ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:かませ犬S
男性が俺に声をかけてきた理由として考えられるのは、知り合いに似たような見た目の人がいるとかだ。そうでなければ、あれほど親しげに話しかけるようなことはしないだろう。
つまり⋯⋯いるのか?俺のように仮面をつけた男が。仮面をつけているのが当たり前くらいになってないと、男性のような反応しないはずだ。随分と酔狂な者がいるらしい。
「えーと、すみません⋯⋯人違いのようですね」
本当に申し訳なさそうに男性が口にする。気まずい間があったので、この人の気持ちはよく分かる。
「そうでしたか。俺みたいな人が知人に?」
「そうなんですよー。村の人たちがザワついてるので気になってきたら、知り合いかなって思って」
ハッハッハっと男性が軽快に笑う。
「私の友人は王都で働いているのですが、顔に痣がありましてね⋯⋯それで仮面をつけて隠していまして」
「なるほど」
「私に会いに友人が村を訪ねて来たのかなと思ったのですが、人違いでした。すみません」
男性が頭を下げようとしたので、慌てて制止する。人違いなんてよくある話だ。その程度のことで頭を下げる必要なんてないだろう。
「これくらいのことで謝る必要は⋯⋯」
「そうですか? ありがとうございます」
お礼を言われるようなことでもないのだが、謝られるよりはマシか。これ以上続けても無駄なやり取りになる気がしたので、お礼の言葉を受け入れる。
「ところで、お兄さんは何故この村へ?」
当然の質問である。
ただ、この質問への返答はあらかじめ用意してあったので慌てるようなことはない。ラブリナからも名前を出していいと言われているからな。
「少し前にラブリナさんに出会いまして、そのご縁でこの村に立ち寄らせてもらいました」
「あー!なるほど!⋯⋯では、ラブリナさんのお客さんということですね!」
「そういうことになります」
返答を聞いて納得したと言わんばかりに男性が笑う。すると遠くから俺たちのやり取りを見守る⋯⋯見張っていた村の人たちへ男性が振り返ると、手を振りながら大きな声で話し出した。
「おーい!安心してくれ!この人はラブリナちゃんのお客さんだそうだ!ラブリナさんが、連れてきた人だから大丈夫だぞーー!!」
大きな声だった。
遠くにいた村の人にもしっかりと聞き取れる通りの良い声。男性の言葉を聞いた瞬間に村の人から感じていた警戒の念が消えた。
ラブリナのお客さん、ラブリナが連れてきた、それだけで村の人たちが警戒を解くほどに信頼を得ていることに驚いた。それと一緒にかつての仲間が認められているようで、誇らしい気持ちになった。
「よし、これで大丈夫だと思いますよ」
振り返った男性が、俺に話しかける。心遣いのできる良い人だと思った。俺の事情を知るや否や、村の人たちの疑念を解くためにために動いてくれた。この人には全くメリットがないというのに⋯⋯。
「ありがとうございます」
「いやいや!この村の人はみんな、ラブリナちゃんに助けて貰ってますからね。ラブリナちゃんのお客さんには失礼なことはできませんよ」
男性曰く、ラブリナはこの村では英雄のような存在らしい。
村に来た当初は、変わった見た目なのもあって浮いていたそうだが⋯⋯明るく元気で、人当たりの良いラブリナは直ぐに村の人たちと打ち解け、共に農作物を育てているうちに村の一員になっていた。
何より、薬師としての知識と技術によって例年なら死んでいた村人がラブリナのお陰で助かったそうだ。幼い子供も、年老いた老人もラブリナが来たお陰で病に苦しまずに済んだ。そりゃ、英雄扱いもされるか。
この世界においては戦いを除けば、人の死因の多くを占めるのは病気だ。医学の発達した現代とは違い、病気で呆気なく死んでしまう人は多い。だからこそ薬師という存在は重宝され、多くは有力者のお抱えとなる。
ラブリナにもそういう誘いはあったと思うが、その全てを断ってこの村に来たことになる。なんのために?
「ラブリナはなぜ、この村に行き着いたか知ってますか?」
「お兄さんは聞かされていないのですね。なら、私の口からではなくラブリナちゃんから聞いた方が⋯⋯あ、噂をすれば」
男性の視線の先へ顔を向ければこちらに歩み寄ってくるラブリナの姿が見える。表情から察するに、悪いことは起きていないだろう。薬はちゃんと間に合ったらしい。
「ラブリナちゃんも来たようですし、私はここで」
「はい。ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ」
こちらに見えるように手を振って男性が離れていく。ゴツゴツとした手だった。農作物を育てるために、それだけ農具を振るってきたということだろう。
良い人だったな。
ただ、歩き方が気がかりだった。踵から地面へと接地し、つま先を最後に地面に下ろす歩き方。あれは、足音を殺して歩く歩法だ。ただの村人がするような歩き方じゃない。
俺もその歩法を知ったのはこの世界に転生してからだ。
俺たちの仲間にはシドという男がいる。話すと長くなるので簡潔に説明すると元貴族である。彼には幼い頃から仕えているメイドがおり、政略戦に敗れ貴族を追われたあともシドの従者として付き従っている。
このメイドが中々に曲者で、仲間のフリをしていたスパイだったり、実はシドのために帝国の情報を抜いていた二重スパイだったりとプレイヤーたちを困らせた。
結論でいうと仲間ではあったのだが、如何せんロビンのような裏切り者がいるのでプレイヤー全員がこのメイドに疑いの目を向けたことだろう。
俺はとある事をきっかけにシドの従者である彼女と仲良くなった。その際に、音を立てない歩き方や気配を消す方法など、諜報に必要な技術を教わった。だからこそ分かる。
何故、あの人はあの歩き方を知っている?
大前提としてあの歩き方は普通じゃない。日常的に生きていて覚える歩き方ではないのは確かだ。それこそシドの従者のように、諜報員としての技術を磨かなければ知りえない歩法。
───何者だ?
ただの村人じゃないな。
立ち振る舞いには隙が多く、間違っても戦いに身を置く人間ではなかった。だが、素人と判断できない面もある。相手に油断されるために隙を見せるなんてこともできるはずだからな。
「ごめんなさい、遅くなっちゃったわね」
遠ざかっていく男性の背を眺めていると、ラブリナが話しかけてきた。
「いや、気にしなくていい。それより、あの男性のことを知っているか?」
「トーマスさんのことかしら?」
「多分、そうだ」
視線の先にいたはずの男性は既に家の中へと入ったことで姿は見えなくなっている。見た目はただの村人。どこにでもいる一般男性。
だというのに、あの男性───トーマスさんに話しかけられた時から妙な胸騒ぎが止まらない。
「あたしも詳しくは知らないのだけど、元々この村に住んでいた人ではないわね」
「そうなのか?」
「ええ。あたしとアデルちゃんがこの村に居着いてから、一月後に村にやってきていたような?」
タイミングがあまりに良すぎるな。ラブリナの話では、その後村のことを気に入ったとかで同じように居着いたらしい。これも不自然だ。
───ラブリナと、アデルの監視が目的か?
だとすれば、俺に接近してきた理由も分かる。監視対象が連れてきた人間がどのような人物か、見定めようとしたわけだ。
全て杞憂の可能性もある。監視をしているわけじゃなく、ただ⋯⋯たまたまタイミングよくこの村に越してきて、たまたまラブリナと一緒にいた俺に話しかけてきて、たまたま音を消す歩法を取得していただけ。
───うん、怪しさしかないな!
「トーマスさんが、ガイドちゃんに何か?」
「どうやら俺に似た知り合いがいるらしくて、俺に声をかけてきたが人違いだったようだ」
「あら、珍しいこともあるのねー」
ラブリナがチラッと俺の顔を見た。多分、似たようなことを思ったはずだ。
「気になるなら明日にでもトーマスさんのところに行ってみたら? 話してみれば何か分かるかもしれないわよ」
「それもそうだな」
ラブリナが空を見上げた。釣られて空を見ると、既に太陽が姿を隠そうとする手前であった。もう直ぐ日が沈む。
俺のことを遠巻きに見ていた村の人も一人二人と、家へと戻っていく。
「それで、ガイドちゃんはどうする?」
「どうするとは?」
「村に着いたはいいけど、泊まるところがないでしょ? 良かったらあたしの家に泊まる?」
俺に関して言えばタマモさまに言われるがままに森に向かい、ラブリナと出会ってこの村に着いたわけだ。ぶっちゃけ何も考えてなかったなので、ラブリナの提案は大変有難い。
「お世話になっても構わないか?」
「あたしの方から誘ってるのよ。良いに決まってるわ」
ひとまず今日の寝床は確保した。一応、アイテムポーチに野宿用のテント等は入っているので、最悪それで夜を過ごすことは可能だった。
「ガイドちゃんに会わせたい人がいるんだけど⋯⋯まだ体調が本調子じゃないの。ガイドちゃんさえ良ければ、この村でしばらく滞在してくれる?」
「特に予定はないから大丈夫だが⋯⋯その会わせたい人っていうのはラブリナの話にも出てた」
既に答え合わせが終わっているようなものだ。わざわざこんな確認をしなくてもラブリナが俺に会わそうとしている人物は分かる。
「ええ、アデルっていう女の子よ」
───ん? 女の子?
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