ゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:かませ犬S
頭の中でラブリナの言葉が木霊している。その意味を受け止められずに、ひたすらに繰り返しているような感覚だ。
アデルが、女の子?
なにがどうなったらそうなる?俺の知るアデルは男だったはずだ。
───本当に男だったか?
今、こうして振り返ってみればアデルに対して性別の確認などわざわざしてはいない。ゲームにおける男主人公の容貌をしていたのもあって、男だと思って接していた。実は女の子だったという可能性は、ないとはいえない。
問題となってくるのは主人公の容姿だ。
男主人公も女主人公も顔のパーツはほとんど同じだ。元々中性的な顔をしているのもあり、髪型や胸の有無くらいでしか差別化がされていない。故意に主人公の見た目は似せて作っていると思われる。
服装も背丈も同じ。
声に関して言っても声優は同じ。喋り方や声の高さに多少の違いはあるが、やはり似ている。
胸がないから、男。髪が短いから主人公だと断定するには些か早計だったのか? いや、だがアデルのデフォルトネームは男主人公のものだ。女主人公のデフォルトネームはアンジュになるはずだ。
ゲームと現実は違うと言われれば、それまでだが⋯⋯見た目は完全にゲームにおける
それもないとも言えない。
あるいは、世界が変わったことで性別が変化した可能性もある。出来れば、それは起きて欲しくない。尊厳の破壊なんて生易しいレベルのものじゃないぞ。
「顔が驚いてたけど、どうしたの?」
「いや、アデルって名前だったから女の子だとは思わなくて⋯⋯」
「名前だけで性別を決めつけるのは早計よ、ガイドちゃん。あたしみたいな人間もいるのよ」
「それは、そうか」
ラブリナという名前が確かに分かりやすい例ではあった。明らかに女性の名前だからな。その名前を聞けば10人中10人は女性だと思うはずだ。流石に男性の名前とは思わない。
ただ、アデルの場合はゲームの知識が前提にある。名前と性別がイコールになるのは自然だと思う。
「まぁ、あたしもアデルちゃんの性別を知ったのはここ数年⋯⋯それこそこの村に居着いてからね」
「そうなのか?」
「ええ。それまではあたしもアデルちゃんのことは男の子だと思っていたもの。性別を知られたらいけないってキツく言われていたみたいね」
誰に、とは聞くまでもないか。おそらくご両親だな。
生まれながら変わった目を持つアデルは村の人からあまり良く思われていなかった。性差による差別があるわけではないが、女性であるが故に巻き込まれる悲劇もある。
多少、過保護気味ではあるアデルの両親が自立できる年齢まで守るために、性別を隠すように育てた可能性はある。
とはいえ、ここまで気付かないものか?
短期間ならまだ分かるが、ゲームにおけるプロローグが始まる以前から俺はアデルと交流を持っている。二年以上、アデルの近くで接してきたわけだ。それで気付かなかったとなると、鈍感と疑われても仕方ないレベルだぞ?
こうなってくると、性別が分かりやすいイベントの代名詞である温泉イベントが起きなかったことが悔やまれる。
ゲームであったなら起こるはずのイベントだが、現実では温泉に浸かってる場合じゃねぇ!って状態だった。ヴァルキリー戦記においても扱いとしては最終決戦前のサブイベだしな。
温泉イベントが起こらなくても別に不自然ではなかった。俺もそれどころではなかったし。
今にして思えば、人間であれば誰しも起こり得る生理現象の時も共に行くことはなかったな。というより、一緒にトイレに行くなんて文化はこの世界にない。
水浴びによるラッキースケベ的なイベントが起きたのはラブリナくらいだった。ゲーム的に言えば期待させてから、裏切るみたいな感じだな。ラブリナのファンは喜んでいそうだが。
意外と、ないのか? いや、それにしたって女性的な仕草とかは隠しきれないはず⋯⋯。俺だけじゃなくて他の仲間も気付かなかったとなると、役者顔負けだぞ。
「どうしたの?」
「いや、性別をバレないように隠し切るなんてできるのかと思ってな」
「そうね、アデルちゃんが上手だったのもあるけど⋯⋯一応、同性の仲間に協力者はいたのよ。クラリスって子なんだけど、その子には打ち明けていたらしいわ」
俺は知らなかったが、クラリスは知っていたか⋯⋯。
これは信頼による差ではなく、性別による差だと思いたい。
自惚れでなければ、アデルと一番仲が良かったのは俺であった、はずだからな。うん、そうであって欲しい。
そうか、クラリスが協力していたのか。ゲームにおいては主人公とヒロイン。二人が旅を続けて仲良くなる過程も知っている。二人が一緒に行動をしていても疑問には思わない。
「随分と気にするのね、ガイドちゃん」
「ん?」
ジッとまるで見定めるような視線が向けられる。確かに、今の俺の反応は不自然か。アデルのことを知っているのであれば、性別を聞いて驚くのは分かるが⋯⋯会ったこともない俺が、性別を気にするのはおかしい。
なんて答えるか、返答に迷っているとラブリナが笑う。
「もしかして⋯⋯女の子って聞いて急に興味が出てきたの?」
「え、いや⋯⋯」
「ガイドちゃん、ダメよ。あなたにはこのラブリナちゃんがいるんだから!」
そのまま勢いよく抱き着かれ押し倒されそうになったが、足に力を入れてどうにか踏みとどまる。
って、身体を触るのはやめてくれ。くすぐったくて、力が抜ける!
「っ───」
「あら、ごめんなさい」
力が抜けた途端に体格差もあり、そのままラブリナに押し倒された。地面に身体を打ったくらいで負傷するほど軟な鍛え方はしていないが、ラブリナの顔がドアップであると流石に驚く。
ラブリナは直ぐに離れてくれたが、自分の手を見たり何やら考え事をしているようだった。
「どうかしたか?」
立ち上がりながら声をかけると、『なんでもないわ』と返事が返ってきた。こういう返事の時は大抵何かがあるのだが⋯⋯言及するほどの関係値は築けていないので黙ることにした。
「急に抱きついてごめんなさい」
「いや、それは構わないが⋯⋯」
どうも、ラブリナの行動が気がかりだ。その想いに応えられないのもあって、複雑な気持ちにはなるが彼女は
ガイドとしての俺なら分かるが、ラブリナには今の俺は別人に見えているはず。そんな俺に対して先の発言と、行動。好きな人がいる者が取る行動とは思えなかった。
まさか、もう吹っ切れたか?
ラブリナならないとも言いきれないのが辛いところだ。ゲームにおいても、色んな男にちょっかいかけてたからな。
「あたしもね、そろそろ次の恋に生きるべきじゃないかって思って」
「なる、ほど」
複雑な心境だ。
その相手が変わらず自分であると分かるのだが、ガイドを忘れようとしているようで寂しくなる。
「ふふ、ということでよろしくね」
「どういう意味かは分からないが、よろしく頼む」
返答次第ではラブリナとの仲が深まった可能性はある。ただ、申し訳ないが俺が好きなのも今も変わらずクラリスだ。ラブリナには悪いがその想いには応えられない。
「さ、家に案内するわ。ちなみにアデルちゃんとは別の家。だからあたしと二人っきりね」
「へ?」
───得体の知れない寒気がした。
◇
「アデル!」
───ボクを呼ぶ声がした。
声に反応して振り返った先には、優しい笑顔を浮かべるガイドがいた。
ガイドがいて、嬉しいはずなのに⋯⋯どうしようもない焦燥感に駆られ彼の元へと駆け出す。
「ガイド!」
走って、走って、走って、彼の元へと向かおうとしているのに一向に距離が縮まらない。笑顔を浮かべるガイドはむしろ、少しずつ通さがっていくようだった。
「ガイド!!!」
手を伸ばした。
ガイドの手を握ってボクの方へ引き寄せたかった。
けど、ボクが伸ばした手は虚しく伸ばされたままで、遠ざかっていく彼を止めることは出来なかった。
「待ってよ!」
必死に追いかけた。
ガイドの傍にいたくて、ガイドと一緒にまた笑い合いたかった。
───
「あっ⋯⋯」
ボクの視線の先にいるガイドが消えていく。
最初からそこには誰もいなかったと、ボクに現実を教えるように。
「そうだ」
───忘れたの?
「ガイドは⋯⋯」
───思い出して。
「ボクの前で」
───
「亡くなったんだ」
───ボクの傍にはいないんだよ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
───耐えきれない
「夢⋯⋯」
まだ、意識が朦朧としている。あれが夢だったのか、現実だったのか、判断出来ない。
「⋯⋯あ」
真っ直ぐ向けた視線の先。そこには一本の剣が壁に飾られていた。
───白い軍刀。
それはガイドが使っていた
「っ───」
これも現実。
あの軍刀を握る彼はもう、何処にもいないんだ。
───ボクが目覚めるこの世界に、ガイドはいないんだ。
「⋯⋯ガイド⋯⋯ッ!!」
───もう、どこにもいないんだ。