ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:かませ犬S
ヴァルキリー戦記は登場する仲間キャラクターごとに好感度が設定されており専用のイベントまで準備されている。
好感度の上げ方はよくある方法だとプレゼント。キャラクターが好きな物をあげると好感度が上がるというテンプレ。ただ、連続してプレゼントすると『なんだこいつ』って思われるのか、逆に好感度が下がるという細かい仕様まである。
他には町や村に滞在している時に仲間に話しかけると、選択肢が出る会話があったりして⋯⋯その時の会話にピッタリの選択肢を選ぶと好感度が上がる。
まぁ、その辺はよくある設定なので聞き逃して貰って結構なのだが⋯⋯。
ヴァルキリー戦記は恋愛ゲームではなく、RPGである。こういう細かい好感度システムだったりキャラクターシナリオを用意しているが、どれだけ仲良くなっても主人公と仲間キャラが恋仲になるまでは発展しない。
主人公たちの関係がどのようになるかは、プレイヤーのご想像にお任せするみたいな感じで終わる。その内の一人⋯⋯クラリスとは死に別れる形になるので、より一層悲劇の物語のように感じてしまうわけだ。
いってもそれはあくまでもゲームの話。この世界はゲームの世界とはいえ現実なので、仲間たちとの仲を深めればその先に進むこともできる⋯⋯はずだ。
ロビン然り、マルテナ然り、ゲームの時よりも親密な関係にはなってはいる。ただ、正直⋯⋯ストーリー上で起こる不幸やクラリスを救うことでいっぱいいっぱいになっていたのもあって、仲間の誰かと恋仲にはなってはいない。
俺が好きだったクラリスとの関係も、死の間際でようやく両思いだと発覚したくらいだ。誰かと恋人になる余裕なんてなかった。
「ラブリナの彼氏?」
「ええ、そうよ」
「多分、違うと思うぞ。勘違いじゃないのか?」
なので、間違ってもラブリナの彼氏ではないのだ。それだけは全力で否定しておく。
ただ⋯⋯この話は割と詰んでいて、俺はどうやってもガイド・ルーカスとして認識されないので、彼氏じゃないと否定ができない。俺はラブリナと付き合っていないと言っても、あなたの話じゃないわよと言われて終わるだろう。
ラブリナから見ても俺は初めて会ったばかりの人で、仲間から違うだろと否定されるのと、出会ったばかりに否定されるのでは言葉の重みが違う。俺がどれだけ彼氏じゃないだろと、否定しても届かないだろうな⋯⋯。
「勘違いなんかじゃないわ。あたしとガイドは恋仲⋯⋯彼氏彼女の関係なの」
こうした間違った事実を否定できないクソみたいな状況は、本当に終わってる。頭を抱えてしまう。
「なーんて、冗談よ」
「へ?」
「事実じゃなくて、ただの願望⋯⋯」
ふふ、と楽しそうにラブリナが笑った。
「ガイドとは親しい関係にはあったんだけど、あの子には好きな子がいたのよ。それこそ、自分の命を犠牲にしてまで護ろうとした女の子が⋯⋯」
そこまで言い切った辺りで、ラブリナが少し離れた位置に転がる倒木を指さす。
「立ちっぱなしもなんだから、座って話をしましょう」
「そうだな」
ほんの一瞬見せた切なそうな表情。それが全てだな。ラブリナにも、俺がクラリスが好きだって知られてたんだな⋯⋯。好きな人に好きな人がいる。それって結構、キツイんだよな⋯⋯。
ラブリナの気持ちが痛いほど分かるから、あえて何も言わず彼女の後を付いていく。
ラブリナと一緒に移動して、倒木の上へ座る。視界の先には澄んだ水が広がる泉がある。ここだけ背の高い木々が生えていないせいか、陽の光が差し込んだおり、キラキラと泉の水が輝いて見えた。幻想的な光景だ。
「あたしはガイドが好きなの。それこそ恋仲に、彼氏彼女の関係になりたいくらい」
いや、まぁ⋯⋯ラブリナの場合は途中から分かりやすくスキンシップが増えていたから俺に好意を持ってくれているのはわかっていた。ただ、それが人として好きなのか異性 (同性?)として好きなのか、正直分からなかった。
最終的に、ラブリナの気持ちが分かる前に死んでしまったわけだが、今答え合わせが行われている。
「こんなあたしを受け入れてくれて、こんなあたしのことを好きだって言ってくれた」
誤解がないように言っておくが、この場合の好きは『人として』好きという意味だ。仲間として好きという意味だ。誤解がないように頼む。
「それが友達として、仲間として好きだってことは分かってるけど、その言葉は何より嬉しかったわ」
ラブリナが右手を胸の辺りにそっと添えた。
「あたしね、失恋したの。さっき言ったようにガイドのことが好きだったのだけど、あの子には⋯⋯好きな子がいた」
「⋯⋯⋯⋯」
「あたしのように一方通行じゃなくて、二人とも好き合っていた。けど、結ばれることはなかったわ。ガイドは⋯⋯その子を護るためにその身を犠牲にしたから」
声が辛そうだった。泣くのを我慢しているのが俺の目からも見て取れた。気持ちを整理するように、大きく息を吐いたラブリナが言葉を続ける。
「あたしは羨ましかった。死の間際に、ガイドに好きだって言ってた⋯⋯クラリスのことが。あたしも、ガイドに自分の気持ちを伝えたかったわ。受け入れられないって分かっていても、この気持ちを伝えたかった」
「そうだな、胸に秘め続けるのと、打ち明けるのでは⋯⋯その後の気持ちの持ちようは違う」
「言っておけば良かったって今でも思うの」
告白して、フラれたなら気持ちの整理をはできる。辛いし諦められないこともあるけど、それでも前には進める。
けど、告白すらしなかったらずっと後悔が残り続ける。好きだった人が死んだなら、尚更だ。その想いをずっと心に秘めて生きていくのは、辛いと思う。
「あたしの後悔は、ガイドに好きだって伝えられなかったこと」
その想いは、ちゃんと俺には伝わってる。それが、ラブリナには認識できないだけ。
「3年前のあの日、あたしがもっと強かったらガイドが犠牲にならずに済んだんじゃないかって考えたけど⋯⋯あの時のあたし達は自分にできる限界を出し切っていた。それでもダメなら、結果は変わらないと思うの」
所詮は、タラレバ。結果論のようなものだからな。終わってしまったことを思い返して、ああしておけば良かったと考えても、結果が変わることはない。
人のことは言えないな。俺も、もっと上手くやれたんじゃないかって思ったくらいだ。誰も死なないのがベストだった。それが難しいから、あの結末になった。受け入れるしかない。
「だから、あの時あたしが犯した過ちは勇気を持てなかったこと。勇気を出して好きだって伝えておけば良かったわ」
ラブリナの告白に水を差すようで申し訳ないが、多分⋯⋯告白を聞く時間がなかったと思うぞ。ロブに身体の主導権を奪わせないために心臓を剣で刺したからな。意識が遠のいていくまでが早かった。
クラリスの告白ですら、ギリギリ聞き取れるかどうかのレベルだった。彼女の告白を聞き終えた直後に、意識が飛んだのはある種のゲーム補正的なものを感じだくらいだ。ご都合主義って言われてもおかしくない。
「ふふ、⋯⋯なんだかスッキリしたわ。ちゃんと自分の想いを言えた気がする」
「そうか⋯⋯」
「ええ。聞いてくれてありがとうガイドちゃん」
最後に大きく息を吐いた後、俺を見るラブリナは吹っ切れたように綺麗な笑みを浮かべていた。
「あ、そう言えばガイドちゃんの質問に答えてなかったわ」
「え?」
なにか、質問してただろうか?
「ほら、ガイドちゃんから聞いてきてたでしょ? あたしがこの森にいる理由」
「そういえば、聞いていたな」
そんな質問よりも気になることがありすぎて綺麗に脱線していた。ちゃんと思い出して、戻せることもできるんだなと感心した。
「あたしはね、この森に薬草を採りにきたの。この森にしか生えてない貴重なものがあって、それを採りにね」
この返答に関しては言われなくても、実は想像がついていた。ラブリナは薬師というのもあって、こうやって森に出向いて薬草を採りに行くことが度々あったからな。
使った薬草を補充したり、新種を見つけて研究したり、ゲームでこの世界でもその手伝いをしたことがあるのでラブリナが森の中に単身で踏み入ってる時点でなんとなくわかったことだ。
「確か、この周辺に落ちていたはずなのよ。あの薬草がないとアデルちゃんの病気を治せなくて」
「え?」
───
「以前はこの辺で見かけたのだけど、⋯⋯あっ!」
何かを見つけたのか、パッと立ち上がったラブリナが物凄い勢いで走っていく。水辺の周辺に生えていた草を抜いたかと思うと、またこちらに帰ってきた。
「噂をすればあったわ!あれだけ探しても見つからなかったのに、不思議ね」
「探している時に限って見つからない時はあるな」
物欲センサーでも働いていたんじゃないか? 厳密にはそんなものは存在しないけど。いや、それよりも気になるのはラブリナの口から出たアデルのことだ。
「その、アデルって人は病気なのか? それでその薬草が必要なのか」
「ええ、そうよ。元々は病気になったことがないくらい元気な子だったんだけど、あの子⋯⋯ガイドが死んでからすっかり弱っちゃって」
胸にナイフか何かが刺さっていくようだ。
───何も考えてなかったと、今になって実感している。
エンディングを変えれさえすれば良かった。
クラリスを救えれば良かった。
そんな考えで、自分勝手に満足して死んだから⋯⋯俺の大切な人たちが俺の死で傷付くことを軽視していた。
大バカ野郎だな、俺は。
「そうか⋯⋯」
これはある種の罰か。
自分の命を軽んじたから、自分の選択がどれだけ愚かだったかをこうして俺に突きつけているんだ。
ガイド・ルーカスとして認識されないことも、ちゃんと罰なんだ⋯⋯。
「ガイドちゃん?」
「なんでもない。ちょっと考え事をしただけだ」
心配そうに俺の名前を呼ぶラブリナに、大丈夫だと返す。
───過去は変えられない。
だから前を向くしかない。
自分の過ちを受け入れろ。俺のせいで涙する者たちの想いを受け止めろ。
全部背負って、全部受け入れて、今度こそ全てを救うんだ。
そのために、この世界に帰ってきたんだ。
「話も長くなったし、そろそろおしまいにしましょう。目当ての薬草も見つかったから帰らなくちゃ⋯⋯」
「帰るのか?」
「ええ。名残惜しいけど、此処でお別れね」
此処で別れてはダメだと、俺の直感が言っている。
タマモさまがわざわざ俺を此処へと向かわせたのは、俺とラブリナを会わせるためだけじゃない。その先だ。
俺は、アデルと会わないといけない。
「なぁ、俺も着いて行っていいか?」
「ん?別に構わないけど⋯⋯いいの?何もない村よ」
「俺は特に行くあてもない旅人みたいなもんだからなー。それに、神に言われて此処でラブリナと会った。多分、なにか意味があると思うんだこの出会いも。だから、もう少し一緒にいたい」
出会ったばかりで烏滸がましい頼みではあるが、ラブリナは嬉しそうに微笑んだ。
「あたしが好きなら仕方ないわね」
「そういう意味じゃないんだ」
「ふふ、分かってるわ。さ、行きましょう。」
揶揄うように笑ったあと、道案内をするためにラブリナが前を歩いていく。
なんとなく、この後もラブリナに揶揄われそうだとため息一つ吐いてからその背を追った。
◇
───違う。
あたしの後ろを歩く彼はガイドじゃない。
自分に言い聞かせるように心の中で呟く。
姿形、声、名前⋯⋯その全てがあたしの記憶のものと違う。けど、彼が纏う雰囲気や優しい目が、どうしてもガイドと被ってしまう
「ねぇ、ロストちゃんは何処から来たの? 旅人だって言ってたけど」
アデルちゃんの待つ村まで帰路の途中、あたしが感じる違和感の正体が分かればと、ロストちゃんに質問を投げかける。
「ちょっと前まで滞在してたのはオーストリン王国だな。出身国って意味なら大陸北東の部にある『ロイツ』って国だ」
───その国は、ガイドの出身国ね。
「あたしも仲間と一緒に行ったことがあるわ。雪の積もった幻想的な国だったわ」
「住んでる人間からすると、寒いだけだけどな」
───同じね。
ウロボロスの悪事を止めるために初めてみんなでロイツに赴いた時、ガイドはロストちゃんと同じような返しをしていた。
チラッと後ろを見る。
白い髪、赤い瞳、狐の仮面。
パッと見て分かる外見の特徴はそれくらい。仮面を付けているからどういう顔をしているかは分からない。
けど、髪と目の色、それと背丈も違う。声だって違う。これだけでもガイドとロストちゃんは別人だって判断出来る。
───でも、あたしが触った筋肉の感触と彼の匂いには覚えがある。
ロストちゃんはガイド?
そんなはずはない。ガイドはあたしたちの目の前で亡くなった。その遺体も、あたしたちがお墓に納めた。彼がもう一度、あたしたちの前に現れることなんてない。
ロストちゃんは、ガイドじゃないの。
なのに、接していくうちにガイドと接しているような感覚に陥ってしまう。
あなたは誰なの?ロストちゃん?それとも、ガイドなの?
分からない。
あたしにはまだ、彼が何者なのか、どういう存在なのか掴めていない。
けど、ガイドと似た雰囲気を持つロストちゃんなら⋯⋯ガイドの死から心を閉ざしてしまったアデルちゃんを、救えるかもしれない。
あの子の孤独から、もう一度手を差し伸べてあげて。
次回は掲示板回