やり込んだゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた 作:パンデュウ郎
タマモさまの仰ってる言葉の意味がわからない。いや、分かってはいるが受け止めることが出来ていない。
クラリスが、俺を生き返らせるために世界を敵に回して暴れ回る?
ありえない。彼女は敵にさえ情けをかけてしまうような、優しい女の子だ。そんなクラリスが、世界を敵に回すなんて⋯⋯ましてや、暴れ回るなんて想像できない。
できてたまるか!
「冗談⋯⋯ですよね」
「ふむ、混乱しているようじゃな。まぁ、無理もない。安心せい、順を追って説明してやろう」
タマモさまがパチンっと扇子を開く。そこにはまた違う文字が浮かんでいた。
───『ヴァルキリー戦記』。
それは、俺がやり込んだゲームの名前だ。
「お主が生きておった『エデン』と呼ばれる世界が、ゲームの世界であることをお主は知っておるな」
「はい⋯⋯」
タマモさまは神さま見習いだ。ヴァルキリー戦記のことも、生前の世界のことも知っていてもおかしくはない。驚きはなかった。
「厳密に言えばゲームの世界とは少し違うのじゃが⋯⋯まぁ、説明しても分からんじゃろうから省くとしよう」
いや、タマモさまが言わんとしていることは分かる。
俺が生きていた世界はヴァルキリー戦記の世界ではあるが、ゲームの世界ではなかった。登場するキャラクターも地名も、農作物も全てゲームと一緒。
だけど、その世界は確かに生きていた。
ゲームのようにプログラムされた会話や行動パターンがあるわけじゃない。全てがゲーム通りというわけじゃない。その世界の全ての生き物が、ちゃんと生きていた。
「これを見よ」
パチンっと閉じた扇子をタマモさまが振るうと、何もなかった空間に二つの球体が浮かび上がる。片方は見覚えがあるものだ。
見間違えでなければ、あれは地球?
「こちらの世界はお主も見覚えがあるじゃろう。本来であれば人が目視など出来る筈がないのじゃが、⋯⋯この世界の人間はわしら神の想定を超えてみせた。生物の進化というのはいつ見ても面白いのぅ」
楽しそうにタマモさまが笑う。
ひとしきり笑った後、タマモさまは地球の横にある球体を扇子で指す。よくよく見れば地球よりも海の面積が少なく、逆に陸地が多いようにも見てる。
それに、見覚えのある大陸だ。あれは、ヴァルキリー戦記に出てくる地図の形によく似ている。つまり⋯⋯。
「既に察していると思うが、この世界が先程までお主が生きていた世界⋯⋯エデンじゃ」
俺の顔を見て、ふふっと笑ったタマモさまがまた扇子を開く。
「因果関係?」
扇子に書かれていた文字はたった四文字。言葉の意味は分かっているが⋯⋯これとどう関係しているんだ?
「そうじゃ。エデンと地球⋯⋯この二つの世界は面白い因果関係にあってのぅ。地球が起こした事象がエデンに影響を及ぼすことはあるが、エデンが起こした事象は地球に影響を及ぼすことはない」
それは⋯⋯所謂ところの、因果関係だな。
「お主に分かりやすく説明してやろう。地球において『ヴァルキリー戦記』に大型アップデートがあり、ストーリーが追加された。すると、エデンは地球の事象の影響を受けて世界そのものが変化した」
タマモさまが言っているのはダウンロードコンテンツのことだろうか? ゲームの発売から半年後くらいにキャラやクエスト、サブストーリーが追加されるダウンロードコンテンツが発売された。
そのダウンロードコンテンツの影響を受けて、エデンは変化したってことであってるか? 多分合ってるよな。
「存在しなかった人間が生まれ、ある筈のない記憶がその世界の住人に埋め込まれる。大地が突然海から生えてきてもエデンの人間は誰も不思議には思わない。それが地球がエデンへと及ぼす影響じゃ」
俺が生きている間もこの因果関係が発生したのだろうかとふと考えたが、最終アップデートが終わっていたのを思い出した。公式がこれ以降はダウンロードコンテンツの追加と、続編は発売しないと発表していたな。
「先も言ったようにエデンで何か起きても地球には何も影響は起きない。あくまでも地球からの一方通行の状態じゃ」
「なるほど⋯⋯けど、それはクラリスと関係があるのか?」
結局のところ俺が聞きたいのはそんなことじゃない。俺が死んだことで、何故クラリスが世界を敵に回すのか。その疑問が尽きない。
「あるのじゃよ」
パチンっと閉じた扇子をタマモさまが俺に見えるように開く。そこに書かれていたのは数分前に見た文字と同じ。
「『ヴァルキリー戦記』?」
「違う。よく見るのじゃ」
タマモさまに言われて目を凝らすと、ちょうど扇子のためじわの部分と重なっていて読みにくかった文字が見えた。
「II?」
そのまま繋げるならヴァルキリー戦記II?
まさか、続編?
いや、そんな物は知らない!そもそも公式が追加のアップデートも続編も発売しないと発表していた。ファンの要望の声もあったが、物語はヴァルキリー戦記で終結しているから続きは出さないって!
「面白いじゃろう。これがお主が起こした事象じゃよ」
「俺が、起こした?」
「そうじゃ。先も言ったが地球とエデンの因果関係は一方的なものじゃ。地球が起こした事象のみが影響を起こす。ならば、地球で生まれ地球で死んだ人間をエデンに送り込んだ場合はどうなると思う?」
「それは⋯⋯」
この人間が特異点となるかどうか、それによって結果は変わる。
いや、タマモさまは既に答えを言っている。地球から送られた俺という存在が、エデンで起こした事象が地球へと影響を及ぼした?なぜ?
「っ───!」
ストーリーが変わったからだ!
本来死ぬ筈だったクラリスを助け、ゲームのエンディングが変わった。物語として終結していたヴァルキリー戦記に、続編を作る余地が生まれた⋯⋯。
「まさか⋯⋯」
「そうじゃ。お主が起こした原作改変が、地球へと影響を及ぼした。その結果がこれじゃ」
タマモさまが広げた扇子に答えは書いてある。
───『ヴァルキリー戦記II』。
「そして、地球が起こした事象はまたエデンへと影響を及ぼす」
「続編が作られて⋯⋯世界がまた、変わった」
「そうじゃ⋯⋯分かったじゃろ。何故小娘が世界を敵に回して暴れ回っておるか。⋯⋯お主が命をかけて護った命もまた、別の事象を生み出す。死の運命というのはそう簡単には変えられぬということじゃな」
それが『ヴァルキリー戦記II』のシナリオだから⋯⋯?
「⋯⋯ふざけるな」
疑問の答えが分かると共にふつふつと込み上げてくる感情がある。
どうして、またクラリスなんだ!
どうしてまた彼女が傷つかないといけない!
どうして、俺が救ったクラリスが⋯⋯。
なんでまた⋯⋯辛い思いをしているんだ!!!
「くそっ!!!!」
───俺のせいか?
俺が彼女を救ったから? 俺が自分のエゴでクラリスを助けたから彼女はヒロインじゃなくて、世界の敵として死ぬのか?
そんなことあっていい筈がない。そんなこと!
「さて、話を戻すとしよう。どうする?未練があるなら⋯⋯お主が望むならもう一度あの世界に送ることができるぞ」
「っ───!!」
そうだ。タマモさまは言っていた。『一度あの小娘を死の運命から救ったお主なら⋯⋯今度こそあの小娘を救うことができるかも知れぬ』と。
だが、俺がクラリスを救ったとして⋯⋯また、結果が変わったとして⋯⋯それがまた地球へと影響を及ぼしたなら、悲劇は繰り返されるんじゃないか?
意味なんて、ないんじゃないか?
「ふふ、難しく考える必要はないぞ」
「どういうこと、だ?」
「簡単じゃろ。続編が作られたのは何故じゃ?お主が送られる前は何故、続編が作られなかった?」
それは⋯⋯。
「物語として⋯⋯終結していたから」
「そうじゃ。続編が作られたのは終わりに納得していないからじゃ。なら、今度こそお主が作ればよい。お主が望むハッピーエンドで、文句が出ないくらい完璧な結末をのぅ」
タマモさまが言わんとしていることが分かった。クラリスを救うだけじゃ足りないんだ。クラリスを救っても、俺が死んだら意味ないんだ。
───ビターエンドじゃ、ダメなんだ!
「ふふ、良い顔をしておるの。覚悟は決まったか」
「はいっ!」
今度こそ、クラリスを救う。
彼女を悲劇のヒロインになんてさせない。彼女を世界の敵として終わらせるわけにはいかない。
俺のせいで彼女の人生が狂ってしまったなら、俺がクラリスを救わなくてどうする!!
「分かってると思うが、これから送る世界はお主がよく知るようで⋯⋯未知の世界じゃ。わしはその結末だけ知っておる」
続編になることでゲームの設定が大きく変わるものも存在する。もしかしたらヴァルキリー戦記も、大きな変更点があるかも知れない。それによって世界そのものが変わっている可能性も⋯⋯。
「期待しておるぞ、ガイド・ルーカス。わしの大好きなハッピーエンドを見せておくれ」
ピシッと閉じてから開いた扇子には、大きく『カプ厨』と書かれている。なんという⋯⋯やはり人間臭い神さまだ。
「それで送るぞ。姿形、記憶は生前のままに⋯⋯さりとて世界そのものが変わっている」
───Re:スタートだな。