は変わった容貌の人だ。受け入れられない人間が多いのも分かっている。
ゲームの主人公であるアデルだって、初めてラブリナと出会った時はびっくりしていたし『変な人』と、言ってしまっている。第一印象では人の内面まで分からないから仕方ないと言えば仕方ないんだけどな。
───
俺たちヴァルキリープレイヤーは最初こそその奇抜な見た目にインパクトを受けるが、ストーリーを通して彼女を知り、ラブリナの強さとその優しさに心を救われている。
誰かと比べているわけではないが、裏切らないし仲間想いのキャラはみんな好きになるに決まっているだろ。
どれだけ奇抜な見た目をしていてもゲームに登場するラブリナが好きだから、受け入れることできる。画面越しじゃないラブリナを見ても、それは同じだった。
ゲームよりも圧はあるなーなんて思いはしたが、それでも好きなキャラでもあるラブリナに会えるのが嬉しかった。
「あの子もね、あたしを見ても反応しなかったわ。いえ、違うわね。あの子は何故か、あたしを見て喜んだ。⋯⋯最初から、あの子はあたしを受け入れてくれていた」
会いたいキャラだったからな。戦力になるし、パーティー屈指の常識人ポジでもあるから彼女がいるだけで胃のストレスが減る。それもあって早く会いたかった。
「⋯⋯それは貴方も同じ。ガイドちゃんと重ね合わせる気はないのだけど、懐かしい感じがして嬉しいの」
本当に嬉しそうにラブリナが笑う。その笑顔がとても眩しい。
「俺はラブリナがいうあの人を知らないけど、考え方が似ているのかも知れないな」
まぁ、自分自身なんだけど。
「俺も、この世界の人とは価値観が違うから」
この世界の人間とは価値観が違う。倫理観が違う。歴史が違う。何もかもが違う。似ているところはあるけど、やはり異世界⋯⋯俺が生きてきた地球とも、日本ともまた違う。
だから世界との相違に苦しんだし、今でも理解できない部分はある。それでも俺はこの世界を愛しているから、受け入れられる。
「ラブリナを受け入れられたのは、俺自身がおかしいからかもな」
「違うわ、ガイドちゃんはおかしくない。⋯⋯あなたは優しいだけ。あの子と同じで、優しすぎるだけよ」
「優しすぎる、か」
「ええ、あたしが断言してあげる。ガイドちゃんはおかしくなんてないわ。あなたは
ゲームの世界に迷い込んだ異物じゃないかって思う時期もあった。自分の勝手でストーリーを変えるのは我儘じゃないかって思う時もあった。
まぁ、そんなものはとうの昔に置いてきた考え方だけど⋯⋯ラブリナにこうして言われると、ちゃんとこの世界で生きているんだなって実感できる。ただ⋯⋯。
「お褒めの言葉は有難いが、胸を触るのはやめてくれないか?」
「あら、ごめんなさい。つい、ね!」
距離を詰めてきたと思ったら俺の胸元を撫でくり回してきたので正直、困った。
彼女の自認の性別が女性であること、好きな異性が男性であることも知っているのでもしかしたら狙われているんじゃないかって、ついつい考えてしまった。
流石に失礼か?考えすぎか?
だが、俺の胸元に触れていた手をジッと見てその後匂いを嗅ぐという変態チックなことをしているラブリナを見ると、なんというかお尻を守りたくなる。
「匂い⋯⋯それと、筋肉の付き方まで一緒?」
ボソボソとラブリナがなにか呟く。小さな声だったので、聞き取れはしなかったが。
「どうかしたか?」
もしかして、臭ったか?
可能性はある。現代と違ってお風呂やシャワーで身体の汚れや臭いが気軽に取れないのがこの世界の難点だ。お湯を沸かすのも一苦労だからな。
水を汲んで火で沸かして⋯⋯なんて作業は町中ならともかく、今回のように外に出てしまうと簡単にはできない。それでも清潔ではあろうと、水浴びやタオルなどで汗を拭き取ったりはしている。
ここまでの道中では水浴びができるような場所がなかったため、アイテムポーチに入ってるタオルを、これまたアイテムポーチに入れていた水で濡らして身体を拭くなどしていた訳なんだが、やはり限界はあるか?
後で俺も水浴びだけでもさせて貰おう。流石に気になるな。
「⋯⋯そんなこと、ある?」
「ラブリナ?」
俺の胸を触っていた手をジッと見つめていたラブリナに話しかけると、ようやく俺の方へと向いた。
「いえ、そんなはずはないわ。だって⋯⋯あの子の最後を、あたしは見届けたじゃない」
自分に言い聞かせるように呟いたかと思うと、諦観するように首を左右に小さく振る。
「大丈夫か、声⋯⋯震えてるぞ」
「⋯⋯っ、そうね。ごめんなさい。なんでもないわ」
流石に今の流れでなんでもないは無理があると思うが、辛そうな顔を見るとこれ以上言及するのは気が引けるな。彼女は、何を考えた?あの子───俺の最後を見届けたと自分に言い聞かせていた。
まさか、その手で触った筋肉の感触と匂いで姿形が別の者と認識している俺を、
「ラブリナ⋯⋯」
「なにかしら?」
彼女が、
此処にいるのが、俺だってことに。
「俺は、ガイドだ。ガイド・ルーカスだ」
「⋯⋯そうよね、あなたはガイドちゃんだもんね。あの子とは⋯⋯違うわよね」
───自分の名前を名乗って、ラブリナからガイドちゃんって呼ばれているのに、明らかに別人として認識されている!
頭がおかしくなりそうだ。
こうなってくると、どうにかして自分が名乗っている名前を知らないといけないな。そうしないと頭の中がぐちゃぐちゃになって意味が分からないことになってしまう。
仲間が過去を思い出して俺のことを語り出したらとんでもないことになるぞ。俺をガイドと呼びながら、ガイドのことを話すって⋯⋯考えただけでもめちゃくちゃだ。
「ふぅ⋯⋯ダメね、あたしらしくない。いつまでも過去に囚われていてはダメね!」
そうこう考えていると、ラブリナが突如として自分の頬を叩いた。パチーンという乾いた音が、この場でよく響いたな。
自分に喝を入れたのか?
「あたしもちゃんと過去と⋯⋯あの子の死と向き合わないと⋯⋯」
ふぅ、と大きく息を吐いた後、ラブリナがこちらを見た。
「悪いんだけど聞いてくれる?あたしのあの日の後悔について」
「ラブリナが話していいなら聞くって、さっき言ったぞ」
「そうね、話が脱線してて忘れてたわ。なら、聞いて貰おうかしら。事情を知らないガイドちゃんに話して、自分の気持ちに整理をつけるわ」
俺に話すことでラブリナの気持ちが少しでも楽になるなら聞いておきたい。それに何より、俺の死んだあとに何があったかを⋯⋯仲間の口から聞いておきたかった。
「まずは何度か話に出てるあの子について話そうかしら。あの子の名前はガイド。ガイド・ルーカス」
あー、危惧していたことが起きてしまった。なんで俺が名乗った名前は別の名前とかで認識されているのに、俺を呼ぶ名前はガイドのままなんだろうな。意味が分からないぞ、まったく。
ため息を吐きそうなのをグッと我慢していると、とびっきりの笑顔を浮かべたラブリナが言葉を続ける。
「あたしの彼氏よ」
───違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。